Biography

 ロシアで生まれ、ドイツのカイザースラウテルンで育ったゼッド(Zedd)が、ピアノを弾き始めたのは4歳の時だ。「両親が共に音楽家だということもあって、クラシック音楽の作曲の道に進むように、かなり幼い頃から指導を受けていたんだ」と彼は振り返る。「それを続けていたのは、兄とロック・バンドを始めた12歳くらいの頃までだった。そこから僕はポストハードコア/メタルの方向に進み、ドラマーとしての感性を本格的に磨いたんだよ。だからある意味、多種多様な音楽スタイルを絶えず渡り歩き続けてきたと言えるね」。10代後半の頃、ジャスティスのアルバム『†(クロス)』を聴いて触発されたゼッドは、自らエレクトロニック・ミュージックに挑戦し、プロダクション技術を身に付けたいと考えた。 2010年頃までには、ビートポート(Beatport)・リミックス・コンテストで2度優勝。間もなく、スクリレックスや、ブラック・アイド・ピーズ、ファットボーイ・スリム、レディー・ガガらの曲のリミックスで絶賛を浴びるようになる。

 様々な音楽スタイルを用いて実験を試みるというテーマは、ゼッドにとって不変なものであると共に成果を挙げ続けており、2017年、彼は更に新たな方向へと足を踏み入れた。ゼッドがアレッシア・カーラとコラボしたシングル「Stay」は、全米ラジオ・トップ40で初の1位を獲得し、グラミー賞にも2度目のノミネート。エンターテインメント・ウィークリーでは「明るく元気の出る強力ナンバー」と評され、ビルボード誌から「聴いた途端に惹き付けられ、超病みつきになる」と賞賛された同曲は、米国でプラチナを達成し、10億回以上のストリーミング再生回数を記録。全米ラジオ・トップ40で6週連続首位の座をを守っただけでなく、全米ビルボード・チャートでもトップ10入りを果たしている。「Stay」がチャートを上昇している最中、ゼッドはアレッシアと再びタッグを組み、米国の人気オーディション番組『ザ・ヴォイス(The Voice)』のシーズン・フィナーレや、サマー・コンサート『グッド・モーニング・アメリカ』に出演して、同曲のライヴ・パフォーマンスを披露。また、2017年のアメリカン・ミュージック・アワードでは、そのピアノ・ヴァージョンを演奏した。「僕は常により大きなプロジェクトに取り組んでいるけれども、今のところ僕にとっては必ずしもこの曲が、いつものように音楽を作っているということ以上の何か大きな意味を持っているわけではないんだ」と、ゼッドは説明する。「ジャンルに注目しないようにしているんだよ。僕がこれまで取り組んできた曲は、完全和音の進行や、「Stay」から、これまでやろうとしなかったようなものに至るまで、ありとあらゆる範囲に広がっている。僕はただ目を閉じて、自分が聴きたいと思う音楽を作るのが好きなだけなんだ」。

 様々な異なる音楽スタイルを試し続ける中、ゼッドは次のシングル「Get Low」で、リアム・ペインと共にアーバンなサウンドに挑戦。 2017年夏にリリースされた同曲について、ローリング・ストーン誌は「軽快なパーカッションに乗り、速足で駆け抜けるクラブ・ポップ・チューンで、シンセのリード・ラインがトロピカル・ハウスのヴァイブをもたらしてくれる」と描写し、またエンターテイメント・トゥナイトは、「夏色のダンス・アンセム」と評していた。

 ゼッドの寛容さや多様性を受け入れるスピリットは、スタジオ・ワークに留まらない。 彼は2017年の春、収益の100%を<アメリカ自由人権協会(ACLU)>に寄付する慈善コンサートを開催。『WELCOME!(ようこそ!)』と銘打たれた同コンサートは、米政府の移民入国禁止令に対して行動を起こすよう、Twitterを通じて呼び掛けたことに端を発したもので、ラインナップには、ビービー・レクサや、カミラ・カベロ、デイヤ、ホールジー、イマジン・ドラゴンズ、インキュバス、マシン・ガン・ケリー、マックルモアー、ミゲル、ミーハ、スクリレックス、ティナーシェ、そしてゼッドといった面々が名を連ねる結果となった。多彩な音楽ジャンルのミュージシャン達がこうして顔を揃えたことにより、誰もが歓迎されているということが強調されたのである。この募金活動へと彼を突き動かした原動力は、ゼッド自身にとっても大切な思いであった。ゼッドはこう打ち明ける。「自分自身移民として、僕らの基本的人権を脅かす暴政に立ち向かう必要があると感じているんだ。憲法によって保証されている僕らの権利を護り、維持しようと日々活動している組織<ACLU>の資金調達を手伝うため、これだけの素晴らしいアーティスト達が協力してくれて感激しているよ」。

