PAUL McCARTNEY / HOPE FOR THE FUTURE INTERVIEW

2014年12月4日、ロンドン市内にて 聞き手:高野裕子

Q. これまでも常に新しい分野に挑戦してきたあなたですが、今回はビデオ・ゲームの音楽に挑戦されました。この経緯について教えてください。(今回このプロジェクトに参加することになったきっかけは?)

だいたいのプロジェクトがそうであるように、電話がかかってきたんだ。『Halo』というゲームを制作した会社の人からね。新しいゲームを開発している最中で、「この音楽の制作に協力してもらえませんか」と言われたんだ。興味があったので、彼に会いに行って話をきいた。どんな方法で音楽を作るのか説明してくれて、彼自身が難しい部分を担当するから、と言われた。技術上の難しい面はね。僕にはテーマや曲作りのアイデアの点で協力してほしいという事だった。とても良い話だし是非やりたいと思ったんだ。僕の音楽を知らない人が僕の音楽を聴いてくれる機会になるんじゃないかと思ったから。

Q. ビデオ・ゲームの音楽と言うと、枠が限られていて2、3分だったり、逆に時間に制限がなかったりと、かなり形式的に制限がありますよね。その点でも挑戦を感じましたか?

僕は同じことを繰り返すのは退屈だし、やっぱりこれまでやったことのない事をやりたいんだ。ビデオ・ゲームは子供たちにとても人気があるし、僕の知り合いの子供たちは皆『Halo』ゲームのファンだ。だから僕が今度『Halo』の会社が作る新しいゲームに音楽を書くんだと言うと、皆、「うわ~凄い!」と言ってびっくりするんだよ。

Q. 音楽に着手した段階でゲームは完成していたのですか? そうでなければ物語のみを聞いて、音楽作りに着手したのですか?

ゲームはまだ開発の段階にあって背景を制作しているところだったけど、ゲームの基本は決まっていた。プレーヤーには邪悪なエイリアンから地球を救うという使命があるんだ。初期の段階だったから、それなら僕はテーマから入ろうかな、と思った。それについてのメモ程度の音を送った。マーティン・オドネルという作曲家にね。彼は気に入ってくれて、アレンジメントを入れて送り返してきてくれた。そんな音楽作りの方法はとても面白かったんだ。彼の作曲したものを聴き返して、それに僕が書き加えて、といった作業を繰り返した。加えて、エンド・クレジットの背景に歌を入れたいと言われた。それでどんな背景を想定して歌を書けばいいか尋ねたんだ。彼はその部分の雰囲気をピアノ曲で説明してくれた。それを聴いて、僕がそれに合った歌を書いたんだ。とても簡単だった。ピアノ曲を聴いた段階で、ギターでどんなコードを使えばいいかすぐ分かったから。EとCだよ。この2つのコードを使って歌を書き始めたんだ。映画音楽のような壮大なアレンジメントを付けるのもいいんじゃないかと思った。ジェームス・ボンドのサントラの「死ぬのは奴らだ」を手掛けたときもそうだったから。あの時も楽しかったよ。今回は少々違っていて楽しかった。普通に曲を書くのもいいけど、映画やゲームの為に曲を作るのも楽しい、エキサイティングなんだ。

Q. これまでビデオ・ゲームの音楽というと、3分のデジタル・ミュージックみたいな印象がありましたが、今回あなたは生の120人オーケストラを使い壮大な生音を使い、これまたビデオ・ゲーム音楽の境界線に挑戦したと言えますね。

そうであれば嬉しいね。こういった音楽を作ったのは、僕なりに素晴らしいビデオ・ゲーム音楽を追求したまでなんだ。共作した作曲家のマーティンも同意してくれた。また彼にも言ったんだけど、ゲームの為に音楽を書いても、ゲームを離れたところで音楽が独り立ちするのも大切だとね。普通の曲としてラジオでかかるかもしれない。ゲームの世界でエイリアンを追跡するときだけのための音楽である必要はないって。ゲームの音楽であると同時に僕の曲としてあげることが、今回のテーマであり難関だったと思う。同時に聴き手に希望を与える曲、人を触発する曲が書きたかったんだ。

