<期間限定掲載>10/8開催『ニッポン放送 imagine studio 2018 永遠の名作「imagine」の真実』イベント全文

2018.11.16 TOPICS

ピース 又吉がジョン・レノン「imagine」を語る!!
10月8日に行われたイベント『ニッポン放送 imagine studio 2018 永遠の名作「imagine」の真実』全文を期間限定で掲載します!
(掲載期間:12月10日まで)


ピース 又吉がジョン・レノン「imagine」を語る!!
『ニッポン放送 imagine studio 2018 永遠の名作「imagine」の真実』

10月8日(月・祝)開催 抽選で選ばれた120名のリスナーと名曲を堪能

 

上柳 今日は「John Lennon Spirit Foundations:ニッポン放送 imagine studio 2018 永遠の名作『imagine』の真実」にお越し頂きまして本当にありがとうございます。今日の簡単な進行を務めさせて頂きますニッポン放送「上柳昌彦 あさぼらけ」という早朝の番組を担当しております、元ニッポン放送アナウンサーの上柳昌彦と申します。
本日は、ジョン・レノンの名曲から付けられましたニッポン放送の“imagine studio”にてデカイ音で『imagine』を堪能していきたいと思います。ということで素敵なゲストの方にお越し頂いております。ピース又吉直樹さんです。

又吉 今日は楽しみにしてきました。よろしくお願いします。

上柳 そしてもうお一人ご紹介します。音楽評論家、プロデューサー、そしてディスクジョッキー、萩原健太さんです。

萩原 こんにちは、よろしくお願いします。

上柳 今日はアルバム『imagine』を見たり聞いたりするイベントですが、お二人から今日の意気込みや来場されたお客さんにメッセージをお願いします。

又吉 僕はジョン・レノンが亡くなった1980年に生まれてるんで、ジョン・レノンの作品は後追いで聞いていました。ジョンは子供の頃からなぜか気になってしまう存在で、屈折し過ぎてまっすぐに見えるのか、常軌を逸したまっすぐだからちょっと屈折して見えるのか、そういう掴み所のないところに惹かれているんやろな と思います。

上柳 では萩原さんお願いします。

萩原 今日は、天才の名作をデカイ音で楽しむという家ではできないことを皆さんと分かち合えるということで楽しみに参りました。よろしくお願いします。

上柳 又吉さんは最初に『imagine』を聞いたきっかけはなんだったんですか?

又吉 たぶん最初に聞いたのはラジオですね。そのあと中学校ぐらいでビートルズを聴き始めて、その流れでジョンのソロにも手を伸ばしていきました。

上柳 そうやって後追いで聞いた方もいらっしゃるし、私や萩原さんのように同時代で聞いたことのある方もいらっしゃいますが、萩原さん、この『imagine』が出た1971年っていうのはどんな時代だったんでしょうか?

萩原 1970年の暮れにジョンがビートルズ解散後初のアルバム『ジョンの魂』を出して、それが赤裸々な感情や心の奥底にあるものをぶちまけるような激しいアルバムでした。『imagine』が出る前に「Power to the People」っていうみんなで社会を変えようっていう強いメッセージを込めた曲も出したりして、その流れで出たのがアルバム『imagine』。その前にはシングルの「imagine」が出たんですが、「Power to the People」っていう強い曲のあとにしてはソフトなサウンドで非常にユートピア的で理想的な世界のことを歌っていて、ジョンってこんな感じにもなるんだっていうことをリアルタイムで思っていました。今ではジョンといえば「ソフトなサウンドで平和を願う人」みたいなイメージがあるんですが、当時のジョンのイメージはワイルドなロックンローラーだったので、そんな人がこんなソフトなサウンドの曲を出したっていうのが強かったですね。

上柳 又吉さん如何ですか?

又吉 『imagine』ってアルバムは僕らから聞いたら社会的なメッセージが結構含まれていて、過激さみたいなものが中にはあるなぁと思いますけどね。

萩原 「imagine」って曲ばっかりが有名なので、もしアルバムを聞いたことがない方がいたら意外だと思うんですが、アルバムの中には色んなジョンがいるんですよね。本当に平和を祈っているジョンもいれば、自分の奥さんの名前を連呼して好きだー好きだーという曲もあったり。自分のことを情けないっていう曲もあれば、兵隊になんかなりたくない俺は戦争なんか行きたくない俺は死にたくないっていう歌があったり、ジョンの心に渦巻いている色んなものが時には反発しあい、時には絡み合っている感じなんですよね。

上柳 ここで『イマジン:アルティメット・コレクション』「Jealous Guy」の映像を見ようと思うんですが、この曲はどんな曲ですか?

