ムック『MUSIC LIFE presents QUEEN』収録の東郷かおる子氏と今泉圭姫子氏の対談、未公開部分を公開!

2018.11.21 MEDIA - MAGAZINE

映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開に合わせて発売されたムック『MUSIC LIFE presents QUEEN』(シンコー・ミュージック刊)の中でも、特に好評だったのが、東郷かおる子氏(元MUSIC LIFE編集長)と、クイーンをきっかけに洋楽の仕事に憧れるようになった今泉圭姫子氏(DJ、音楽評論家)の対談。貴重でリアリティ溢れるおふたりのお話はしかし、誌面の関係で全文掲載とはいきませんでした。
が、この度、この場をお借りしての本誌未公開部分の公開が実現しました!
ぜひ、本誌と併せてご一読ください。(赤尾美香/対談司会、文責)


 
MUSIC LIFE Presents クイーン<シンコー・ミュージック・ムック>
2018/11/07 release

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(東郷氏が『オペラ座の夜』レコーディング準備中のバンドの取材でリッジファーム・スタジオを訪問した際の話になり)

赤尾:東郷さん、スタジオに着くなりご飯をごちそうになったんですよね。

東郷:ケータリングがあったから、果物とかいろいろ。お昼に着いて夕方まで取材OKだったのよ。フレディが「よいしょー!」ってサービスしてくれるの。だから、「なんて良い人なんだろう!!」と思ったわ。こっちが「そろそろ帰りたいなぁ」って思い始めていても、「さあ、次はテニスだ!」みたいにね。

赤尾:テニスやって、ビリヤードやって。

今泉:東郷さん、テニスやっていましたよね?

東郷:ううん。私はそばでゲラゲラ笑っていただけ。

今泉:その写真を、私は読者として見ていた。

東郷:ブライアンが下手でね。笑っちゃいけないって思うんだけど…。

今泉:(ロジャーの写真を見ながら)これもずいぶん下手な感じがするわねぇ。

赤尾:でもロジャーは一番上手かったって、この間ワタルさん(カメラマンの浅沼ワタル氏)が言っていました。

東郷:彼は上手かったわよ。意外と上手いのがジョン・ディーコンで、口ほどにもないのがフレディ。まったくダメなのがブライアン。あの人、運動神経ないわね。

赤尾:博士ですから。

赤尾:その時、東郷さんは『MUSIC LIFE』でがんがん取材をしていたんですよね。最初に生の彼らに会ったのはニューヨークのレストランで。

東郷:そう! ニューヨーク、レストラン!!

今泉:すっごい。

東郷:私ね、自分でも感心するんだけど、外国だろうとどこだろうと街中で誰か有名人とすれ違ったりすると、すぐ「あ!」ってわかるのよ。当時、テレヴィジョンのトム・ヴァーラインとすれ違ったこともあるし、ディズニーランドの入口でエドガー・ウィンターに遭遇したこともあるの。そうするとね、「もしもし」って声をかけちゃう人なの。クイーンの時は、もともとモット・ザ・フープルの取材が目的でニューヨークに行っていたから、CBSの人とランチを食べていたのね。そしたら急にすごく目立つ人たちが入ってきたわけ。アメリカ人は、あんな真っ白のスーツなんて着ていないでしょ。パッと見て、「ロジャー・テイラーだ!」と思った瞬間、立ち上がってて(笑)。もう恥ずかしいも何もないの。『ML』を持って行って、「I came from Tokyo Japan to see your concert」みたいな感じで話しかけて。最初、向こうは「何、この女?」という顔をするのよ。そりゃそうよね。「実は、『ML』という日本の音楽雑誌で、これを見てください」ってパッと出したの。そしたら、そこには自分たちの写真が載っているわけじゃない? で、態度コロッ。「見て見て! 僕らが載ってる!」って、そこで大騒ぎになっちゃって。テーブルに戻ったら、CBSの人が怪訝そうな顔をしてたわ(笑)。
 アメリカに行く前から、私はクイーンがモットの前座だと知っていたから、「クイーンをすっごく観たい!」と思っていたの。だけど出張費を出してくれているのはCBSだから、「観たい」と強くは言えないじゃない? でも、どうにか観ることができて、そしてビックリしたのは、やっぱりフレディなのよ。例の白鷺ルックでね。心の中で、「これが日本でウケないわけはない!」と思ったもの。「もう絶対に、少女漫画が好きな子だったら、王子様だよ、彼らは!」って思ったわ。あの印象は強烈だったなぁ。

