meiyoの「なにやってもうまくいかない」ライフストーリー 1万字インタビュー
9月26日に「なにやってもうまくいかない」でメジャーデビューを果たすmeiyo。いつもあと一歩のところで悔しい想いをするような、パッとしなかった「なにやってもうまくいかない」ライフストーリーを語る。ちょっぴり情けなくて、でも愛らしくて、飾りすぎない人間味溢れるmeiyoに、私は惹かれている。
高3で軽音部に入部。いかつくて怖かった先輩
―まず、ドラムを始めたきっかけを教えてください。
meiyo:もともと『pop’n music』『ドラムマニア』などの音楽ゲームが好きで。なので高3で軽音部に入るときに、叩くのがいいなと思ってドラムを選びました。一応ギターをちょっと触ってはいたんですけど、本当に、触ったくらいで弾けることはなく。中学生くらいから音楽を作りたいという気持ちはあって、ニンテンドーDSのソフトで耳コピして打ち込んだりしてました。とにかく音楽ゲームの曲をめちゃくちゃ聴いていて、中学生くらいからはBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONなどのバンドも聴き始めて、高校の頃に凛として時雨、cinema staff、Qomolangma Tomatoとかを好きになっていきましたね。
―なぜ「高3」という中途半端な時期に軽音部に入部したんですか?
meiyo:高1のときに部活の見学に行ったら、先輩がめちゃくちゃいかつくて怖かったのが嫌で(笑)。それで先輩がいなくなってからにしようと決めたんです。入部したあとは同級生とバンドを組んだんですけど、ベースの女の子の彼氏がその先輩で、結局怖い先輩が遊びに来るようになっちゃって。しかも、高校卒業後はみんな大学に行ったりして離れちゃったので、結局先輩に拾ってもらって、そのいかつい先輩が僕がやってたバンド「シガテラ」のメンバー、という流れですね(笑)。
―シガテラは約5年半活動していますが、どういうモチベーションだったんですか? 売れたいという気持ちはありました?
meiyo:バンドとしてはめちゃくちゃありました。その頃「残響レコード」が全盛の時代で、メンバー全員cinema staffが大好きだったし、9mm Parabellum Bulletもそう。その辺の誰かに拾われたくてただただやってた、みたいなイメージですね。シガテラは変拍子をやりたがる、でもポップ、というバンドで。自分が作った曲も1、2曲ありますけど、ギターボーカルは別の人間がいたのでメインで歌うことはなく、ただただ自分はドラマーだという気持ちでやってました。
奥田民生を見て「かっこつけなくてもかっこいいとされるじゃん」
―シガテラを始めて2〜3年くらいのときに、ワタナベタカシ名義の第一作目「ゆったりと」を作っていますよね。シガテラをやりながら自分の曲も作った当時は、どういう心情だったんですか?
meiyo:「ゆったりと」を作ったのは、シガテラとは違う方向性の曲を作ろうと思ったのが一番の理由ですね。「この曲をアナログフィッシュに歌っててほしいな」とか、あのアーティストの曲みたいなのが書きたいな、こういう言葉を使っている曲があったらいいな、くらいの気持ちでした。しかもこれ、ニンテンドーDSで初めて作ったオリジナル曲なんですよ。ニンテンドーDSで作って、パソコンにつないで録音して、そこに生のギターを乗せてデモにする、という変な作り方をしました。この頃は、とりあえずなにか曲を作ってみよう、というだけで、自分で歌おうとも思ってなかったですね。仮歌のつもりで自分で入れて、それをSoundCloudとかに公開したら、ちょっと再生されたんです。
―今聴いてもすごくいい曲ですよね。
meiyo:いい曲だと思いますね。A、B、サビ、みたいな構成ではなくて、細かく割るとGメロくらいまであるんですよ。自分がそのときにやりたかったことが全部そのまま曲の流れになってるなと思います。「ゆったりと」を作ったのが2011年で、2010年くらいから僕は、奥田民生さんにめちゃくちゃハマり始めていて。
―それはなにかきっかけがあったんですか?