萩原 この曲は、「僕は君のことを傷つけるし本当に酷いことをしちゃったかもしれない、僕はただただ嫉妬深い男なだけなんだよ」っていうことを吐露してる曲なんですよね。

上柳 それでは「Jealous Guy」です。

上柳 「Jealous Guy」ご覧頂きました。又吉さんいかがでしたか?

又吉 お酒飲みながら映像見てたら泣けてたかもしれないですね。なんでしょうね、あの声。感情を言葉よりも明確に伝えてくれる声ですね。

萩原 歌詞以上に伝わってくるものがありますよね。

又吉 ご本人の日常の生活がそのまま詩に反映されているんですか?

萩原 物語を作って自分がその主人公になって歌うタイプの人も結構いますけど、ジョンの場合、特にこの時期はプライマル・スクリームという原初療法という精神的な治療で。

上柳 横になって精神科の先生の質問を受けながら自分の奥底にあるものを出していく治療方法ですよね。

萩原 抑圧されてる記憶を解き放て、っていう治療を受けてたあと、本当の自分を見つめていた時期ですね。

上柳 映像には日本庭園も映ってましたが、あれは日本じゃないんですよね。アメリカにロックフェラーさんという大金持ちがいますが、そのお宅の中らしいんです、そこを無断で撮ったって書いてましたね。

又吉 無断っていうのはすごいですね。そこの人からしたら「え?うちで撮ってるやん!」ってなりますよね。

会場 (笑)

上柳 ジョンさんが30歳とか31歳のころに撮られたものですね。

萩原 ロックというカルチャーが過激なことを主張するいわゆるヒッピー的な人の中では「Don’t Trust Over 30」、「30歳以上のやつは信じるな」って言われてたんですよね。ビートルズがそれを牽引してきたんですが、そのビートルズがついに30歳になってしまった!どうなるの?!っていう時期でもあったんです。「She Loves You」みたいな曲を歌ってる場合じゃないよっていう気持ちがジョンにもあって、歌詞の内容も変わってきた時ですね。

又吉 ヨーコさんに対する感情みたいなものもあるし。

萩原 そうですね、ヨーコさんの影響も大きいと思います。変な意味にとられて欲しくないんですが、ヨーコさんってロックンロールとかはよく分かってないんですよ、なぜならもっと前の世代の人なんです。出会った頃にはビートルズを聴いたことなかったとも言われてますけど。ただジョンにしてみると、それまでロックンロールが全てだったけど、それ以外にも素晴らしい文化やアートがいっぱいあるじゃないかと、そういうことを教えてくれたのがヨーコさんだったんですね。

上柳 ちなみにこの頃のヨーコさんは38歳前後ですね。

又吉 今の僕ぐらいですね。映像で見ると若いですよね。

萩原 カッコいいですよね。

上柳 今回リミックスということですが、具体的にはどういうことをされたんでしょうか?

萩原 『imagine』の曲をマスターテープからバランスを取り直すっていう作業をしたんですね。ヨーコさんが主導する形でポール・ヒックスというエンジニアが、今の時代にあう音像で作ったんです。ヨーコさん主導のリミックスって今までにもありましたが、ヨーコさんにしてみると「ジョンの声がそのまま聞こえればいいのよ」、という感じで、他の余計なエフェクトとかを取り払っちゃう傾向があったんですね。なので今回も少し心配していたんですが、ポール・ヒックスはオリジナルの『imagine』の音世界に敬意を表して、その手触りは変えないで今の時代に通用するような作業をして今回のものが出来上がったんですね。

上柳 リマスタリングはお笑いとか文学とは接点がないようですが。

又吉 そうですよね。現代に最適化させるっていうことだと、一から書き換えないといけないですよね。

萩原 現代語訳的な形ですよね。

又吉 そういうことですよね。ジョン・レノンっていう人物自体は変えようないじゃないですか。僕たちとか、僕たちより下の世代の人たちが、今の視点でどういう人なのかを見ていく、その視点でみたら面白いなっていう普遍的なものがあるんでしょうね。

ビートルズの最後の頃ってジョンは長髪だったじゃないですか、あれって僕ら世代が若い時にはちょっとダサいんです、でも僕はそれがすごい好きで。

萩原 又吉さんもそういう髪型してましたよね?

又吉 そうなんです。あの感じがなんかいいんですよね。

上柳 ピースといえば、「想像してごらん」っていうシリーズがあって、「imagine」のピアノのイントロを使いながら、「想像してごらん」って言うネタありましたよね。どんなのがありましたっけ?

又吉 「荻窪のない西荻窪を」とか言うてましたね。

会場 (笑)

上柳 「色のないカレーライス」とかもありましたよね。

又吉 「辛くもなく、色もなく、具のないカレーを」って言うと綾部が「お湯です」って。

会場 (笑)

上柳 そのネタをやるにあたって「imagine」に対する想いとかはあったんですか?

