サマーソニック2011で初来日を果たし、灼熱のマリンステージに確かな痕跡を残して帰っていったビバ・ブラザー。言うまでも無く彼らは2011年
のUKロックが生んだ超新星であり、デビュー・アルバム『フェイマス・ファースト・ワーズ』はオアシス、はたまたブラー直系の超王道ブリット・サウンドを
ド直球で鳴らすという、ふてぶてしい若さと輝ける確信に満ちたパーフェクトな一枚に仕上がっている。今、これほどまでに自分達の音楽に明確なヴィジョンを
持ち、抱えきれないほどの野望の実現に向けて全力疾走している新人は滅多にいないし、草食男子化甚だしいUKギター・ロック勢にあってここまでビッグマウ
スをかます若手バンドも珍しい。「ビッグになりたい」と語る彼らの言葉が凛々しい理由は、それが彼らを律し、そして彼らを取り巻くUKロックを鼓舞する
「希望」の言葉に他ならないからだ。下記の来日インタヴューでも、そんな彼らの片鱗が垣間見えるんじゃないだろうか。
――『フェイマス・ファースト・ワーズ』、こんなにも迷いなく簡潔なアルバムは久々に聴きました。あなたたち自身の手ごたえは?
リー「うん、君も知ってのとおり俺たちはたしかに自信家だけど、プレスでの自分達の発言を本物だと証明するアルバムを作らなきゃいけな
いって気持ちは当然あったんだ。10曲全部シングル・カットできるくらい凄い曲しか入ってないアルバムを作ろうとしたし、実際そういうアルバムに仕上がっ
てると思うよ」
フランク「1曲ごとに『このバンドは何者なのか?』ってことをダイレクトに伝えられる曲ばかりだよね。もちろんここから俺たちは成長していくわけだけども、一番最初の、バンドのイントロダクションとしては最高のアルバムなんじゃないかな」
リー「まさに」
――10曲全てシングル・カットできる曲を目指したとのことですが、中でも特にキラー・チューンだと思うのは?
サム「毎日変わるかな」
ジョシュ「全曲いいしね(笑)」
リー「(笑)でもやっぱり”タイムマシーン”だろうな。これは俺が初めて書いた曲なんだけど、30分で書きあげてしまったんだよ。この
曲は今の俺たちを最も象徴しているし、アルバムが”ニュー・イヤーズ・デイ”で始まって”タイムマシーン”で終わるっていう流れも最高なんだよ。”タイム
マシーン”をラスト・ナンバーにしたことには凄く意味があるんだ。このアルバムは凄くポップ、特に前半は明るくてキャッチーな曲が多いんだけど、徐々に
ダークに、ヘヴィになっていくんだよね。”タイムマシーン”はそのヘヴィネスの最たる曲で、これは俺たちの次のアルバムを予感させるイントロにもなってる
んだよね」
サム「うん、次のアルバムは無茶苦茶ヘヴィな曲で始まって、最後には無茶苦茶ポップで明るい曲でフィナーレを迎えるかもしれないよな(笑)」
――”ニュー・イヤーズ・デイ”のメロディやコーラスにはブラーの影響を、”タイムマシーンの”グルーヴにはオアシスの影響を感じます。ビバ・ブラザーの音楽的バックグラウンドについて教えてくれますか?
リー「オアシスはもちろんだね。俺たちの年代だったら誰しもオアシスには影響を受けてると思うよ。ブラーはブリットポップの中でも知性
派だったよね。オアシスほど評価やセールスを上げてないかもしれないけど俺は大好きなんだ。それにストーン・ローゼズ。デビュー・アルバム(『石と薔
薇』)は最高だったよね。あとは、スウェードとプライマル・スクリームも外せないよな」
フランク「ダンディ・ウォーホルズもね」
リー「そう。最高にポップだった」
――ポップな曲を書いてメジャーシーンで勝っていけるバンドがあなた達のロールモデルになる?インディ・ロックの純血主義みたいなものはどう思いますか?
