『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド(20周年記念盤)』発売日に実施したQ&Aの日本語訳掲載
『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド(20周年記念盤)』発売日にU2公式サイトで配信された「U2 ELEVATION LIVE WATCH PARTY」の冒頭で行われたジ・エッジとアダムへのQ&Aの映像が公開されました。日本語訳を掲載します。
U2 - All That You Can’t Leave Behind 20th Anniversary Q&A
アダム・クレイトン:このアルバムが出てから20年が経ったなんてすごいことだね。つい昨日のことのようだよ。
Q:このアルバムに関して、思い出すこと、感じることは?
アダム:このアルバムでは、再びインドアに戻ったんだ。その前に『ヨシュア・トゥリー』と『ZOO TV』という二つの大きなスタジアム・ツアーを行なったわけだが、このアルバムでは親密感のある屋内会場で演奏できる曲を作りたかったんだ。その狙いは叶い、盛り上がるインドア・ツアーになったと思う。これからみんなにも見てもらえるわけだが。
ジ・エッジ:最高の新曲を携えてステージに上がる時というのは自信もいっぱいで、それに勝る気分はないんだ。実際、その現れというか…覚えている人もいると思うけど、僕らは会場の照明を全部つけた状態で登場してみんなに挨拶をして、それから1曲目をやったんだ。あれ以来、あのアイディアはたくさんのアーティストに“盗まれた”けどね(笑)。みんな言うんだ、デイヴ・グロールからも最近言われた。「あれは僕らもパクらせてもらった。だって会場の照明がついた中を登場するのがすごいクールだったからさ」とね。覚えているのは新曲を演奏できることのスリル。誇れるアルバムが作れたこと、それでツアーに出られて楽しかったことだ。
Q:では視聴者からの質問です。ボノとラリーがいないのをいいことに、二人のツアーでの悪い癖、悪い習慣をおしえてもらえませんか?
ジ・エッジ:昔の話ならしてもいいと思うんだけど、あの頃はホテルの部屋が4人相部屋だったんだ。ラリーはいつもすごく慎重で自分の寝袋を持参していた。泊まらされた安ホテルを信用してなかったんだよ、シーツが清潔ではないんじゃないかと。残りの3人はベッドに潜り込むわけだ、着替えもそこそこに服のまんま。ティーンエイジャーにありがちな話。ところがラリーは一人慎重に寝袋を広げるわけだ。シーツには触れようともせず、枕の上には何か特別なものを敷いてね。でもボノからケチをつけられてたもんだから、ラリーはある日思い切って寝袋を捨て、ベッドに入ったんだ。ところが寝て起きた翌朝、頭のてっぺんから足先まで全身湿疹が出てしまったんだよ。可哀想にラリー…。ボノは…人の服を勝手に着るんだ。僕の靴下はどこだ?と思っていると、ボノがちゃっかり僕の靴下を履いてるんだよ。
アダム:そこまで昔のことは覚えていないんだが、最近でもラリーを昼の12時前に捕まえることは本当に難しい。とにかく夜型人間でずっと夜起きてるんだよ。おそらくドラマーの習性だろうね。なので、日曜の夜にラリーと外出し、月曜の朝にボノと会う約束を入れるのは大きな間違いだ。ボノはいつも朝7時とか8時に起きるタイプなんでね。皆それぞれに違うタイムゾーンの中にいるんで、それを知ってないとならないのさ。
Q:「ビューティフル・デイ」のビデオをシャルル・ド・ゴール空港で撮影しようと思ったのはなぜですか?
ジ・エッジ:いい質問だ。アダム、覚えているかい? あの建物がすごく良かったという簡単なことじゃなかったかな。それとも違う理由があった?
アダム:僕らはどこかに行くのにも帰るのにも、あの空港を利用することが多かったんだ。アイルランド便がすべてあそこで乗り継ぎだったから知ってたんだと思う。このアルバムは「旅」がテーマだったので「空港がいいんじゃないか?」と思ったんだよ。違う形での旅、例えば鉄道での撮影もしたけれど、結局はあの空港の建物の見た目がすごく良かったんだ。
Q:スーツケースに必ず入れていく「置いていくことができないもの」は何ですか?
