<ライブ・レポート>ポール・スタンレーズ・ソウル・ステーションズのライブ・レポートが到着!
KISSのフロントマン、ポール・スタンレーが1月11日、六本木のビルボードライブ東京にて彼自身にとって今年初の公演を行なった。ただし、KISSのコンサートではない。彼自身が率いるプロジェクト、ポール・スタンレーズ・ソウル・ステイションとしての初来日公演である。
その名前からも察することができるように、このプロジェクトで彼が歌うのはソウル・ミュージックの歴史的名曲群。しかも今日的なアレンジを加えるのではなく、先達への敬意を込めてあくまでオリジナルに忠実に演奏することを方針としている。ビルボードライブでは一夜に二回公演を行なうことが通例となっており、しかもオーディエンスは着席状態で飲食をしながら観覧するという前提があるが、KISSの公演ではあり得ないそうした設定のもと、この夜、ポール自身も含め総勢13名による大所帯のプロジェクトは約80分に及ぶ熱演を重ね、会場を埋め尽くした観衆を魅了した。
この公演はこの先も同会場、さらに週明けにはビルボードライブ大阪でも継続されるものだけに、具体的な演奏曲目について触れるのは躊躇いをおぼえるところだが、この夜の二回のステージを通じて、KISSの楽曲が披露されることは皆無だった。演奏されたのは、ポール自身が敬愛するザ・テンプテーションズ、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、スタイリスティックス、アル・グリーンやスピナーズといったソウル・クラシックスのカヴァーのみ。しかし、名曲と呼ぶに相応しいものばかりが百戦錬磨のミュージシャンたちによりプレイされ、しかもいつもの来日公演では客席から遠く離れたところにいるポールがごく間近なところでそれを歌うのだから、ファンが満足感をおぼえないはずはない。「僕のことを愛してくれている人はどれだけいる? ソウル・ミュージックを知っている人は?」という彼の言葉から始まったステージは、敬意と愛情に満ちた、とても心温まるものだった。
ポール自身も「これは僕のバンドではなく、僕もまたこのバンドの一員なんだ」と語っていたが、彼とステージを共にするメンバーは、クリスティーナ・アギレラやピンク、ホイットニー・ヒューストンのミュージカル・ディレクターを務めてきたアレッサンドロ・アレッサンドローニをはじめ、経験豊富なつわものばかり。3人の歌い手についても、ポールは「バックアップ・シンガーではなく、シンガー」と紹介していたが、実際、各々がソロ・パートをとる場面も設けられ、そこでも場内の熱は冷めることがなかった。しかも、彼の背後でドラムスを演奏するのはエリック・シンガー。ポールは「僕とジーン・シモンズを除いて、誰よりも長くKISSに貢献している人物」と彼を紹介していたが、今回の公演は、エリックの普段とは違った側面を垣間見させてくれる機会にもなった。
ポールは「音楽は、食べものと同じようなもの。いろいろな音楽を聴くべきだ。ソウル・ミュージックは、魂と情熱の音楽であり、人種を限定するものではない」、「1977年から日本には来ているが、この国には大きなハートを持った人がたくさんいる。ハートから生まれたこの音楽は、皆さんにきっと響くはずだ」と語っていた。事前のインタビューでは「素晴らしい歴史的名曲が、優れたミュージシャンたちにより演奏されるのを目の当たりにする機会が失われるべきではない」とも発言していたが、全編通してエンターテイニングであるばかりではなく、そうした彼のある種の使命感めいたものも感じられた一夜だった。ポールはこの先には、ソウル・ステーションとしてのアルバム制作も考えているという。この機会に是非、この究極的ロックスターのもうひとつの顔に触れてみて欲しいところだ。KISSのファンであるか否かにかかわらず。
増田勇一(音楽評論家)
■セットリスト
ポール・スタンレーズ・ソウル・ステーションズ 2018年1月11日(木) 1stステージ
PAUL STANLEY’S SOUL STATION SET LIST
ゲット・レディ(Get Ready) / ザ・テンプテーションズ
ララは愛の言葉(La La Means I Love You) / デルフォニックス
はかない想い(Just My Imagination) / ザ・テンプテーションズ
レッツ・ステイ・トゥゲザー (Let’s Stay Together) / アル・グリーン
ほほを流れる涙(The Tracks of My Tears) / スモーキー・ロビンソン
帰ってほしいの(I Want You Back) / ジャクソン5
ベイビー・アイ・ニード・ユア・ラヴィン(Baby I Need Your Loving) / フォー・トップス
ダンシング・イン・ザ・ストリート(Dancing In The Street) / マーサ&ザ・ヴァンデラス
ウー・ベイビー・ベイビー(Ooh Baby Baby) / スモーキー・ロビンソン
涙をとどけて(Signed, Sealed, Delivered I’m Yours) / スティーヴィー・ワンダー
ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ(Betcha By Golly Wow) / ザ・スタイリスティックス
フィラデルフィアより愛をこめて(Could It Be I’m Falling In Love) / ザ・スピナーズ
ウー・チャイルド(O-o-h Child) / ザ・ファイヴ・ステアステップス
ザット・レイディ(Who’s That Lady) / アイズレー・ブラザーズ
Photo: Masanori Naruse