ザ・フー『ライフ・ハウス』By ピート・タウンゼント(日本語訳)

2023.08.18 TOPICS

『フーズ・ネクスト/ライフ・ハウス』リリース発表時にザ・フーの公式サイトに掲載されたピート・タウンゼントによる文章の日本語訳を掲載します。
原文:https://www.thewho.com/the-who-announce-super-deluxe-multi-format-release-for-whos-next-life-house/

ザ・フー『ライフ・ハウス』
By ピート・タウンゼント

1971年。『ライフ・ハウス』は二つの狙いを持ったプロジェクトだった。一つは映画の脚本を作るということ。そしてもう一つは実験的ライヴ・ミュージカルをロンドンのヤング・ヴィック・シアターで実演し、その映像を撮影して実際の映画に組み込むという計画だった。

ザ・フーの非常に力強く盛り上がるライヴと、ヒット・アルバムにもなった『トミー』の成功の後、私は大胆不敵な音楽を作るプロジェクトに取り組もうとした。それはライヴにしてもアルバムにしてもすべてを音楽で一新するものになるはずだった。さらには映画を作りたいとも思っていた。私は『ライフ・ハウス』を、気候変動と環境汚染によって衰退した国家の到来を語る、不吉な問題提起として構想した。SF小説的な舞台設定において、ご都合主義で専制的な政府が国全体でロックダウンを強行し、そこではすべての人が娯楽を提供するネットワークに接続され、慰めと食物と平穏と精神の救いを与えられている。すべての住民は自宅にいながら安全に、仮想現実を体験できるスーツを利用して、このネットワークを享受している。さまざまな人生経験を得られるプログラムが、提携の娯楽企業から提供され、配管や送電線を通じて全世帯に供給される。

音楽は、スーツを身につけた住民を統治する上で、非常に邪魔なものであることが判明する。少しずつ音楽がプログラムから取り除かれていく。政府の言いなりになることを拒む反逆者や無法者たちは、無理矢理改造したバスやワゴン車を乗り回しながら、ロックンロールを聴いている。やがてその反逆者たちが「ライフ・ハウス」と呼ばれる場所の噂を耳にするようになる。それはロンドンのどこかにあり、ライヴ音楽が演奏され、奇怪な実験が行われているという。

ストーリーに関しても、ヤング・ヴィックでライヴ音楽の実験をするという有望な計画に関しても、どちらも作曲者である私には、ある意味でその場に合わせた作品を創造するコンピューターの役割が求められた。相手にするのは選ばれた観客で、彼らにはヤング・ヴィックでのワークショップに何度か参加してもらう予定だった。私が作りたいと願っていた音楽がどのようなものか、その例を二つ挙げるなら、「ババ・オライリィ」や「無法の世界 (Won’t Get Fooled Again)」のバック・トラックに使われている電子音がそうだ。物語の中で、新しい指導者(その人物像の一部は私自身が元になり、また別の部分は、当時一緒に仕事をしていて技術的な助言をくれた人たちが元になっている)が各地でコンサートを主催し、その場にふさわしい音楽が制作され、最終的にはその音楽が政府のネットワークに送り込まれて、抑圧された住民たちが自由を取り戻せるようになる。

ちなみに、政府のネットワーク・プロジェクトでは、参加する人々の多くが次第に精神的な進歩を遂げていく。それは、人々が身動きの取れない状態に置かれたまま、常に無数の人生経験を高速で注ぎ込まれながらそれを楽しんでいることが一因となっている。ライフ・ハウスの実験が対象となる相手のもとに届き、音楽がネットワークを通じてあらゆる個人のエクスペリエンス・スーツへ秘密裏に送り込まれたとき、計り知れない精神性を持った人々が一堂に会する衝撃によって、世界規模の騒乱が巻き起こる。当のライフ・ハウス、すなわちヤング・ヴィックにおいては、参加者たちが一人残らず、より高度な世界を目指して旅立っていく。

先ほど私は自分の計画を「大胆不敵」と形容した。事実、この構想はフィクションとしても実験としても不完全であり、うまく実現はしなかった。だが、このプロジェクトからは素晴らしい音楽がいくつか生まれた。そしてそこにあったアイディアはいつまでも私の心を捉えて離さない。その理由の一つは、物語で描こうとした内容の多くが、現実のものになりつつあるように思えるからだ。