<連載>『ビートルズ’64』第4回目:アルバム紹介3
第4回目:アルバム紹介3
『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』『ビートルズ‘65』『アーリー・ビートルズ』
ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念して、アメリカのキャピトル・レコードからの作品をまとめた8枚組LPボックス・セット『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』が11月22日に発売された(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『ビートルズ物語』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)。
連載4回目は、1964年から65年にかけてキャピトル・レコードから発売された残りの3作品――『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』『ビートルズ’65』『アーリー・ビートルズ』を紹介する。
ボックス・セットのみの収録となったアルバム『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』は、キャピトルからの3作目――ユナイテッドアーティスツからの『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』を加えると4作目――となった『サムシング・ニュー』の4か月後の1964年11月23日に発売された。
メンバーやブライアン・エプスタインの紹介をはじめ、インタビューや記者会見を中心に、ビートルズの“生の声”を届けることを主眼としたもので、併せてアメリカでのビートルマニアの熱狂ぶりを伝えることを意図したドキュメンタリー・アルバムである。
熱狂的なファン向けとも言えるこの異色作が制作されたのは、ロサンゼルスのラジオDJによるビートルズとのインタビュー音源をまとめたレコードが、『プリーズ・プリーズ・ミー』など初期の権利を持っていたヴィージェイ・レコードから発売されたことに対抗するためでもあった。
ビートルズがアメリカで寝泊まりしたホテルのベッドのシーツが切り売りされたのをはじめ、「ビートルズ」と名の付くものは何でも商売になる。キャピトルもビートルズのレコード発売には熱心だったが、それ以上のあざとい商売が64年当時はあふれかえっていた。
『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』は、通好みではあるものの、他にも聴き逃せない“生の声”が収められている。64年8月23日にロサンゼルスのハリウッド・ボウルで行なわれたコンサートから「ツイスト・アンド・シャウト」の生演奏が収録されているのだ。ドキュメンタリー作品ということもあり、わずか48秒の演奏ではあるものの、ビートルズのライヴ音源が初めて収録されたものでもあった。
とはいえ、このライヴ音源に関しても、収録されたのにはひとつ大きな理由がある。キャピトルは当初、8月23日のハリウッド・ボウル公演のライヴ・アルバムを制作する予定があり、実際に録音もされている。だが、音の悪さや観客の大きさなどから、現場にも立ち会ったプロデューサーのジョージ・マーティンは発売を許諾せず、本作にわすかながら「記録」として収録されるにとどまったというわけだ。
『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』は、2枚組のドキュメンタリー作品であるにもかかわらず、アメリカのアルバム・チャートで7位を記録した。
続く『ビートルズ‘65』は、『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』の1か月後の1964年12月15日に発売された。
収録曲を見ると、イギリスでの4作目『ビートルズ・フォー・セール』の“キャピトル仕様”といった趣がある。全11曲のうち、「ノー・リプライ」「アイム・ア・ルーザー」「ベイビーズ・イン・ブラック」「ロック・アンド・ロール・ミュージック」「アイル・フォロー・ザ・サン」「ミスター・ムーンライト」「ハニー・ドント」「みんないい娘」の8曲が『ビートルズ・フォー・セール』収録曲だ。
残りは、そのアルバム・セッションでレコーディングされ、シングルとして発売された「アイ・フィール・ファイン」「シーズ・ア・ウーマン」の2曲(ともにエコーが深い別ミックス)と、『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』には収録されなかった「アイル・ビー・バック」という構成である。ちなみに『ビートルズ・フォー・セール』から外された6曲は、キャピトルからの『アーリー・ビートルズ』の次作『ビートルズ VI』(65年6月14日発売)に収録された。
キャピトル盤は、イギリスのオリジナル盤と似通った内容でも、曲が減った分、印象が大きく異なる。本作も、A面こそイギリス盤から最後の「カンサス・シティ/ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ!」が外されただけだが、B面はイギリス盤の冒頭の2曲――「エイト・デイズ・ア・ウィーク」と「ワーズ・オブ・ラヴ」が外されたことで「ハニー・ドント」が1曲目にきて、間にシングル曲などを挟み、最後は「みんないい娘」で終わるという、カール・パーキンスのカヴァー曲が最初と最後を飾る構成となった。もうひとつ、本作は全11曲中、ジョンがメインで歌う曲が6曲あるのに、ポールが2曲というのも、独特な内容といえるだろう。
『ビートルズ‘65』は、アメリカのアルバム・チャートで9週連続1位を記録し、アメリカだけで300万枚以上を売り上げた。
ジャケット・デザインは、日本での5作目となる編集盤『ビートルズ No.5!』(65年5月5日発売)に流用された。
『アーリー・ビートルズ』は、『ビートルズ’65』の3か月後の1965年3月22日に発売された。
連載の2回目に紹介したように、アメリカのヴィージェイ・レコードはキャピトルの戦略に便乗し、アルバム『イントロデューシング・ザ・ビートルズ』をキャピトルからのデビュー・アルバム『ミート・ザ・ビートルズ!』の10日前の1月10日に発売した。
その後、ヴィージェイとの契約が切れ、『イントロデューシング・ザ・ビートルズ』の収録曲の権利を取ったキャピトルが新たに編集したのが、まさに初期のビートルズ作品集『アーリー・ビートルズ』だった。
収録された全11曲の内訳は、イギリスのデビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』から 2枚のシングルのA・B面――「ラヴ・ミー・ドゥ」「P.S.アイ・ラヴ・ユー」と「プリーズ・プリーズ・ミー」「アスク・ミー・ホワイ」の計4曲に加えて、「アンナ」「チェインズ」「ボーイズ」「ベイビー・イッツ・ユー」「ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」「蜜の味」「ツイスト・アンド・シャウト」の7曲。
外されたのは「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」「ミズリー」「ゼアズ・ア・プレイス」の3曲だった。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」は『ミート・ザ・ビートルズ!』に収録済みだったが、残る「ミズリー」と「ゼアズ・ア・プレイス」は、キャピトル盤の未収録曲を集めた編集盤『レアリティーズ Vol.2』に収められ、80年3月24日に発売されている。
本作も、曲順が面白い。イギリスでの最初のシングル2曲「ラヴ・ミー・ドゥ」と「プリーズ・プリーズ・ミー」がそれぞれA面とB面の冒頭に収録されているのは妥当だが、「ラヴ・ミー・ドゥ」の次に「ツイスト・アンド・シャウト」が出てくるのが、イギリス盤を聴きなれたファンには新鮮に響くに違いない。最後にジョージのヴォーカル曲「ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」で終わるというのも独特な流れだ。
『アーリー・ビートルズ』は、さすがに初期の作品過ぎたのだろうか、アメリカのアルバム・チャートで最高43位を記録し、100万枚以上を売り上げるのに10年以上かかっている。
ジャケットは、『ビートルズ・フォー・セール』の裏の写真が使用された。