今年のフジ・ロック・フェスティバルにも出演し、会場のレッド・マーキーを熱気に包んだニュージーランドの新鋭5人組、ザ・ネイキッド・アンド・
フェイマス。過去にはフランツ・フェルディナンドやカイザー・チーフスらが受賞した『NME』ワードの”フィリップ・ホール・レイダー賞”(読者の注目す
べき新人賞)を獲得するなど、とにかく現場の若いリスナーから人気を集める彼ら、エレ・ポップ、ポスト・パンク、エレクトロニカ、サイケデリック…などの
要素を混在させつつも、丹念で複雑な音作りによって仕上げられたデビュー作『パッシヴ・ミー、アグレッシヴ・ユー』を聴けば、彼らが最終的に器の大きなバ
ンドであろうとする野心が伝わってくる。リーダーのトム以下、昔からの仲間が集まったという5人にバンドの結成からポリシーまでを訊ねた。
――メンバー全員オークランド出身ということですが、どのように知り合ったのですか?
トム「そう、僕らはみんなオークランドの仲間なんだ。最初に知り合ったのは僕とアリサ。08年に同じ音楽学校で知り合ったんだ。同じバ
スに乗り合わせてね。話してみると同じような音楽を聴いているってことがわかって意気投合してね。ザ・ビートルズからナイン・インチ・ネイルズのようなバ
ンドまで。本当に何から何まで一緒だったんだ。バスを降りる頃には一緒に何かやろうってことになったんだ。僅か数分で結成。すごい偶然というか、運命的な
出会いってわけさ」
――わあ、本当の話ですか?
アリサ「本当なのよ、これが!」
トム「ああ、奇跡さ。誕生する時ってのはきっとそんなもんなんだよ。で、二人でまずは曲をどんどん作り出したんだ。スタジオにも入った
し、自宅でホーム・レコーディングもしてみたなあ。スタジオって言っても学校内のスタジオだからタダさ。曲の作り方なんて知らないから全部自己流。だから
最初はすごく時間がかかったよ。で、その後、僕のハイスクール時代からの仲間のアーロンに声をかけて彼にトリートメントしてもらったんだ。最初はエンジニ
アとかプロデュース的な仕事を頼んだんだよね」
アーロン「うん。最初はメンバーってわけじゃなかったんだ」
トム「アーロンはもともと自宅録音とかに凝っていてね。まあ、プロデューサー感覚にたけた男だったんだよ。録音や音作りの知識があった
から、僕らとしてもとても助かった。作った曲を形にするには彼の力が必要だったんだよ。でも、話を聞くとアーロンはシンセサイザーや鍵盤が弾けるっていう
じゃないか。それならってことでライヴにも出てもらえないか?ってことで、そのままメンバーになったのさ」
アリサ「で、その後に、デヴィッドとジェシーが加わったのよね」
トム「そう。二人も僕の高校時代の友人だったんだ。そうやって今のメンバーが固まったってわけ。すごく自然に集まった仲間って感じなん
だよね。それが09年くらいのことだったな。オークランドってやっぱりコンパクトな町だから、みんな仲がいいっていうか人間関係もスムーズでね(笑)。そ
れだけに活動していても楽しいんだ」
――オークランドでは一般的にはどういう音楽が聴かれているのですか?
トム「ごく普通の英米で流行っているような音楽が人気だよ。僕らもザ・ストロークスとかザ・ヴァインズとか聴いていたね」
アリサ「私はミューズも好きだったわ。ブロック・パーティーやザ・キルズもね」
トム「うん、あとはナイン・インチ・ネイルズやレディオヘッドとかもね。もちろんザ・ビートルズのようなロック・クラシックもお気に入りだった」
アーロン「僕がプロダクションを担当した最初のEPとかはそういう感じで音楽性もまだとっちらかっていたっていうか、いろんなことを一
気にやろうとしていたところがあったから、今聴き直すと恥ずかしいところもあるんだ。でも、そうやって色んな音楽を取り入れていって、自分たちらしいカ
ラーを掴んでからは早かったよ」
――町の音楽シーンはどんな感じなのでしょう?
