<連載>『ビートルズ’64』第5回目:『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』と映画『ビートルズ’64』
第5回目:『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』と映画『ビートルズ’64』
ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念し、ドキュメンタリー映画『ビートルズ’64』がディズニープラスで11月29日に配信開始となった。11月22日に発売された8枚組LPボックス・セット『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『ビートルズ物語』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)と併せて、「ビートルズとアメリカ」を知るうえでも欠かせない新たな作品の登場は、ファンにとってはうれしいところだ。
連載5回目(最終回)は、そのボックスセットについて、魅力も含めて紹介する。
これまでの連載で紹介してきたように、『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』には、1964年1月から1965年3月にかけてアメリカのキャピトル・レコード(『ハード・デイズ・ナイト』はユナイテッド・アーティスツ)から発売された下記の計7作品が収められている。
①『ミート・ザ・ビートルズ』
②『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』
③『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』
④『サムシング・ニュー』
⑤『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』(2LP)
⑥『ビートルズ ‘65』
⑦『アーリー・ビートルズ』
今回は、新たにオリジナル・モノ・マスターからカッティングした180グラム仕様のアナログ盤としての発売となり、ラッカー盤のカッティングは、ケヴィン・リーヴスがナッシュヴィルにあるイースト・アイリス・スタジオで新たに手がけたという。その際、アナログの信号経路のみを使用し、オリジナル・アルバムの最初期のプレスの音を常に参照しながら作業を進めていったとのことだ。
また、専門的な説明になるが、今回のアナログ盤は、マスター・レコーダーにアナログ・プレビュー/プログラム・パスの機能を備えたスチューダー・A80を、カッティング・マシンには1971年にキャピトル・スタジオに設置されたノイマン・VMS70を使用して制作されている。こうしてカッティングの全工程をアナログ機材により進めることで、オリジナル・テープに記録された音域とダイナミクスを忠実に表現することが可能となっている。
アメリカで当時発売されたオリジナル盤を忠実に再現したアートワークを使用し、アメリカ盤に関しては右に出る者はいないビートルズ研究家のブルース・スパイザーによるエッセイを掲載した解説も付けられている。
さらに日本盤は、初回帯のデザインを再現した帯が封入されており、『ビートルズ’65』は、『ビートルズ・フォー・セール』のデザインを模した帯にするという凝りようだ。ちなみに『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』の日本盤LPが発売されるのは今回が初めてである。奥田祐士氏による英文解説の翻訳と歌詞対訳ももちろん掲載されている。
ところで、映画『ビートルズ’64』には、レコード店の店主のこんな発言が登場する。
「今日の売上は?」
「200枚は売れたよ。好調だ」
「一番人気のレコードは?」
「〈抱きしめたい〉」
また、キャピトル・レコードからのデビュー・アルバム『ミート・ザ・ビートルズ』が積まれたレコード店の様子が映し出される場面が登場し、そこではファンと店主とのこんなやりとりも見られる。
「ビートルズのレコードはどこ? 1曲しか入ってないの? 〈抱きしめたい〉のB面は?」
「〈アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア〉だ」
当初の64年1月13日から63年12月26日に発売が早められた、キャピトルからの第1弾シングル「抱きしめたい」、「抱きしめたい」がチャート・インした直後の64年1月20日に発売された同じくキャピトルからのデビュー・アルバム『ミート・ザ・ビートルズ』、そして2月9日の『エド・サリヴァンショー』出演と2月11日のワシントン・コロシアムでのデビュー・コンサート――アメリカのファンを虜にした若きビートルズの魅力が、映画『ビートルズ’64』には、まばゆいばかりに描かれている。
「『エド・サリヴァン・ショー』を見ていなかったら、今日の僕はないと断言できる。この世に存在してさえなかったかもしれない」と語ったのは、当時14歳だったビリー・ジョエルだが、ビリー・ジョエルと同い年のブルース・スプリングスティーンは、『ミート・ザ・ビートルズ』との出会いについて、こんなふうに振り返っている。
「レコード屋に毎日のように通ううちに、『ミート・ザ・ビートルズ』を見つけた。それは史上最高のアルバム・ジャケットだった。ラジオでは4人の姿が見えなかったから、ジャケットのあの髪型に衝撃を受けた。これはいったいなんなのか? すぐに自分の髪型をビートルズみたいにした。でも、尻を叩かれたり、侮辱されたり、危ない目に遭ったり、拒絶されたり、のけ者にされたりするのを覚悟する必要があった。仲間は高校じゅうで2、3人しかいなかった。俺の髪型を見た親父は最初は笑い、じきに腹を立てた。そして最後に、いきなりこう訊いてきた――「ブルース、おまえゲイか?」でも、まもなくわかった。おれはビートルズに会いたいんじゃない。ビートルズになりたいんだ、と」
1964年から65年にかけて、アメリカで「4人はアイドル」になったビートルズ。その音楽的足跡を、イギリスのオリジナル盤とは異なる作品で楽しめる『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』。ボックスでまとめて購入するのもいいし、気に入った1枚から入るのもいいだろう。アメリカのリアルタイムのビートルズ・ファンが辿った「ワクワク感」を、ぜひ音を通して体験してほしい。
The Beatles: 1964 U.S. Albums In Mono Vinyl Box Set
『ビートルズ ’64』|予告編