リー「俺たちはもちろんインディ・メンタリティも持っているバンドだけど、やっぱりバンドをやるかぎりは売れないと意味ないじゃない
か!クソみたいな仕事してスタジオ代稼いでさ、あくせく働きながらバンドを必死に続けている状態の時にメジャーからオファーがきたら、そりゃ断らないっ
て。だから今俺たちはこうしてメジャーレーベルにいるんだけど、それまでの数年間はほんと苦労したからさ。もう二度とあの時代には戻りたくないよ。メ
ジャーと契約したことで今、俺たちは自分たちがやりたいことをより大きなスケールでやれているし、こうして日本に来たり、より多くの人たちに聴いてもらう
チャンスも得てるんだ」
――最近の若いUKバンドに話を訊くと、みんなやけに控え目なんですよね。野望を訊くと「一日でも長くバンドを続けたい」「毎年ツアーをするのが目標」とか、非常に堅実な答えが返ってきます。
全員「ブー!ありえねえ!」
リー「何言ってんだ、って感じだよな。少なくとも俺たちの野望はサマソニの一番デカいステージのヘッドライナーを務めることだよ(笑)」
フランク「やる以上トップを目指さないでどうするんだって思うよね。運動選手だって3位を目指してトレーニングなんかしないだろ?みんな1位を目指して頑張ってるんだからさ」
――まさにその通りですけど、同時に今のUKロックは大きな、まっとうな野望を抱けないぐらい商業的に厳しい状況にあるのもたしかですよね。
ジョシュ「こういう状況に直面して自分たちを卑下したくなる気持ちもわからなくはないけどさ。なんで俺、ギター・バンドなんて始め
ちゃったんだろうなぁ……ってね(笑)。でも俺たちは最初からこの後20年聴かれ続けるアルバムを作りたいと思ってバンドを始めたし、実際に作ったしね。
そこは揺るがないかな」
リー「まあ、俺たちは登場もセンセーショナルだったけど、バンドをやめる時もド派手にいくから楽しみにしててよね(笑)」
――(笑)そもそもビバ・ブラザーというバンドの出発点にはどんなモチベーションがあったんですか?
リー「まあ、ガキの頃から音楽が大好きだったってのが出発点ではあるんだけど、なんで音楽にハマったのかはたぶん説明しても理解されないと思うな。誰かがゴルフが好きな理由を俺が全く理解できないのと同じでさ(笑)」
――(笑)。
リー「まあそれはとにかく(笑)、俺たちの生まれた町(スラウ)が全てが灰色で何もなくてクソみたいで本当に退屈な場所だったんだよ
ね。そこから何とかして抜けださなきゃいけない、っていう焦りみたいなものがまず最初にあった。それと当時の音楽、チャートにはびこっているクソみたいな
音楽に対するフラストレーションも大きかったね。つまり、退屈と怒りを掛け合わせて生まれたのが俺たちってわけなんだ(笑)」
フランク「檻に閉じ込められた野獣みたいにね」
サム「とんでもなくハンサムな野獣だったよな(笑)」
――(笑)。では再び音楽の話を。このアルバムの簡潔さって、予めシンプルなかたちで生み出されたのか、それとも膨大なアイディアを削り取りシェイプする作業を繰り返して辿りついた結果なのか、どちらなんでしょう。
フランク「この10曲は25曲の候補の中から選んだんだよね」
リー「さすがに最初に書いた10曲が全て完璧だったからはいこの10曲でおしまい!完成!みたいなわけにはいかなかったよな(笑)。こ
の10曲に辿りつくまでにはボツにした曲も、ボツにしたアイディアも沢山あった。何度も試行錯誤をして完璧な10曲が生まれたんだよ。まあでも、俺たちは
一度コレって決めたらその後の作業は早いんだよね。あまり手を加えすぎない、考えすぎないほうがいいって信じてるから」
フランク「いじりすぎるとロクなことにならないよな」
リー「キングス・オブ・レオンみたいなバンドになりたいなら別だけどね(笑)」
――(笑)プロデューサーのスティーヴン・ストリートからはどんなことを学んだ?
リー「シンプルにしろ、無駄をそぎ落とせ、ってことかな。俺たちがあれこれエフェクトを使いたがっても『これはファースト・アルバムな
んだからシンプルなほうがいい。直球ストレートが正解なんだ』ってことを教わったよ。彼の助言は常に『これはいらないんじゃないか』ってことだったんだ。
それに、なんて言ったって伝説の人物だからさ。彼がスタジオにいてくれるだけで空気が引き締まって、自分たちは今、歴史に残るようなアルバムを作ってるん
だって気持ちにさせてくれたのもデカかったよ」
サム「実際、作っちゃったしなぁ(笑)?」
リー「ああ、マジで(笑)」
(後編に続く)
<文:粉川しの>
先週に引き続き、ビバ・ブラザー来日インタヴューの後編をお届け。結成のいきさつや音楽性について語ってもらった前編に続き、今回はもう少し突っ込
んだバンド観について彼らに訊いてみた。どの角度から測っても全くブレない彼らのアティチュードが垣間見えるインタヴューではないかと思う。最後にはファ
ンの皆さんからいただいた質問にもいくつか答えてもらっています。
――ファースト・アルバムを極限までシンプルに削り取った構成にしたからこそ、セカンド・アルバムはもっと自由に作れるんじゃないですか?
