『THE TIMERS スペシャル・エディション』に収録されるライナーノーツの一部が公開!
11月23日に発売となる『THE TIMERS スペシャル・エディション』に収録される一万字越えのライナーノーツの一部を公開。
このライナーノーツは当時THE TIMERSの宣伝担当でバンドに帯同していた高橋Rock Me Baby氏によるもので、様々な「事件」の舞台裏などが克明に書かれたものです。
『THE TIMERS スペシャル・エディション』収録ライナーノーツの一部
Text by 高橋Rock Me Baby
ヘルメットにサングラス、法被にニッカポッカという一風変わった出で立ちに、全て電気を使わないアコースティック楽器で、オルタナティヴなロックンロールを鳴らす4人編成のバンドを組んだ。世界的に見てもどこにもないキャラクター。バンド名はザ・タイマーズ(THE TIMERS) 。ゼリー(ZERRY)と名乗り、RCやソロでは使わない言葉を歌やMCに入れて、自分が忌野清志郎でなくなるというトリックを仕掛けたのだ。メンバーはMOJO CLUBの三宅伸治(G,Vo/芸名: TOPPI)、杉山章二丸(Dr/芸名: PAH)、ヒルビリー・バップスより川上剛(B/芸名:BOBBY )。覆面バンドであり、前座バンド。もちろん、声や歌い方でわかってしまう。それでも自分は清志郎じゃない。それどころか、清志郎みたいなアーティストは嫌いだと嘯く。その後、多用されることとなるパロディスト・スタイルはここからはじまった。時代に対してレジスタンスするのではなく、逆手にとってコメディーにしてしまう。清志郎はバブルをカオスに落とし込んだ。
何もかもがビジネス化してしまったロックシーンに一石を投じて、タイマーズは神出鬼没に活動した。どこにいつ現れるかわからない、わかっていても何をやるかわからない、そして何より、まだ観たことがある人がほとんどいなかった!正式な音源はなかったのだが、一部、ブラックマーケットに謎の海賊カセットテープが出まわるという事件が勃発。インターネットのない時に情報収集は難しく、業界の調査の目を出し抜くように、ブートレッグ専門店では数万円の値段がつけられ、売られていた!大量宣伝戦争が横行していた時代の裏をかくようなプロパガンダ。口コミだけの噂は様々なデマや怪情報も相まって、アッという間に広まった。噂が噂を呼び、そのうち、何が本当なのかわからなくなってしまった!一体、本当のことはどこにあるのか?「カセットを聴いた!」とか「富士急ハイランドのイベントで観た!」とか、「広島ピースコンサートに飛び入りした!」とか・・・。リーダーが清志郎であることというより、タイマーズってどんなバンドなのかという興味のほうが膨らんでいった。後にこの海賊カセット流出の仕掛け人は清志郎本人だったことが判明。最高のアーティストは最強の宣伝家であることを証明した出来事だった。
公式にはタイマーズのデビューがいつなのかは設定されていない。ただ伝説のはじまりはロックの偉大なる歴史が記録していた。本作品に収められている1988年11月13日 横浜国立大学学園祭である。前出の富士急ハイランド(本作品DVD冒頭に収録)は、飛び入りのうえ、まだ正体不明のタイマーズが誰だかわからずにお客さんが放心状態になっていたが、それからわずか3ヶ月の間に事態は急変!寒い季節にもかかわらず、たくさんの人たちがタイマーズ目当てに、夜の野外ステージに集結していた!ヘッドライナーは泉谷しげる with LOOSER、ギターはチャボ!タイマーズは山口冨士夫のあと、3番目だった。RCのような派手な演出もなく、続々とメンバーが出てきて、いきなりギターのTOPPIのあおりがはじまる。ヘルメットの清志郎に唖然としながら、圧倒的なカオスにひきこまれる。パンクをはじめて経験したようなムード。何だかわからない。1曲も聴いたことがないけど、もうのせられている!曲も知らないのに、ただのあおりなのに、1980年の『よォーこそ』のようにのせる!でもRCとは違うノリだ!戸惑っているその瞬間、オープニングナンバーである『タイマーズのテーマ』がはじまり、オーディエンスの熱気が爆発した!1曲1曲が短く、次々、間髪入れずに飛んでくる。黒くうねるようなノリ!パンクでファンクでブルース!洗練を拒否したような、徹底的に清志郎的なものを排除したロックンロール。しかし、本当の清志郎はどっちなのかわからない。どちらでもあり、どちらでもない。誰にも、何者にもつかまらない忌野清志郎の本質を、まだこの時には冷静に受け止められなかった。ただただ圧倒された!RCやソロでは絶対にできないこと、でもどこかで僕たちが待っていた清志郎がそこにはいた。ロックスターではない、バンドマンとしての清志郎。RCサクセションはまだ『COVERS』事件の渦中。誰もが清志郎の声明をほしがっていた最中のタイマーズ登場。情報にまどわされるな!間違った情報に踊らされるな!自分の五感で確かめたことが真実だ!清志郎の放ったメッセージは、2016年の現在、さらに凄みを増したリアルへと増幅されている。