<レポート>モータウン60周年アニバーサリー モータウンオーケストラコンサート

2019.11.07 TOPICS

MOTOWN 60th ANNIVERSARY MOTOWN ORCHESTRAL CONCERT
モータウン60周年アニバーサリー モータウンオーケストラコンサート

11月3日(日)奈良:薬師寺大講堂前特設会場

世界遺産に登録されている奈良・薬師寺の大講堂前特設会場にて、今や音楽の世界遺産と言っていいモータウンの創立60周年を記念して行われたコンサート。開演前の法話にもあったように宗派を超えて行われた奉納コンサートでもあり、弥勒如来像が正面奥に覗く荘厳な講堂をバックに、モータウン所縁の4アーティストがビルボードクラシックスオーケストラの演奏(指揮は栁澤寿男氏)に乗ってモータウンの名曲を歌っていく。冬の訪れを感じさせる寒空の下で行われたが、無音になった時に聞こえる虫の鳴き声も風雅な舞台に趣を加えてくれた。

序曲としてオーケストラのみで演奏されたのが、シュープリームス“Baby Love”、テンプテーションズ“My Girl”、フォー・トップス“I Can’t Help Myself”という60年代モータウンを代表する名曲のメドレー。これらが壮麗な音で奏でられるとフィリー・ソウルのMFSBのようなソウル・オーケストラに見えてくるのだが、一番手のBJ・ザ・シカゴ・キッドが最初に歌ったのも60年代の名曲、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの“Ooo Baby Baby”だった。ファルセットを得意とするBJだが、ここではスモーキーのハイ・ヴォイスは真似ず、落ち着いた地声で歌い通した。続くスピナーズの“It’s A Shame”では、グルーヴィーな原曲の昂揚感を再現したオーケストラにつられるようにG.C.キャメロンばりのエモーションを込めて快唱。そして、現モータウン所属アーティストであるBJは自身の“Turnin’ Me Up”も歌い、60年代のソウルと2010年代のR&Bが地続きであることを示して、モータウンというレーベルの歴史の重みを改めて実感させてくれた。客席には世界遺産の前で歌う息子を見守る母親の姿もあったが、リアルタイムで60年代モータウンの名曲を聴いていたであろう母を前にしてのパフォーマンスは、最高の親孝行になったことだろう。

スピーチ(アレステッド・ディヴェロップメント)とシャニースというレアな組み合わせによる“Ain’t No Mountain High Enough”は、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルになりきるふたりが寒空の会場を暖めるように熱くデュエット。シャニースにとっては、かつて同曲を歌っていたダイアナ・ロスへのトリビュートという気持ちもあったのではないか。続いて彼女は、同じくアシュフォード&シンプソン作となるダイアナの名曲“Reach Out And Touch(Somebody’s Hand)”をソロで歌い、モータウンにおけるレディ・ソウルの系譜に連なる者としてのプライドを見せてくれた(事前に予定されていたテルマ・ヒューストンの“Don’t Leave Me This Way”はオミット)。最後に90年代のモータウンを代表するヒットとなった自身の“I Love Your Smile”をホイッスル・ヴォイスやラップを交えて溌剌と歌った彼女は、かつて皆が虜になった笑顔のシャニースそのものだった。

ライヴ中盤のインテルメッツォで、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ“The Tears Of A Clown”、マーヴィン・ゲイ“Mercy Mercy Me(The Ecology)”、スティーヴィー・ワンダー“You Are The Sunshine Of My Life”がオーケストラのみで優雅に奏でられた後、再びスピーチが登場。スピーチはこのメドレーで採り上げられた3アーティストの別曲をカヴァー。ミラクルズの“The Tracks Of My Tears”をスモーキー・ロビンソン風の繊細な声で歌ったのをはじめ、かつて自身のソロ曲でトリビュートを捧げたマーヴィン・ゲイの“What’s Going On?”やスティーヴィー・ワンダーの“Superstition”を総立ちの観客を味方につけてエネルギッシュに歌ったのだが、なかでもオーケストラの流麗な演奏が活きたのはマーヴィンの“What’s Going On”だ。原曲でファンク・ブラザーズとともにバックを務めたゴードン・ステイプルズ率いるデトロイト・シンフォニー・オーケストラの演奏がオリジナルに近い形で再現され、薬師寺に響き渡る神々しさは、本コンサートのハイライトと言ってもいいほどだった。

トリはジャーメイン・ジャクソン。ジャクソン5、そしてソロとして13年近くモータウンに所属していたジャーメインは、まずモータウンにおける最大のソロ・ヒット“Let’s Get Serious”を原曲のままダンサブルに、テンダーかつ力強いテナー・ヴォイスで歌った。亡き弟マイケルを想うように“Ben”を繊細な声で歌う姿からは優しい“兄”としての一面が伝わってきたし、ジャクソン5・メドレー(“I Want You Back”〜“ABC”〜“The Love You Save”)では兄弟たちが歌い踊る往時の映像を思い出させ、64歳のジャーメインが少年のように見えた瞬間もあった。ラストはジャクソン5にてマイケルとリードを分け合った“I’ll Be There”を優しく、情熱的に。貴族風のジャケットが、かつてマイケルが着用していたものに似たデザインだったこともあってか、不謹慎かもしれないが、講堂に鎮座する弥勒如来像に負けないオーラを放っていたジャーメイン。11月7日〜10日にはブルーノート東京でのソロ公演も控えており、そちらでもモータウン時代の曲を歌ってくれるはずだ。

トータル1時間ほど。あっという間ではあったが、そう感じたのは、時が経つのを忘れるほど楽しく、興奮が途切れなかったせいでもあるのだろう。改めてモータウンの曲が持つ力強い生命力、親しみやすさを感じた次第だ。

テキスト:林 剛