BIOGRAPHY
KEANE / キーン
2019年2月、サセックスの奥にある小さなスタジオでキーンが閉じこもっている ー そこには17個のキーボードが設置されており、レスキュー犬が走りながら中に入ったり出たりしている、そしてフロントマンのトム・チャップリンが新曲の一見純真なタイトル「Put the Radio On」から耳に残るような歌詞「あなたが嘘をついたら、僕も嘘をつく、嘘がつきやすくなる」を歌っている。アップビートな雰囲気で活気のある曲だが、トムが座ってこの事について話し始めると、全く違うものになっていたかもしれない、と露わにした。
2013年にベルリン・ショーのフィナーレでバンドが退場した時、もう一緒に音楽を作ることがあるか、分からなかったという。「もうこれ以上できるか分からなかった」と明かした。キーンは学生時代、幼馴染同士でバンドを結成してから、これまで約20年間一緒に活動してきた。全世界で1300万枚のアルバムを売り上げ、4枚のスタジオ・アルバム、EP、そしてベスト盤『ザ・ベスト・オブ・キーン』をリリース、ブリット・アワードを二度、アイヴァ―・ノヴェロ・アワードを受賞し、そしてデビュー・アルバム『ホープス・アンド・フィアーズ』がイギリス史上トップ40ベスト・セリング・アルバムに選ばれた。リオデジャネイロから台北まで、30ヶ国もの地でツアーを回り、ウェンブリー・スタジアムからサタデー・ナイト・ライヴまで、様々な場所でパフォーマンスを行ってきた。
それだけに留まらず、小説家のブレット・イーストン・エリスは、『パーフェクト・シンメトリー』を「完璧な、興奮だらけのポップソング」と絶賛し、また、アーヴィン・ウェルシュは、「アトランティック」MVのディレクション担当を自ら選んだ。ファレルも自分のスタジオにキーンを招き、キーン大ファンのリリー・アレンは、若い世代に絶大な人気を持つ「サムウェア・オンリー・ウィー・ノウ」のカヴァーをした。
だがトム・チャップリンは自ら曲を作り、ソロ・アルバムを出したかった。その為に、ティム・ライス=オクスリーがメインで作詞・作曲をしているキーンでの活動を休止したのだ。「前みたいに、キーンの妨げにならない為にでもあるが」とトムは言う。結婚もし、父となった。そしてある日、彼は自身に問いかけていた、キーンの事を考えながら;そしてティムの事も。「何でこんなにも不思議で大事な関係を自ら離してしまったのだろうと思うようになった」と説明している。それでティムに連絡を取り、会う予定をした。再会の上で、ティムが自身のソロ・アルバムにあたって新曲のコレクションを録音したことを明かす。トム、次にリチャードとジェシーが聴き、楽曲的にも歌詞的にも、その新曲コレクションに彼らはすぐさま惹かれた。
これまでにも感情的な曲を作ってきたティムだが、今回の曲は違う。愛と欲望と大失敗の物語をもっと深く、心の底から曲にしている。だが面白みも取り入れながら、痛みも感じる曲だ。互いの人生で起こっていることや、やり残してきたことを全く知らない彼らだったが、今になって理解するようになっていったのだ。
ティム自身も言うように、「『ホープス・アンド・フィアーズ』も失恋ソングのアルバムだったが、それは自分が19歳の時の失恋話だ。失恋ソングも少し変わってくる - 歳をとり子どもができると、世界が一変するからね。」
この曲に足りなかったものは、ある一定のヴォーカルだった。「キーンのレコードとして考えてもいなかった」とトムは言う、「愛から生まれた曲を、ただ友達のために歌いたかった」。一方で、他のメンバーは心配していた。「この曲を聴いて、やばい、これは結構難しいところがあるなと思ったことを思い出すよ」とベーシストのジェシー・クインが打ち明ける。「メモを書いたんだ」とリチャードが付け加える、「これはできるか分からない、手に負えないと書いたんだ。」だが、トムは、絶対やり遂げた方がいいと信じていた。「今まで聴いてきた曲の中で、最も個人的で繊細な曲たちだなと思った - でもそこに凄く惹かれたんだ、だってそこから良いものって生まれるものだから」と、にんまりしながら言った。
「自分の人生をさらけだすのがいつも怖かったんだ、確か最初に麻薬依存でリハビリに入ったニュースが出たときは、さすがに堪えたよ。自分から真実を伝えられない気がしてね。でもこの過去数年で、そしてソロのレコードを作っていく中で、自分をもっとさらけ出して繊細さを見せた方が面白くなるってことが分かったんだ」
このような流れでバンドメンバーが再会し、4人とも全員、意味のあること、新しいことを一緒にできることに興奮していた。数か月の没頭のすえ、キーンが新スタジオ・アルバム『コーズ&エフェクト』を発表する時が来た。9月20日に、アイランド・レコードからロンドンとサセックスで録音された11曲をリリースする。
9月のイギリス・ツアーに乗り出す前に、2013年以来、初めて今夏、ワイト島、ロビー・ウィリアムズと共に英国サマータイム、コーンベリー、グラストンベリーなどのフェスティバルに出演する。
「僕たちは、ただ単に再集合した訳ではないってことに気づいたんだよ」とドラマーのリチャード・ヒューズは言う。「20年前に解散したバンドが最後のツアーをするために再結成してるとか、お金の為とかじゃないんだ - 伝統継承活動じゃあるまいしね」、とティム。「僕たちには、創造性に満ち溢れた曲が沢山つまっているんだ」。