UKミュージック・シーンはROCKだけじゃない!UKミュージック・シーンに脈々と流れるPOPS文化。
テイク・ザットを軸に、ボーイ・バンド、ガール・バンドの系譜をおさらい!
伝説的バンドの再結成がひとつのブームとなって、すでに久しい。レッド・ツェッペリンみたいに一夜限りだったり、ザ・ポリスのようにツ
アーを行なったり、或いはスマッシング・パンプキンズのように新作を発表したりそれぞれ活動の規模は様々で、中にはオリジナル・メンバーが揃わないことも
多々ある。いずれにせよ、ファンと一緒に昔を懐かしむようなケースが大半を占めていて、全盛期の勢いを取り戻すのはまず無理だと思うべきなのだろう。そん
な中で10年の空白をものともせずに完全に現役復帰、それどころか新たな世代のファンを獲得して以前にも増してビッグになってしまった唯一の例外が、ほか
ならぬテイク・ザットだ。今から18年前に英国マンチェスターで5ピースとして(ゲイリー・バーロウ、マーク・オーウェン、ロビー・ウィリアムス、ジェイ
ソン・オレンジ、ハワード・ドナルド)結成。彼らの地元を震源地とするアシッドハウス~マッドチェスター後/ブリットポップ前夜というタイミングに、ずば
りポップで勝負しようというのだから最初は大手レーベルに相手にされず、91年夏に自らインディ・レーベルを設立してデビューを果たした。そして『ミリオ
ン・ラヴ・ソングス』で初めてUKトップ10に入ったのは、92年春になってからのこと。でも、一旦人気に火が点くと誰も彼らの勢いを止められなかった。
セカンド・アルバム『エヴリシング・チェンジス』からのシングルが4曲連続でUKチャート初登場1位を獲得して、ギネス記録を更新。BRIT賞の常連とな
り、英国人アーティストとしてはではビートルズ以来最大の成功を収めるのである。
彼らの大ブレイクは間もなく、ボーイバンド(歌って踊れるイケメン男性グループ)の黄金期をもたらす。英国ではイースト17、アナ
ザー・レベル、レット・ルース、5IVE、A1といった音楽性やイメージの異なるグループがひしめき、アイルランドのボーイゾーンやウェストライフ、オー
ストラリアのヒューマン・ネイチャーなどなど世界各地からボーイバンドが現れ、のちに世界制覇を成し遂げたバックストリート・ボーイズやイン・シンクらア
メリカのグループもテイク・ザットのフォロワーと目され、ヨーロッパ先行で人気を集めたものだ。そしてテイク・ザットもやはり、元祖ボーイバンド=
ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックへの英国からの回答として送り出されたグループだった。だから彼らも一種のフォロワーでありセールス面では後輩グルー
プに追い抜かれているけれど、批評家筋からも高い評価を受け、若さがウリの世界で長年支持されているテイク・ザットは、史上最強のボーイバンドと認められ
ている。その理由は何より、”歌”も”踊り”もハンパじゃないという点にありそうだ。何しろ彼らはグループ内に、アイヴァー・ノヴェロ賞(ソングライター
を対象とする権威ある音楽賞)5回受賞の実力派ソングライターにして美声リード・シンガーのゲイリー・バーロウを擁し、外部から曲提供を受けずに上質のオ
リジナル曲で勝負。10代半ばから曲を作りクラブで歌っていたゲイリーは、ふたつのルーツ”モータウン・ソウルなどのブラック音楽とビートルズ”に根差し
た、メロディック&タイムレスなダンスポップやバラードの傑作を次々に綴り、5人の美しいヴォーカル・ハーモニーで披露。他方のダンスにしても、決して歌
のオマケじゃない。ハワード&ジェイソンはグループ結成前からプロ活動していたシーン有数の踊り手で、ステージでは彼らがリードするアクロバティックなダ
ンスが音楽と並ぶ主役。シアトリカルで、Tバックさえ辞さないキワどいコスチュームなどで演出した大がかりなライヴ・パフォーマンスは、常に賞賛の的だっ
た。
また、彼らの成功のカギは5人のキャラの絶妙なバランスにもあったわけだが、95年7月にマークに次ぐ人気を誇っていたロビーが脱退。