又吉 もちろんジョン・レノンの「imagine」とかジョン・レノンっていう人物が大好きっていうのもあったんですけど、オノ・ヨーコさんの「グレープフルーツ」っていう詩集を10代の頃に読んで衝撃を受けたんです。この詩集に触発されてジョンは「imagine」を書いたって聞いて読んだ時に、世界中の時計を2秒ずつ早めるか遅らせるかとか、隠れんぼで隠れ続けてみんなが帰ったあとのとか、夕暮れの中に立ってて自分が透明になるまでとか、そういう感覚は僕にとって凄い衝撃でした。シュールな言葉の前に、「想像してごらん」って、「想像しなさい」っていう言葉があることが凄く重要やな と思うんですね。読み飛ばさないというか、それがあることによって言葉の意味を自分の中でイメージできるっていうのか。今思うと人の力に頼りすぎてるネタではあったんですけど(笑)

萩原 でも又吉さんはそのメッセージをちゃんと受け取ったということじゃないですか。

又吉 そうですね。色々想像してほしいなっていう、僕も色々想像しましたし。

上柳 ジョン・レノンの人間性について又吉さんはどういう風にとらえていますか?

又吉 真っ直ぐな人やなっていう。皮肉も言ったりするんですが、ここまで感情を出せるっていうのは気持ちいいなっていう。さっきの曲にしてもロックンロールをやってた時に何かしらの鎧を脱ぎ捨てた生身の自分の弱さをさらけ出すのは勇気がいると思うんですけど、それもできるところも含めてたまんないですね。

上柳 健太さん、『imagine』はレコーディング風景を撮らせてますよね。ジョンがイラついてたり、タバコ凄い吸う姿も映っていますね。

萩原 ビートルズ時代はジョージ・マーティンっていうプロデューサーがいて、その人の指示を受けながらレコーディングをしていたわけです。で、『imagine』は今でいうところの宅録の規模がでかいものですね。ジョンの邸宅にミュージシャンを集めて、その中で作り上げたアルバムですね。

上柳 結構オノ・ヨーコさんが意見を言って、ジョンもそれを聞いてるんですよね。

萩原 そこがジョンの良いところですよね。ジョンも当時は凄くヨーコさんに感謝していたと思いますよ。ジョンはビートルズの時から少し引いたところで皮肉っぽく物事を眺めてクールに音楽を作っていましたが、そうじゃなくて、もっと物事のただ中に身を置けと、そういうことを教えたのがヨーコさんだったと思うんです。。その良し悪しは別として、ジョンにとっては大きな発見だったと思うんです。

上柳 今度は『imagine』から音で聴いてもらいます、大変なんだよ、色々あるんだよ、ということを歌っています。「It’s So Hard」です。

又吉 歌詞カードを見ながら聞いてたんですが、「生きなきゃならない、愛さなきゃならない、偉くならなきゃならない、突っ込まなきゃならない、でもキツいんだ。本当にキツんだ」。若い頃って自分は何者かになれるはずだとか、何かに選ばれるはずだって思ってみんな生きていると思うんです。でもジョン・レノンみたいにビートルズで全てを手に入れたと思われる人からが「しんどい」っていったら、「お前が言うな!」と非難されるんですよね。その中でこういうことを言ったのは勇気がいったんだと思うんです。
僕、デビューして間もない頃にテレビ見てたらキャイ〜ンさんとかダチョウ倶楽部さんが出てて、僕からしたらスターなんですね。でも彼らが「来年どうなるかわからんから不安」っていうのを言っていて、絶望的な気持ちになりましたよ。ここまでいっててもまだそんな風に思うんやって。自分より苦しい人がいっぱいいるのはもちろんわかるんですけど、でもそれでみんながそれぞれ持ってる痛みをなかったことにせなあかんのかって。それはそれで嘘臭い世界やなって思うんで、ジョンの言ってることもわかるんです。

萩原 社会背景を考えると60年代の終わり頃ってある種の共同幻想が盛り上がってロックの世界はカウンターカルチャー的なものを一つの旗印にして世の中を変えられるんじゃないかっていう共同幻想があって、そのピークが69年頃なんです。ウッドストックフェスに40万人の若者が集まってコンサートをやって。あの頃が一番盛り上がったんだけど結局ダメで、70年代にはいるとともに挫折、当時の言葉でいうと”白け”って言われるものとか、非常に個人的な、当時の言葉でいう”ミーイズム”の世界に入ってくるんです。その頃には音楽もみんなに訴えかける曲から、あなたと自分の関係だけを歌うようなものに変わっていって、ジョンも自分の心の中にある押さえつけてきた感情を非常に赤裸々に吐露する。これは新しい時代に対応した表現を探そうとしていてカッコいいですよね。

又吉 一方でガッカリした人もいたんですよね?