meiyo:中学生の頃からアナログフィッシュが好きだったんですけど。それはテレ玉とかtvkの音楽番組で流れていたのがきっかけで。あと、高校の友達が好きだったフジファブリックを自分も聴いたりしていた中で、少し世代を遡ってみたら、奥田民生さんがいたっていう感じですね。
―奥田民生さんのどういうところに惹かれたんだと思いますか?
meiyo:いいおじさんなところ?(笑) 恋しちゃった感じです。奥田民生さんやフジファブリックとかの2、30代くらいの女性ファンの方とかと同じ気持ちになっちゃったんですね。愛おしくなっちゃった。
―(笑)。
meiyo:力が抜けているというか。かっこつけ過ぎてなくて、でもかっこつけるし。表現してる内容がちょっとかわいいおじさんであるところに惹かれたんだと思います。こういう歳の取り方をしたいなって。「ちょっと情けない人」というところがあるアーティストに、その後もハマり続けてますね。KANさんとか。
―meiyoさん自身がそういったアーティストに惹かれるのは、なんでだと思いますか?
meiyo:僕自身、かっこつけることがもう嫌なんですよ。だから奥田民生さんを見て、「このやり方があるんじゃん」っていうのを見つけたというか。あの感じを目指せば、かっこつけなくてもかっこいいとされるじゃん、ということを思ってしまったんですね。
―なるほど。まさにメジャーデビュー曲「なにやってもうまくいかない」がそうですけど、meiyoさん自身が、全身全霊かっこよさを演じて「俺についてこい!」と言うようなロックスタータイプとは真逆で、自分のダメなところや情けないところも見せているのが表現者としても人としても魅力的だなと思います。
meiyo:ああ、ありがたい(笑)。
目の前でチャンスを逃しまくった「ワタナベタカシ」名義時代
―シガテラが活動休止をしたあとも音楽を続けていきたいと思ったのは、どういう想いがあったからですか?
meiyo:音楽をやめるわけにはいかないなと思って。当時、スーパーの野菜コーナーでバイトしてたんですけど、このままではアルバイトで一生終わると思ったんですよ。野菜とはもう縁を切りたかったんですよ、僕は。だから売れなきゃいけなかったんです。野菜を選別して売る毎日が一刻も早く終わってくれということを願っていたので(笑)。
―(笑)。
meiyo:高校卒業時に「大学はいいや、音楽でいけるわ」ってあまりなにも考えずに進学しなかったから、働こうとしても多分この先楽しくなさそうな仕事しか訪れないなと思って。あと、当時他にも何曲か作っていて、なんやかんや褒めてくれる人もいたから離れられなかったというか。「ここでやめちゃダメだ」みたいな使命感というよりは、「みんなまだこっちにいるからこっちで遊んでいたい」みたいな感覚でしたね。
―バンドをやめたあとは、ソロでやっていきたいという気持ちが芽生えていたんですか?
meiyo:本当はバンドやりたかったんです。でも、このときもう24、5歳くらいで、そろそろみんな音楽をやめる時期じゃないですか。続けている人は活動を重ねている人だから、歌も初心者で曲作りも全然やってないような自分のプロジェクトに誘うのがおこがましくて無理だったんですよね。思えば当時は、ずっと消極的でしたね。
―「ワタナベタカシ」時代の3年間の活動を、文字だけで見ると、「初ライブはSMA主催イベント」「お台場夢大陸マイナビステージにてオープニングアクトを務める」「BS-TBS『イクゼ、バンド天国!!』出演」などと、華々しい活動が目立ちますが、実感としてはどうだったんですか?
