BIOGRAPHY

クリス・バワーズ

ピアニスト、クリス・バワーズは、ジャズ界に現れた最も新しく、且つ最も輝かしい光の一つだ。ジャズとクラシック音楽を学び、1990年代のラップやヒップホップで育ち、この数十年の偉大な映画音楽作曲家にインスピレーションを受けたバワーズ。彼のサウンドは伝統的な音楽に根付いているものの、新たな世紀に向かっていく中で音楽を新鮮で活気溢れるものにし続けていくためのありとあらゆる外的影響に対してオープンだ。この豊かで折衷的な感性は、デビュー作、『ヒーローズ+ ミスフィッツ』の一つ目の音符からして明白だ。
バワーズの音楽的感性は、彼が「日の目を見る」前から形作られていた。彼の両親は、彼がまだ母親のお腹にいた時にお腹にヘッドフォンを当て、発達過程にあった彼の意識に直接優しいジャズを聴かせていたと言われている。これはほんの始まりにしかすぎなかった。
1989年にロサンゼルスで生まれたバワーズは、スティーヴィー·ワンダー、アース·ウィンド&ファイアー、タワー・オブ・パワー、マーヴィン·ゲイ、そしてその他のオールド・スクールなR&Bやファンクなど御用達の両親に育てられた。4歳の頃には鈴木メソッドでピアノの基礎を学び、9歳になる頃にはプライベート・レッスンを受けていた。ミドル・スクール時代には、ラジオから流れるポップスを聴くだけで、そのメロディとハーモニーを拾い、即興ラインを演奏するまでに彼の耳は開発されていた。
彼の両親がレトロな感性を持っていたにも関わらず、バワーズは1990年代のラップやヒップホップに傾倒した。加えて、彼はハワード·ショア、マイケル・ジアッキーノ、ジョン·ウィリアムズ、ダニー·エルフマン、ジョン·パウエルや他の著名な映画音楽作曲家に惹かれるようになった。取り囲まれていた多様な音楽の世界に触発されながらも、古典的な訓練の制限に不満を感じていた彼は、ピアノをやめると両親を脅し、その両親は彼にジャズのレッスンを受けさせることで対抗した。
「ジャズのレッスンを受け始めたとき、何か違うことをやっているような気がして、それである程度は自分を宥めることができた。ジャズの自由さが気に入ったのだ。でも実は、私が10代の頃に聴いていた音楽を含め、ポピュラー音楽の殆どはジャズとブルースから派生したものだったのだ」とバワーズは語る。
ロサンゼルス・カウンティ・ハイスクール・フォー・ジ・アーツに通いながら、コルバーン・スクール・フォー・パフォーミング・アーツでクラシックとジャズの授業をとっていたバワーズにとって、ハイスクールは複数の音楽を並行して学ぶ時期だった。コルバーンで最も古株の学生に導かれた彼はオスカー·ピーターソンのソロ作品を発見し、同時にLACHSAのカリキュラムの一環として多くのジャズ・フェスティヴァルで演奏した。
「私のハイスクールは、ボストン、ミネソタ、それにカリフォルニア北部などで、多くのフェスティヴァルに参加し、ツアーもした。ミドル・スクールの頃からギグに参加していたので、ハイスクールの頃には、音楽、特にジャズの道を歩みたいとはっきり分かっていた」と、彼は語る。
ハイスクール卒業後、2006年にジュリアードで学び始めた。ニューヨークに行った彼は、学校に通いながらもジャズ・ミュージシャンとして生計を立てることができると気づいた。彼はエリック・リード、フレッド・ハーシュ、フランク・キンブロー、そしてケニー・バロンに師事した。
「ハイスクールでの経験がそのための準備として役立ったと思う。だからこそ、押しつぶされるようなことにはならなかった。既に慣れていたことだったので、突然大きな一歩を踏み出すようなことではなかった」そうだ。
バワーズはジュリアードで学士号を取得、映画音楽の作曲に基軸を置きながら、ジャズ・パフォーマンスの修士号のために大学に留まった。2011年9月、彼はワシントンD.C.にあるケネディセンターで望んでいたセロニアス·モンク国際ジャズ・ピアノ・コンクールで優勝。プログラムの共同チェアマンにはマデリン・オルブライト、クインシー・ジョーンズ、デボラ・リー、そしてコリン・パウエルら、審査員にはハービー・ハンコック、エリス・マルサリス、ジェイソン・モラン、ダニーロ・ペレスそしてリニー・ロスネスが名前を連ねた。
それから一年後、彼はリンカーン・センターで開催された2012年NEAジャズ・マスターズ賞授賞式での演奏者に選ばれた。彼は、ジャズの巨匠ベニー・ゴルソン、ウィントン・マルサリス、フランク・ウエス、そしてリンカーン・センター・オーケストラと共に、ウェスの「マジック」を演奏した。
バワーズはジャズ・アーティストと捉えられているものの、ジャズと言うジャンルの伝統的な境界の外に出たり、他の形態の音楽に手を出したりすることを恐れたことはない。彼は、2011年にヒップホップ·アーティストのジェイ・Zとカニエ・ウェストによるコラボレーション・アルバム『ウォッチ・ザ・スローン』でもそのパフォーマンスを披露している。加えて、最近では、農業における遺伝子工学の時代に自然発生する種の保全についてサンディ・マクラウドが描いた2013年ドキュメンタリー作品『シーズ・オブ・タイム』のスコアを作曲。バワーズは、ホセ・ジェイムズとのツアーも、マーカス・ミラーやアレサ・フランクリンともコラボレーションも経験している。バワーズは、コンコード・ジャズから2013年2月にリリースされたネクスト・コレクティヴの『カヴァー・アート』でもフィーチャーされている。
『ヒーローズ+ ミスフィッツ』は、バワーズを才能溢れるセクステットの一番前に立たせ、本作を、ジャズの伝統にしっかりと根付きながらも折衷主義的な音楽の時代を反映させる音楽と作曲スタイルのショーケースとなる野心的なデビュー・アルバムに仕上げている。
彼は言う、「このアルバムが何らかの形で人を感動させられるものになっていることが私にとって大事なのだ。良い気分になろうと、悲しい気持ちになろうと、或いは何かを思い起こさせられようと、とにかく聴いた人がすぐに何らかの反応をするような作品であれば、と思う。この音楽が人々を助けるもの、特に私の世代の人たちを助けるようなものとなり、彼らの中に秘められた可能性と力を気付かせるものとなればと思う。彼らの無限大の可能性に対する楽観的な見方をもたらすものになってほしいと思うのだ」と。