音楽評論家のみなさまからコメントを頂戴いたしました
音楽評論家の片桐卓也氏、伊熊よし子氏、オヤマダアツシ氏、堀江昭朗氏、山崎浩太郎氏よりコメントを頂戴いたしました。(順不同、敬称略)
例えば、山道をずっと登ってきて、どこからか、小さなせせらぎの音が聴こえる。その透明で、静かな響きに旅人は癒されるはず。Nanaの演奏を聴きながら、そんな情景を思い浮かべた。
彼女の存在と音楽がひとつになり、そこには他に不純なものが混じっていない。それは誰にでも可能な事ではない。ナチュラルだけれど、難しいこと。おそらくNanaの性格、育って来た環境、そして彼女に楽器を教えた人たち、そういう複雑な要素がすべて奇跡的につながって、いま15歳のNanaがチェロを演奏している。そんなことも感じた。
演奏家としてだけでなく、女優でも活躍しているという。才能を持っている人はどんどん挑戦すれば良いと思う。台湾、日本、いやアジアだけでなく、アメリカでも活動の幅を広げて行って、新しい時代のアーティストとしての姿を見せて欲しい。彼女の笑顔には、すべての人を明るく照らす光が宿っている。
片桐卓也
[世界の音楽ファンをとりこにするアジア期待の新星、Nana。のびやかなチェロの響きは未来に向かって大きく飛翔する]
Nanaのチェロはみずみずしくのびやかで、豊かな歌心に満ちている。彼女はキュートな容貌に注目が集まるが、実は大変な努力家。楽器を選ぶときも、録音の選曲も、熟考を重ね、自分ならではの音楽を作り上げていく。チェリストと女優と学生という3つを完璧にこなすために、常に最善の努力をし、未来に向かって大きくはばたこうとしている。
前向きな姿勢、陽気な性格、人なつこい笑顔は、会う人をみな魅了してしまうが、その奥には「忙しすぎて練習時間が取れない」という悩みが見え隠れする。超多忙な生活を楽しみながらも、「私の愛するパートナー」というチェロとともに寸暇を惜しんで練習に没頭する。尊敬するヨーヨー・マに少しでも近づくためにNanaは未来を見据え、チェロと一体化する。デビュー・アルバムはそんな彼女の心の歌。いま、15歳のNanaがひたむきに奏でる、愛の贈り物である。その贈り物から私たちは癒しと活力と前に進む勇気を与えられる。
伊熊よし子
デビューCD『Nana 15』に収録されたラインナップを見ていると“歌”が多いことに気づく。こうした名刺代わりの小品集の場合「これだけ弾けます!」とばかり、超絶テクニック満載の一枚になってしまうこともあるのだが、どうやらNanaの音楽的なチャームポイントは繊細に紡がれる“歌”にあるようだ。しかし、それこそが音楽家としての個性であることは言うまでもない(“歌”はいくら練習しても身につくものではないのだから)。エルガーの「愛の挨拶」で聴かせる伸びやかな“歌”。ほんのりとした陰りを感じさせるシューベルトの「セレナーデ」に潜む“歌”。そして少女の時代を象徴するような大人への憧れと、手が届かないもどかしさをにじませるフォーレの「夢のあとに」の“歌”。私たちがここに聴くのは、15歳を生きる一人の女性の音楽日記なのかもしれない。
オヤマダアツシ
「きれいと可愛い、どっちが言われて嬉しい?」と聞いたら、ほほ笑みながら日本語で「可愛い」と答えたNana。演奏を聴く前に、その容姿と雰囲気に心を奪われてしまう人も多いだろう。6歳でチェロを始め、10歳でデビュー、13歳で名門・カーティス音楽院に入学した正統派だ。演奏家としては発展途上だが、演奏活動と並行して行っている女優などの芸能活動の両方は、その内面の成長を促しているに違いない。
15歳の記念にお気に入り15曲を選んで収録したというデビュー・アルバムは、伸び盛りの演奏家ならではのフレッシュな感性が、何よりの魅力だ。誠実なアプローチで楽曲の勘どころをしっかりと押さえ、たっぷりと楽器を鳴らしながら瑞々しい「歌」を聴かせてくれる。そこには、大好きなチェロで音楽をする喜びがあふれている。
クラシックをベースに、ジャンルを超えた活動も視野に入れていると語るNana。これから、どう成長していくのか、大いに気になる存在だ。
堀江昭朗
目の前でエルガーの《愛の挨拶》をひきはじめたとき、なんと素直に楽器を歌わせる人なのだろうとおもった。のびやかに響いて、しなやかに、やわらかく歌うチェロ。少女とチェロ。チェロは音域が低く、男性のバリトンの声をおもわせる楽器だ。しかしここで奏でられるのは、まさしくNana自身の、15歳の少女の音楽である。メンデルスゾーンの《歌の翼に》の甘美な旋律、シューベルトの《アヴェ・マリア》の、純粋な祈りの歌。背伸びすることのない、自然な音楽。
音色と歌いくちに慎ましさと品があるのは、育ちのよさと、高い知性の証だろうか。父の姉である欧陽菲菲の大ヒット曲《ラヴ・イズ・オーヴァー》は、成熟した大人の女性が、心を決めて恋の終りをうたう歌だが、Nanaがチェロでひくそれは、もっと淡い、若い憧れの恋の終り。これから、どんな成長と活躍をみせてくれるのかも、楽しみである。
山崎浩太郎