アダム:そうだな。必ずヴァン・モリソンの音楽を持って行くようになって随分と経つよ。世界のどこにいようと、ヴァン・モリソンの音楽を聴くと心が落ち着くんだ。紅茶も必ず持って行くね。旅行中に出てくる外国の紅茶はあまり信用できないのでね。アイルランドのバリーズティー(Barry’s Tea)というブランドをいつも持ち歩いている。それと着慣れたローブがあると何かと便利なんだ。どんなホテルのどんな部屋にいても、自分の家にいる気分になれるからね。そのくらいだ。なんでも大丈夫なタイプなんで。
ジ・エッジ:特にないよ。お気に入りの歯磨き粉と使い慣れた洗面用具一式さえあれば。旅行は大好きなんだ。初めての土地を訪れるのも、そこで色々なことを初めて知るのも大好きだ。だから僕はそんな経験ができることを感謝する。「家を思い出すものを持ち歩こう」ではなくてね。
Q:『アクトン・ベイビー』(1991)以来のブライアン・イーノとダニエル・ラノワとのアルバムだったはずですが、どんなことを期待していましたか?スタジオの中はどんな雰囲気だったのでしょうか?
ジ・エッジ:少しだけ下準備をしておいたので、何曲かの控えはあった。 でもブライアンとダニーはいつもスタジオをソングライティング・ツールとして利用するのが好きなんだ。僕らをスタジオに入れて、全員で演奏させて、実験をし、そこから何が生まれるかを見る。僕らにとっても二人とスタジオに入るのはいつもスリリングだったよ。とにかくうまいんだ、相手に刺激を与え、新しいアイディアを生むのが。二人とまたスタジオに戻り、音楽を作れるのはいつだってエキサイティングだったよ。
アダム:僕がいつもおもしろいなと思っていたのは、あの二人が入ることで4人組のU2が、突然6人組になってしまうってこと。二人が加わることでもたらされるプラスアルファの音楽要素。ブライアンとダンと一緒にプレイしていると、彼らから受ける刺激で、普段よりもおもしろいことができる。4人だけでやっている時には見逃してしまいがちな化学反応もね。
Q:アルバム中、どの曲が最も演奏するのが難しいですか? ギタリストとしてどうですか、エッジ?
ジ・エッジ:ギター・パートに関してはいつもシンプルにとどめたいタイプなんだ。僕はミニマリストなんでね。なるべくシンプルに弾き、大きなインパクトを与えたい。どの曲も難しいと感じたことはないな。たとえば「スタック・イン・ア・モーメント」は初めてピアノで書いた曲の一つだったので、最初にライヴでピアノを弾いた時はちょっと緊張したよ。ギターよりも考えることが多いからさ。でもギターということで言えば、どれも比較的楽だったよ。
アダム:僕も…あえて挙げるなら「ニューヨーク」かな。キーボード類と絡む部分があるからね。でもエッジも言うように、どの曲も演奏するのは楽なんだ。スタジオの中で書かれた曲ではないからさ。スタジオの中で構築されていく曲もあるけれど、そういう曲ほどはやってて難しくないんだ。
Q:このアルバムにちなんだタトゥーを入れたいのですが、ハートを入れたスーツケース以外で何かいいアイディアはありますか?
アダム:旅に関することならなんでもいいので、飛行機、列車、自転車、車、船。それらを組み合わせるのがいいんじゃないかな。
ジ・エッジ:スーツケースのタトゥーを入れるほど(僕らに)コミットできないなら、化粧ポーチくらいにしておくとか?(笑)それにハートを入れて。
Q:二人ともタトゥーを入れていますか?
ジ・エッジ:ないよ。実はちょっと前に入れるとしたら何を入れようかと考えたんだ。自分だけのデザインで入れられるなら考えてもいいんだが、一生消えないものを入れるほどコミットできるものが見つかってない。まだ思い付かないんだ。でも分からないよ。もしかしたら見つかるかも。
アダム:僕もコミットすることが怖くて考えたがやめてしまった。一生消えないんだと思うと、何がいいのかわからなくなってしまったんだ。
Q:アルバムの曲順は最後の土壇場で変更されたそうですが、それで気に入っていますか?もし変えられるとしたら変えたいですか?
ジ・エッジ:今の曲順でいいと思うよ。どうしてあの曲順になったのかは覚えていないが、今聴いてみると、コントラストがはっきりしたアルバムだなと思う。超オプティミスティックな「ワイルド・ハニー」のような曲もあれば、ダウナーで内省的な「ピース・オン・アース」のような曲もある。素晴らしいアルバムを作るにはそういったコントラストが必要なんだ。これだと言える曲順を見つけるのは難しいものだが、見つけられたのではないかな。
Q:アルバム最後の曲「グレイス」について。あの曲を彩る、この世のものとは思えぬ美しいギター・リフとその完璧なカウンターポイントを成すベースライン。あれが生まれた瞬間を覚えていますか?