リー「うん、そのとおりだね。そこは意識していたことなんだよ。ファーストから手の内を全て見せるんじゃなくてさ、ここから俺達はどん
どんバージョン・アップしていくだろうし、むしろその過程を見てほしいって思ってるんだよ。だからこのアルバムには敢えて入れなかった俺達の別の要素って
いうものも沢山あるんだ。このアルバムを入り口にしてもっと俺達のことを知りたいって思ってほしいし、俺達にはこれからまだまだ見せられるものがあるし
ね」
フランク「そうやってガンガン先に進んでいって、5枚目を作り終えたあたりで死ぬか(笑)」
リー「もしくはフランスの田舎で余生を過ごすかだな(笑)」
――(笑)。たとえばローリング・ストーンズみたいに60歳を越えても、それこそ死ぬまでロックンロール・バンドを続けたいと思いますか?
リー「まあ俺達はキャリアのピークでスパッとバンドを終わらせるほうが格好良いと思うけどね。ただダラダラと続けてたって仕方ないだろ?」
ジョシュ「この前ストーンズのドキュメンタリーを観たんだけどさ、なんだっけ……」
――『シャイン・ア・ライト』?
ジョシュ「いや、違う、もっと昔のやつで……そうそう、『ギミー・シェルター』だ。あのストーンズは最高に格好良かったな。誰しもが
思ってるはずだけどさ、ストーンズはあの時代が最強なんだよ。これは厳然たる事実で、ロック・バンドっていうものはキャリアと共にどんどん良くなり続ける
わけじゃないんだよね。だから今の彼らと比較しても仕方ないっていうか……鳥の丸焼きだって出来たてが美味いんであって、冷めちゃった鳥肉なんて食えたも
んじゃないだろ?」
――(笑)。そう言えば、元オアシスのノエル・ギャラガーが昔こんなことを言っていました。「リアムがハゲたらオアシスは解散だ。ハゲはバンドなんてやっちゃいけない」って。
全員「(爆笑)」
ジョシュ「シット!(頭を押さえながら)俺もう、ところどころヤバいってのに!」
全員「(爆笑)」
――ええと、じゃあ音楽の話に戻りますね(笑)。先ほど”タイムマシーン”は30分くらいで書いてしまったと言っていましたが、他の曲もそうなんですか?
リー「曲によるかな。”スティル・ヒア”なんかは正解に辿りつくまでに6カ月ぐらいかかったんだ。でも”タイムマシーン”はメロディも歌詞も全てがいっぺんに出来たっていう感じだったんだ」
――あなた達の歌詞って今のイギリスの若者のムードを象徴してると思います?それとももっとパーソナルなもの?
ジョシュ「たぶんその両方なんだと思うよ。特に自分達と同世代のやつらの思いを重ねて歌っている曲は、”ハイ・ストリート・ロウ・ライ
ヴス”と”フライ・バイ・ナイツ”がそうだね。20代で、毎日好きでもない仕事をやって、希望なんてなにひとつないって分かってるのに、そこから抜け出す
ことができないっていうね。バンドにしたってそうだよ、才能はあるのにいくらやっても売れない、契約が取れない、そうするとどんどん曲を書くことに対して
臆病になっていく、そういう悪循環にはまったバンドを俺達はいくつも知っているからさ。それでも信念を持ち続けてバンドをやるのは本当に大変なことだし、
勇気と覚悟が必要なんだ」
――たとえば今、そういう悪循環にはまって希望を持てない若い世代がロンドンで暴動を起こしているわけですよね。彼らの暴発についてあなた達はどんな意見を持っていますか?