萩原 そうですね。ビートルズのあの感じがなくなっちゃった!って言ってる人は未だにいますよね。

上柳 『imagine』が出た1971年がどんな時代だったのか改めて年表を見たんですが、前の年に大阪万博があって、11月に三島由紀夫さんが割腹自殺したんですよね。71年になってアメリカと中国の関係がまだまだわかんなくてキッシンジャーっていう大統領補佐官が極秘で中国に行っていて今の北朝鮮の情勢と似てるんだなぁと。次の年には日本と中国が国交を結ぶっていう時代だったり。次の年72年の2月に連合赤軍が浅間山荘に立て篭もったとか、政治の生々しい時代でしたね。

萩原 ジョンも「Power to the People」を出した時のジャケット写真では日本の過激派のヘルメットを被っていたり、ロックと政治的なものが結びついていたんですが、その行為は砂漠に水を巻くようなものだよっていうことをだんだんわかり始めた時期で。この時代に自分がどんなメッセージを歌に託すのかはアーティストにとって重要だったんですよね。

上柳 ベトナム戦争はどんどん泥沼化して解決までに時間がかかりましたし、日本では学生の学費闘争から始まったものが過激になりはじめて袋小路にはいって殺人事件になる。そんな時にでた曲ですが、この時はケンスコットというところでレコーディングをしたあとにニューヨークにいって環境を変えましたよね。これはどういう心境だったんでしょうか。

萩原 ヨーコさんにとってニューヨークが本拠地的なところもあったとも思いますし、表現し易い町だったというのもあると思います。

上柳 又吉さんは大阪でサッカー好きな文学を読み漁るような青年でしたが、お笑いの世界でやってみようと東京にこられましたよね。くるりの「東京」という曲が好きだったり、「東京百景」っていう太宰治の「富嶽百景」とか「東京八景」とかにインスパイアされたエッセイも又吉さんは出されていますがが、場所を東京に変えたっていうにはどういう心境でした?

又吉 まず、実家を出たかったっていうのが大きかったですね。自分がこんなことやりたいって考えてる時に「直樹~ご飯できたよ!」って言われてる場合じゃない。俺の孤独とあわへんって。

会場 (笑)

又吉 思春期の頃だったんで(笑)。もうちょっとたってたら実家やったら色々できたなーって思うんですけど、この頃は一人になって自分の本物の孤独や何もできないっていうものを感じていたいって思ってて。学校で孤立してもあんまり寂しいとか思わない人で、でもそういう集団の中の嘘の孤独は、みんながおる中での一人やからいけたんですけど、東京に来たら本当に一人やから怖くて。でもそれが逆に良かったです。

上柳 アルバイトしながらですよね。

又吉 アルバイトの面接に凄く落ちて。コンビニの面接行ったら声ちっさいって言われて。変な意味じゃないんですが、受けたコンビニが吉本の養成所の近くだったんで交通費が浮くなって思って受けて落とされたんです。養成所に近いんでそこにはよく通ってたんですが、僕が面接受けた1、2週間後にインドの留学生が…

会場(笑)

又吉 彼は凄く優秀なんですけど、接客業だと日本語使えるっていう圧倒的なアドバンテージがあるにもかかわらずに彼にも負けたんか、っていうそれまでもコンプレックスになるっていう時期で。これも大阪から離れたから感じられたことかなと思いますね。

萩原 ジョンも住み慣れたところから離れて表現を変えたいっていう時期で、このあと『Sometime in New York City』っていう問題作を出します。ちょっと勇み足し過ぎたアルバムになっているんですがそういうのも必要っていうのはあったのかもしれないですね。

上柳 さて、明日10月9日っていうのはジョン・レノンの78回目の誕生日で、新しい写真集「イマジン~ジョン&ヨーコ~」が明日全世界同時発売されます。世界初公開の写真が満載で『imagine』がどうやって作られたのか奇跡の九日間、制作現場やドキュメンタリー、それに関わった方々に対するインサイドストーリーの決定版のようです。
さて、次に聴いて頂く曲「Oh My Love」にいこうと思いますが、1971年のジョンとヨーコっていうのは映像を見るとわかりますが蜜月っていう感じですよね。

萩原 ビートルズの『Let It Be』という映画をご覧になった方は多いと思いますが、あれを見ていればわかりますよね、ジョンはメンバーのところにいないですもんね。ヨーコさんといちゃついているだけ、みたいな。でもジョンにとってヨーコさんは本当に大きい存在だったと思うんです。それがビートルズにとって変な化学反応を起こしてしまったことがあったかもしれないけれど、ジョン・レノンっていうアーティストにとってはそれが必然だったと思うし、それで素晴らしい曲を出してくれたんだと思います。その人への愛情表現ですね。

上柳 さて、健太さんにジョンとヨーコさんの関係を聞いてきたわけですが、それを聴いて又吉さんいかがですか?