meiyo:ソロを始めてから「ワタナベタカシ」であった期間は、ほとんど目立った成果を得られなかったという感覚がありますね。SMA主催イベントに出たときも、関係者がたくさんいたのに、それが初めてドラムボーカルでやったライブだったからボロボロで、歌も超下手だったし、なんにも成果を残せず。えみそん(現フレンズ・おかもとえみ)が弾いてくれていたというのでちょっとだけ注目されてたんですけど、えみそんがいいだけだったので、関係者たちも「えみそん、ベースよかったよ」と言って帰っていく感じ(笑)。meiyoに改名するまでの期間は、時々レコード会社の人とかが見に来てくれたりもしたんですけど、「いけるのかないけないのかな」みたいな感じばかりで、ひたすらモヤモヤでした。「売りたい」と言ってくれる人が現れても、やっぱり自分が大きなことをなにも残せてないから、「社長OKが出ません」みたいな感じで。ずっと模索というか、「なにすればいいんだろう」と思いながら曲を作ってました。
―なにか大きな一歩となる成果を作らなきゃいけないんだけど、なにをすればいいかわからない、みたいな。
meiyo:そうですね。もうずっとそうでした。だからイベントとか番組とか、とりあえず出られそうなものがあれば応募して。どうしたら目立てるのかなということをずっと考えてました。
―大好きなユニコーンの手島いさむさんが、2017年のワンマンライブにゲストサポートメンバーとして出演されたのは、どういう経緯だったんですか? これも結構すごいことですよね。
meiyo:これは、『イクゼ、バンド天国‼︎』(以下、『イク天』)の審査員にテッシーさんがいるってことを知ってたので、僕は気に入られようと(笑)、ユニコーンのTシャツを着ていったら気に入ってくれたことがきっかけで。しかも僕のライブに出てもらったあと、テッシーさんのソロツアーで「ドラム叩かない?」って言ってくれたんです。それで一度打ち合わせに行ったんですけど、僕、車酔いがすごくて……。その日の帰り、テッシーさんが家まで送ってくれたんですけど、そのあいだでめちゃくちゃ車酔いしちゃって。「こんなに酔うならツアーきつそうだね」って、話がなくなっちゃったんですよ(笑)。
―ええ、そんなツアーの振られ方ある!?
meiyo:「カーナビに自分の家の住所入れといて」って言われて、その操作してるだけでもう気持ち悪くなっちゃって。悔しかったですね(笑)。
―もしかして、ご自身の人生を振り返ると、あと一歩のところでチャンスを逃した場面が多いですか?
meiyo:逃しまくりですね。本当に、かなり逃しまくりな気がしますね。全部逃してますからね。SMAのライブもなにも掴めなかったし、マイナビステージのオープニングアクトもやっただけ。テッシーさんも「ライブに来てくれて楽しかったです」で終わって。ずっと、ずーっと、そんな感じでした。
―どんどん「なにやってもうまくいかない」の曲の説得力が増していくじゃないですか(笑)。
meiyo:ネガティブが出てしまってます(笑)。
改名の理由。褒めてくれる人はいるけれど……。
―2017年に2つのバンドにかかわり始めていますよね。「POLLYANNA」加入、そして「侍文化」結成。これらはどういったきっかけやモチベーションだったんですか?
meiyo:POLLYANNAは、友達のバンドを見に行ったときに対バンで出てて。自分が『pop’n music』経由で渋谷系の音楽も好きで、いいバンドだなって思ってたんです。それで、あるとき『pop’n music』に曲を提供しているアーティストたちが一堂に会するイベントへ行ったとき、主催の人に「POLLYANNAっていう渋谷系のいいバンドがいるので聴いてみてください」ってなんとなく話したんですよ。そしたらPOLLYANNAがイベントに出ることが決まって、また自分はそれを見に行って、「やっぱりいいな」と思って。そのあとドラムが抜けるという話が持ち上がったので、「じゃあ自分叩きます」って言って加入した感じです。侍文化は、POLLYANNAのギターのqurosawaと「バンドやりたくない?」という話になって。僕はそのときもう「ワタナベタカシ」じゃなくてバンドにしたいという気持ちが強くて。でもqurosawaから一緒にやりたい人が他にもいるって言われて、連れてきたメンバーの中にギターボーカルもいたから、だったらそれは「ワタナベタカシ」とは別物にして、ツインボーカルとしてやっていこうってなった感じですね。
―侍文化は、早い時期からYouTubeをやっていましたよね。話を聞いてると、meiyoさんって好奇心旺盛で、しかも行動するのが時代の流れより半歩速いなという印象も持ちます。
meiyo:ずっとうろちょろしてたんですよね。もうずっといろんなところに目移りしてた感じです。その頃はちょうど自分がYouTuberにハマってて、「YouTuberやったらよくない?」って言って始めた感じでした。もし仮に侍文化がメジャーデビューできたとしても、「バンドでメジャーデビューしても食えないでしょ」と思って。だったらなんでもありみたいな土壌を一旦作っておこうと思って、その一環としてYouTuberをやりましたね。
―バンドで食えないと思ったのは、シガテラ時代の経験から?
