伝説的バンドの再結成がひとつのブームとなって、すでに久しい。レッド・ツェッペリンみたいに一夜限りだったり、ザ・ポリスのようにツ
アーを行なったり、或いはスマッシング・パンプキンズのように新作を発表したりそれぞれ活動の規模は様々で、中にはオリジナル・メンバーが揃わないことも
多々ある。いずれにせよ、ファンと一緒に昔を懐かしむようなケースが大半を占めていて、全盛期の勢いを取り戻すの大ヒットとなったカム・バック・アルバム
『ビューティフル・ワールド』から2年、テイク・ザットの新作アルバム『ザ・サーカス』のリリースを記念して、アルバムの発売日にあたる12月1日、ロン
ドンとパリ、二つの首都を移動する大々的なイベントが行なわれた。
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世界中から駆けつけた取材陣と、イギリスのラジオやファンクラブ、ウエブサイトなどで募集し
たコンペの当選者、合計200名近くが、まずロンドンのセント・パンクラス・インターナショナル駅(ハリー・ポッターで有名な)に集合。4人のメンバーと
伴に、ユーロスターでパリへと向かい、そこで特別クラブ・ライブを見るというスケジュールだ。すでに決まっているコンペの当選者に加え、この日駅に見送り
に集まった多くのファンの中から再度抽選があり、幸運な二人が約200人の一行に加わることになった。
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何しろテイク・ザットはイギリス庶民に愛される国民的スター。イギリス媒体からの関心は大変なもので、音楽誌やラジオやテレビの音楽番
組の関係者ばかりでなく、BBCを始めとするイギリスのニュース番組やラジオ、セレブ雑誌やタブロイドのパパラッチ・カメラマンなども加わり、セント・パ
ンクラス駅での取材合戦は過熱気味。身にしみる冬の冷気がたちこめる駅のプラットフォームに、異常な熱気を放った。セント・パンクラス駅のホームでのテレ
ビ取材と写真撮影が終わると、午後1時半4車両を貸しきったユーロスターで一行はパリへと向かった。
2時間半の移動時間中、メンバーは世界各国の記者から20分刻みのかこみ取材をうけた。私はゲイリーに取材したが、周囲の大騒動ふりとは対照的に非常に和んだ感じでリラックスしていて、さすが大物の貫禄?!
「所属するユニヴァーサルがフランスのレコード会社だから、ヨーロッパでアルバムを発表するんだったら記念イベントはパリでやるしかな
いかな、って思ったんだ。でも本当はね、僕ら4人のうち3人がパパになったから、家族を連れてパリに来たかったんだよ。仕事じゃなくて休暇みたいなもんだ
ね」
ストレス・ゼロでハード・スケジュールをこなしていた。さてロンドンとは時差1時間のパリに午後5時に到着すると、すっかり日は暮れて
いた。小雨の降る寒さも日没の暗さも何のその。パリの北駅には、フランスの熱いテイク・ザット・ファンが彼らを待ち受けていた。赤白青の3色旗バナーをか
かげホームの入り口や、バルコニーなど、4人のメンバーを人目見ようと数百人のファンが集まった。
そしてこのイベントのハイライト、特別ライブは、ルーブル美術館裏手にあるVIPルームというクラブで行なわれた。ここはこじんまりした1000人
入れば満杯のクラブ。最近はアリーナ・ツアーのみしかやらない彼らを、小箱で、まじかで見れる稀な機会とあってか、招待券を手にしたファンは会場8時前か
ら長蛇の列を作っていた。またこの夜のライブにはロンドンからきた一行に加え、パリのファンや招待客が観客として加わることになった。そんな英仏のファン
が交じり合い、寒さの中開場待っていたが、開場前での歩道では『ザ・サーカス』のテーマにそって、ピエロやファイアー・イーターなどが芸を拾う、ファンを
楽しませた。
いったんクラブの中にはいると、無料のドリンクやポップ・コーン、綿飴(キャンディーフロスト)が配布されたり、前座の曲芸師のキャバ
レー風パフォーマンスが行なわれたり。狭いクラブ内部はサーカスのテーマで統一されていた。そんな楽しい余興があったものの、明らかにクラブ内にひしめき
合うファンたちのお目当てはテイク・ザットのライブ。それだけに彼らがステージに登場すると、悲鳴と歓声が会場を埋めた。90%は女性ファンだったが、一
部男性ファンの姿も見うけられた。
この夜彼らが披露してくれたのは、新作からのシングルで「ザ・グレイテスト・デイ」、イギリスでは現在スーパー・マーケットのCFに使
用されている「シャイン」、そして映画『スターダスト』の挿入歌としてヒットした「ルール・ザ・ワールド」、そこに「ジュリー」「ペイシェント」「アッ
プ・オール・ナイト」が続いた。連帯の良さを感じさせるパフォーマンスは彼らが心から楽しんでいることを感じさせた。そして曲間では4人が交代でマイクを
とり特に観客に熱心に語りかけ、ファンのサポートに熱い感謝の気持ちを表した。
誰もが全曲の歌詞を知っており、空に舞う沢山の拳と息のあった大合唱が印象的だった。この夜は、そのファンの力強い歌声を聞きながら、
彼女たちの忠誠心と献身度に、ことごとく感嘆させられた夜だった。帰りのユーロスターの中で、抽選に当たった3人のファン(イギリス2名、シンガポール1
名)と話しをする機会があったが、彼女たちのテイク・ザット初体験は10歳の頃。そして現在26歳というから、そのファン暦はこの若さにして驚くべき16
年。息の長いファンによって支えられている彼らの人気は、衰えるどころか日々に増強しているのだ。そしてそれか彼らのカムバックの奇跡的な成功の秘密なの
だと思った。
(レポート/高野裕子)
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