又吉 本人の本質っていうのは変わりっこないじゃないですか、でも付き合った人の力によって今までにない表現、力を手に入れるっていうのは凄く重要なことなんじゃないかなって思ってて。僕、中学の頃からロックとフォークが好きですっと聞いてきたんですけど、20代前半でお付き合いした人がヒップホップ好きだったんです、すぐXLのダボダボのTシャツ買いに行きましたらからね。そういうので自分が次のステージにいく、でも元々の根本は残ってるからなんか新しくなるんじゃないかって思う時期だったんです。

上柳 次に聴いて頂く「Oh My Love」は、アルティメイト・コレクションのTake 2のエレメンツ・ミックスなんですが、色々あるヴァージョンから一つ選んで頂いたんですね。

萩原 このアルティメイト・コレクションの中にはエレメンツ・ミックスは4つ入ってて、そのうちの3つはその曲の中に入っているストリングスだけ取り出したもので、「Oh My Love」だけはジョンの歌声だけを抜き出しているアカペラヴァージョンなんですが、結構来ますよ。

上柳 ボーカルだけのヤツはちょっと来ちゃいますね。

萩原 来ますよね、ヨーコさんにとっては究極のものですね。「あなたのお蔭で目も心も広く開くことができたんだ」っていうメッセージをヨーコさんにだけ歌ったものが残っているっていう。

上柳 47年前の歌声なんですが、それを感じさせない、そしてなんとも切ないですね。さて、又吉さんっていうと太宰治っていう読みつくしている作家がいますよね。その太宰とジョン・レノンとの近しい点があるんじゃないかって打ち合わせの時にスタッフが聞いたと言っていましたがそのあたりを教えて頂けますか?

又吉 共通点はいっぱいあると思うんですけど、ジョンの俯瞰で見てるのをどんどん寄って行って個人の何かに落とし込んだのが太宰っぽいなって。太宰の視点を引いていったら同じものを見ていたんじゃないかなって。二人とも凄いストレートな表現もするし、屈折した表現を使うっていうところも似ているし、情けないところも。太宰の短編とか一人で酒飲みながら読んでると泣いてまう時があるんですが、ジョンもそれと凄い同じ感覚になりますね。太宰に対して、読んでると俺やったらわかってやれたかもしれへんっていう勘違いを勝手にしてしまうんですが、ジョンの歌を聴いててもそういう気持ちになってしまうんですよ。そういうのが色んな人の心に刺さる何かがあるってことなのかなって。僕は太宰を尊敬しているって思われるんですけど、それより中学校の時に太宰に触れて、こんな人自分以外におるんや、自分の弱さみたいなものをここまで明確につかんで、みんなもそうなんって思わしてくれたっていう意味でそういうのが好きなんです。ジョン・レノンもそうで、ジョンの感覚も自分って別に特別な人間じゃないんじゃないかなって思えたんです。

上柳 ここで明日発売になる写真集『イマジン~ジョン&ヨーコ~』、ずいぶん分厚い本で、又吉さんに見て頂いたんですよ。そしたら誰も気づいていないことを又吉さんがあれって気づかれて。これがまた太宰と関連する話で。

又吉 ビックリしたんですけど。

(ポストカードがうつる)

上柳 これは当時の『imagine』についていたポストカードですね。

萩原 皆さんがお持ちの日本盤のやつは、ポールが羊と戯れているのを皮肉ってジョンが豚と戯れてるやつですね。実はアメリカ版には別のやつが入っていて。

又吉 これはベックリンという画家の絵なんです。女神的な女性がいて、木があってその後ろに岩があって、化け物が吹いてる笛の音だけが聞こえている絵なんですが、音符とか化け物の顔とかはジョンの落書きですよね。その化け物を自分に見たてていると思うんですよ。

上柳 顔のところに自分の写真を切って貼って、それをポストカードにして色んなひとにそれで手紙を書いているっていうのがこの写真集にさりげない1枚として掲載されていたんですが、それを又吉さんが「あっ」って気づかれたんですよね。

