BIOGRAPHY
SHE WANTS REVENGE
オーディエンスが世間話をしたり、煙草をふかしたり、腕を組んだり、組むのをやめたりするうちにバンドがステージに上がる。期待と静けさには緊迫した空気さえも感じる。
ビートが始まる。それは最小限でまばら。天井と観客に一本のビームが向けられ、影を作っている。時間の感覚を失い、しばらくするとクラウト・ロック(*註1)がヴァースに変り、観客は曲に合わせて歌う。「Sick
of trying to find a way inside, sick and tired of all the
after(中への入り方を見つけることにウンザリしてる、その後のことに飽き飽きしてる)」(*註2)会場の後ろから悲鳴が上がり、女の子達が期待とともに前の方に群れを作るために進んでいく。こうなると会場の全員が自然に踊り出すという不思議な光景がいつもシー・ウォンツ・リヴェンジのライヴでは拡がる。
そしてオーディエンスは突然救われる。陳腐で時代と逆行しているような多くのバンドから救われ、踊ることすら憚られる夜から救われ、そしてまたなによりも自分達から解放されるのだ。そう、シー・ウォンツ・リヴェンジはみんなを救いに来てくれた。
「女の子がダンスするか、泣けるようなアルバムが作りたかっただけなんだ」。ジャスティンはコーヒーを飲みながら、椅子に深く座ってにっこりして言う。
「もちろん踊っても泣いてもいいよ。俺達自身も音楽ファンだし、自分達が聴きたいものをアルバムに入れたんだ」。アダム12が加える。「アルバムやライヴで聴く音楽はとても正直なんだ。真実があるアーティスティックな作品だけが真実のあるレスポンスを引き出せると思っている。人は、特にキッズは嘘をつかれていると、何かが自然と作られているのではなく、故意に生産されているような違和感を抱くんだ。俺達も、もちろんそんなキッズだ」
ジャスティンが笑い、興奮して、続ける。「ひとつの背景やジャンルの中で活動しているバンドは多いけど、衣装やベルト、メークなどを取り除いたら何が語られているだろう?って思うんだ。何も語られてなかったとしても、それはそれでいい、単に踊ったり、飾りだけのための音楽もあるからね。でも、俺達は俺達自身が音楽から語りかけられたように、人に語りかけたいんだ。その結果、俺たちの音楽でダンスしたり、泣いたり、愛し合ったりしてもいいんだ。俺達はとても真剣に受け止めてるんだ」
そう、確かに真剣だ。新しいアーティストの宣伝の多くは、レコード・セールス特有の空威張りやコピーで誇大広告されていて、非常にインパクトを作り出しているようにみえる。こういうものは思っている以上に腹黒く、例えばヒップホップの宣伝に顕著だ。ヒップホップの新人は、大抵は黒いフードを被り、Bボーイというよりはミリタリー調で統一されている。シー・ウォンツ・リヴェンジはそんな服装よりも、(ポスト・ヒップホップでサウスブロンクスというよりはマンチェスター育ちの)ビートよりも、バンドのアティチュードこそが隠し玉であり、サンフェルナンド・バレー出身の二人が合体し、斬新で最高の80年代アルバムを作ってしまったということが彼らの秘密兵器とも言える。ノスタルジア・ロックを作るのではなく、彼らは無意識のうちに独創的かつ草分け的な、”ポップ・パーフェクト・ダンス・ダークネス”として称される傑作を作り、彼らの音楽を聴いたずっと後の世代のオーディエンスたちもクラブを廻ったり、恋人といちゃついたり、別れや長い夜を経験した青二才の時代を思い出すことだろう。
(註1):ドイツ(旧・西ドイツ)で60年代後半から70年代前半にブームを起こしたプログレッシヴ・ロック
(註2):アルバム収録1曲目「レッド・フラッグス・アンド・ロング・ナイツ」の冒頭の歌詞
(SWRオフィシャル・バイオより。訳:国田ジンジャー)