meiyo:シガテラのときは売れてもないけど、侍文化は売れるかもしれないと思ったんですよ。これくらいの頃からだんだん自信がついてきていたので、もう1人のギターボーカルもいいし、曲もいいし、「売れる」って思ってたんですよ。「思ってた」というか、「思っている」んですけど。ただ、音楽だけで食えないっていうのは、メジャー契約の印税の%とかを考えたら、どうしたらメンバーが食えるのかが意味わからなくて。曲作ってる人はいいけど、それ以外無理じゃない? ソロならまだしもメンバー全員が食っていくの無理じゃない? と思って。侍文化は嫌な感じで終わりたいバンドじゃなかったので、売れたあともメンバー全員が対等な立場でいるために、別の稼ぎどころがほしかったっていう。でもYouTuberって、YouTubeに一点集中しても厳しいくらいの世界なので、だんだんメンバーの中で「もっと音楽やりたくない?」みたいな空気が出始めて、YouTubeはちょっとお休みしました。動画のおかげで、ごく稀に街中で「侍文化の人ですよね?」って聞かれますね。これからも侍文化はできる範囲で動いていきたいと思ってます。
―「ワタナベタカシ」を始めた頃は自分の歌に自信がなかったとおっしゃってましたけど、どれくらいから自信を持ち始めていたんですか?
meiyo:なにもうまくいってないですけど、一個一個、「ここまでいけるんだったらもしかしていいんじゃない?」って思ってたんですよ。そもそも初ライブからSMAのイベントに呼ばれることがあんまりないでしょ、とか。『イク天』も応募したら出れたし、テッシーさんも褒めてくれたし。あと、「自信なさげなのをやめた方がいいよ」「もうちょっと普通にしててもいいと思うよ」みたいなことを言われ始めて。人前に立つときにかっこつけるのが好きじゃないし、かっこつける人をダサいと思ってたんですけど、ある程度かっこつけないと、本当にかっこよくないんだなっていうのに気づき始めていたんですよね。
―そして2018年に、ワタナベタカシから「meiyo」へ改名します。改名の理由は?
meiyo:『イク天』の番組プロデューサーの角田陽一郎さんから、「ワタナベくんを売りたい」「メジャーじゃなくても食っていける方法を模索していこうよ」みたいなことを言ってもらって、プロジェクトが始まって。2018年の頭くらいからその話があって7月にmeiyoとして始動して、もう次の年の3月には終わったんですけど。名前を変えた理由は、ワタナベタカシが普通すぎたからです(笑)。ワタナベも、タカシも、あまりに普通すぎて。あとライブハウスとかに出たときに「ワタナベタカシ」って書いてあると弾き語りだと思われちゃうんですよね。出てきたらバンドだし、しかもドラムボーカルだし、その裏切りがいい方向には傾いてないなと思って。なのでずっと活動名義がほしくて、ちょうどタイミングがよかったっていう。
―なぜ「meiyo」になったんですか?
meiyo:そのときに関わっていた角田さんと写真家のワタナベアニさん、あと何人かのスタッフの方々と名前を出し合って、その中でワタナベアニさんが出してくれた「meiyo」が、その場にいたみんなが気に入ったという理由ですね。自分は「ワタナベタカシ」として音楽をやってきたので、急に別の名前を「これどう思う?」と聞かれても全然わからなかったんですよ。なので、みんなの意見に委ねようと思って。最初の頃はピンときてなくて、「本当に合ってるのかな?」と思ってましたね。
―今は「meiyo」という名前にしっくりきてますか?
meiyo:打ち込みっぽい曲を始めてからは「meiyoだな」って感じがしますね。それまではやっていることが「ワタナベタカシ」と変わらなかったので。
ー今も「ワタナベタカシ」表記を使われていることがありますが、「meiyo」とどういうふうに使い分けてるんですか?