4人組としてアイデンティティを構築し直すことを強いられてもなお見事に再起し、秋にシングル『バック・フォー・グッド』が全米トップ10入りして念願の
アメリカ進出を実現させると、人気の絶頂にあった96年2月、実質上2年半に8曲のUKナンバーワン・ヒットを放ち2千5百万枚のアルバムを売った彼ら
は、突如解散を発表。ファンの後追い自殺を防止するべく、慈善団体が専用の電話相談回線を設けた話は有名だ。
以後、主役を失ったボーイバンド・ブームは徐々に失速。代わりにスパイス・ガールズを始めとするガールバンドや男女混合グループが主流の時代が、
00年代に入っても続いた。この間ロビーは英国最大級のソロ・アーティストに成長し、テイク・ザットの面々はロック(マーク)やクラブ音楽(ハワード)な
ど異なるフィールドで活動していたが、05年秋になって新しいベスト盤『ネヴァー・フォゲット~アルティメット・コレクション』が登場して、UKチャート
初登場2位を記録。同作の監修のために再会したメンバーは、ロビー共々ドキュメンタリー番組『Take That: For The
Record』に出演し、11月に放映された際には7百万人がテレビに釘付けになったとか。こうしてグループへの関心が衰えていないことが判明し、4人は
英国とアイルランドを回る再結成ツアー”The Ultimate
Tour”を翌年行なうことを発表。32公演分のチケットは完売し、観客動員数は50万人に上った。
ツアーに手応えを得た彼らは新たな曲作りに取り掛かり、レーベル間の争奪戦の末に7億5千万円の契約金で大手ポリドールと契約。06年
11月にシングル『ペイシェンス』を堂々全英チャートの頂点に送りこみ、4作目のアルバム『ビューティフル・ワールド』をリリースするとキャリアで初めて
アルバム・シングル両チャートを同時に制し、1カ月でセールスは百万枚を突破する。これは06年の年間セールス2位にあたる数値で、最終的には3百万を
売って自身のアルバム・セールス記録も更新。セカンド・シングル『シャイン』は10曲目のUKナンバーワンをもたらした。ここで特筆すべきは、4人が昔の
焼き直しではなく今の自分たちに相応しいオーガニック志向のサウンド表現を新たに確立したことだろう。引き続きゲイリーが主導しつつ、全員が曲作りと
ヴォーカルの役割を分担して誕生した新生テイク・ザットの曲はさらに多くの人の心を掴み、07年秋にはヨーロッパ各地にも足を延ばして全50公演から成る
“Beautiful World
Tour”を敢行(どの会場もチケット発売から40分以内に売り切った!)。みんな30代後半だというのに、相変わらず踊りまくって2時間以上にわたる大
スペクタクルを展開する彼らのショウマンシップは驚異的で、『ビューティフル・ワールド』からの曲が半数を占めるセットも、現役としての自信の表れだった
に違いない。またツアー最中の10月に発売された、映画『スターダスト』の主題歌『Rule The
World』もUKチャート最高2位まで上昇し、今年2月のBRIT賞では二冠を達成。4月に新作『ザ・サーカス』に着手した彼らは、リリースに先立って
来年のツアー日程を発表したのだが、かつてなく巨大な会場を周る”The Circus
Live”は1日で35万枚のチケットを売り上げ、英国史上最速記録をマークしたという。
ちなみにこの2年に、ボーイゾーンからオール・セインツまでかつての人気ポップ・グループが、テイク・ザットに倣って続々再結成したこ
とは、ご承知の通り。けれど誰も彼らに匹敵するカムバックを実現できず、ニュー・キッズやスパイス・ガールズさえも期待されたほど話題を作れずに終わり、
改めてテイク・ザットの特異さが証明されたと言えるんじゃないだろうか?
今も進化の過程にある、何歳になっても見目麗しい史上最強のボーイバンドは、12月1日に英国で発売される『ザ・サーカス』を年内に何枚売るのか、
ダフィーとコールドプレイの二大ヒット作にどこまで迫るのか……。何が起きても驚きはしない、そういうポジションに現在のテイク・ザットはいる。
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