赤尾:東郷さんにはムック(『Music Life presents QUEEN』)のコラムも書いていただいたんですけど、実際クイーンの人気が爆発したのは、フレディのちょっとしたキワモノ感、ゲテモノ感、ファンがいじって楽しめるキャラも大きかった、と。今だとちょっと信じられないかもしれないですけど、『ML』の読者投稿や似顔絵など、ファンだからこそのきついジョークがまかり通っていたのも、あの時代ならではですよね。

東郷:それくらい愛されていたのよね、ファンに。

今泉:ベイ・シティ・ローラーズがあって、クイーンがあって、日本は音楽誌だけじゃなくて『セブンティーン』とかにもよく載っていましたよね。高校生時、学校ではほとんどがローラーズ・ファン。「私はクイーンが好きだ」って言ってると、喧嘩になる。「なによ、出っ歯!」「将棋の駒のくせに!!」みたいなことを言い合って(笑)。

東郷:そうそうそう。これは幸か不幸かわからないけど、日本で小学校高学年から中学生くらいの、洋楽の入り口に立っている女の子たちを洋楽に導いた最大の功労者は、ベイ・シティ・ローラーズとクイーンなのよね。

今泉:間違いないですね。

赤尾:(「それは私です」の意味を込めて、黙って挙手)

東郷:でも、クイーン・ファンの方が誇りが高いわけ。

今泉:メンバーがみんな大学出てるから、みたいな(笑)。

東郷:こっちはみんなインテリなんだよ!ってね。ベイ・シティ・ローラーズなんて、ロックじゃないわよとか。でも、そういうことが言い合える鷹揚さもあったのよ。あの時代、少女漫画もすごくたくさん出てきたじゃない? あれに見合うだけの材料とか、ある種の淫靡さがあるのは、クイーンだったのよ。ベイ・シティ・ローラーズにはそういうものがないの。その淫靡さがウケた部分はあると思うのよね。恐れおののく女の子たちに、セクシュアリティのなんたるかを軟着陸させるようなところが、クイーンというバンドにはあったと思う。

今泉:身近じゃなかったですよね、クイーンは。

赤尾:ものすごい背伸びをして、自分が他の子たちよりも早く大人になったような気にさせてくれるバンドでした。私なんかは小学生だったので特に。しかも、今改めてクイーンがすごいなと思うのは、デュラン・デュランが出てくるまで、ずーっと『ML』人気投票のグループ部門1位なんですよ。75年から82年まで8回(年)連続。

今泉:ホント? それはすごいねぇ(笑)。間に誰もいなかったんだ?

東郷:あのジャパンですらもダメだった。

赤尾:ジャパンもダメだったんですよ。クイーンは強かった。

東郷:金字塔を打ち立てたのね。

今泉:『ML』にロジャーの写真が載ったの。まだ私が超素人の時なんですけど。ロジャーがデビー・ハリーとキスをしている写真。

東郷:そうそうそう! あった、あった。

今泉:あれ、もうね、胸が痛くなっちゃって。高校生ですからね。なんで? なんで? なんで?って。もうやめてこれ、って。それでその後に、フィルム・コンサートがあったんだけど、討論するんですよ、ファンが。「あの写真はなんですか? あれだけは許せません」、「なんでロジャーは、あんなことをしたんでしょうか」みたいな。

赤尾:フレディが出っ歯だとか、そういうのをデフォルメした似顔絵が載るのは良いけれども、やっぱりロジャーがデビーとキスをするのはダメなんですね。

今泉:ダメだったね、私は。クイーンが好きで、私はフレディ・ファンだったけど、そのときはブライアンだったかな? 忘れちゃったけど。とにかく、あってはならないものを見てしまった!みたいな。

