JAZZ-ON! Mini Album「Invisible Chord 2nd」 オフィシャル・ライナーノーツ
01. Invisible Chord 2nd(武宮大和, 依吹青, 九鬼暁& 星乃レイ)
タイトルの通り、1月に発売された「Invisible Chord 1st」のバージョン違いの楽曲である。第一部では「星屑旅団ジャズアレンジバージョン」として、楽曲を様々にアレンジするジャズらしさが描かれていたが、本楽曲の登場で、実際に『JAZZ-ON!』の楽曲同士で聴き比べができるようになった。
アニメのキャラクターソングでも、「同じ楽曲でメインボーカルが違うキャラクター」という形でリリースされることはある。しかし、本作では単にボーカルが差し替わるに留まらない。詞曲は確かに同じなのだが、聴き味は全く異なる。「2nd」の冒頭はドラムソロがフィーチャーされ、ABメロではコード進行が変更されているなど、「1st」を聴き込んでいればいるほど、様々な違いが発見されるはずだ。
「1st」は華々しい『JAZZ-ON!』の復活を告げる楽曲だった。テクニカルな伴奏に、勢いよくバンド全体を引っ張るドラムやベース。個性豊かに各パートがぶつかり合いながら一つの形を作り上げる構成は、「はじまり」に相応しいアレンジだった。「2nd」でフィーチャーされるのはブラスとホーンの管楽器隊だ。メロディからハーモニーまでを奏でる管楽器に、鍵盤やベース、ドラムスが溶け合う様子は、よりビッグバンド的/コンボ的なアンサンブルが強調されている。「1st」と比べ、より一層ジャズらしく感じる向きもあるのではないか。
「アンサンブル感」は、演奏中の想いが声となっているという歌唱パートにも現れている。伸びやかな依吹青の高音と、全体を下支えする大黒柱のような九鬼暁の印象的な低音。(演奏楽器の音域とは逆の声質なのが面白い。)二人の間で彩りを添える武宮大和と星乃レイの声色は、いずれも特徴的な音色だ。同じ歌詞でも込められた想いも違う。
間奏のソロ回しにおける四者四様の台詞はいずれも思わせぶりで、ドラマトラックを経て聴き直すことで面白みが増すものとなっている。物語の展開も気になるところだが、この楽曲を深く聴き込んでからドラマトラックへと歩みを進めるのも一興だ。
互いに昔馴染みの「1st」の面々とは違い、SwingCATSの名の下に集った、背負うものも目指すものも異なる4人。その個性が交わり合って生み出されるハーモニーは、繰り返し聴くことで新たな発見があることだろう。
02. agitato(九鬼暁& 九鬼煌真)
イントロでガツンと掴まれる。どこか穏やかさも感じさせたM01とは打って変わって、ロックなギターとサックスの掛け合いから始まる本楽曲は、『JAZZ-ON!』が扱う「ジャズ」の広さを表している。ほどよい「抜け」がジャズらしい大人の音楽を演出する。しかし、敢えて徹頭徹尾全力で奏でる、ぶつかる、見せつける。若い衝動に身を任せた、マイナー調の疾走感が溢れる楽曲は、九鬼暁と九鬼煌真のシンメトリーな兄弟によるものだ。
冒頭から早速始まるサックスの掛け合いはまるで「バトル」そのものだ。お互いに引くことなく、主役を譲ることなくぶつかり合う。支えるディストーション・ギターやきらびやかなシンセブラスは、往年のジャパニーズフュージョンを思わせる。サビの16分音符と三連符が入り混じったテクニカルな譜割りをバンド一体になって「キメ」る部分や、大サビ後の派手なコード進行の変化など、これでもかとテクニックを見せつける楽曲は、ジャズリスナー以外にも分かりやすく響くだろう。
あくまで大人の音楽、硬派な音楽、ミュージシャンのための音楽としてジャズを捉えるならば「やりすぎ」にも思える。しかし、九鬼兄弟が分かり合うためにはやりすぎるしかなかったのだ。
歌詞では、互いに確執があることは描かれていたものの、直接ぶつかることはなかった兄弟の想いが描かれている。本作のM04以降のドラマトラックでは2人がようやく対話することとなるが……こと楽曲においては、「演奏中の想いが言葉になる」ため、口下手な暁と彼を避ける煌真の二人が、雄弁に語り合っている。音楽を通してでしかぶつかることすらできない不器用な兄弟の衝突は、ドラマトラックの補助線としても有益だ。
会話のキャッチボールをしているようで、絶妙に噛み合っていない互いの言葉とは裏腹に、サビのテクニカルなメロディをユニゾンして歌いこなすなど、音楽としての相性は抜群だ。それ故に些細なすれ違いが大きな摩擦となる……熱い曲調に身を任せ、頭を振って酔いしれた後には、繊細な想いのやり取り、細かな演奏の技を改めて味わうと、楽曲の新たな側面が見えてくることだろう。
03. crossing notes(依吹青& 氷室奏斗)
M02と同じく管楽器奏者二人のシンメによる楽曲。同じように左右に二人の楽器が振り分けられているが、印象は大きく異なる。本楽曲を奏でるのは依吹青と氷室奏斗。同じ学年、同じクラス、お互い少し後ろ向き……通じ合う二人。一方で、自らSwingCATSの門を叩いた依吹青と、鳴海ロランに「嵌められて」星屑旅団に参加した氷室奏斗は、決定的に違うとも言える。
ミドルテンポな楽曲の上で、台詞とも歌詞ともつかない想いが声として溢れ出す。静かな楽曲は、一聴して『JAZZ-ON!』のメインストリームの楽曲ではないようにも聞こえる。しかし、2番のリズミカルな歌唱や、サビのメロディアスなフレーズは健在だ。これまでの『JAZZ-ON!』楽曲の直系にあることが分かるだろう。
ゆったりとした曲調の本楽曲は、順当にアレンジするならば、よりしっとりした、メロウな雰囲気の「泣かせる」方向も考えられるだろう。けれど、そうはなっていない。生音の管楽器(氷室は本曲では、フリューゲルホルンに持ち替えている)と二人の声、打ち込みのリズムが、いずれも均等に扱われた楽曲は、欧米のコンテンポラリーなジャズを参照しているのだろう。リスナーに過度に寄り添わず、若干の聴きづらさすらも許容し、硬質な空間の中に響く生々しい二人の音を味わえる。
また、本楽曲はこれまで二人が奏でてきた楽曲を踏まえると一層楽しめる。依吹は『Now or never』『ふたりのバラード』では先輩に対して「ジャズへの愛」「変わりたいという願望」を歌ってきた。氷室は『千本桜』『Exodus from 東京エンダーメフィスト』では一貫して「ジャズ以外の出自の」「自分の好みの楽曲」を奏でてきた。変わりたいと依吹と、自分らしさを貫く氷室。その二人の音色が五線譜の上で交わる。
同じくサックスとトランペットのシンメである智川翔琉と鳴海ロランによる「Lead Your Sound」や、九鬼兄弟のM02「agitato」では、ぶつかり合いの色が強かったが、この楽曲は互いに高め合う、響き合う、溶け合う印象が強い。互いに響き合いながら、徐々に高まっていく熱。所信表明にも思える歌詞を歌い上げる二人の演奏を経て、波乱のドラマトラックが幕を開ける。