ジャパン・ツアー初日公演ライヴレポが到着。セットリストをまとめたプレイリストも公開
2月24日に東京・豊洲PITに行ったジャパン・ツアー初日公演について、音楽評論家の増田勇一さんによるライヴ・レポートが到着!
また、この初日公演のセットリストをまとめたプレイリストも公開されました。
■プレイリスト
メガデス、2023年2月24日東京・豊洲PITセットリスト
https://umj.lnk.to/Megadeth_Setlist_Toyosu/
<ライブ・レポート>
2月24日、実に通算17回目となるメガデスのジャパン・ツアー(フェス出演等も含む)が東京で幕を開けた。1987年の初来日時以来、コンスタントに日本上陸の機会を重ねてきた彼らだが、コロナ禍を経てきたこともあり、今回の来日は実に6年ぶりとなる。会場となった豊洲PITには、この日を待ち焦がれてきたさまざまな世代のファンが集結。ツアー初日ということもあってか開演予定時刻を30分ほど経過してからの演奏開始となったが、開演待ちの時間中もBGMが途切れるたびに手拍子が発生するなど、場内が暗転する以前からフロアは充分に温まっていた。そして4人のメンバーがステージ上に姿を見せた瞬間に一気に上昇した場内の熱は、彼らがその場から立ち去るまで一瞬たりとも下がることがなく、終演後もさらなるアンコールを求める手拍子とバンド名の連呼が止まらなかった。
今回のジャパン・ツアーにおける最大のトピックが、2月27日に実現するメガデス史上初の日本武道館公演であることは言うまでもない。ちょうど30年前にあたる1993年の春には、同会場での公演実施が決定していながら中止を余儀なくされた事実もあるだけに、バンドの首謀者であるデイヴ・ムステイン(vo,g)は、これまで「バンドが終わりを迎えるまでに絶対にやらなければならないこと」のひとつとして武道館公演を挙げてきたほどだ。そして今回の同公演では、当時ともにステージに立つはずだった東京在住の盟友、マーティ・フリードマンとの歴史的共演が実現することになっている。しかもそれがWOWOWで生中継・WOWOWオンデマンドで生配信されるのみならず全世界に向けてリアルタイムで配信されるとあって、その一夜に向けて世界中から注目が集まっているのだ。
今回のツアーにおける追加公演として決定したこの豊洲PIT公演については、実のところ、その武道館公演のインパクトの陰にやや隠れがちなところもあった。ただ、今回の全3公演のうち唯一のオール・スタンディング形式での実施となったこの夜のライヴも、まさに完全無欠と言いたくなるほどに満足度の高いものとなった。デイヴの両脇にはキコ・ルーレイロ(g)とジェイムズ・ロメンゾ(b)、そしてその背後にはダーク・ヴェルビューレン(ds)。今回はこの布陣での初めての日本公演でもあるが、そのライヴ・パフォーマンス全体を通じて何よりも強く感じられたのは、バンドが現在、すこぶる良好な状態にあることだった。
これから武道館公演、さらには大阪公演を控えているだけに、具体的な演奏曲目をこの場に記すことは控えておくが、本来ならば30年前の武道館公演で確実に披露されていたはずの往年の代表曲群から、2022年を代表する名盤との誉れ高い最新作『The Sick, the Dying… and the Dead!』からの楽曲に至るまでが惜しみなく網羅された演奏内容になっていた。しかもドラム・ライザーの両脇にLEDスクリーンが設えられたステージセットは、完全にアリーナ仕様といえるもの。巨大なロゴが描かれたバックドロップや、効果的に噴出するスモーク、そしてファンにはお馴染みの名物キャラクター、ヴィック・ラトルヘッドの登場なども含め、まるでアリーナ規模のショウを3,000人規模の会場で観ているかのような感覚でもあった。あくまでアグレッシヴでインテレクチュアルな演奏と、それをさらに際立たせるエンターテイニングな要素。現在の彼らのライヴは、その両方を兼ね備えているのだ。デイヴやキコのみならず、ジェイムズやダークもまた、演奏面のみならずステージングの面でも目を引く存在であるという事実も見逃すわけにはいかない。そうした点も含め、ステージ上の4人がまさに理想的な位置関係にあるのだ。
しかし他のどんな要素よりも注目を集めるのが、デイヴ・ムステインという唯一無二の存在であることは言うまでもない。トレードマークともいえる白いシャツに身を包んだ彼の一挙手一投足にオーディエンスの視線は釘付けになっていたはずだし、誰もが彼が発する言葉を聞き漏らすまいとしていたことだろう。そんな中、デイヴが数日前に知ったという「情報解禁前の、ある嬉しい情報」について口にしてしまう一幕もあったが(その内容については後日改めて正式にご報告するとしよう)、そうした場面からさえ、今現在の彼が内面的な意味においても充実している状態にあることがうかがえた。
すべての演奏終了後、熱が冷めないままのオーディエンスに向かって笑顔でピース・サインを掲げ、深々とお辞儀をし、クルーからバスローブを着せられてステージから去っていったデイヴ。その際、場内にはシド・ヴィシャスのヴァージョンによる「My Way」が流れていた。そこに深い意味はないのかもしれないが、この人物が歩んできた長い道程の意味するものの重さを感じずにはいられなかった。「それが私の道だった、それが自分のやり方だった」とすべての過去を認め、今現在を謳歌しているその姿が、多くの人たちの共感とリスペクトを集め続けているのも当然といえるだろう。
そして彼の歩んできた道が2月27日、初めて日本武道館という地点に到達することになる。その歴史的瞬間を、我々日本のファンは絶対に見逃すわけにはいかない。この夜のステージに触れて、改めてそう実感させられた。実際、終演直後、チケット売り場には武道館公演の席を求めて並ぶ人たちが殺到していたという。約束の地での再会に向けての期待感は、高まるばかりだ。
文:増田勇一
Photo by Ryota Mori