昨年リリースされたデビュー・アルバム『ディス・イズ・ザ・ライフ』が今年に入り、遂に全世界のセールスが100万枚を突破し8月には全米デ
ビューも果したエイミー・マクドナルドのインタビューを掲載。スコットランドのグラスゴー出身の彼女が奏でるシンプルな曲で普通の女の子目線で書かれた歌
詞が織り成すサウンドはヨーロッパでは既に大ブレイクし、全米でも注目が集まっている。
<インタビュー:新谷洋子>
ここ数年、リリー・アレンからKTタンストールまで女性たちの活躍が目覚しい英国で、2007年も19歳のニューカマーがチャートを騒
がせた。スコットランドはグラスゴー出身のシンガー・ソングライター、エイミー・マクドナルドだ。同じスコティッシュのパオロ・ヌティーニのブレイクを助
けたプロデューサー兼ソングライターのピート・ウィルキンソンに見出されてデビューを果たした彼女は、7月にアルバム『ディス・イズ・ザ・ライフ』をリ
リース(日本では12月発売)。これが初登場2位を記録して
4日間でゴールドを獲得するという快挙を成し遂げた。スキャンダルには無縁でファッションやヴィジュアル・イメージをウリにするわけでも、タイアップに後
押しされたのでもなく、その人気を支えるのは純粋に曲の力。だから、今時ちょっと珍しいくらい古風なタイプのアーティストと言えるのかもしれない。フォー
キーでどこかノスタルジックな響きのあるサウンドには、トレンドは追わないタイムレスな志向が表れているし、彼女が綴る詞も素直な人間観察と社会観察に基
づいていて、好感度満点。ツアー中の彼女と電話で話してみると(かなり強いスコットランド訛り!)、なんとなく予想していた通り、まだ少し環境の変化に戸
惑っているようだったけれど、言葉には淀みがなく何事にもはっきりと意見を持っていて、強い芯を秘めた女性だということがひしひしと伝わってきた。
――この1年であなたの人生は一変したけれど、ミュージシャン生活には慣れました?
エイミー(以下A):ええ。物事が順調だとやる気も出るし、だいぶ慣れたわ。毎日朝は早いし、寝るのは深夜で、忙しさはハンパじゃない
んだけど、毎晩ライヴがやれるんだから文句を言ってる場合じゃないわ!ただ、グラマラスな部分は全然ないかも。トイレを掃除するほうがよっぽどグラマラス
なんじゃないかしら(笑)。それでも毎日何かしら新しいことがあって、その興奮が今のわたしを支えていて、将来への希望をかき立てるの。勉強も結構マジメ
にやってたから大学に行こうと思っていたんだけど、音楽活動が軌道に乗ったからそっちは今のところ保留にしてるわ。
――今の英国では女性のシンガー・ソングライターが元気ですよね。そんな中で「これは自分にしかない!」って自信を持ってることは?
A:そうねえ、まず何よりもわたしは一番若いと思うし、アルバムの収録曲の中には15歳くらいの時に書いた曲も含まれているから、そう
いう意味でやっぱり視点がほかの人たちとは違うんじゃないかな。それから、自分にしか理解できないことを書くんじゃなくて、シンプルに、必ず出来るだけ大
勢の人が共感できる曲にするよう心がけているわ。まあどっちみち、ほかの女性アーティストたちと直接会う機会がないし、これまでも特に熱心に聴いていたわ
けじゃないから、仲間意識はあんまりないかも。もちろん、女性が大勢活躍してるってことは素晴らしいことよね。
――あなたが音楽に夢中になったきっかけは、12歳の時に初めて自分のお金で買った同郷のトラヴィスのサード『The
Man Who』(99年)だったそうですね。
A:ええ。ほんと、毎日のように聴いていたわ。ライヴも何度も観に行ったし、そのうちに彼らと同じことをやりたいと思うようになった
の。わたしも音楽を作りたい!って。フラン・ヒーリーが書く曲は、すごくシンプルなのにクセになるのよ。究極的には古典的なポップ・ソングと呼べるし、知
らない間に1日中口ずさんでいたりする。だから、シンプルなのにパワフルだという点に惹き付けられたんだと思うわ。
――実際、最近になってトラヴィスと共演する機会があったとか?
