『俺とストーンズ』番外~
日本レコーディング編1 | 日本レコーディング編2 | 日本レコーディング編3| 日本レコーディング編4


『レコーディング初日。山盛りの灰皿とケータリング。

ストーンズは、2日間にわたって
東芝EMI第3スタジオでレコーディングを行った。

ストーンズの4人、ダリル・ジョーンズやチャック・リヴェールといった
お馴染みのサポート・メンバーに加え、
当日に成田から直行したプロデューサーのドン・ウォズと
エンジニアのエド・チャーニーが集結。

後に、

「TOKYO SESSION」

と名付けられたスタジオ・ライヴ・レコーディングで、
ストーンズはセルフ・カヴァーを中心に、
トータル18曲に取り組んでいる。

レコーディングは、完全にミックとキースが仕切っていた。

ギターを抱えた二人が向かい合って座り、
それを他のメンバーが取り囲むという配置だ。

ミックの傍らには、分厚いストーンズのソングブック。
歌詞の確認用である(笑)。

今やストーンズのレコーディングには欠かせない存在となったドン・ウォズは、
プロデューサーとして具体的な指示を出すでもなく、
ひたすらテイクの違いや小節数などをノートに書き留めている。

ファンの間では有名な話なのだが、
ストーンズの楽曲の多くには、
ミック・ヴァージョンとキース・ヴァージョンの2つが存在する。

あくまで参考資料として入手した海賊盤の流出音源(苦笑)で、
アルバム『ヴードゥー・ラウンジ』のほぼ全曲を
キースが歌っているのを聴いた時には、本当に驚いたものだ。

今回のレコーディングでも、そんなストーンズの制作プロセスを
垣間見ることが出来たのは興味深かった。

例えば「夜をぶっとばせ!(Let’s spend the night together)」
のセッション。

ミックがテンポとリフを決めた上で、
アコースティック・ギターでイントロを弾き出す。

何テイクかトライした後で、
今度はキースが全く異なるアレンジでイントロを刻んで、
別のヴァージョンにトライするといった感じだった。

滞在中ミックとキースが仲良く話している姿を
私はついぞ目撃することがなかったが、
スタジオの中ではアイディアをガンガン交換している。

何十年も連れ添ってきた「グリマー・トゥインズ」
(ミックとキースの共同プロデューサー名のこと)
の関係というのは、もはやそういうものなのかもしれない。

キースはウォッカをオレンジ・ソーダかクランベリー・ジュースで割ったものを、
ロンはギネスを絶え間なしに飲んでいる。

ミックは勿論ミネラル・ウォーターだ。

 

筋金入りのチェーン・スモーカーであるキースとロンの灰皿が、
あっという間に山盛りになる。

最初のうちは、「記念に吸い殻取っとこうぜ」
などと盛り上がっていた我々スタッフだが、
すぐに有り難みを感じなくなってやめてしまった。

スタジオ横の応接ルームには、
ありとあらゆるケータリングやドリンクが所狭しと並べられ、
ムセ返るような臭いだ。

そして、そのほとんどが長時間のレコーディングに暇を持て余している
ローディーや屈強なセキュリティー達の胃袋へと吸い込まれていく。

夜の7時にスタートした初日のレコーディングは、
深夜1時を回ったあたりで終了した。


あれから10年以上の歳月が経ち…

もう時効だと思って告白してしまうのだが…

バンドが帰ってガランとしたスタジオで、
我々はとんでもない暴挙に出た。

こっそりチャーリーのドラム・セットに座ってポーズを取ったり、

キースの愛機であるテレキャスターを
そーっと握ってみたりしてしまったのだ!

正真正銘のアホである。

プロ意識のカケラも無い大バカ野郎である。

チャーリー、キース、本当にごめんなさい、もう二度といたしません
(⇒勿論そんなチャンスは二度と無いわけだが)

と、この場をお借りして心からの懺悔をさせていただく。

<<つづく>>

3

4

5

 東芝EMI第3スタジオ