<ツアーレポート>『Dark Matter World Tour』アメリカ・シアトル公演

2024.06.14 TOPICS

4月19日に全世界同時発売されたパール・ジャムの最新アルバム『ダーク・マター』を携えたワールド・ツアーがカナダ・バンクーバー公演を皮切りに開幕し、この凱旋公演となる5月28日と5月30日のシアトルでのライヴについて、ユニバーサル ミュージックのスタッフによるレポートが到着した。
 

<レポート>



デビューの頃からずっと追いかけているバンド、パール・ジャムを一度彼らの地元であるシアトルで観てみたい…そんな思いをずっと抱いていた。そんな彼らの新作のリリース発表、先行シングルの素晴らしさ、そしてツアーには6年ぶりとなるシアトル公演もある…おそらくこれ以上のタイミングはないのではないかということで、5月28日と30日にシアトルのClimate Pledge Arenaで開催された彼らの地元凱旋公演のために渡米した。そこで観てきたものに共にこの30年を過ごしてきたファンとしての目線でレポートしてみたいと思う。

“最高”という表現があるが、その”最高”にも10段階位のレベルがあったらいいのにといつも思っているが、実際にそうだとしたら今回はレベル11位の振り切れ方だったのではないだろうか。 “最高という言葉が遂に火を吹いた”…その位の表現がしっくりくる、自分にとってまるで夢のようなショウだった。

このバンド、セットリストがショウごとに毎回かなり違うということもあり、1都市2公演ある場合は両公演観なければならない。今回のシアトルでの2公演もまさにそういったセットリストが組まれており、各日2時間30分程のセットで、新作からの曲は両日共通ではあったが、それ以外の楽曲の被りはなんとたったの1曲、「Alive」のみ。たったの1曲とは!新作からの楽曲7曲と「Alive」以外の17曲は全く違う曲が披露された。ここまで自在にセットリストをショウ毎に変えるというアーティストも今はなかなかいないのではないだろうか。そのおかげで例えば「In My Tree」という個人的には大好きだけれどもシングルではないので絶対やることはないだろうと思っていたレア曲が聴けるなんて嬉しいサプライズもあった。

初日の1曲目は「Release」。過去2回行われた彼らの武道館公演もこの曲で始まったし、個人的にも今回この曲で始まってほしかったということもありオープニングからテンションはマックスに。そして特筆すべきはやはり最新作『Dark Matter』から披露した7曲の素晴らしさだったのではないだろうか。キャリア30年以上を数えるバンドとは思えない瑞々しさに溢れた傑作である今作からの楽曲はどの曲もスタジオ音源と同様、もしくはそれ以上のフレッシュさに溢れていた。

ちょうど僕が渡米した日にはシアトルの所在地、キング・カウンティが5月28日を”パール・ジャムの日”に制定したことを発表したり、ショウの中日となる5月29日に開催されたシアトル・マリナーズの試合は”PEARL JAM TEN CLUB NIGHT”となる等ホームカミングな雰囲気の中ライヴは開催され、地元での昔話を娘にしたら軽くあしらわれたというエディ・ヴェダー(vo)のMCや、ライヴ中にメンバー同士の仲の良さが滲み出るシーンが幾度となくあり、そうかと思えば2日目にプレイされた「Love Boat Captain」の前には長めにエディが分断させられることなく団結すること、人が人として進化していくことの大切さを訴えている様は心打つ瞬間でもあった。

そしてそんなピースフルで人間らしさに溢れた雰囲気とは大きなギャップとなるバンドのパフォーマンスはその34年にも及ぶキャリアに裏付けされた圧倒的でストイックなアンサンブルの妙と全く衰えを感じさせない強さで貫かれていた。 フロント4人はデビューから不動、ドラムのマット・キャメロンも98年に参加して以降在籍という鉄壁の布陣。お馴染みのサポート・メンバー、ブーム・ガスパー(key)と、前回のツアーからもう一人のサポートとして大活躍しているジョシュ・クリングホッファー(元レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)がギター、コーラス、パーカッション、キーボードなどでバンドの演奏に魅力的なコンテクストを加えていた。