 ゼッドはインタースコープ・レコードと契約後、2012年にデビュー・アルバム『Clarity』をリリース。同年、ニューヨーク・タイムズ紙は、“EDMの天才”として彼の特集を組み、「彼の才能は並外れている」と称賛した。同アルバムの表題曲は、米メインストリーム・トップ40で2位を獲得。グラミー賞を授与され、260万枚のセールスを上げた。プラチナを達成した次のヒット曲「Stay The Night」(パラモアのヘイリー・ウィリアムスをフィーチャリング)は、4億回以上の再生回数を記録。2014年のMTV・クラブランド・ビデオ・ミュージック賞を受賞している。

 『Clarity』に続くアルバム『True Colors』(2015年)の制作に当たっては、レディオヘッドやクイーン、キング・クリムソンといった、エレクトロニック・ミュージック以外のアーティストのみを聴くことを、敢えて自らに課したゼッド。 「自分のジャンルとは全く違うルールを持つジャンルのアーティスト達から、インスピレーションを得ることがすごく多いんだ。曲の構造や、メロディ、リズムといったもので出来ることの限界を打破するのに、それが本当に役立つんだよ」。確かに『True Colors』の各トラックが、華麗なテクスチャと魅惑的なリズムとで、それぞれ独自の世界を築いている一方、アルバム全体には、その起源の明快さを窺わせるクラシカルな旋律の感性が備わっている。「あのアルバムでは、全曲をピアノで書いたんだ。というのも、それぞれの曲の中核に、時代を超越した感覚を持たせたかったからね」と、ゼッドはは語る。

 同アルバムは全米アルバム・チャートで4位、ダンス・エレクトロニック・アルバム・チャートで1位を獲得、そして世界8ヶ国で初登場トップ10入りを果たし、大成功を収めた。また『True Colors』は、2016年のビルボード・ミュージック賞で<最優秀ダンス・アルバム賞>を受賞。リード・シングル「I Want You to Know」(feat. セレーナ・ゴメス)はビルボードのホット・ダンス/エレクトロニック・ソング・チャートで4週1位となり、プラチナ認定を、そして第2弾シングル「Beautiful Now」(feat. ジョン・ベリオン)は、ゴールド認定を受けている。同アルバムを引っ提げて、ゼッドはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンやロサンゼルスのステイプルズ・センターを含む、全53公演の世界ツアーへと乗り出した。

 アルバム『True Colors』のリリースに際して行われた一連のファン限定イベントには、特別な工夫が凝らされており、アルバムの各曲を特定の色と結びつけることによって、同作の中心的テーマに命を吹き込んだ。「自分の書く全ての曲で、僕には色が聴こえる。そしてあのアルバムでは、そのコンセプトに焦点を当て、それを新たな段階に引き上げたいと強くと思っていたんだ」と語るゼッド。“”#ZeddTrueColors・キャンペーン”と題された同イベントの会場には、ジョシュア・ツリー国立公園や、アルカトラズ島、グランドキャニオンといった場所が含まれていた。

 それぞれの会場が各曲のテーマ・カラー毎に色分けされており、ファンはそこに連れて行かれ、ゼッドと共に時を過ごし、他の誰よりも先に新しいトラック(※1会場につき1曲)を聴く機会を得た。エンパイア・ステート・ビルで行われた最終日には、表題曲「True Colors」をゼッドがアコースティック・パフォーマンスで披露。それに合わせ、脈打つように絶え間なく色が変化する壮大なライトショーで、同ビルは華やかに彩られた。これらの一連のイベントは、ドキュメンタリー映像作品『True Colors』に収められており、そこでは強力なパフォーマンス映像と共に、ゼッド本人や、彼の家族、そして業界の支持者達とのインタビューを通じ、彼の音楽制作の背景が明らかにされている。同ドキュメンタリー映画は、ロサンゼルス映画祭でプレミア上映が行われた。

 2016年、ゼッドはアロー・ブラックと組み、サミー・デイヴィスJr.の1972年の名曲「The Candy Man」を現代的に再解釈した「Candyman」を制作。菓子会社『M&M’s』の創業75周年を記念した同曲は、米国内だけでも4,000万人以上を魅了し、150万枚を売り上げた。続いて夏には、ヘイリー・スタインフェルドとグレイとのコラボ曲「Starving」を発表。全米ラジオ・トップ40でベスト10入りを果たし、スポティファイ(Spotify)だけで、僅か4ヶ月の間に2億4000万回以上の再生回数を記録した。ゼッドのディスコグラフィー全体を合計すると、ストリーミング回数は50億回以上、そして世界中で1,200万トラック以上を売り上げている。