又吉 ベックリンの絵や、って思ったんです。その50年ぐらい前、太宰もベックリンの絵が大好きでベックリンの画集をずっと持ってたらしいんですよ。太宰がベックリンのこの絵をさして、「本物の芸術家っていうのはこういうもんや」っていうのを短編の中にも書いていて、小野才八郎っていうお弟子さんに言ってたんですって。綺麗な人たちが聴いている陰に隠れたところで音楽を奏でる、これが真のかっこつけてない芸術家のありかたやっていうことを。太宰も、この化け物に自分を重ね合わせてたんですよ。その事実をおそらく知らないジョンもやっぱりこのベックリンの化け物に自分を重ねているっていうのが凄く面白いなって。
僕はなんとしても太宰が言ってる芸術家の絵に該当するのがどの絵か知りたくて全作品集を探したんですけど、日本やと売ってないんです。神保町と下北の仲の良い古本屋と紀伊国屋本店と4か所ぐらい信用できる本屋さんに頼んで、探してくださいって頼んだらみんな国内にはなかったって言われて。でも、その一か月後ぐらいにみんな優秀やから海外も探してくれて、それで日本にないベックリンの画集が僕の家に5冊ぐらいあるんですよ。

会場(笑)

又吉 凄い無駄なことを、しかも一冊だけでも凄い高いし(笑)。探して頂いたのに、もうあったんでいらないですって言えないので全部買い取らなって買い取ったんですけど、その画集で太宰の文章に該当するやつを探していったら化け物も出てくるし女性もでてくる、文章的に該当するのはおそらくこれやろうと。僕もこの絵は好きやから、僕もこの絵を自分で絵葉書にして知り合いに手紙書いていたんです。文字で見てるときは「岩陰に隠れて」とか、「木に隠れて」とか書いてるからこの化け物はもっと目立たない場所に描かれていると思ってたんです。でも、めちゃくちゃ目立つとこにおるやんって。それも太宰っぽいなって思うんです。自分はそういう存在っていってるけど、他から見たら目立つっていう。ジョンもこの絵に共感したっていうのが二人はどっかで感覚的に近いところがあったのかなって思います。

上柳 凄い大発見ですね。

萩原 この鼻の形みて、これ俺かな、みたいな風にジョンは思ったんですかね。

上柳 今のお話しであがった、太宰治の短編「15年間」の該当部分をちょっと読んでみましょうか。太宰は彼の思う芸術家についてこう書いています。

「ベックリンという海の妖怪などを好んで描く画家のことはどなたもご存じだと思う。あの人の絵はそれこそ少し青臭くて、決していいものではないけれど、たしか芸術家と題する1枚の絵がある。それは大海の孤島に緑の葉が茂った樹木が一本生えていて、その木の陰に体を隠して小さい笛を吹いている、まことにどうにも汚らしい変な生き物がいる。彼は自分の汚い体を隠して笛を吹いている。孤島の浪打際に人魚が集まり、うっとりその笛の音に耳を傾けている。もし彼女が一目その笛の音の主の姿を見るならば、「きゃっ」と叫んで悶絶するに違いない。芸術家はそれゆえ、自分の体をひた隠しに隠してただその笛の音だけを吹き送る。ここに芸術家の悲惨な孤独な宿命もあるのだ。芸術の身を着られるような真の気高さ、なんといったらいいのか、つまり芸術さ。そいつがあるのだ」

又吉 さっきジョンがロックンローラーやった時からだんだん自分を見つめていくようになっていったということと、少し違うかもしれないですけど。たぶん太宰は最初こういう化け物的なもので自分のコンプレックスを表現するんだっていうことをやっていたけど、この「15年間」のその後に続いていくくだりでは太宰が世に出て、ちょっと有名になってきてサロン的なところに出入りするようになって、「言ってたことと全然違うことをやってるしょうもない男は俺ですよ」っていうことを自虐的に書いているんですよね。これはある意味、太宰の芸術家っていうのはこうあらねばならないということだと。

萩原 もともとはそう思ってたけど、弱さに変わっていくんですね。

又吉 そういうことまで、似ているんですよね。

萩原 そう思うと、「How Do You Sleep」っていう曲はファンの方にお馴染みのポール・マッカートニーという人に対しての愛憎渦巻く気持ちをぶちまけてる曲なんですが、その中で「お前は綺麗な顔してるだけじゃどうにもならないぞ」みたいなことを言っていたり、「お前の作る曲はつまんないBGMのようにしか聞こえないぞ」とか、お前のかあちゃんデベソ的な罵詈雑言をポールに対してぶちまけてる曲なんです。その中に、太宰が書いているうわべだけ綺麗にしたってどうしようもないんだっていう、そういうところも入っている感じがしますね。

又吉 つながってる気しますよね。

上柳 「How Do You Sleep」にはジョージ・ハリスンも参加しているんですよね。この時ジョージはどんな気持ちで罵詈雑言の歌に参加したんですか?

