バンド紹介
刺激的なアーティストを次々と輩出しているUKシーンの勢いは、今年も収まる気配はない。そんな英音楽界に、更なる新旋風を巻き起こすのでは?との呼び声が高い、スケールの大きさと耽美な憂愁とを併せ持つバンドが現れた。
それはロンドン出身の3人組、ホワイト・ライズだ。昨年、デビュー・シングルの発表からわずか3ヶ月にして、早くもフジ・ロックへの出演を果たした彼ら。早耳の(そしてラッキーな)日本の音楽ファンの中には、既にこの大器の片鱗にナマで触れている人もいることだろう。
平均年齢20歳という若さながら、実は意外に長い音楽活動歴のあるこのトリオ。その実力は折り紙付きだ。チャールズ・ケイヴ (B)とジャック・ローレンス・ブラウン(Dr)の出会いは、小学生の時。そして中学校でハリー・マクヴェイ(Vo&G)と意気投合し、母体となる最初の バンドを結成する。「だからかれこれ7年近く一緒にやっているね」(ハリー)。
前身バンドのフィアー・オブ・フライング(FOF)時代には、2枚のシングルも発表。しかし自分たちが真に求める音楽性を模索 する日々が続き、やがて深い陰影を宿した美意識と文学性に縁取られた、現在のサウンドと詩世界に到達する。それを機に「バンド活動に真剣に向き合うことを 決意」(ハリー)し、ホワイト・ライズ(=罪なき嘘)と改名して、新たなスタートをきった。「響きが気に入ってこの名前にしたけれど、”表面は無垢なの に、奥底には闇が潜んでいる”点が、僕らの音楽性にも合致していると感じたんだ」(ハリー)。
ちなみに、結束の固い3人が挙げた「バンド全員が好きなアルバム」は、エコー&ザ・バニーメンの『オーシャン・レイン』、インターポールの『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』、そしてシークレット・マシーンズの『ナウ・ヒア・イズ・ノーホエア』の3枚だ。
08年4月、[Chess Club]より7インチ・シングル”Unfinished Business”でデビュー。これは「ホワイト・ライズとして初めて書き、方向性を決定づけた曲」で、「この曲を機に自信がつき、自分たちのすべてをこ のバンドに捧げようと決意した」(ジャック)という。そして各社の争奪戦を経て、(ザ・キュアーやスノウ・パトロールらを輩出した)名門 [Fiction]と契約。1stアルバム『トゥ・ルーズ・マイ・ライフ…』の制作に着手した。
英BBCが選ぶ『Sound of 2009』では第2位に、また『ブリット・アウォーズ批評家賞』(有望新人が対象)では第3位に、そしてNME誌が選んだ『注目新人10組』にもリスト アップされたホワイト・ライズ。英本国で彼らに注がれている視線がどれほど熱いかが伺える。待望の1stアルバムは、いよいよ2月25日に日本上陸予定 だ!