meiyo:「meiyo」はいわゆるソロユニット名という位置づけですね。バカリズムさんが、コンビ時代から本名の「升野さん」として知られているけど、今はソロ名義の「バカリズムさん」とも「升野さん」とも呼ばれたりしているような感じ。最近だと、「ブルゾンちえみさん」が「藤原しおりさん」になりましたが、それとも近い側面があるかもしれないですね。ある意味、別の人格というか。時代に合わせた間口の広い表現をして、それをアイデンティティとして打ち出すためのプロジェクト名が「meiyo」で、「ワタナベタカシ」はどちらかというと裏方っぽいことをするときとか、一個人としての表現を行う場合に使うイメージです。
―「meiyo」として始動してから今まで、角田さん含めていろんな大人が褒めてくれるのに、とはいえなんにも状況は変わらないじゃん、みたいなジレンマもありました?
meiyo:ありましたよ。大人の人たちも「売れそう」って思ってくれてるんだけど、「すごく好きなんだけどね〜」くらいの付き合い方でしかなくて。ライブを見に来てくれたり、相談に乗ってくれたりはするんですけど、そこ止まりでしたね。ずっと狭いところで動いてたし、もうそろそろデカいことが起きないと無理っぽいなと思ってました。
―なかなか起爆剤となることを生めない中で、音楽を諦めようと思ったり、「自分には才能もセンスもないんじゃないか」って自己嫌悪に陥ったりすることはなかったですか?
meiyo:そこは陥ってないですね。ずっと「いいもん!」って思ってました。2015年からずっと手伝ってくれているスタッフの人がいて、その人が「ワタナベタカシやmeiyoはなにかあるから絶対に続けてないとダメだよ」ということをずっと言い続けてくれて。そうだよなって、彼の言葉をずっと信じてましたね。
meiyoとして音楽性を変えた2020年。ハードディスクが壊れる
―meiyoとしては、2020年4月から音楽性が変化していますよね。そこはどういう想いがあったからですか?
meiyo:2019年7月に『madeal』というCDを出していて、そこに「いつまであるか」という曲が入ってるんですけど。この年の夏に、人生一かも知れないくらい一気に好きになったバンドがいて。なのに、その夏に解散したんですよ。「桂田5」というバンドで。それで「バンドっていつまであるかわからないな」と思って、「いつまであるか」という曲を作りました。僕はそのバンドの人が下北沢でやってたお店によく行っていて、その曲を、その人も喜んでくれたし、お店に来てる人も「これはすごい曲だよ」と言ってくれて、自分の中で超大切な曲になったんです。それがあって、もうこの曲で一旦ベストは出たなと思って。バンドサウンドのカントリー要素のあるロックやパワーポップはやりきったなと。それでバンドサウンドじゃないことをしてみようかなと思ったんですよね。
―なるほど。そのあと、どういう音楽をやりたいって考えるようになったんですか?
meiyo:そこからしばらくフワフワしてたんですけど、2020年頭くらいから打ち込みメインの曲を作り始めて。試しに作ってみたのが、去年4月に出した「KonichiwaTempraSushiNatto」ですね。ただただバンドしかやってこなかったから、「まったく別のことでも自分は評価されるような才能を持ってるぞ。器用じゃない?」というのを見せたかった感じです。
―打ち込みにシフトしようと思ったときにちゃんと切り替えられるのが、ご自身でおっしゃる通り、器用ですよね(笑)。
meiyo:そうですね、って言うのもおかしいですけど(笑)。多分僕、耳がよくて。でも「KonichiwaTempraSushiNatto」は作るのにめちゃくちゃ時間がかかりました。「せめてこれくらいまでは行ってないと、打ち込みの人にも馬鹿にされるし、バンドの人にも器用だねって思ってもらえない」と思って、自分の中で厳し目にラインを設定してて、なんとかそこまで持ち上げようと頑張ったんですよね。打ち込みって、イコライザーをちょっと触っただけでめちゃくちゃダサくなるような繊細さがある作業なんだなってわかりながら、3、4か月くらいずっと細かくいじってました。しかも、「これで完成かもしれない」と思ったタイミングでハードディスクが壊れてデータがなくなってしまって(笑)。
―また「なにやってもうまくいかない」じゃないですか(笑)。
meiyo:もう4か月かけてめちゃくちゃ細かくいじってたから、なんの音色を使ったかも全然覚えてなくて。ちょうどいいタイミングで書き出していた2ミックスだけが別のハードディスクに残ってたので、結局それをリリースしました。だから元のデータはもうないんですよ。「KonichiwaTempraSushiNatto」はパラデータとかあったら、DJの人とかが遊んでくれたりしたかもしれないのに、それもできなくて。
―「KonichiwaTempraSushiNatto」を世に放ったとき、少しは手応えがありました?