アリサ「コンパクトな町だからシーンも小さいの。それに、コレといってまとまった動きがあるわけじゃないのよね」
トム「パンク・バンド、ヒップホップ・バンド、ポップ・バンド…色々いるんだ。正直言って傾向を一つあげるのは難しいよね」
ジェシー「でも、それらが別々に別れているわけじゃないのがいいところなんだ」
トム「その通り!パンクのヤツらがヒップホップのヤツらと一緒にやったり、ヒップホップのヤツらがポップ・バンドと対バンしたり…。ミ
クスチャーって意識じゃなくて、自然と交配してるった感じなんだよね。それは僕らの音楽についても言えることで、そうやって小さい町でいろんな音楽趣味の
若者が入り乱れている中から、自然と一つの流れが生まれていくって感じなんじゃないかな。お隣のオーストラリアにはいっぱいいるよね。AC/DCみたいな
ビッグになったのもいるし、インディー・シーンもちゃんとある。そういうのがないように見えて、ニュージーランドにも独自のシーンがきっとあるんだと思う
よ」
アーロン「もしかしたら、僕らが最もニュージーランドっぽいバンドなのかもね(笑)」
トム「そうだね。エナジェティックだしメロディックだしダンサブルだし…ね」
――そうやって自分たちだけのサウンドを作り上げていく中で、最も意識したポイントはどういうところだったのでしょうか?
トム「まず、ポップであること。そしてダイナミックであることかな。僕らはどうせ活動して音楽を作っていくなら、広く多くの人に届けた
いと思っている。そのために小さな町の中だけで喜ばれるような存在でいちゃ勿体ないと思っているんだ。オークランドは小さな町だけど、僕らはそこから飛び
出して多くの人を巻き込むようなバンドになっていきたいんだ。もちろん、そのために曲作りには一番時間と労力をかけているよ。1曲を作るのに本当に色んな
アイデアを盛り込んで、あーでもない、こーでもないってみんなで手を加えてるんだ」
デヴィッド「複雑な作りになるものもあるよね。曲によって作り方はバラバラだから」
トム「そうだね。リズムから作るものもあればリフから作るものもある。メンバー同士で意見を交換したりぶつかったりしながら、気がつい
たら最初に描いていたイメージからは全く異なるような曲になったりするんだ(笑)。もう完全に自分たちでも始末に負えないような感じになっちゃったりもす
るなあ(笑)。曲が一人で勝手に進んでいっちゃうような感じ」
アーロン「だから、気づいたら1曲がすごく長くなってまとめるのが大変(笑)」
――となると、どこに曲作りのフィニッシュ・ラインがあるのですか?
トム「いい質問だね。確かに曲作りの最中はかなりカオティックになるし。でも、”ここでこの曲は完成!”みたいな決めごとは実はないん
だ(笑)。何となくみんなで合わせて鳴らしているうちに自然と出来ちゃう。みんな聴いている音楽や好きなものがどこかで共通しているから、何となくわかる
んじゃないかな」
アリサ「で、それが私たちの個性になっているってわけよね」
――では、ザ・ネイキッド・アンド・フェイマスの音楽は、デビューした今、どういうリスナーたちのレペゼンとなっていると思いますか?もしくは、何と何とをつなぐブリッジになっていると思いますか?
アリサ「私たち、みんなスタジオが大好きなのよね。そういう意味ではインドア派なんだけど…」
トム「そうなんだよね。で、スタジオで時間をかけて作った曲をライヴでダイナミックに表現する。そこにすごく醍醐味を感じているんだ。
そういう意味では、確かに僕らはスタジオ作業が得意なインドアなバンドだよ。でも、一方でライヴではダイナミックにオーディエンスを乗らせるような存在で
もいたい。お客さんをダンス・フロアで踊らせたい、みたいなイメージもあるんだ。だから、そうだね、スタジオ作業に凝った音楽とビッグなスタジアム・バン
ドの間をつなぐような存在なのかもしれないね」
<インタビュー・文:岡村詩野>
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