<連載>『ビートルズ’64』第3回目:アルバム紹介2

2024.11.22 TOPICS

第2回目:アルバム紹介2
『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』と『サムシング・ニュー』

 

ビートルズのアメリカ上陸60周年を記念して、アメリカのキャピトル・レコードからの作品をまとめた8枚組ボックス・セット『ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO』が11月22日に発売される(2枚組のドキュメンタリー・アルバム『ビートルズ物語』を除くLP6枚も、それぞれ単独作品として同時発売)。

連載3回目は、映画『ハード・デイズ・ナイト』の配給会社ユナイテッド・アーティスツから発売されたアルバム『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』(1978年にキャピトル・レコードから再発)と、それに続いてキャピトルから発売された『サムシング・ニュー』について紹介する。

イギリスでは、ビートルズのシングルは1962年の「ラヴ・ミー・ドゥ」から68年の「レディ・マドンナ」までがEMIのパーロフォン・レーベルから発売され、アルバムは63年の『プリーズ・プリーズ・ミー』から67年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67年の『マジカル・ミステリー・ツアー』はEP2枚組)までがパーロフォンからの発売だった。

その後、68年のシングル「ヘイ・ジュード」から70年の「レット・イット・ビー」、68年のアルバム『ザ・ビートルズ(通称:ホワイト・アルバム)』から70年の『レット・イット・ビー』までは、ビートルズが設立したアップル・レコードが制作し、発売はEMIという流れとなった。

一方、アメリカ編集盤の多くはキャピトル・レコードから発売されたが、特記すべき例外として次の2作がある。イギリスのデビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』の収録曲の権利を持っていたヴィージェイ・レコードから64年1月10日に発売された『イントロデューシング・ザ・ビートルズ』と、今回紹介するユナイテッド・アーティスツからのアルバム『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』である。

『ハード・デイズ・ナイト』がキャピトルから発売されなかったのは、ユナイテッドアーティスツが、映画の配給と併せてサウンドトラック盤の権利も手に入れたからだ。イギリスのオリジナル3作目の『ハード・デイズ・ナイト』との大きな違いは、映画に使われたジョージ・マーティン・オーケストラによるビートルズのカヴァー――「ア・ハード・デイズ・ナイト」「恋する二人」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「ジス・ボーイ」の4曲――が収録されていることだ。特に「ジス・ボーイ」のインスト版は川辺を歩くリンゴの印象的な場面に使われ、“Ringo’s Theme(This Boy)”のタイトルが付けられ、日本では「リンゴのテーマ」のタイトルでシングルとしても発売された。

アルバム『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』は、キャピトルからの2作目となった『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』の2か月半後の64年6月26日に発売された。

収録された全12曲の内訳は、映画で流れた新曲7曲(イギリス盤『ハード・デイズ・ナイト』のA面収録の7曲)――「ア・ハード・デイズ・ナイト」「恋する二人」「恋におちたら」「すてきなダンス」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「キャント・バイ・ミー・ラヴ」「テル・ミー・ホワイ」と、B面収録の「ぼくが泣く」と、先に触れたジョージ・マーティン・オーケストラによる4曲。
「ぼくが泣く」は、もともと、ビートルズが警官と追いかけっこをする場面に合わせて書かれた曲だったが、監督のリチャード・レスターが気に入らず、その場面には「キャント・バイ・ミー・ラヴ」が使われた。そのため、映画には「キャント・バイ・ミー・ラヴ」が2度登場する結果となった(81年に再上映された際に、オープニングの追加映像のBGMとして使用された)。
もうひとつ、「ぼくが泣く」の原題は“I’ll Cry Instead”だが、『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』の曲目は、誤って“I Cry Instead”になっていた。

タイトルはイギリスもアメリカも『ハード・デイズ・ナイト』だが、映画のサウンドトラックとしての有効性は、イギリスの同名オリジナル・アルバム『ハード・デイズ・ナイト』よりもアメリカ編集盤のほうが高い。「恋におちたら」と「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のそれぞれジョンとポールのヴォーカルが、ダブルトラックではなくシングルトラックになっているなど、ミックスの違いを楽しめる曲も多い。

『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』は、アメリカのアルバム・チャートで14週連続第1位を記録。64年度の年間ランキング37位、65年度の年間ランキングでも36位を記録。アメリカだけで400万枚以上を売り上げた。

アメリカでの人気拡大に伴い、シングルも続々登場。このアルバムからは、64年7月13日に「ア・ハード・デイズ・ナイト/恋する二人」、7月18日にジョージ・マーティン・オーケストラによる「アンド・アイ・ラヴ・ハー/リンゴのテーマ」、7月20日に「アンド・アイ・ラヴ・ハー/恋におちたら」と「ぼくが泣く/すてきなダンス」の4枚が発売された。

『サムシング・ニュー』は、『ハード・デイズ・ナイト』のサウンドトラック盤を発売できなかったキャピトルが、それに代わる“目新しいアルバムを”という思惑で制作したもので、そのサウンドトラック盤の1か月後の64年7月20日に発売された。

収録されたのは11曲。イギリス盤『ハード・デイズ・ナイト』収録曲からの8曲――「恋におちたら」「すてきなダンス」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「テル・ミー・ホワイ」「エニイ・タイム・アット・オール」「ぼくが泣く」「今日の誓い」「家に帰れば」と、イギリスのEP「ロング・トール・サリー」に収録された「スロウ・ダウン」と「マッチボックス」(EP4曲の残りの「ロング・トール・サリー」と「アイ・コール・ユア・ネーム」は『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』に収録)、おまけに(?)「抱きしめたい」のドイツ語ヴァージョンという、通好みな内容である。

前回紹介した『ミート・ザ・ビートルズ』と『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』も、「表と裏」「陽と陰」というそれぞれ補完しあう内容だったが、『ハード・デイズ・ナイト(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』と『サムシング・ニュー』も、同じような位置づけにあると捉えることができそうだ。

ちなみにイギリス盤『ハード・デイズ・ナイト』から漏れたのは、「ア・ハード・デイズ・ナイト」「恋する二人」「キャント・バイ・ミー・ラヴ」「アイル・ビー・バック」の4曲。「アイル・ビー・バック」はキャピトルからの5作目『ビートルズ‘65』(64年12月15日発売)に、「恋する二人」「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は同じくキャピトルからの16作目『ヘイ・ジュード』(70年2月26日発売)にそれぞれ収録されたが、「ア・ハード・デイズ・ナイト」は、ユナイテッドアーティスツからのサウンドトラック盤に収録されただけで、キャピトルからの編集盤17作品には収録されていない。

内容は通好みではあるものの、64年2月に出演した『エド・サリヴァン・ショー』の演奏場面を使ったジャケット・デザインと、“SOMETHING NEW”の洒落たタイトル文字が何より素晴らしい。同じく内容は通好みだった『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』と並び、キャピトルから発売されたビートルズの編集盤では1,2を争う名デザインだ。

『サムシング・ニュー』は、アメリカのアルバム・チャートで9週連続2位を記録し、アメリカだけで200万枚以上を売り上げた。アルバムからのシングルは、64年8月24日に「マッチボックス/スロウ・ダウン」の1枚だけ発売されている。