Biography
今年英国で最も熱い話題となった2つのギグでサポートを務めたことも手伝い、これをお読みの方は既にもう、ジェイク・バグ(Jake Bugg)の名前はお聞き及びのことではないかと思う。その2つのギグとはつまり、ロンドンの”ヴィレッジ・アンダーグラウンド”で行われた、ストーン・ローゼズの極小規模なシークレット・ライヴと、その1週間後にロンドン北部カムデンは”ディングウォールズ”で行われた、ノエル・ギャラガーのキャリア史上最小会場でのソロ・パフォーマンスだ。10月以降、ノエルはジェイクを従えて、2012年の残りのツアーでヨーロッパやアメリカ他を回る予定となっている。
だが、ここではっきりさせておこう。ジェイク・バグは、”太いコネ”を使った口利きで、このような有利な状況を築いてきたわけではない。では一体どうやって? この世に生を受けてからこれまで18年間のほとんどを彼はノッティンガムで過ごし、ロンドンへ足を運ぶようになったのは、レコード会社から注目されるようになった後のこと。ジェイクの名前を業界内で広めた手段はただ1つ、その素晴らしい楽曲だったのである。
彼はこう言って肩をすくめる。「ノエルが僕の曲を手に入れて、それを聴いて気に入った、ってだけなんじゃないかな」
これは本当のことだ。そしてノエル・ギャラガーとストーン・ローゼズだけではない。これまで彼は英国中で精力的に活動を行い、曲を披露し、行く先々で新しいファンを獲得し続けしてきた。11月に予定されているマンチェスターとロンドンでのヘッドライナー公演は、多くの要望により、キャパの大きな会場に変更されている。またデビュー・アルバムのリリースは、前倒しが決定。人々の需要の高まりからこのような変更が成されるなんて、今の時代では聞いたことがない。この現象がどういったことと関連しているのか、ジェイクにははっきり分かっている。「褒め言葉はあまり気に留めていないんだけど」とジェイク。「でもライヴの後、色んな人が僕の所に来て言ってくれることの中で一番共通してるのは、『新鮮だ』ってことなんだよね。世間で『ギター音楽は死んだ』と言われる度に、その時こそギター音楽が復活する時だって気がするんだよ。人々はギター音楽に飢えてると思う。もっと大勢の人が、シンセをいじる代わりに、ギターを手にし始めるようになってくれたらいいね」
昔ながらのやり方にジェイクがインスピレーションを受けるようになったのは、割と現代的なメディアがきっかけ。アニメ『シンプソンズ』のエピソードがそれだ。「(番組の中で)ドン・マクリーンの『ヴィンセント』がかかってね」と、回想するジェイク。「で、『あの曲、何ていうのかな?』って思ったんだよ。そこから僕はとにかくその曲を弾きたくなり、そして同じような曲を自分で書きたくなった。僕にとって全てが始まったのは、ホント、そこからだったんだ」
そこから彼は、誰もが1つの曲にすっかり惚れ込んでしまった時にするのと同じ行動をとった。つまり、その由来を辿っていくことである。YouTubeを通じて、彼はマクリーンの他の作品を探索し、更ににバディ・ホリーやリッチー・ヴァレンスへと遡りながら、そういった偉大なソングライター達の究極の源泉を探究。彼はそれに夢中になっていった。「今どきの音楽を聴くようになったのは、その後だったんだ」とジェイク。「初めてアークティック・モンキーズを聴いた時のことは憶えてる。あまりピンとこなかったんだよね。『これってツボど真ん中じゃん、スゴイよ』と思い始めたのは、もう少し年をとってからだった。しばらく時間がかかったんだ」
「14歳くらいの時に」叔父のアコースティック・ギターを弾くようになった彼は、他の人々の楽曲を習得した後、自作曲を試し始めるように。手応えを感じられるものが生まれてきたのは、それから間もなくのことだった。実際、彼のデビュー・アルバムに収録されている最も素晴らしい曲の1つ、「Someplace」は、この頃書かれたものだ。彼のあらゆる曲を特徴づけている、独特のメロディ。それを紡ぐ紛れもない天賦の才能が、このメランコリックな美しいバラードでは余す所なく発揮されている。「バンドもいくつか経験してきた」が、彼がソロ向きであることは、彼自身にも周囲の人々にもすぐに分かった。「ホントの所、僕はずっと、自分1人でやりたいなって思ってたんだよね」とジェイク。「割とすぐに軌道に乗り始めたから、ありがたいことに、そういう形で落ち着いたよ」
ジェイクがレコード会社と契約してからまだほんの1年かそこらしか経っていないが、多作な彼は、一刻も無駄にすることなく本格的な活動に取り掛かった。自身の名を冠したデビュー・アルバムのためにレコーディングした曲は膨大な数に上るが、それは現在までに14曲までに絞られている。例えば「Two Fingers」という曲の一節を聴いてみてほしい。そうすれば彼の立ち位置がすぐに分かるだろう:「旧友に会いにクリフトンに帰る/この人生で出会った最も素晴らしい奴ら/太いタバコを一本巻いて/FBIから身を隠すんだ」。突き詰めればこれは、人生の現実からの逃げ道として音楽を用いている曲であり、それは彼の曲の大部分に流れているテーマでもある。「Taste It」では、彼は「頭を未来でいっぱいにする」ことを望み、また「この上ないくらい生きてると実感」していることを表現。デビュー・シングル「Trouble Town」は、クラシックなブルースの歌詞のようだ:「減速バンプの街で立ち往生/この街で胸が躍るのは、出て行くことを考えてる時だけ」
「曲の多くは僕のこれまでの生活や、『そんなの知ったこっちゃない』っていうのがテーマなんだ、数え切れないくらい色んなことに関してね」とジェイク。「こういうことを言葉で説明するのは、あんまり得意じゃないんだけど、どれも個人的な体験を元にしているんだよ。曲を書く時は、あまり深く考えないようにしてる。湧き上がるままにさせておくほうが良いと思うからね」
これがジェイク・バグの秘訣であり、彼の曲にとって最も重要な点だ。「Lightning Bolt」の荒削りに突っ走る耳障りなギターから、年齢以上に聡い観察眼が窺える「Seen It All」まで、そしてデビュー作に収録されている他の全ての曲を含め、何もかもがとにかくナチュラルで、とことんリアルで、実に感情の赴くまま、間違いなく魂からの本心であることが伝わってくる。彼こそ、多くの人々が長年待ち望んできたアーティストであり、そして、そう、現在彼にツアーのサポートを依頼しているようなバンドやアーティスト達以来、私達がお目にかかってこなかったタイプのアーティストなのだ。
極めてシンプルに言えば、ジェイク・バグは、現在UKで最もエキサイティングな新人シンガー・ソングライターなのである。異論はない。