萩原 作ってる時に、ジョージもリンゴもいたんです。元ビートルズの3人がいたんですが、あまりにも歌詞が酷いんで、リンゴが「俺もうだめだわ」っていなくなって、でもジョージはビートルズの最後の頃、ポールと一番仲が悪いメンバーで。『Let It Be』っていう映画をご覧になるとわかりますが、あそこで「I’ve Got A Feeling」っていう曲を練習している時に、ジョージはずっとポールから、「違う違う、ダメだダメだ」って怒られてるんです。つまり世界にむけて怒られてるんですよ。なのでジョージはポールが大っ嫌いだったわけなんですよ、「Wah-Wah」っていう曲をジョージは後に作ったりしてるぐらいの時だったんで、むしろジョンを煽るかのような演奏ですね。今回のアルティメイト・コレクションの方に実際の完成ヴァージョンのストリングスで仕上げたのじゃなくて、もっと生々しいロックっぽくてジョージの気持ちも乗っかったような素晴らしいヴァージョンも入っているんで、是非それも聞いて頂きたいです。

上柳 「How Do You Sleep」の中ではポールのソロのデビュー曲の「Another Day」ですらぼろくそに言われていて、あの曲好きなのにって思った記憶があります。

萩原 「お前が残したのは“Yesterday”だけだ」っていう。

上柳 アルティメイト・コレクションのディスク2、テイク1&2ヴァージョンのストリングスのない生々しい「How Do You Sleep」をどうぞ

上柳 さて残すところ1曲になりましたが、会場のお客さんの中で質問をしてみたい方っていらっしゃいますか? では一番後ろの女性の方。

お客さん こんにちは。母親がジョン・レノンを大好なので、自分の名前がレノンっていう名前なんですけど、自分の子供ができた時にいい名前はありますか?

上柳 ちなみにレノンさんは漢字ですか?

お客さん 『Mind Games』のジャケットに書いている漢字で、「玲音」って書きます。

上柳 もし、あの方にお子さんが生まれた時に名前は何がいいでしょうか?

萩原 マッカートニーとかいいじゃないですか。

会場(笑)

上柳 マッカートニーって漢字で当てたら暴走族みたいになりますよ。

又吉 可愛らしいですけどね、マッカートニー。

萩原 やっぱりジュリアンとかショーンとか。

又吉 長男にマッカートニーってつけたら、やっぱりビートルズをコンプリートしたいですよね。

萩原 夢の再結成ですね。

又吉 リンゴちゃんだけ一人で学校行ってても気づかれへんけど、兄弟の名前紹介した時に初めてわかる。そのリンゴやったんやっていう。

会場(笑)

萩原 ハリスンちゃんとか大変ですね。

又吉 ふざけてるわけじゃないんですけど。

お客さん 大丈夫です(笑)

又吉 でも玲音ってかっこいい名前ですよね。

お客さん ありがとうございます。

上柳 自分でも成長するにしたがってその名前の意味を思い始める時期があったと思いますがいかがでしたか?

お客さん そうですね。ビートルズを聴いて育っていますが、中学生の頃に自分から進んで聴いてみようって思ったら改めて自分の名前を誇れるようになりました。

上柳 素敵な御両親ですね。参考になったかどうかわからないですが、いろいろ考えたいですね、ジョンが語ってきたフレーズって山のようにありますし、そこからいい言葉をみつけるのもいいかもしれないですね。

お客さん いいフレーズ探してみます。

上柳 ではもうひとかたぐらい。/p>

お客さん 「imagine」についてですが、この曲っていうのは反戦・平和のメッセージっていうとらえ方をされていると思うんですが、昔から歌詞を見て非常に不思議だったのは、冒頭の「頭の上の天国なんかない、地獄がない、足元にはただただ地球があるんだ」っていうところに引っかかっていて、この曲は単純な反戦・平和のメッセージじゃないんじゃないかと思っていまして、スピリチュアル的な感じがするんですがいかがでしょうか?

萩原 決して彼は反戦歌として書いたわけじゃないと思うんです。ポールに「お前なんか死んじゃえ」なんて歌っといて、何言ってんだっていう気もしますが、そういう人間の弱いところを含めたことを描くために、人間が作り上げてしまっている色んな概念を一つずつ「そんなものない状態を想像してみたらどう?」っていうことを言っているんだと思うんです。反戦歌のようにとらえられてるわりには9.11の後、アメリカでは放送禁止になっていて、「天国なんてないって想像してご覧」っていう言葉が宗教的におかしいんじゃいかっていう話になっていたりする。単純な平和を求めているんじゃなくて、人間が勝手に作り上げてる色んなコンセプト、一つ前のアルバムに入ってる「God」っていう曲は神なんて人間が自分の痛みをはかるために勝手に作り上げた概念だ、っていうことを彼は歌っていたわけで、それと根っこは同じなんじゃないかって思うんですね。人間が何かを楽に考えるために、作り上げている宗教や政治とかそういったものに対して疑問を投げかけている。そういうものがなかったらっていうメッセージだと思うんですよ。

上柳 又吉さんはいかがですか?

