オフィシャル・ライナーノーツ到着! -タナカアツシ-
今、多少マニアックながら面白過ぎる内容の歌詞が人気を集めて、日に日に雪だるま式に話題が増幅されている曲がある。
奄美喜界島3世のタナカアツシが歌っている「大島エレジー」だ。常日頃から、奄美は文化も歴史も全く異なるにも拘わらず、
沖縄とゴッチャにされがちだ。そんな奄美人が味わっている屈辱と悲哀を逆手にとって、面白可笑しく巧みに揶揄して歌い上げているのが
話題の「大島エレジー」なのである。
それを昭和40年代に一時代を築き上げたムード歌謡のスタイルを借りて、しかもしっかり定石通りに女言葉で歌うという徹底ぶりが大ウケしている。
当のタナカアツシは、実は芸人でも何でもなく、本格的な三味線奏者にしてブルース系ギタリストでもある。
そのタナカアツシとの付き合いはかれこれもう20年近くになるだろうか。奄美シマウタの国宝級唄者、朝崎郁恵さんのバックで三味線とギターを弾いて、もう長い。
三味線奏者、ギタリストとしての彼の持ち味は見事なまでに歌付けに徹していることだろうか。
実際に彼以上に歌付けに長けている三味線&ギター奏者は他にいないだろうと思っている。奄美の伝統民謡であるシマウタは、
独特の旋律と細かい節回しが特徴だが、基本歌自体は自由だ。元々伴奏楽器も無く歌のみで成立していたア・カペラだから、
譜面なぞ無いし歌いたい所好きな所から歌い出す。その奄美シマウタの中でも最も古いスタイル、最も難しい歌い回しを持ち主である朝崎郁恵さんのバックを受け持つというのは並大抵のものではない。朝崎さんの一挙手一投足を見つめ、歌の呼吸に合わせて伴奏するというのは究極の歌付けに他ならない。
それを長い間演って来れたアツシは歌付けの天才だ!
そのアツシが三味線を弾きだすきっかけになったのは喜界島出身の三味線奏者だった祖父の存在。元々祖父は朝崎さんの伴奏を務めていた人で、
家の中にはいつも三味線の音が溢れていたという。そんな祖父が亡くなった時、弔問に訪れた朝崎さんとの出会いが伴奏を務めることになったと言うから、
正に奄美シマウタでいう所の“神様の引き合わせ”、必然だったんだろう。
そんなアツシが伴奏だけ務めて歌わない訳はない。奄美シマウタの最高峰の唄者、朝崎さんの元で習い覚え、
掛け合いをしながら身に付けた歌は、言うまでもなくハンパない。ジンベ奏者の奈良大介と組んでいるユニット“マブリ”は、
長年朝崎さんのバックを務めて来ているが、それと並行して“マブリ”単独でも頻繁にライヴ活動を繰り広げて来た。
もう幾度となく“マブリ”のライヴは見て来ているが、奄美シマウタだけでなく、“マブリ”としてのオリジナルも交えて演るスタイル。
ここでもアツシの歌は際立っている。微妙な抑揚と情感を宿した奄美シマウタで培った歌唱は、誰にも真似が出来るものではない。
それは今話題のメジャー・デビュー作「大島エレジー」でも一聴瞭然だろう。何よりも歌が圧倒的にイイ!女性上位時代と言うべきか、
或いは女高男低と言うべきか。極端なことを言えば、NHKの紅白歌合戦だって、じっくり聴けば紅組が連戦連勝してても決しておかしくは無い時代に、
これはマジに快挙だと思う。近年ロック系?でこれほどしっかりした歌を聴かせる男性アーティストは他にいないだろう。
そんな時代だからこそ、出るべくして出た!これもまた間違いなく“神様の引き合わせ”に違いない!
2018年06月
Stay High Always!
(Hideki Masubuchi/増渕英紀)