東郷:見てはいけない生々しさを感じるのよね。

今泉:あれ以降、本当に、彼女のことがあんまり好きじゃなくて(笑)。

赤尾:すごくいい子だった、って、当時取材した長谷部さん(長谷部宏カメラマン)は言ってましたよ。

今泉:曲は好きなんだけど、なんかいつもそのトラウマが頭の中にバーンと蘇ってきちゃって。

東郷:当時、すごい反響があったのは確かね。こっちは何の気なしに載せちゃっただけだから、「あ、れれれ!!?」っていう感じだったもの。

赤尾:狙ったんじゃないですか? その反響を(笑)。

東郷:かもしれないけど…(笑)。でも、クイーンを通してファンを見ていくと、やっぱり男の人ってずるいなって思う。 彼らがちょっとヒットして音楽性が認められ始めた頃になると「俺、実は最初から好きだったんだよね」とか。

今泉:「この曲いいよね」だって。

東郷:「バカ言うんじゃない!」と言いたかったわね。誰とは言わないけど、言われたことがあるもの。「あんなものを載せるな」とかね。

今泉:「愛という名の欲望」を、「あれはヒットする」って自慢げに言っていた人がいて。「その前にちゃんと土台があるんですからね」というようなことを、いつも思ってました。

東郷:当時は、アメリカでヒットしてないとキワモノなのよ、みんな。チープ・トリックだって、ジャパンだって、みんなキワモノ、ゲテモノ扱いだったんだから。「アメリカで売れてないんだろ?」っていうのが殺し文句だった時代ね。でも、女性の感性は、アメリカで売れてない? それがなんなの?でしょ? 私がいいと思って、日本人がいいと思っているんだから、それでいいじゃないって思うんだけどね。男の人って、ヒット・チャートで赤丸上昇付きとかね、そういう材料を判断の指針にする。アメリカのラジオでこれだけかかったとかね。そういう言い方で対抗されることがすごく多かったわけ。それって、こっちには何の説得力もないわけ。
 70年代半ばから後半は、今ほど情報が入ってこなかったじゃない? ロック・ファンのステータスと言ったら、輸入盤を早く聴くことなの。それが、ロック・ファンの中で地位を高めることだったのね。「俺、もう聴いたぜ」っていうね。それで、最初の頃、クイーンっていうバンドのギタリストはすごいっていう話になっていたわけ。事実、そういう小波は立っていたんだけど、すぐに女の子たちの「ギャー!」っていう勢いに、完全に押しつぶされた。「ギターのテクニックが……」とか言っている人に向かって「んなことはどうでもいいのよー!!」っていう感じで襲いかかって、押しつぶしちゃった。で、男子は「あ、あのー…」って声が小さくなっちゃう、という流れね。

今泉&赤尾:(爆笑)

東郷:だから、そういう男子たちに言わせると、『クイーンⅡ』がすごく人気があるのよ。

赤尾:なるほど。

東郷:そうでしょ? 男の人はだいたいそうなのよ。

今泉:でも私も『クイーンⅡ』なんですよ。

東郷:ホント? 私は『シアー・ハート・アタック』が、すごく好き。

赤尾:私は『世界に捧ぐ』になりますね。やっぱり最初に深くはまったのが「伝説のチャンピオン」だったから。

東郷:そうねー。私はあのアルバムは、クイーンという範疇で考えると嫌いなの。『世界に捧ぐ』は、完全にアメリカ市場を意識していている大味な音で。

赤尾:でも『世界に捧ぐ』から入っても、前の作品を自然に遡れましたよ。『オペラ座の夜』も大好きだし、『クイーンⅡ』もかっこいいけれど、でも、1枚挙げろって言われちゃったらやっぱり私は『世界に捧ぐ』。

東郷:だからね、結局良し悪しじゃないのよね。自分がどう受け止めたかが問題なんだから。映画の中で、スマイルが「ドゥーイング・オール・ライト」を演奏する場面があったじゃない? 「懐かしい~」と思ってねぇ。

今泉:懐かしいですよ、あれ。50年ぶりに3人が揃ってレコーディングしたわけですから。なんかすごくいいな~と思った。

赤尾:映画の前にサントラの音を聴いていたので、20世紀FOXファンファーレが出てきた瞬間に、「わーい!」って、めちゃ上がりましたね。

東郷:でも、あの映画、よく2時間ちょっとでまとめたわよね。本当は、武道館公演の様子も入るらしかったの。予算の関係で最終的にカットになっちゃったんですって。

今泉:あー残念。

東郷:だから、いきなり人気が出て「次は日本だ!」なんていうセリフもあったけど、なんか唐突だよね…って(笑)。

赤尾:少しでいいから欲しかったですね、日本のシーン。