meiyo:当時の自分の中では結構伸びた方で。同じ方向性でもう1曲作ろう、作ったものにはちゃんとしたMVを作ってもらってここでハネよう、という気持ちで作ったのが「うろちょろ」でした。ある程度はハネたんですけど、それも「ある程度」で。うわー、結構厳しいなと思ってましたね。そのあとに「机上の空論」という昔からあった曲を、最近知ってくれた人も昔からこの曲を知ってくれてる人も楽しめるような、バンドめいてるけど打ち込みめいてるアレンジにしてみようと思って出したり。いろいろやった去年でした。
「なにやってもうまくいかない」フルバージョン、この音に注目
―そうやって「なにやってもうまくいかない」と創作の苦悩を重ねた上で、ついに「なにやってもうまくいかない」でしっかりとハネることができたわけですよね。まず、サカナクションの草刈愛美さんがベースを弾いてくれることになったのはどういう経緯で?
meiyo:まず、「エンジニアで誰かやってほしい人いる?」ってレコード会社のスタッフさんが聞いてくれて、僕からは自分の頼める範囲くらいしか出てこないので「誰かいますか?」って言ったら、「浦本雅史さんとかいいんじゃない?」って言ってくれて。「めっちゃすごい人に頼むじゃん! メジャーってこうなの!?」とか思って(笑)。しかも、ベースは生に差し替えたいよねという話になったときに、ダメ元で草刈さんに頼んでみようという流れになって、ご快諾いただいて。「メジャーってすごい!」と思いましたね(笑)。
―もともとサカナクションはお好きだったんですか?
meiyo:本当に昔から大好きで。浦本さんが関わる前から聴いてたし、浦本さんがミックスエンジニアになってサカナクションが変貌したのも知ってたから、「あれくらいの変化になるのか」っていうのが想像しやすかったです。まさしくサカナクションもバンドっぽいこともやっていた中で打ち込みやシンセが大胆に切り替わったタイミングがあって、音が全然違ったので、浦本さんはこの切り替わったタイミングの人なんだなって認識していて。だから「meiyoも売れそうな音になってくれるかな」って期待してたら、めちゃくちゃかっこよくて本当にびっくりしましたね。
―浦本さんにやってもらったことで、「なにやってもうまくいかない」はどう音が変わったと感じられていますか?
meiyo:声が全然違いますね。声の位置、置き方。自分でミックスしてTikTokに上げてるバージョンだとあんまり声が聴こえないというか、それぞれが潰し合あってるみたいな感じがあるんですけど。4つ一緒に言ってるパートとかもばっちり聴こえてくるようになったし、その声の位置や響き方がすごくて。データは同じなのに、とにかく声が全然変わりました。やっぱりプロがやると全然違うんだなって。
―草刈さんのレコーディングには立ち会ったんですか?
meiyo:立ち会いたかったんですけど、今のご時世のこともあって立ち会えなかったです。でも、全部伝わってくれましたね。人間っぽさもほしいけど機械っぽくもあってほしいし、生っぽさはほしいけど打ち込みくらいパキっとしてほしいし、1音1音の長さも打ち込みっぽくあってくれないと困るなとか思っていたんですけど、そんなことを伝えたら絶対弾きにくいじゃないですか。だから草刈さんがかっこいいと思うようにしてくださいって頼んだんです。それで返ってきたのが、すごかったですね。なにしたかったか全部お見通しじゃん、って。
―もうひとつ「なにやってもうまくいかない」の音について聞くと、街のザワザワした音を入れてるじゃないですか。あれはどういう意図ですか?
