Digital Single『Charade』オフィシャルインタビュー

2024.08.17 TOPICS

Digital Single『Charade』オフィシャルインタビュー

 

“本質”を求めて予測のつかない展開を見せるメロディと歌詞
Superflyが新曲「Charade」で開いた新境地とは?!

 

『Superfly Arena Tour 2024 “Heat Wave”』を終えてから早いもので約5ヵ月。本題に入る前に少しだけツアーを振り返ってもらったのだが、そのときの次の言葉が印象に残った。

 

「今までとは違う新しい感覚でやれて、天国にいるような瞬間を初めて味わうことができました。ストレスの一切ない、ただただ幸福な瞬間。一瞬、自分のカラダからも解放されるような感覚になれたというか。今までもそこに行きたかったんだけど、自分の経験が浅くて行けなかった。でも、去年身の回りで起きたある体験を経て、“ああ、ようやくここに辿り着けた”“ライブって天国なんだな”って初めて思うことができたんです」

 

「天国にいるような瞬間」。それがどういう状態を指すのか、このときは漠然としたイメージを浮かべながらも話を前に進めてしまったのだが、あとで新曲の歌詞について聞いたとき、志帆の言うそれをなんとなく理解できた気がした。そのことについては後ほど改めて触れるとして、新曲「Charade」(シャレード)がどのようにできていったか、どういった思いと拘りを持って作られたのかを記していこう。

 

Superflyのニューシングル「Charade」は、7月13日にスタートした日本テレビ系 土ドラ10『マル秘の密子さん』主題歌。『マル秘の密子さん』は、手段を選ばず依頼者を変身させて成功へと導く謎多き“トータルコーディネーター”本宮密子(福原遥)を主人公とした華やかかつ重層的なドラマで、ダークファンタジーのような世界観を楽しむことができる。原作なしのオリジナル脚本ということで、作詞作曲を手掛けた志帆はまず脚本を読み込んでイメージを膨らませ、密子の多面性を際立たせるメロディ構成を意識しながらデモ作りを始めたという。

 

「福原遥さんは声の高さもあって可憐なイメージ。でも役柄はミステリアスで、柔らかさと強さもある。天使か悪魔かわからないという設定でもあったので、そういう多面的な要素が曲にも求められているんだなと初めに思ったんです。ドラマ全体のトーンとしては、お洒落、ちょっとレトロ、ヨーロピアン、優雅といったキーワードをお聞きしていて、その全部を盛り込めるかどうかはわからないにしても、とりあえず優雅さは大切にしたいなと」

 

 

初めに浮かんだのは「化けの皮を剥いで~」という強いサビ部分のメロディだったそうだ。

 

「ツアーを終えたあと2週間お休みしていたんですけど、その間にサビのメロディが突然降りてきた。“きたっ!”って思って、すぐにそこだけ録音して。それからしばらくして改めてドラマの企画書を読み直したり、かたまってきた内容を聞いたりしたところ、アンビバレンス(*両面価値。相反する感情を同時に持つこと)がキーワードのひとつであると。じゃあこの引き締まった強いサビに思い切り優雅な雰囲気のAメロとBメロを合わせたら、アンビバレンスも表現できるし、面白いんじゃないかと思ってトライしてみたんです。ピアノでゆったりしたメロディを弾いて、相性のいいコードを探って。Aメロの頭はすぐに出てきたけど、メロディがもっと冒険したがっている感じがしたので、あえてコードを外してみたりもしました。下手に落ち着かせるのではなく、浮遊感があってしっかり着地しないもののほうがいいんじゃないかと思ったので。ハッキリしない曲、予測のつかない進み方をする曲のほうがドラマに合うだろうと思っていて、それには私自身がメロディに翻弄される気持ちで作る必要があったんです。“このメロディはどこに向かっているの?”って自分にもわからないんだけど、それが面白かった。そういう感覚で曲を作ったのは初めてでしたね」

 

その結果、前奏、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、エンディングと、それぞれに特性のあるメロディが繋がり合わさった組曲的な構成に。優雅さもあればどこかサスペンスフルでもあり、まさしくどこへ向かうのか予測不可能な展開の仕方が面白くてクセになる。

 