リー「俺は今ロンドンで暴れているやつらが抱えている不満の源が何か分かっているし、彼らがああいう行動に出るしかなかった心境も理解
はできるよ。俺はあのやり方は間違っていたと思うし、俺だったらああいうかたちでフラストレーションを発散させることはなかったと思うけどね。ただ、今の
イギリスの状況ってほんとに終わってるからさ。ああやって叫んで、力づくでも声を上げて自分達の存在を示すしかないっていうか。そうでもしないと今の政府
は耳を傾けてくれないからね」
――ええ、イギリスの現状はかなり暗く厳しいということは傍から見ていても感じます。そんな国で生き、ロック・バンドをやっている若いあなた達はどんな使命感を持っていますか?今あの国でロック・バンドをやることの意味を考えたことは?
リー「俺達は幸運にも自分達を取り巻くネガティヴな状況をポジティヴなものに変えることができた。このビバ・ブラザーによってね。悪循
環から抜け出すこういうやり方だってあるんだってことを少しは証明できたかなとも思うんだ。国に、政府に見放されたからって街に火を放つんじゃなくて、そ
の行き場を失ったエネルギーをクリエイティヴな方向に向かわせることは誰だって可能だと思うんだ」
フランク「俺達だって仕事がない、金がない、っていう時期はもちろんあったよ。でもそこで自問自答して、本当にやるべきことを考えに考
え抜けばきっと道は開けるんだっていうね。俺達が世代の声を代表しているとまでは言わないけど、たしかに訴えることができる立場にいるとは思う。俺達もあ
いつらと同じ心境と境遇をかつて持っていたわけだからね」
リー「今すぐに<こうすべきだ>っていう答えを彼らに渡すことなんてできないけど、俺達も一緒に模索していけばいいんだと思う」
――だからこそ、ビバ・ブラザーは「売れたい」んですよね。多くの人に聴かれることで初めて、その人達と一緒に模索できるわけだから。
リー「そのとおり。皆が一緒に歌えるメロディ、普遍的な歌、そういったものが結局は一番強く人の心を打つからさ。そこには一体感が生まれるし、一瞬だけでも最低の日常を忘れることだってできるはずだし、俺達はそういう音楽をこれからも作っていきたいんだよ」
――わかりました。私の質問はここで終わりまして、ここからはいくつかファンから寄せられた質問に答えてもらおうと思います。
全員「クール!」
――では1人目の質問です。日本に初めて来て一番不思議に思ったことは?
ジョシュ「そうだな、日本の人達がみんな優しくて礼儀正しいのにまずはびっくりさせられたよ。もちろん良い意味でね。だってイギリス人ってサイテーに冷たくていい加減だからさ(笑)」
リー「日本に来てすぐにこの国の人達は優しいってわかったよね。イギリスにいる時より俺達よっぽど歓迎されているんじゃないか?って思ったくらいでさ(苦笑)」
サム「あと、ホテルの周りで鳴いていた昆虫の鳴き声が超ノイジーでビビった」
フランク「ああ、あれは奇妙だった。ありえないくらいばかデカい音量で鳴いてたよな?」
――ああ、蝉ですね。蝉って鳴き声が確かにうるさいですけど、地上で生きていられるのは7日間だけなんですよね。ビービー鳴きわめいて、あっという間に死ぬっていう。
全員「ワーオ!」
リー「すごい……つまりカルマだろ(笑)?」
全員「(爆笑)」
フランク「それだ!蝉のカルマ(笑)!」
――(笑)次の質問です。日本食は食べましたか?
リー「うん、もちろん!」
ジョシュ「コーベ・ビーフも食べてみたいよなぁ」
――それはちょっと高いかもですね(笑)。では最後の質問です。最初に覚えた日本語は?
サム「えーと、モシモシかな。これはけっこう前に覚えたんだけど」
全員「あとはもちろんサンキュー、アリガトウだね」
<文:粉川しの>
<収録アルバム>
<セットリスト>
2011/8/11 東京LIQUID ROOM・ 2011/8/15 大阪 心斎橋CLUB QUATTRO
- HIGH STREET LOW LIVES
- SHOOT LIKE LIGHTNING ※日本盤のみ収録
- STILL HERE
- FLY BY NIGHTS
- FALSE ALARM
- DAVID
- ELECTRIC DAYDREAM
- DARLING BUDS OF MAY
- NEW YEAR’S DAY
- HEARTBEAT
- TIME MACHINE
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『フェイマス・ファースト・ワーズ』
2011/8/3 RELEASE
UICF-1130 ¥2,500(税込)
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