meiyo:よく気づきましたね。最近街のザワザワを入れるの好きでちょいちょい入れてるんです。デュア・リパの曲で、街のザワザワが入ってるものがあって、自分も入れてみようと思ってやってみたらめっちゃしっくりきて。
―ザワザワ音が入ることで、どう「しっくりくる」音に変化するものなんですか?
meiyo:「なにやってもうまくいかない」でいうと、バスドラ、ベース、マリンバみたいな音、チャカポコいってる音、あと最後の方のホーンみたいな音しかないので、単純に帯域がめちゃくちゃ空いてると思っていて。それを埋めるっていう。あと、人って、ザワザワされると嫌じゃないですか。というか、ザワザワしてればしてるほど独りになるじゃないですか。そんなイメージも曲にも合ってるなと思って使いました。
「なにやってもうまくいかない」の歌詞は、思ったことをそのまま書いた
―「なにやってもうまくいかない」という曲自体は、どういう心情のときに生まれた曲でしょうか?
meiyo:今年の3月にTikTokのアカウントを開設して、「うろちょろ」とかがちょっと伸びたのがきっかけでユニバーサルさんからお声がけいただきまして。それからいろいろサポートいただくようになったんですけど、成果を出さないとこのままじゃまずい、ってめちゃくちゃ焦ってたんですよ。早く売れる曲を作らなきゃって。いろいろ作ってたんですけど、思ったようなハマり方を全然しなくて。だから一旦過去の曲とかもアップしてみたんですけど、それもそんなに奮わず。「これはうまくいかない」という気持ちから、本当にそのまま、「なにやってもうまくいかない」というサビが出てきました(笑)。
―心の底から出た本音の表現って、やっぱりとんでもない強度が帯びますよね。
meiyo:ちょうどそのときに『関ジャム』でsyudouさんが「うっせぇわ」を作ったエピソードで、「そのまま吐いた」と言っていたのを見たんですよね。今までもなにやってもうまくいかなかったし、この曲を作るときも「今回もうまくいかないでしょ」みたいな諦めがあって。それに、「うまくいかない」って思ってる人がめっちゃいるだろうなと思って。なんとなく想像できるくらいの人生を歩んでる人が大半だろうし、自分もそうだし、うまくいってる人の方が絶対に少ないよなって。自分はそんなに深い人間じゃないんだからなにか深いことを言ってわかってもらうとかじゃなくて、「うまくいかない」をそのまま言ったら共感してもらえるんじゃないかなって思ったら、共感してもらえました(笑)。
―歌詞の中ではSNSの功罪が歌われているとも思いますけど、meiyoさんは今の時代のSNSをどう見てますか?
meiyo:免許制にすればいいって思ってますね(笑)。免許を取れる素質がある人が使う分には、もう素晴らしいです。ただただアンチとか悪口を言う人がめちゃくちゃ嫌いで。自分が言われるのも嫌だし、見るだけでも嫌なんですよね。大体その歌詞ですね。
―この曲をTikTokにアップしたあとどんどん広がっていく状況を、どういう気持ちで見てましたか?
meiyo:「こうなるんだ」「こうやって流行っていくんだ」って。音楽家としてじゃなくて1人のTikTokを見てる人として、ちょっと他人事な感じで見てましたね。あと、本当になにやってもうまくいかない人ってめちゃくちゃいたんだなって。みんなうまくいってないエピソードとかを書いてくれるし、「この人は全然うまくいってるでしょ」っていう人がこの曲を踊ってくれたりもするし。伸び始めたときに「絶対にこれで事態が好転する」と思ったし、「すごいことが起きてるな」とも思ったので、嬉しいという気持ちはもちろんあったんですけど、他人事みたいに思ってしまっている自分もいますね。
―最初からフルを作る予定だったんですか?