A:前座を務めたのよ。メンバーと話をすることも出来て、あんなにビッグなのに全然気取ってないし、みんなすごく素敵な人たちだった
わ。あと、エルトン・ジョンやポール・ウェラーの前座もやらせてもらえて、ふたりともやっぱり魅力的な人たちだった。ポールの場合、ツアーに同行したんだ
けど、ミュージシャンとしても本当に勉強になったわ。
――で、当初はそのトラヴィスの曲とか、カバーを歌うことから始めたんですよね。
A:ええ。ギターを練習していろんな曲を歌っていて、じきに自分でも曲作りを始めて、楽しくてやめられなくなっちゃったの。そして、昼
は学校に行って、夜に曲を書いて、月に1~2回ライヴをするようになったわ。わたしの場合、曲作りはセラピーみたいな意味合いはなくて、ただやってて楽し
いしリラックスし、趣味みたいなものね。だからこそずっと続けられたんだと思う。でも今もティアーズ・フォー・フィアーズの『狂気の世界』とか
R.E.M.の『エヴリバディ・ハーツ』は、よくライヴで歌うのよ。
――トラヴィスのほかに影響を受けたアーティストっていうと?
A:たくさんいるわよ。まずリバティーンズとピート・ドハーティの大々ファンなの!ドラッグ中毒になる前の話だけど(笑)。それからキ
ラーズも大好きだし、オーシャン・カラー・シーンやオアシスとかブリットポップ時代のバンドも好き。ほかにもビーチ・ボーイズからブルース・スプリングス
ティーンまで、挙げ始めたらキリがないわ。
――そして、『NME』で見かけたプロダクション会社の新人募集告知に応募したのが、デビューのきっかけだったんですよね。
A:ええ。でもその告知には、ピート・ウィルキンソンの会社とは書かれていなかったの。どっちにしても業界人の名前を覚えるのは得意
じゃないし(笑)、あとになって彼がパオロ・ヌティーニなんかの曲を手掛け人だと知ったのよ。今ではわたしのマネージャーでありアルバムのプロデューサー
でもあるんだけど、ソングライティングに関しては一切口出ししないわ。それに、彼にとっても新人をゼロから育てるのは初めての経験で、お互いに初心者だか
ら、ふたりで手探りでここまで来たのよ。いろんな楽器を使って一緒にアレンジを練って、毎日お互いに新しいことを学んだし、今やピートはわたしの親友と呼
べるのかも。
――プロダクション面でフォーキーなテイストが強く出たのも、あなたの意向で?
A:それに関しては全然意識したことがじゃないの。自然な成り行きね。わたしは音楽的にフォークとは全然接点がないから、こういう音になったのは自分でも不思議なのよ(笑)。
――で、詞のほうは10代の等身大の世界で、背伸びするようなところがないですよね。
A:そうね、全てが毎日の生活に根ざしているし、自分の日常や身辺で起きていることを観察して詞に綴ってるわ。ごくシンプルなことばかりよ。
――加えて、あなたが結構頑固で、主張が強い人間だってことも伝わってきます。
A:(笑)そういうタイプの人間なのよ。わたしは気が強くて、とにかくどんな些細なトピックに関しても自分の意見を持っていて、何かしら言いたいことがあるの!
