BIOGRAPHY

THE PRETTY RECKLESS / プリティー・レックレス


Bio 数年前のある晩、テイラー・モムセンの父親は自分の娘をホワイト・ストライプスのライヴに連れて行った。「それより前に行ったことのあったコンサートはブリトニー・スピアーズだけだったの」と、シンガー・ソングライターでありギタリストでもある彼女は言う。「でもステージの上のジャック・ホワイトを一目観た途端、すべてが一変したの。私は小さい頃からダンスをやっていて、女の子が音楽業界に入るにはまず踊れなきゃダメだと思ってたのよ。でもホワイト・ストライプスを観て思ったの、『違う、踊れなくてもいいんだわ。これなら私にも出来る』って」。この時モムセンはたったの9歳だった。

ジャック・ホワイトの粗削りなパワーと、一見シンプル極まりないギター&ヴォーカルのインパクトは、言葉を喋れるようになる前からメロディをハミングし、ビートルズに夢中になって5歳で曲を書き始めて16歳の現在に至るモムセンに絶大な影響を及ぼしている。「彼らに取り憑かれたようになっちゃったの、」彼女は言う。「あと、レッド・ツェッペリンも好きだったし、ザ・フーでしょ、ピンク・フロイド、オーディオスレイヴ、サウンドガーデン、オアシス、それにニルヴァーナ。私のロック・アイドルは全員男性だったのよね」

そんなわけで、モムセンが彼女のバンド、ザ・プリティ・レックレスを率いてロックン・ロール・ヒロインへと駆け上がる第一歩となるデビュー・アルバム『Light Me Up』に大量の男性的エナジーを注ぎ込んだことは当然と言えよう。モムセンとベン・フィリップス、それにプロデューサーのケイトー・カンドゥワラによって書かれた曲には幅広いエモーションがほとばしり、時には激しい憤りや傷つき無防備な姿をも垣間見せる。モムセンのハッキリしたヴォーカルとパワフルなリフ、胆の据わったアティテュードにより、『Light Me Up』にはどこか、もしかしてレッド・ツェッペリンのヴォーカリストが女性だったらこんな風だったかも知れないと思わせるものがある。実際このアルバムの持つ獰猛さは、キュートなブロンドのティーンエイジャーなら当然ストレート・ポップなソングライティングが好みだろうと予測していた人たちなら思わず片眉が上がってしまうことだろう。「きっと大抵の人たちが私から連想する音よりもヘヴィなはずよ、」人気ドラマ『ゴシップ・ガール』でジェニー・ハンフリー役を演じた女優として一躍名を挙げたモムセンは言う。「でもこのアルバムはウソ偽りのない、本当の私自身を表現した作品なの」。

幼い頃から危うく浮き沈みの激しいことで有名なエンターテインメント業界で育ちながら、強いアイデンティティーを確立してきたモムセンは、頭が良く、複雑な感情を持った若い女性である。ミズーリ州セントルイスで生まれ育ったテイラーは、その後ニューヨーク・シティで多くの時間を過ごし、13歳の時本格的にマンハッタンに拠点を移した。2歳でモデル事務所と契約を交わした彼女はその一年後にはプロフェッショナルな女優として、コマーシャルや映画(『グリンチ』)等に出演するようになる。そして2007年、モムセンは『ゴシップ・ガール』のメインキャストに抜擢されることになったのだった。

「女優かモデルかなんて自分で選んだわけじゃないの、いきなり放り込まれただけよ、」とモムセン。「どっちも好きだったから別に問題はなかったけど、私にとっては音楽とかソングライティングってずっと昔からやりたいことだったのね。プロデューサーと一緒に仕事をしたり、レコーデイング・スタジオに入り浸ったりっていうのは5歳の時からやってたのよ、ただ8歳じゃアルバムは出させてもらえなかったけどね、」彼女は笑いながら言う。「でも今はそれが出来るのよ」。

『Light Me Up』はモムセンの視点という個性豊かなフィルターを通して、彼女自身のこれまでの人生経験を臆することなくありのままに綴った年代史である。「このアルバムのテーマは人生よ、」彼女は語る。「だからすべてが入ってるわ:恋愛、死、そして勿論音楽もね。ロックン・ロールあり、セックスあり、ドラッグあり、宗教あり、政治ありよ。どの曲もそれぞれに、私がこれまで自分で経験したり、見聞きしてきた試練や苦難や心理的な葛藤の物語を語っているの。決してハッピーでポップなレコードではないけれど、かと言って悪魔崇拝ってわけでもないわ。基本的には歌詞を文字通り受け取られない方がありがたいわね、どれも聴く人それぞれに解釈してもらって構わないから」。

恋愛中の不安(激情全開の”Make Me Wanna Die”は映画『Kick-Ass』のサントラ盤にも収録されている)から絶望 (“You”)、休みなく働き続けることがいかに生きている人間から感覚や感情を奪っていくものか(“Zombie”)ということまで、取り上げられている曲の題材は実に様々だ。モムセンは”Light Me Up”でヘイターたちを押し返し、”Going Down”では赦しを得るまでにどれだけ努力しなければならないかと問いかける。苛立ちのこもった投げやりなアルトを武器に、モムセンはガレージ・ロックの乱痴気騒ぎ (“Miss Nothing”)、パンチの効いたダンサブルなブルース・ロック(“My Medicine”、 “Since You’re Gone”)、更にエモーショナルなパワー・バラード (“Just Tonight”)や美しいアコースティック・ギターとストリングスをフィーチュアしたナンバー(“You”)と、 どんなものでも難なくこなしてしまうのだ。

「私は世の中の人たちに好かれることを当て込んで曲を書いてるわけじゃないのよ、」モムセンは言う。「勿論気に入ってもらえたらとは思うけど、でも私が曲を書くのは言いたいことがあるからよ。色んな感情を曲の中に注ぎ込んでるから、言葉で説明するのは難しいわ」。モムセンはまず2008年10月にカンドゥワラ(ブロンディ、ドラウニング・プール、パラモア、ブレイキング・ベンジャミン)とパートナーでソングライターのフィリップと組むことにした。そして去年の春、彼らはオーセンティックな彼女のサウンドを発見することに成功したのである。

「僕ら3人は音楽的な嗜好が似通っているから、あの一風変わったヴァージョンを見つけ出すのは難しくなかったよ、」フィリップスは言う。「ケイトーと僕はテイラーのポテンシャルをフルに引き出すためにかなり頑張ったんだ、何故って彼女に会った瞬間、僕らは彼女がもの凄く才能豊かであるってことに気づいていたからね。彼女がヴォーカル・ブースに入って歌い始めた時、僕らはお互い顔を見合わせて言ったよ、 「ナンてこったい、この娘はとんでもなく凄いぞ!」ってね。彼女の声に圧倒されたんだ。最近の若いアーティストたちの大部分は、コンピュータを使って自分の声をイジって台無しにしちゃうんだけど、テイラーはそんなことはしない。そんな必要ないからね。彼女はただ部屋に入ってきて歌うだけで、みんなを完璧にぶっ飛ばしちゃうのさ」。