そのキャリアを通じて世代の声として影響を与えて続けてきたエディの歌が素晴らしいことはもちろんのこと(しかし2日目のアンコール1曲目にナイン・インチ・ネイルズの「Hurt」のカヴァーをやるとは!)、マイク・マクレデイ(g)のギターソロのエモーション喚起の多彩さや、ストーン・ゴッサードのソロではないけど曲へのメロディの含め方の妙(ライヴを観るとこの印象的なフレーズってストーンが弾いているのか!と思うことが多い)はもっと評価されて然るべきものであった。そして、80年代中盤からシアトルで名を馳せてきたジェフ・アメン(b)とサウンドガーデン時代から名ドラマーとして君臨するマット・キャメロン(ds)のリズム隊の強靭さ、まさに圧巻のパフォーマンスだったと思う。

今回のツアーでは、彼らのキャリアでおそらく初となるステージ後ろに巨大で横長なスクリーンが設置され、メンバー以外にも様々な映像が投影されていた。ステージのプロダクションを手がけるのはナイン・インチ・ネイルズとずっと仕事をしてきたロブ・シェルダン。頭3曲は真っ白なスクリーンをバックにパフォーマンスし、その後様々な映像が投影されていったが、これが素晴らしかった。16:9という画角をベースにしたスクリーンの使い方は今の時代らしさを感じさせるのかも、という巧みさも見事だった。

新作収録曲以外で唯一両日プレイされた1stアルバム収録曲「Alive」で会場全体が明るくなり、集まったオーディエンスもそのスクリーンに大写しになっていったが、”I’m still alive!”と叫ぶ、間違いなく自分と同世代の人たちの姿を見ながら(自分も叫びながら)、”みんなよくここまで生きてこれたよね!”という祝福にも似たものを感じながら、パール・ジャムってこういう風に共に生きてきたこと、成長してきたことを感じさせてくれるバンドでもあると改めて体感できた。

最後を締める曲としてお馴染みの「Yellow Ledbetter」をプレイした際には途中でジミ・ヘンドリックスの「Little Wing」を挟みこんだ。オーディエンスの中にその曲をリクエストするボードを持っている人がいて、それに応えた形で地元のレジェンドへのリスペクトを示すことになった。

そして、これまでのツアーであれば、カヴァー曲もしくはその「Yellow Ledbetter」をプレイして終了となるのが通常のライヴの締めだったのが今回は違い、明るかった会場が再び暗転して最新作『ダーク・マター』最後の曲「Setting Sun」をプレイして締めるという新しい流れができていた。この曲は最後に”Let us not fade”と時の流れや失ったもの等を思い浮かべながら歌われる曲なのだが、これが個人的にはクライマックスのひとつにもなった。

その曲ではまた”僕たちは暮れていく太陽なのか、夜が明ける時の太陽なのか”…そんなことが歌われるが、バンド自体は全くそんなことを感じさせることもなく、むしろまだまだ無敵さすらビシビシ感じるその姿に、これが観たくてシアトルまで行ったんだ!とただただ感動したライヴとなった。

単なるノスタルジーだけを目の当たりにしたいわけではなくて、今を生きているバンドが90年代から絶賛されてきたライヴ・パフォーマンスで僕をねじ伏せてほしい。でもバンドも僕も歳を取ったとも思わせてほしい。さらには地元でやっているホームカミングなところにも触れたい……そんなあれやこれやのわがままな思いがあったのだが、それら全てを10倍にして返してくれたようなライヴをやってくれたことに感謝しかない。

そしてエディがかつて”自分はロックンロールというロープにしがみついた”という発言をしていたが、まさに僕も同じものにしがみついてきてここまで来たようなもので、そういう存在を見つけられたというのは幸福なことなんだなと思いを新たにした、幸福以外何ものでもない奇跡的な夜x2だった。