――そういう強気な曲のひとつがデビュー・シングルの『Mr.Rock&Roll』ですね。
A:この曲は、無理をしてキャラを演じて、イケてるように振る舞う人たちを描いているの。これまでそういう人を大勢見てきたのよ。そう
やって仮面をかぶって生きていると物事の本質が見えなくなって、大事なチャンスを逸してしまうことも多いし、だから究極的には自分らしく生きようって訴え
ている曲なの。
――セカンド・シングルだった『L.A.』のメッセージもこれに近いのでは?
A:そうね。周りのことを気にせずに、自分の夢を追うことの大切さをテーマにしているから。ほら、若い頃はミュージシャンとかスポーツ
選手とか俳優とかにみんな憧れるじゃない?そして、そういう有名人たちと自分を比べて劣等感を感じたりするケースも多いわ。でも、決して誰かに劣ってるわ
けじゃないし、たとえ有名になれなくても、どんなに些細なことでもそれぞれが自分の力で成し遂げたことを誇りに思うべきだと歌っているのよ。
――そして辛辣さで言うと、『Footballer’s
Wife』が一番かも。これはセレブリティ・カルチャーを皮肉ってるんですよね。
A:ええ。ちょっとでも有名になってテレビに出るためには何でもする人たちを描いているの。わたしたちは始終彼女たちの顔を雑誌とかで
見せられてるけど、別に素晴らしいことをしたわけでもなく、才能のカケラもない人たちだし、今の英国社会のイヤな部分を象徴していると思って、一曲を書か
ずにはいられなかったのよ。
――『Poison
Prince』はピート・ドハーティに捧げた曲だそうですが、彼の凋落ぶりにはショックを受けたんですか?
A:う~ん、個人的に彼を知ってるわけじゃないから、別に絶望したとか怒りを覚えたってわけじゃないんだけど、やっぱりあそこまでド
ラッグにハマってしまった彼の姿を見せ付けられると、ファンでい続けることはすごく辛いのよね。そういう気持ちをこの曲に綴ったの。わたしは彼のファンで
あり、いつか立ち直ってまた素晴らしい歌を書いてくれたら、みんな悪いことは全部忘れて一緒に踊って祝福するでしょう――という内容なのよ。
――タイトルトラックもピートのライヴを観た翌日に生まれたとか。
A:ええ。ライヴのあと友人たちと集まって一晩中音楽をプレイしたりして過ごした夜のことを歌ってるの。あれはわたしの人生で最高の夜
だったし、今も歌うたびに、自分にとって大切な人たちの顔が頭に浮かんで楽しい気分になるのよね。そんなわけでわたしには一番意味深い曲だから、アルバム
のタイトルにも相応しいと思ったの。
――ほかにも音楽絡みの曲が幾つかあって、『Let’s Start a Band』も然りで、『Barrowland
Ballroom』は地元にある有名なライヴ会場へのオマージュだそうですね。
A:あそこで幾つもの素晴らしいライヴを体験できたし、歴史的にもたくさんの伝説を残している場所なのよ。Barrowlandでのラ
イヴが自分にとって最高のパフォーマンスだったと語るミュージシャンも多いし、地元の音楽ファンにとって本当に愛着があるの。そして『Let’s
Start a
Band』は音楽を愛する若者たちに捧げたアンセムね。わたしは幸運にもデビューできたけれど、ほかにも大勢の若い人たちがチャンスを掴もうとして頑張っ
てる。そういう、何が何でも音楽と一緒に生きていたいと思ってる全ての人への応援歌なのよ。
――アルバムの一番最後には『Caledonia』というシークレット・トラックが収録されていますよね。これはスコットランドの民謡なんですか?
A:厳密には民謡じゃないんだけど、20年くらい前に書かれたスコットランドの曲よ。スコットランドを一旦離れた主人公が、故郷のこと
を忘れられなくて、また帰ってくるという内容なの。つまり、スコットランドが世界中で最高の国だってことを歌ってるの!スコティッシュであることはミュー
ジシャンとしてのわたしにとってすごく重要なことだし、誇りに感じてるし、それはこれからも永遠に変わらないと思うわ。
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