BIOGRAPHY

STEREOPHONICS / ステレオフォニックス


Bio ケリー・ジョーンズ(ボーカル/ギター)
リチャード・ジョーンズ(ベース)
ハヴィエ・ウェイラー(ドラム)
アダム・ジンダーニ(ギター)



ステレオフォニックスを知っているつもりかい? 考え直す心の準備をしたまえ。11月16日、ウェールズの大人気ロック・バンドが7作目のスタジオ・アルバム『キープ・カーム・アンド・キャリー・オン』をリリースする。波風立てずに生きていけ、という意味にもとれるタイトルに反して、その内容は決して通り一遍ではない。

75万枚を売り上げたグレイテスト・ヒッツの後を受け、シンガー兼ギタリスト、そしてソングライターであもるケリー・ジョーンズは、バンドを意外な新しい方向へ連れ出した。『キープ・カーム・アンド・キャリー・オン』は、削ぎ落とされ、ミニマルで、溌剌として、ポップでソウルフルで、メロディ豊かにストーリーを語る、磨き上げられた12個の宝石から成る。

「これがデビューのつもりでアルバムを作りたかったんだ」とケリー。「ステレオフォニックスというブランドを課せられた今の俺たちは、当然のように満たすべきものを期待されてしまっているところがあるが、それは忘れるようにした。俺が望んでいたレコードは、単独で勝負できるもの、ちっぽけなバンドがバーで演奏したとしても客が思わずビールから顔を上げてこっちを見てくれるような力のある曲を揃えること。本当にそれだけだった。」

ステレオフォニックスのベスト盤『ディケイド・イン・ザ・サン』は2008年11月にリリースされた。「いいタイミングかなって気がしたんだよ」と仄めかすのは、ステレオフォニックスに長年仕えるベーシストのリチャード・ジョーンズだ。「10年やってきたんだし、売るためというよりは、むしろお祝いって感覚だった。そしたら、そのレコードがチャートに居残ったんだから、ヘンな話、俺たちも改めて自信をもらったよ。俺たちのやってることを世の中の人は気に入ってくれてるんだって、再確認させてもらえたんだから。」

ステレオフォニックスは常々評壇のお気に入りだったわけではない。しかし1997年の衝撃のデビュー作『ワード・ゲッツ・アラウンド』以来、彼らの人気と創造性が長く持続してきたのに対して、ブリットポップの同期生たちはそのほとんどが姿を消してしまっている。「俺たちみんな、自分たちの実績には心から誇りを持っていたよ。でも、だからこそベスト盤の次もいいものを作らなければいけないということも自覚していた」とケリーは言う。

「ハードルを少し上げる必要があったんだ。そうしなかったらきっと、俺たちと同時期に出てきたバンドの多くがその憂き目を見たように、俺たちも徐々に食いつぶされてしまうだろう。俺たちは、そうなるにはもったいないと思う。」

早い段階での決断の1つが、新しいプロデューサーと組むことだった。「ちょっと状況にケリを入れて、安全地帯から自分たちを引きずり出そうってことで」ケリーはジム・アビスと作業を始めた。アークティック・モンキーズ、カサビアン、ザ・エネミー、ビョーク、アデル、マッシヴ・アタックと、幅広いミュージック・メーカーとの仕事を肩書きに連ねる男だ。「当初はデモをいくつか作るつもりだったんだが、結局それがレコードの肝になった。だから、作り方が逆だったんだよな。壁のような大音量のギターは取っ払い、ヴォーカル主導型で曲が自然と伝わるようにしたかった。曲によってはベースが入ってなかったり、ギターがほんの少ししか入ってなかったりする。一切の目論見をさて置いて、必要に応じて貢献することを心がけたんだ。」

ステレオフォニックスのその他のメンバーも、それぞれに役割を果たしている。「このバンドは、長年のうちに相当の充電をしてきたからな」と言うのは、2004年にオリジナル・ドラマーのスチュアート・ケーブルに代わって加入したドラマーのハヴィエ・ウェイラーだ。「新しい人間が入ってくると、それがミュージシャンであれプロデューサーで、あれ力学に変化が生まれる。ケリーはそれを、アルバム毎に意図的にやろうとしているんだ。今回、より緊張感のある、ディープでダークな作品になったと俺は思うが、そうやってバンドは生き続けていくんだよ。オーディエンスにとってはもちろん、自分たちにとっても興奮できるものを作り続けることで」

「変化はバンドにとっていいことだ」というのはアダム・ジンダーニ。ロック・バンド、カジノのフロントマンで、2007年、ステレオフォニックスにエクストラ・ギタリストとして採用された。「同じことの繰り返しでは自分が飽きてしまうし、ひいては世間も飽きてしまう。ケリーのデモが趣の違う様相を見せ始め、バンドもそれを良しとして、曲に導かれるままに音作りをしていくことにしたんだ。俺たちの意思を、そこに押し付けるのではなくてね。ある意味、勝手に生命を帯びていった生き物に、こっちが命が惜しくてしがみついていたって感じだな。」

