マンドリンについて
text by Masataka Hori
【マンドリンの歴史】
マンドリンはギターと同じリュート属の撥弦楽器で、イタリアの民族楽器です。その起源は古く、同族の楽器「パンドゥーラ」は紀元前4世紀には既に存在して
いたことが確認されています。以来交易等によりヨーロッパを中心に広まり、じっくりと改良を重ねてきましたが、バロック音楽の興隆と共にイタリア各地でそ
れぞれの特徴を持った沢山の種類のマンドリンが出現します。フィレンツェ型・シチリア型・ジェノヴァ型・ミラノ型・ナポリ型・ローマ型等です。これらのうち、ヴィヴァルディやベートーヴェンらがミラノ型のマンドリンの為に作品を残していますが、次第に、音が明瞭で合理性に富むナポリ型・ローマ型が着実に優位を保つようになりました。1850年頃にはこれらに鋼鉄製の弦が張れるように改良された事で楽器としての性能が飛躍的に向上し、現在の形になりました。
イタリアでナポリ・ローマ型のマンドリンが発達する一方で、近年ドイツではミラノ型マンドリンのレプリカや、ミラノ型にヒントを得て独自に開発されたいわゆるドイツマンドリンを用いた演奏(現代音楽も多い)や研究が進んでいます。
しかし日本においては専らイタリアンマンドリンが好まれ、日本で「マンドリン」というと、イタリアンマンドリンの事を指し、製作家も多く輩出しています。
【マンドリン各種】
現在マンドリン属の楽器のうち一般的に用いられるのは
・マンドリン (Mandolino)
・マンドラ テノール (Mandola Tenore) ※以下「マンドラ」と略記
・マンドロン チェロ (Mandoloncello)
です。マンドラはヴィオラよりも完全4度低い調弦になっていますが、マンドリンはヴァイオリンと、マンドロンチェロはヴィオロンチェロと、それぞれ調弦は同じです。これらはいずれも4コース8弦の構成をとり、鼈甲・ナイロン製等のピックを用いて演奏します。
マンドリン属の音色は倍音成分に富み、独特の愛らしい音がします。音域の高いマンドリンは特にきらびやかで華やかな音色を持ちます。人間の声の高さに近い
と言われるマンドラは、力強くも甘い音色の中音域が特徴的です。更に音域の低いマンドロンチェロは必然的に大きなボディを持つため、より豊潤な響きを得る
ことができます。
【マンドリンに依る演奏】
マンドリン属の楽器は撥弦後の残響の減衰が速い為、ひとつひとつの音が「点」となってはっきりと出る印象を与えます。(その為、ロングトーンはトレモロ奏
法により擬似的な持続音を得る事で演奏します)従って、さながら点描のように、「点」を空間に敷き詰めて音楽を紡ぎ出します。
また民族楽器であるマンドリンは当然に民族音楽の演奏に向いていると言えますが、民族音楽だけに全く留まらず、クラシック、ジャズ、ポップス等の曲を演奏しても、独自の魅力を生み出します。日本においては昔から演歌の伴奏などにしばしば使われているほどです。
こういった「超時代性」「超ジャンル性」も、マンドリンのひとつの大きな魅力ではないかと思っています。