Q. ビデオ・ゲームは地球の未来を救うというのがテーマですよね。

地球最後の地に球面が浮いているんだ。プレーヤーはそこに住んでいる。他の全ては破壊された。プレーヤーはその地から、地球を救わなければならないんだ。

Q. ビデオ・ゲームのほうは実際に試してみましたか?

試しては見たけれど、僕はゲームはやらないよ。他にすることが沢山あるから。子どもたちがやっているのを後ろから見ていることはあるけれどね。試しては見たけれど、あまり上手くはないね。

Q. この曲にはとても明確なメッセージがありますね。ビデオ・ゲームの音楽では異例だと思いますが。(曲にこめた思い)

この曲を書いた目的は、メッセージを伝えたかったからだ。人に聴いてもらいたかったから。特に若い子供たちが大人になってから、「あの曲だ」って思い出せるような曲にしたかったんだ。メッセージを通して、若い子供たちへの未来観に少しでも良い影響が与えられればと思った。

Q. マーティン・オドネルからビデオ・ゲームの音楽作りの話が来たとき、あなたの映画いていたこのジャンルの音楽への視点とはどんなものでしたか? かなり多くの作曲家がいて大きな分野のようですが。

作曲家の世界ではかなり大きいよ。そして君がさっき指摘したように、その多くはコンピューターを使って作ったデジタル音楽が占めている。僕が初めて意識したビデオ・ゲームの音楽はプロディジー(「Wipeout 2097」1997年)だった。「ファイアースターター」がビデオ・ゲームに使われた時だ。かなり前のことだけどね。それがかなり強力な印象として残っているんだ。僕は実験音楽もかなり好きだが、今回は映画音楽みたいに考えた。壮大な大作映画のような路線でいきたかったんだ。幸運にも、技術面には関わらなかったので、これまで通りの方法でやれたんだ。

Q. ここ1,2年だけでも、あなたがこなしたライヴの数は凄いですね。そのエネルギーの秘密は何ですか?

「本当にライヴをやるのが好きだからだよ。人によく尋ねられるよ。コンサートに来てもらえばその答えがわかるはずさ。その質問は不要になる。観客からのフィードバックが凄いんだ。セレブレーションだ。素晴らしい気持ちにしてくれるんだよ。これをやるか、または家で座ってテレビを見るか? 僕の答えは前者だよ。

Q. 先日ピンク・フロイドに話を聞いたのですが、彼等は最後のアルバムをリリースすることになりました。引退といわないまでも、これから地道な活動に入るようです。人によってそれぞれの考え方があると思いますが、あなたの世代の多くの人が現役で頑張っている人が多いですね。驚きです。

僕の世代は、アーティスティックな世界にきく貢献してきたと思う。特に音楽の世界での業績は大きいと思う。ライヴ活動が活発だったんだ。ビートルズにしても演奏した回数が生半可じゃなかった。それによって上達したんだ。続けていればそれを維持できる。ローリング・ストーンズを観に行けばわかると思うけど、いまだにライヴが最高のスペクタクルなんだよ。ファンが聴きたい曲を演奏してくれる。ピンク・フロイドにしても、そうだし。あの時代(のバンド)から、それは多くの偉大な音楽が生まれた。ジミ・ヘンドリックスは4年間しか活動しなかったが、現在に至っても多くの人が彼の音楽から影響を受けている。レッド・ツェッペリンにしてもそうだよ。若いキッズが気に入ってくれるんだ。だからあの世代に属することは素晴らしい。僕はコンサートに行くたびに驚かされるんだ。「こんな若い人がこの曲を知っているのかな?」ってね。実によく知っているんだ。ホントに素晴らしいね。僕にとっても嬉しいばかりだ。