又吉 僕もほぼ一緒なんですけど、ついつい時代のムードとか、今はこう考えるべきだという主張があったとして、みんながあまり情報を得ずにそれにのっかる。で、それが嫌な人はそれに対する一番おっきくて正当性がありそうな反対意見にのっかるって。でもそれは最初から準備されてる思考の流れみたいなものにのっかってて、自分はそういう風に考えてるっていう錯覚に陥りやすいと思うんです。想像力っていうのは僕も大事やと思ってて、道徳っていうのはあるけどそれをほんまにみんなが信じていたとしても、どうしても道徳では突き破れない壁のようなものがあったりしたら、「え、嘘やったん」って傷つくんです。でも実は用意された考え方の間があるんですよ。全部グラデーションになってて各々違う考え方があって、それをどう乗り越えていったり、解釈していくか。高速道路と有名な国道だけの思考や主張しか許されてないけど、ジョンとかオノ・ヨーコさんが「想像してごらん」って言ってるのは実はそういう高速道路も国道も全部同じような道だし、そもそも道すらないと思うように生きる、それを想像してごらんって促してるのかなって僕は思うんです。

上柳 あいまいなものが許されなくて、善か悪か、白か黒か、っていう時代ではありますが、本当にジョンという人が生きていたら、今の時代にどんな曲を作っていたのかって思うわけですが、お時間でございます。最後にこの曲を聴いて頂きます。「imagine」です。

上柳 ということでアルティメイト・コレクションの発売に際してのヨーコさんからのメッセージです「アルバム『imagine』は世界中の子供たちへの溢れるほどの愛と心遣いをもって作られたアルバムです。みなさんに楽しんでいただけると嬉しいです」ということですね。詞というところからみても、又吉さん、ここがいいという部分はありますか?

又吉 そうですね。いっぱいありますね。ポールにあてた曲のなかで、「眠れるかい?」っていうフレーズの中にはギャグっぽいものを感じるんですが、でも恐ろしいぐらいに辛辣ですよね。ポールが不安になってしまうぐらいに。その中で、なんで「ジョンはお前が作ったなかでいいのは“Yesterday”だけ」っていう一文を入れたんかなって、それが入っていることによって他の悪口もほんまなんやっていうリアリティが増すんですよね。そこもジョンらしいなって感じました。

上柳 健太さん、今日は皆さんと一緒になって聴いてきましたがいかがでしたか?

萩原 『imagine』はヨーコさんと一緒にいた時期のジョンの最高傑作だと思うんですよ。このままいって『Double Fantasy』の中で「Watching You」っていう物事から一歩身をひいたところから歌いたいっていうことをもう一度歌い始めていたんで、そこからまた違うジョンがスタートしたと思うんです。そこに至るまでのジョンの中ではあらゆる意味で最高傑作なんだろうなっていうことを感じましたね。

上柳 今日は皆さんと一杯やりながら又吉さんと健太さんとお話しをお伺いしたかったなっていう会でございました。じゃあ最後の最後に一言ずついただけますでしょうか?

萩原 「imagine」っていう曲を聴いて未だに思うのは、僕らは自分が思う理想のこと、本当にこうあって欲しいっていうことを僕らは口にしていけばいいだと思うんです。それを実現する人は別にいていいと思うし、そういう人には頑張って欲しいし、僕らは正直にこういう社会であってほしい、こういう世の中であってほしい、こういう自分でいたいっていうことを口にしていけばいいじゃないかって。このアルバムを聴く度に思うので、この音楽を大事にしていきたいと思っております。

又吉 僕も想像するということを止めないようにしていこうと改めて思いましたね。あと、綾部も元気です。ニューヨークにいますんで、お二人が住んでた近くのバーとかにたまにいってるらしいんで。

上柳 ということで時間となりました、ピース又吉さん、そして萩原健太さんでした。


■ イベントタイトル : 『ニッポン放送 imagine studio 2018 永遠の名作「imagine」の真実』
■ 開催日時 : 2018年10月8日(月・祝) 午後3時~ (無料招待イベント)
■ 開催場所 : ニッポン放送 イマジンスタジオ
■ 出演 : 又吉直樹(お笑い芸人・作家)、萩原健太(音楽評論家)
■ 進行 : 上柳昌彦(ニッポン放送「上柳昌彦 あさぼらけ」パーソナリティ)