「何かと何かを組み合わせるのがもともと好きなんですよ。料理にしても服装にしても、異質なもの同士を組み合わせることで思ってもみなかった良さが生まれたりする。優雅なだけではつまらないから、そこに不気味さとか毒気を盛り込んだり。そうやって少しずつ曲の印象が変わっていくのを楽しみながら作っていました」

 

組曲的な作りというと、例えば映画『プロメア』の主題歌「覚醒」がそういうものだったが、「Charade」では特に浮遊感と曖昧さのあるAメロ、リズミカルなBメロ、強いサビと、部分部分の個性が大きく異なり、それでいて物語のように不自然さなく繋がっていって、やがて核となるものが現れる構成。その繋ぎ方がまた見事で、そこにも志帆の意思と意図が反映されているようだ。

 

「広がりのあるAメロ・Bメロに対して、引き締まったサビは言うなれば本質。本質がグッと浮かび上がってくる感じにしたかったんです。そのサビのリズムパターンは初めから自分のなかにハッキリしたイメージがあって、タイトなんだけど後ろではしっかりノレるドラムのキックが鳴っているっていう。それを宮田さん(アレンジャーの宮田‘レフティ’リョウ)に歌いながら説明しました。それと、サビの前のダダダダダダって駆け上がるところも宮田さんに考えてもらいました。サビのところでテンポがあがるのがこの曲のミソだけど、それを違和感なく聴かせたかった。テンポが変わる際に、不自然に思わせない接着剤が必要だと思ったんです」

 

メロディの動きとテンポの変化に加え、楽器の入り方も趣向が凝らされている。

 

「ピアノで始まる前半は自由にアドリブっぽい感じで進んでいく。そこにチリチリというノイズが不穏な感じで乗って、ストリングスが彩りとして入って。でもサビではリズムもギターもグッとタイトになる。特にリズムの間(ま)の捉え方をとても大事にしました。ギターは弾きすぎず、ドラムは一打一打を大事に。どの楽器も間を活かす方向で演奏してもらい、それによってより優雅なところと緊張感のあるところのメリハリをつけたかったんです」

 

「ヴォーカルでもそのあたりのメリハリを意識しました。Aメロでは空気が入るような響きを意識して歌い、サビでは濁点のアクセントを立たせて強く響くように歌っています。“魂のぬか喜び”というところから喉をガッと開いてロウ(音域の低いところ)を出すようにして、そこで切り替わるイメージ。その切り替わりが大事だと思ったので」

 

 

歌詞はどういった知識や経験から着想を得て、ドラマの内容にはどう絡めたのだろうか。

 

「ドラマのキャッチコピー的なものとして、“あなたが変われば、世界は変わる”というフレーズがあったんです。トータルコーディネーターの密子が依頼人の側(がわ)を変えると、その人の中身も変わってキラキラ輝いていく。それによって世界も変わる、っていう。そういうことって自分にもあるのかな?と考えてみたら、ライブがそれに当たるんじゃないかと思って。ライブをする際、私はまずカラダを整えるんですよ。カラダが整ったポジティブな状態でライブをすると、みんなが輝いて見える。お客さんの笑顔の質が違って見える。そういう体験があるから、私にとっての側というのはこのカラダのことなんだろうなと思ったんです。カラダは物質で、本質が魂。魂とカラダは別物だという知識は昔からあったし、そういうことを考えるのが以前から好きなんですけど、なかなかそれを実感として持つことは今までなかった。だけど去年、それが確信に変わる出来事があって。身近な人が病気で亡くなったんです。その人はとても怒りっぽくて、周りの人たちを緊張させるようなところがあったんですけど、カラダを失ったその人の顔は穏やかで、爽やかな雰囲気すら感じられた。あ、これがこの人の本質なんだって思いました。カラダがなくなれば感情もなくなる。感情はカラダのセンサーが反応して外に出るだけで、それと本質とは別なんじゃないかって。例えば私自身、まわりのいろんなものを敏感にキャッチしがちで、ちょっとしたストレスが皮膚に表れたりもする。でも自分は本質的に弱いわけじゃなく、むしろ好奇心旺盛だし、明るいほうだと思うんですよ。だから私はライブの前にカラダを整えるんです。好奇心全開で正しくいろんなことをキャッチしてワクワクしながらステージに立てるように」

 

