5th Album 「I’M JUST A DOG」 ライナーノーツ up!
「I’M JUST A DOG」 ライナーノーツ
ザ・バースディの新作『I’M JUST A DOG』が素晴らしい。
霧が晴れ、一気に視界が開けたような見晴らしの良さと解放感。シンプルでコンパクトでポップな曲調、ポジティヴで繊細で、優しくさえある歌詞。ザ・バースディの新境地を物語る新鮮な楽曲と、充実した演奏がたっぷりと聴けるのだ。新ギタリスト、フジイケンジの加入は大きかったようだ。
「今回のアルバムはこれまでとはまったく違う手応えがあったよ」
チバユウスケはそう上機嫌に語る。
「もっとブルースにしたかったんだ。前作は長いセッションみたいな曲が多かったけど、原点に戻るというかさ。シンプルに、コンパクトに、たとえば3コードとかリフ一発で押しまくるような曲をもっと作ろうと。フジイ君に触発された部分は大きいよ。前のイマイ(アキノブ)君と、出すものが少し違うからね。それが新しい刺激だった。それまでの自分にはなかった回路や感覚が開いたって感じかな」
フジイケンジが加入したのが2010年の10月。そこから曲を作り始め(それ以前に書き上げていた曲もある)、12月と1月に分けて録音。録りが終了したのが2011年2月初頭。4月中旬に作品は完成した。
「キーになる曲はオープニングの”ホロスコープ”だね。4人で最初にセッションした曲だったから。それまでにない手応えだった。めちゃくちゃカッコいいと思ったよ。とにかく楽しくて。次の日にもう歌詞作ってきたもん。そこからは一気呵成だった。いつもオレはやりたい曲、やりたいことは一杯あるんだけど、今回は出し尽くした感がある。曲が短いこと? フフフ。コンパクトにコンパクトにしようとするんだよケンジ君は(笑)」
アルバム・タイトルの『I’M JUST A
DOG』は、チバユウスケの過去の作品中でも史上初めて収録曲のタイトルからとったもの。
「生きるために食う、ってイメージがあるじゃない? 野生の動物って。食うためだけに生きてる、みたいな。それを”犬”と言ってみたんだけどね。砂漠とかに捨てられた犬がいるんだよ。でもあいつら全員、意外と生きていけたりするのね。そういうイメージ。うん、そう、生命力だね。オレが何のために毎日飲んでるかって? 人と話すためだよ(笑)。生きていくためじゃなくて、コミュニケーションのため。こう見えて一生懸命やってるんだよオレだって(笑)」
もともとタイトルは違うものになる予定もあったというが、その元のタイトルと、ジャケット・デザインは同じイメージで作られている。西部開拓時代の荒くれ者のような、そんなイメージを喚起させるヴィジュアルだ。
「なんかね、時代を超えてる感じを出したかったの。絶対的な、揺るぎのないイメージ」 時代性に左右されない絶対的な揺るぎのなさをチバと、ザ・バースディは目指している。揺るぎないからこそ、どんなに状況が変わろうとも、その都度の聞き手にフィットする歌になる。いわばザ・バースディの歌は鏡であり、ザ・バースディを語ることで、聞き手は自分自身を語ることになるのだ。
「周りがどうなろうと関係ねえんだぞっていう。でも実はすべてに関係している。そこにあるんだぞ、っていうことなんだよ」 チバは新生ザ・バースディに、近来にない手応えを感じているようだ。本作で感じたほどの達成感も、過去にたった1度しかないという。このバンドでこそ、生涯最高の瞬間を味わうことができるに違いないという確信があるようだ。
「このバンドはもっともっと良くなるという予感はあるよ。絶対もっといいものができるはず。だって、オレ自身がワクワクしてるもん。まだ今度のメンバーになって2回しかライヴやってないけど(注・取材日は4月28日)、すごく楽しい。まだ完成されてないけど、それを上回る気迫があったからね」 チバの考える最高のライヴとはなんだろうか。
「メンバーそれぞれのヴァイブレーションが違うんだけど、ライヴになるとガチッとかみ合う瞬間がある。本当は一緒なんだっていう。オレはそれが一番良いライヴだと思う。ていうかそれが一番楽しいんだよ。したらみんな好きなことができるんだよ。すると、すべてのパワーみたいなものが全部繋がっていって、とにかくすごいライヴになる。オレはそれがやりたいんだよ」
チバは過去に一回だけ、そうしたライヴをやったことがあるという。だが今度のバンドでそれを超えることができるんじゃないか。本作の素晴らしい出来映えを聞き、そしてただ押しまくるだけでなく、聞き手を引きずり込み、その世界の中で遊ばせてくれるような懐の深さを併せ持つようになった新生ザ・バースディのライヴを見て、ぼくはそう確信しているところだ。
2011年5月10日 小野島 大