ハリー
ホ ワイト・ライズのフロントマンとして、リード・ヴォーカルとギターを担当するハリー・マクヴェイは、ロンドン出身の20歳(1988年5月2日生まれ)。 クールな黒の上下を身にまとったステージでの存在感や、子供の頃から聖歌隊で鍛えたという深みのあるバリトンの歌声は、ジョイ・ディヴィジョンのイアン・ カーティスを髣髴とさせる。尊敬するシンガーは、スコット・ウォーカー。そして「ギターを始めたきっかけは、ジミ・ヘンドリックス。現在好きなギタリスト は、ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)と、ウィル・サージェント(エコー&ザ・バニーメン)」だ。チャールズと曲作りをする際は、ピアノかキー ボードを使用。それがホワイト・ライズの強力なメロディの鍵か。趣味は読書とグルメ。愛読書は、ヤン・マーテル著のブッカー文学賞受賞作『ライフ・オブ・ パイ』だ。また昨年の初来日で東京を訪れた時は、「大好きな映画『ブレード・ランナー』の中に入り込んだような気分になった」という。チャールズの分析に よれば、ハリーは「落ち着きがあって、創造性に溢れていて、静かな自信を秘めている人物」。その語り口にも、20歳とは思えない成熟度が時折漂っている。
チャールズ
長 身揃いの3人の中でも、約188cmと最も背が高いのがチャールズ・ケイヴ(B&歌詞)だ。誕生日はハリーと6日違いの1988年5月8日。ジャック (Dr)とは5歳以来の幼なじみである。若い頃に趣味でバンドをやっていた父親の影響もあり、「10歳の頃からジャックと一緒に音楽教室に通って、楽器を 習った」とのこと。初めて夢中になったロックは何とヘヴィ・メタル。当時からベーシスト志望で、「アコギしか持っていなくて、パンテラやアイアン・メイデ ンの曲を聴きながらアコギでベースラインを弾いて覚えていた」というから驚きだ。好きなベーシストは「テク自慢系ではなく、キャッチーなラインを弾ける 人。例えばキングス・オブ・レオンのジェアド・フォロウィル」。また、好きな曲ベスト3は「ポール・サイモンの”スリップ・スライディン・アウェイ”、イ ンターポールの”パブリック・パーバート”、そしてスコット・ウォーカーの”埋葬のタンゴ”」で、その嗜好は幅広い。愛読書はジャック・ケルアックの『路 上』、好きな映画は『ランブルフィッシュ』と、ロックな文学テイストを感じさせる。ちなみにジャックから見たチャールズは、「意欲に満ちていて、情に脆 い、美青年」だそう。
ジャック
第 一印象は少しシャイ。そして前髪厚めのマッシュルーム風カットがキュートな、ジャック・ローレンス・ブラウン(Dr)。だが一旦口を開けば、明確なヴィ ジョンと堅固な意思を持った青年であることがわかる。1988年12月16日生まれで、21歳になったばかり。185cmという長身でもある。ホワイト・ ライズのデビュー・シングルを英本国でリリースした[Chess Club]は、実はジャックが運営しているレーベル。同名のクラブ・ナイトも主宰しており、意外にも行動派だ。小学生の時にチャールズと通った音楽教室で はピアノやサックスも習ったが、「他の楽器より構造に縛られず、自由に好きなことがやれるから」と、ドラムを選んだ。家では「父の弾くギター、母の弾くピ アノに合わせ、家族でミニ演奏会も開いていた」そう。現在お気に入りのドラマーは、キングス・オブ・レオンのネイサン・フォロウィルで、また最も好きな曲 は、シークレット・マシーンの”ファースト・ウェイヴ・インタクト”とのこと。愛読書はH.G.ウェルズの『タイム・マシン』と、SF好きな一面も。好き なスポーツはクリケット。ハリーに言わせると、ジャックは「遅刻魔で、仕事熱心で、ウィットに富んでいる」そうだ。
アルバム包括
「今の世の中に出回っている他の音楽とは、一線を画した作品にしたかったんだ。壮麗で、スケールが大きくて、」と、ハリー・マ クヴェイ(Vo&G)。「そして心に響く、力強さのあるものにね」と、チャールズ・ケイヴ(B)が言葉を繋ぐ。2人の語る通り、ホワイト・ライズの1st アルバム『To Lose My Life…』には、80年代ネオ・サイケの雄エコー&ザ・バニーメンに通じるロマンティシズムとエッジ、そしてコールドプレイやU2までをも想起させ る壮大なダイナミズムと、キラーズ調のポップ感とが同居。80’s風のキーボード/シンセと硬質なドラムスを活かした、ニュー・ウェイヴの華やかさと仄か な虚無感とが香り立つサウンドや、ストリングスを取り入れた静動の起伏、広がりのある優美なメロディで、聴き手の心を強く揺り動かす。「想像力の所産」 (チャールズ)という物語性を帯びた歌詞は、そのモチーフの殆どが”死”だ。「僕らの音楽はダークで、歌詞にも悲愴感が漂っているかもしれない。でもそこ には、悲しみに浸り切った後にこそ見えてくる”希望”が宿っているんだ」(チャールズ)。「50年後に聴いても違和感のない、時代を超越した作品を目指し た」(同)という彼らの試みは、本作で成功したと言えるだろう。