「言葉とか感情って、その人の本質ではなくて、物質の部類に入るものなんじゃないかと思うんです。心や魂と対比される概念というか。だから言葉や一時の感情を信じ込むんじゃなくて、仮にカラダを失っても残る自分、側ではなく奥にある本当の自分を感じながら生きていたい。そんなふうに去年から強烈に思っている自分がいて、この前のツアーもその影響があってあんなふうにできたんです。そして、そんなタイミングでこのドラマの主題歌を作ることになった。私が言いたかったことはハッキリしていて、それは“現象や側に騙されないで、本質を見ましょうね”“飾ることや見栄を張ることをやめて、本当の自分を感じながら生きましょうね”といったことでした。だけどそれを哲学的に書くのは違うし、せっかくストーリー性のあるメロディ構成になったので、物語っぼくもしたい。そこでどういう設定にすれば伝わりやすいかを考えて、惹かれ合った恋人が次第に本質に向き合えなくなったというようなストーリーにすることにしたんです。身の周りの刺激に影響されやすい人と本質を見ている人、ふたりの物語。そういう設定にしながら、さっき話した自分の実体験や思っていることを歌に込められればと」

 

ある気づきがあって、歌詞のスタイルも根本的に変わった。

 

「“Ashes”の歌詞を書いたときに、いつも的確なアドバイスをしてくださる作詞家のjamさんが“感情で突っ走りすぎているけど、そこが志帆ちゃんらしくていいと思う”と言っていて。その言葉がいい意味で引っ掛かり、そろそろそうじゃない書き方をして、もっと深いところに手が届くものにしたいと思っていたんです。それからしばらくしてさっき話したような体験があったので、そうか、カラダによる体験を五感を中心に書けばいいんだ、感情じゃなくて感覚を書けばいいんだって気がついた。感覚を書くことで、聴く人がそれぞれにそれを想像して、それぞれの本質に手が届くきっかけにもなるんじゃないかと。そうやって視点を変えて書きだしてみたら、普段歌詞に書くのとは違う言葉が次々に出てきたんです」

 

「化けの皮を剥いで」で始まるサビはメロディと相まってストレートであり、込めたるメッセージがズバっと伝わってくる。しかし一方、グルーヴィーな間奏を挿んで「遠く 光のない夜」と続くところはイマジネイティブ。聴く者の想像力次第で景色の現出の仕方が変わりそうだ。こうしたところにも先のアンビバレンスの概念が持ち込まれ、対立と調和の同居がユニークになされていると言える。

 

また、「もういっそ天国へ逃げるわ」という一節はインパクトが強いだけに一瞬ドキッとさせられるが、その歌い方とそれに続くフレーズから決してお手上げの心境や諦念を訴えているわけではないことがわかる。意味を尋ねることの野暮を承知で、それがどのようなイメージから出てきたフレーズなのかを訊いてみるとーー。

 

「ストレスを感じてしまうカラダのセンサーを外して全てから開放されるイメージです。側であるカラダすらなくして、五感で開放を認識して味わっているというか。ストレスが皆無な時間。私にとってはそれはライブだと思っていて。まさしくこの前のツアーで私が体感したのがそれだったから」

 

伏線回収。「天国にいるような瞬間」と志帆が譬えた理想のライブとはそういうものだということだ。つまりは魂と魂、本質と本質が向き合う場所。志帆にとってのそれはライブだが、あらゆる人にそれぞれのそうした場所だったり瞬間だったりがある。ない、ということなどない。ないと思うとしたら、それはどこかに隠れていて、まだ見つかっていない、あるいは認識していないというだけだ。と、この曲は聴く者にそんなことも考えさせる。

 

尚、「Charade」は志帆の好きな1963年公開のロマンティック・サスペンス映画(主演はケーリー・グラントとオードリー・ヘプバーン)のタイトルでもあるが、フランス語で「偽装」「見せかけ」「言葉遊び」「謎解き」といった意味を持つ。回を追うごとに謎が解けていくのであろうドラマ『マル秘の密子さん』がそうであるように、この曲も繰り返し聴くなかで徐々に言葉に込められた真の意味が理解でき、やがて本質に辿り着くことになるだろう。

 

                             Interview&Text:内本順一

 

■ 「Charade」Streaming&Download

https://superfly.lnk.to/Charade

 

■ Charade 歌詞
https://www.uta-net.com/song/358520/

 

■ Lyric Video