JAZZ-ON! Mini Album「Invisible Chord 1st」 オフィシャル・ライナーノーツ
01. Invisible Chord 1st(智川翔琉, 堂嶌燎, 行田光牙&神条優貴)
アルバムの表題曲であるとともに、『JAZZ-ON!』第二部の幕開けを飾る1曲目。第一部の最終アルバム『開闢≠Beginning』に収録された2曲がProject始動とともに公開された楽曲であったことを踏まえると、『JAZZ-ON!』の新規楽曲としては実に1年近くぶりのものとなる。長いブランクを経た新曲だが、一聴して「『JAZZ-ON!』が帰ってきた」と感じられる。
冒頭の生々しいトランペットから、なだれ込むマイナー調の楽曲。ブラスやホーン、アコースティックなピアノやベースに彩られた楽曲は、第一部で形作られた『JAZZ-ON!』らしさ、そしてSwingCATS らしさを踏襲しながらも一層パワーアップしている。特に2番のサビ後のソロ回しは、演奏自体の面白みに加え、歌う4人の関係性、互いに対する想いが垣間見える。
歌詞の面では大きな変化が見られる。第一部では物語としてもまだ大きな動きは見られず、抽象的な歌も多かったが、本作ではこれまで以上に彼ら自身の内面や向き合う物語にフォーカスした詞となっている。
アップテンポな楽曲でありながら、どこか哀愁を帯びた歌詞。明るい未来だけを歌っているわけではないが、「変えられない過去を抱えて、それでも前を向く」といった決意表明のようだ。
作品のことを知っていればこそ、クスッとしてしまう言葉遊びも古参ファンには嬉しい。
大サビを経て、曲終わりにはお馴染みのフェイクも用意されており、最後まで飽きさせない。これから始まる波乱の予感を噛み締めながら、最後まで駆け抜ける楽曲だ。
02. Lead Your Sound(智川翔琉&鳴海ロラン)
きらびやかでキャッチーな表題曲とは打って変わって、ベースとフィンガースナップから始まる硬派な楽曲。
クールなイントロに乗っかるのはトランペットとテナーサックス――この楽曲は、智川翔琉と鳴海ロランという、両部を率いるリーダー同士のシンメトリーにフォーカスが当てられている。
過剰な装飾を削ぎ落としたストイックな楽曲は、まるで二人のむき出しの感情そのもの。演奏と歌は徐々に熱を帯びていく。「シンメ」にフォーカスした本楽曲では、ドラマトラックに負けないほど、二人の思いが溢れ出している。
まるで異なる想いを抱えながらも部活のメンバーを集めた部長同士。ゼロから部活を作るのは、生半可な覚悟ではないだろう。その強い想いを時には真正面からぶつけ合い、あるいはキャッチボールのように対話する姿は、正にジャズ・ミュージシャン同士のセッションに重なる。
生々しいテイストの楽曲はSwingCATSが得意とするところ。Aメロで口火を切るのはSwingCATSを率いる智川翔琉だが、むしろ星屑旅団を率いる鳴海ロランが相手の土俵に踏み込んでいき、仕掛けているようでもある。
AメロBメロと掛け合いを続けてきた二人が辿り着くサビでは、同じメロディーをユニゾンで奏でる。時に対立し、ライバル同士の立ち回りもする二人だが、根底にあるジャズ=音楽への情熱は同じなのだ。「Lead your sound=自らの音を導け」と互いを鼓舞する二人。部員に囲まれながらも時に孤独に陥る「リーダー」の二人だからこそ分かり合える情念がここにある。
03. Ebony & Ivory(堂嶌燎&天城輝之進)
黒鍵と白鍵――決して離れることのできない運命であったはずの二人は、けれど、今はSwingCATSと星屑旅団に袂を分かった。
伝統を重んじる堂嶌燎と自由を愛する天城輝之進の対象的な幼馴染の二人もまたシンメトリーの関係にある。
広い空間に響く、深いリバーブのかかったピアノは、これまでのジャズオンとは少し毛色が違って聴こえるかもしれない。背景に流れる機械的で電子的なリズムセクションが、均質な時間の流れを強調する。
生々しさと機械的な要素があいまった楽曲は、「SwingCATSと星屑旅団」という垣根を超えた第二部ならではのものだ。
止まることなく流れる時の中で、ピアノを弾きながら、睦まじく語り合う二人。
間奏のピアノに重なる二人の声は、まるで言葉にならない想いを表しているかのようだ。
間奏を経た後の掛け合いは熱量を増していく。激しく感情的な魂の声と演奏は、放っておけばどこまでも熱く熱く、盛り上がっていくことだろう。
けれど、二人は、それぞれの主義主張を曲げることはできない。
水面に起こった波紋がまた静まり返るように、夢のようなひとときは終わりを告げる。
最後に今一度繰り返されるAメロに乗る歌詞は意味深長に聴こえる。
美しくしっとりと終わりゆく楽曲の最後の一音は何を暗示しているのか。
物語の中で、その答えは明らかになるのだろうか。不意に訪れる不穏な空気の余韻を残して、本アルバムの楽曲パートは終わりを告げる。