ジ・エッジ:正直なことを言ってしまうと、その瞬間のことは思い出せないんだが、元々はもっとありきたりの、アコースティック・ギターの曲だったんだ。ブライアンとダニーとやって行くうちに、えも言われぬ不思議な楽器の調合が見つかった。あのギターのスタイルはしばらく前から取り組んでいたことだが、そもそもそれを僕に紹介してくれたのはダニーだったんだ。何年にもわたって、彼から盗ませてもらったアイディアの数々に感謝しているよ。(笑)
アダム:ジ・エッジと一緒で、僕もあのベースラインがどうやって存在するに至ったか、はっきりとは覚えていない。でもずっと存在していたように感じるよ。
Q:私の主人はテレビを見ながらギターを弾くのですが、エッジも弾いたりしますか?
ジ・エッジ:絶対しないよ!でも10代の頃はギターを片時も離さず弾いていたんだ。テレビを見ながらだけじゃない。家族全員がテレビを見ている部屋でテレビに合わせて弾くもんだから、母親からはやめてくれといつも言われていたよ。しまいには手当たり次第、近くにある物を投げつけられた。なので質問の答えはイエスだ。これは世のギタリスト共通の問題だね。
Q:アダム、メンタルヘルス問題に悩む人たちに大きなインスピレーションを与えてくれていますが、今とても辛い状況に置かれている人達は多いと思います。何かアドバイスはありますか?
アダム:本当に辛い時を今僕らは迎えているわけで… もしプレッシャーを感じているなら、やるべきことがいくつかある。まずは人と連絡を取り合うこと。電話でもいい。ZOOMを使って、今の状況を話し合える相手がいるならそうするべきだ。簡単なことかもしれないが、好きな音楽を聴くのもいい。心が落ち着くからね。カフェインは控え、アルコールも控え、カモミールティーを飲むといいよ。助けが必要だったら、助けを求めることをためらってはダメだ。
Q:ファンは知りたがっています。またU2に会える日が来ますよね?
ジ・エッジ:もちろんだ。みんなも知っての通り、僕らはここ5年間コンスタントにツアーをし、2枚のアルバムをリリースしてきた。だから元々、僕らにとって今の時期はツアーを終了し、次のU2のアルバムのことをそろそろ考え始めようか、という時期だったんだ。そしてまさにそれを今しているところさ。
Q:ツアーを行なう際、どういうビジュアルで行こうという話し合いをするのですか?例えば『エレヴェイション・ツアー』の時のコスチュームとかワードローブはどう決めたんですか?
アダム:すべて曲から始まるんだ。そしてそれに最も合うステージ・プロダクションはなんだろうかと考える。そうして服装や顔ひげとかまでにようやく行くわけさ。つまり曲をどうライヴで演奏するかを僕らに教えてくれるのは曲自身ということさ。
Q:今のあなたのその顔ひげのルックスをいつかステージでも見たいわ。
アダム:カントリー&ウェスタン・アルバムを作ったらね!(笑)
Q:毎回アルバムを作るごとに、トレードマークのU2サウンドに新しさを加え、前作を超える作品を作っているわけですが、『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』であなた自身が達成したと思う一番のものはなんですか?
ジ・エッジ:そうだな。ソングライティング、メロディを引き立たせるサウンドやパートを見つけ…もちろん僕はテクスチャーにこだわり、オーバーダブをたくさん重ねて音で遊ぶのも大好きなんだが、このアルバムの時はシンプルな要素だけでとどめたんだ。個人的に「カイト」はそのすごく良い例だと思う。ストリングスのループの上で僕らは演奏し、曲やパーツやアレンジは、バンドがスタジオの中で一つになって演奏することで生まれた。その意味で、僕にとっては究極の例だったと思う。なぜバンドでいることが素敵なことなのか、ボノ、アダム、ラリーとバンドをやることがなぜ素敵なのか…。それぞれのミュージシャンの相性と個性が実に良く映える1曲だと思うよ、「カイト」は。
アダム:楽曲に戻ったというところかな。4人プラス、そこにブライアンとダニーというテクスチャーが加わり、シンプルなレコーディング・プロセスだった点だよ。どれも素晴らしい曲で、その良さは変わらない。20年後の今、こうして振り返って聴いても自分たちでも驚くくらいの作品を作り上げたのだと思う。しかもあれが僕らの旅路のちょうど折り返し点、最初の20年の終わりだったことを考えると、すごいことだったなと思う。そこから改めてスタートする場所としては悪くなかったね。