■オゾマトリ・ストーリー
新世紀最初の年の7月、ロサンゼルス市ダウンタウンの中心にいた何千もの人に真夏の太陽が照りつける中、すべてはオゾマトリへと向けられた。街では民主党全国大会が開催され、道路の向こう側にはビル・クリントンが見え、バリケードでふさがれていた。オゾマトリの目の前に立ちはだかる群衆は、彼らの抗議デモへのサウンドトラックを求めていた。そんな中でオゾマトリは1曲演奏し、警察はケリをつけようとし、辺りにはゴム弾が飛び交った。
デビューアルバムのレコーディングから3年経ち、LAストリートの更なる爆発が予感される中、マルチカルチャーを象徴するブロック・パーティーは彼らの目前に生まれていたことがこの新作によって明らかになった。『Embrace the Chaos』一アメリカの都市の将来は既にここにあり、既に歌われ、かつ既にサルサからヒップホップ・サンバまで踊られていると世界に知らしめるオゾマトリ計画の第二弾の登場というワケだ。
「DNC(民主党全国大会)の出来事は衝撃的だったよ」とテナーサックスのウリーセス・ベーラは言う。「俺たちはあの場所で、抗議デモを行っていた人々から多くのエネルギーを貰ったよ。俺たちがああいった形で抗議に加わったことについて彼らがどう感じたかとかね。とても刺激的だったよ。ただ、このデモ隊の人々がどうやって鎮圧させられたかという件についてはとても残念だよ。ひたすら”これ以上言うな”と主張は否定されただけだった。それは丁度、クリントンがアメリカの素晴らしさについてスピーチを行っていた時でね。その皮肉さが俺たちを動かしたんだ。そして新作アルバムを『Embrace the Chaos』と名付けた。世の中のメチャクチャなことも受け入れつつ、変えていきたいという気持ちを込めてね」
このDNCでのライヴが、バンドのオリジナルメンバーだったアルトサックス・プレイヤーの最後になった。デビュー・アルバム以来、初めてのメンバーチェンジであった。黒人、メキシカン・アメリカン、キューバ人、日本人、ユダヤ人、フィリピン人といった多言語のクルーは、メンバー内に起こる音楽的衝突の楽しみを通じて築かれるコミュニティーと、社会改革に対し意欲的に取り組むバンドとして確立したのが、彼らのデビューアルバムだ。(”オゾマトリ”とはナワトル語で、アズテックの踊りの神という意味である)。
ドラムのアンドリュー・メンドーサ、DJ Spinobi(アルバムにはオリジナル・ターンテーブリストであるCut Chemistが参加)、そしてMC にケネティック・ソースの参加といった新しい部分を除けば、『Embrace the Chaos』からは以前と同じオゾマトリのエンジンを感じ取れるだろう。ケナティックは『Lo Que Dice』(弾んだビートのサルサ・ループによって完成)、『Vocal Artillery』(メドゥーサとブラック・アイド・ピーズのウィリ・アムをゲストとして迎えたLAアンダーグラウンド・ポッセのカット)、『Embrace the Chaos』(CommonとDilated PeoplesのRakaaをヘルプに迎えたDNCでの演説)、そしてPosとDe La SoulのTruGoyをゲストに迎えた『1,2,3,4』といったライムのヘヴィーな曲で参加している。
「俺たちがDNCでのライブを行った時は、バンドにとって最悪な時期だったんだ。でもあのライブがウェイクアップ・コールとなったんだよ。俺たちはまだ続けるべきだと、俺たちは彼らのためのバンドであるべきだと」とベーシストのウィル・ドッグは語る。「俺たちは『生活費のためといった以前に、俺たちがグループでいること、俺たちが一緒に活動することが一番大切なことなんだ』って気付いたんだよ。今回のアルバム『Embrace the Chaos』には、そういった想いが込められているんだ。どうやってバンドを維持するのか、余りにも無秩序な俺たちをどうやって受け入れ合うか、どうやって決定を下すか、バンドに自分を捧げることはどんな感じなのだろういった、バンドで一緒に活動を続けてきた俺たちの想いがね」
オゾマトリは過去約3年間をほとんどツアーに費やしてきた。彼らが覚えている以上にアメリカを回り(スタジアムからベネフィット・コンサート、そして公立高校でのライヴに亘るすべて)、日本、ヨーロッパ、キューバ、オーストラリア、そしてメキシコを回り、かのサンタナ、ロス・ロボス、ジョニー・パチェーコ、ヨーモ・トーロ(Yomo Toro)などとも共演した。「最初のアルバムでは、俺たちはLAに籠もりっきりだったんだ」とベーラは語る。「新しい曲では、その後の俺たちの旅が描かれているんだ」 ニューオーリンズのセカンドライン・ファンク=ブラスバンド・ミュージックを思わせる『1234』、オゾマトリのライヴセットには欠かせない曲となった『Timido』などは、彼らがキューバをツアーしていたときに作られたものだ。
さらに『Embrace the Chaos』に収録されている3曲(『Mi Alma』、『Los Ozos』)はロス・ロボスのスティーブ・バーリン(Mario CとBob Powerが残りを担当)によってプロデュースされている。バーリンはクリック・トラックなしで、シングル・トラック丸ごとに全ホーンを収録、スタジオでのライヴソングを2インチのテープに録音するよう要求した。「もし俺たちのうち誰か一人でもミスったら、もう終わりってワケさ」とベーラは言う。「俺たちには成し遂げることが出来ると分かっていたから、やる気が出たんだ」
恐らく、新作『Embrace the Chaos』とオゾマトリのデビューアルバムの大きな違いは、彼らの最も評価される、アフロ・ラテン・スタイルの切替へのアプローチが発展したことである。デビューアルバムにおいては、クンビアからダブ、ヒップホップと流れ、再び戻るといった曲構成であったが、『Embrace the Chaos』においては曲ごとに切り替わるといった感じだ。ラテンの曲はよりラテン調、ヒップホップの曲はよりヒップホップ調でと、次に何のジャンルが飛び込んでくるかということよりも、もっと曲自体の流れと構成に焦点を合わせた作品となっている。しかし昔の習慣はそう簡単に無くなるわけもなく、オゾマトリ特有のフュージョンと、クロス・カルチャーな団結はまだ残っている。カリブ海のパチャンガ歓声をコラ(アフリカのハープ)で盛り上げる『Los Ozos』、シャッフリング・サンバに都会的なドラム音を加えた『Suenos』、ジャングル・ライムが連続的に割り込むサルサ・スウィングの『Dos Cosas Ciertas』、そして絶妙なタイミングで叩き出されるジロー・ヤマグチのタブラ。
「俺たちは今回、ミュージシャンとしてますます良くなったと思うよ」とウィル・ドッグは認める。「音楽的才能においては、更に洗練された作品となっているよ。最初のアルバムでは引き出せなかったものだと思うね。解放の仕方、リスニングの実行方法など自分たちで学んだんだ。そういった経験を積めて良かったと思ってる。こんな音が出せるようになるなんて思ってもなかったからね」
Translated by Junko Toza