meiyo:最初は19秒だけ作ってて、このワンフレーズが伸びなかったら別に続きはいいかなと思ってたんです。でも「フルまだ?」みたいな感じのコメントをいっぱいもらったので作り始めました。ちょうどその頃から、本当に無視できないぐらいの広がり方になってたのでいいタイミングでした。
―「なにやってもうまくいかない」は、改名前の「ワタナベタカシ」時代に出していた愛すべきダメなおじさん感や人間味と、「KonichiwaTempraSushiNatto」や「うろちょろ」でやった言葉遊び感が、すごくうまくミックスされている1曲なのではと思います。
meiyo:優しい(笑)。そうですね。昔(「ワタナベタカシ」名義時代)から知ってくれてる人がこの曲を聴いたときに、「曲調は全然違うけど、めちゃくちゃワタナベタカシだね」みたいなこと言ってくれて。多分、思ったことをそのまま書いたから「ワタナベタカシ」っぽいんですよね。
―その集大成的な曲でメジャーデビューができるって、すごくいいストーリーですよね。
meiyo:ありがたい。嬉しいですよね。「これだったんだ」っていう。
―今日話してくれたライフストーリーも含めて、全部がこの1曲に詰め込まれている気がします。
meiyo:たしかに。まるっと詰まってますね。意識はしてなかったんですけどね。
―今こうやってメジャーデビューできることに対しては、どういう気持ちが強いですか?
meiyo:まずは嬉しいですよね。ずっとメジャーデビューしたいと思ってたので。でも、これだけ長く音楽をやってると、「メジャーデビューしてもねえ」という声も聞こえてくるし、「メジャーデビューしてたけど」みたいな人とも出会うし。だからメジャーデビューしてる人の華々しい売れ方みたいなのをしたいなという気持ちはありながらも、メジャーデビューできたとしても大丈夫なのかなと思っていた節もありました。ただ自分の場合は、自分だけで作った曲と動画があの伸び方をしてくれたので、すでにこれだけ知られているものをさらにメジャーという力で一緒にやってくれるんだったら、鬼に金棒じゃないですか。このタイミングだったらメジャーデビューがいいものになるだろうなと思って。
―ご自身に答えてもらうのは変だとも思いますが、「なにやってもうまくいかない」人生から一歩前に進むことができたのは、なにが要因だったと考えていますか?
meiyo:なんですかね……アイデアですかね? ずっと小賢しいアイデアで戦ってきたんですよね。侍文化がYouTuberをやったのもそうだし、「これやったら嫌われるかもな」みたいな感じのことにも節操なく手を出してきたので。あんまり偏見がないことかもしれないですよね。
―まさに「なにやってもうまくいかない」の最後の一行<何にもやってないだけじゃない?>に集約されていますけど、そうやって偏見を持たずにアイデアと好奇心と続ける粘り強さを持って行動していれば、「なにやってもうまくいかない」人生でも少しはなにか掴めるかもしれない、というメッセージを受け取りました。
meiyo:うまくまとめてくれてありがとうございます(笑)。
―今後はどういった曲を作っていきたいですか?
meiyo:「なにやってもうまくいかない」は打ち込みっぽい曲なので、全然違うテイストの曲であっと言わせたいというのは野望としてありますね。どんな曲でも「このクオリティで出されちゃ困る!」というふうに思われる曲を、いっぱい出していきたいと思っています。
インタビュー:矢島由佳子
INFORMATION
メジャーデビュー曲
「なにやってもうまくいかない」配信中
「なにやってもうまくいかない」Music Video
プロフィール
日本の音楽家「meiyo」(読み:メイヨー)
2018年に演奏/歌唱/作詞/作編曲を行う「ワタナベタカシ」から活動名を「meiyo」(読み:メイヨー)へと改名しmeiyoとしての活動をスタート。ひねくれ過ぎて一回転、逆に真っ直ぐな歌詞とどこか懐かしさを感じるメロディライン。時代に忘れ去られたアイロニカル・パワーポップを発信中。
2021年にTikTokアカウントを開設しオリジナル曲「なにやってもうまくいかない」の投稿がバズを生み出し、楽曲を使った投稿は4万件超え。TikTok内急上昇チャートでは1位を獲得獲得し、配信前から総再生回数1億回を超えるなど話題沸騰中の今注目のアーティスト。
【各SNS / HP】
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