「スタジオでの作業が今回よりも楽しかったアルバムは過去にたくさんある。自分たちだけで閉じこもって、その世界に浸りきり、一緒にジャムって。でも、新鮮なものを手に入れるには、それが必ずしも最善の策とは限らない」とケリー。「俺からすると、今作はこのバンドからの本当の意味での誓約書だ。誰もが、曲を引き立てるために必要とされるところで力を発揮している。俺たち全員、その気になればそこら中で弾きまくることもできたが、このレコードではみんなが自分を抑えている。その緊張感が伝わってきそうなほどに。」

『キープ・カーム・アンド・キャリー・オン』を構成する楽曲は、実に深みがあり多彩である。豊潤なメロディの切ないビートルズ調「イノセント」の流れるようなコードとハーモニー、「ビアボトル」の無駄の無いエレクトロ・パルスとメランコリックな禁欲主義、「クッド・ユー・ビ・ザ・ワン?」の東海岸風ハーモニーにデリケートな爪弾きと優しい情感、政治的な色合いを持つアンセム「トラブル」のダーティに刻むリフ、そしてアルバムの幕を下す大曲で、弱さを隠さず切々と訴えかけてくるピアノとストリングスのバラード「ショウ・ミー・ハウ」

「努力して曲を書くということは、したことがない」とジョーンズは言う。「努力といえば、蛇口から常に水が滴り落ちているようにしておくこと、それだけだ。何の疑問も持たず、何も押さえ込まない、そういう状態から曲は生まれてくるんだ。俺は出てくるものを書き留めるだけ。なかなか楽しかったよ。俺にとっては高揚感のあるレコードって気がしてた。けっこう楽勝だと思えた時期もあったし」 ある友人がケリーに第二次世界大戦の広報用ポスターを送ってよこした。そこに書かれた’Keep Calm And Carry On~落ち着いて進み続けろ’というメッセージを彼は日々目にしながらスタジオに通った。「改めて曲を見直すと、どれも紆余曲折を経ているが、ちゃんと出口を見つけているな、と思った。それが通底するテーマかな。」

歌詞について言えば、恐らくこのアルバムはステレオフォニックスのデビュー以来、ケリーにとって最も一貫性のある作品だろう。葛藤、そして決断、ネガティヴな中にポジティヴさを見出すアルバムである。子供の頃の友達の死を振り返り(「イノセント」)、自宅を破壊した洪水にも無心に対処した両親や仲間の村人たちを思い起こし(「ビアボトル」)、現代的な生活のペースへの適応を語り、(「100MPH」)、世界的な不況の傷に誰もが直面しているこの厳しい時代に思いを寄せる(「トラブル」)。

「苦悩の年を送り、現状はいささか悲惨だが、自分で引っくり返すしかない。たぶん、かなりのものが眠りに就かされて、今はもう全てがいい状況にあるんじゃないかな。つまり、それが結論ということだ。」

その精神が明確に据えられているのが熱っぽいロック・ナンバー「リヴ・アンド・ラヴ」だ。「あそこで言っているのは’自分が変えられるものは変えればいいが、そうじゃないものは忘れるしかない’ってこと。ちょっとした暗闇を通り抜けて、また灯りが見えてきたら、先のことを気に病むんじゃなくて、その瞬間を大事に生きなきゃダメだ」 あの曲が恐らく、最も昔ながらのステレオフォニックスらしく響くのではないだろうか。

「それは正に、このレコードで俺たちが避けたかったことだ」とケリーは認める。「でも、そういうのが1つだけ、ここに入っているのは嬉しい。ビッグなギターにビッグなドラムのビッグなアンセム。こういうのはプレイしていて本当にワクワクするよ。ただ、プロダクション面で何か新たな発言をしている曲だとは思わない。俺が向こうを張りたいのはデビュー作に取り組んでるバンドの連中なんだ。だから今回、俺は少しばかり気合を入れ直した。俺たちの中には、まだまだいいものが山ほど詰まってると俺は思ってるんで。」

「響きの違うアルバムだよな」とリチャード。「でも、必ず俺たちらしい音になるんだ。ケリーの声が入っているからさ。あれこれ疑問を投げかけ、中には本気で魂を探るようなの曲もあるが、結局のところ俺たちバンドはそれを演奏する立場なんだから、自分たちが納得していなければいけないし、納得しているよ。これからこれをツアーに持ち出して、みんなに目に物見せてやるさ。」

つまりは、「心は穏やかに、あとは前進あるのみ。」ということだ。