井上苑子×n-bunaオフィシャルインタビュー公開!
話題のロックバンド「ヨルシカ」のコンポーザーやボカロPとして活動するn-buna(ナブナ)がプロデュースしたニューシングル「ファンタジック」。n-bunaの持つ叙情的でありながらキャッチーな世界観と、井上の持つかわいさの中に切なさが宿る世界観とが融合し、両者にとってまた新たな一面が見える一曲となっている。
そもそも今回のコラボレーションは、ヨルシカの曲が好きだったという井上が、直感的に自分と合うと感じてオファー。n-bunaも自分とは正反対のように見えた井上の中に、自分と重なる影のようなものを感じて応じたという。そんな二人の初対談が実現! 話してみると意外にも(!?)共通点が多く、異なる部分もお互いにリスペクトし合える間柄。これからもいい関係が続いて行きそうな予感のする対談となった。
■光の中に若干の影が差すような曲が映えるだろうな(n-buna)
――ヨルシカが好きだった苑子さんからのオファーがあって、今回のコラボレーションは実現したそうですが、n-bunaさんは苑子さんにどんな印象を持たれていましたか?
n-buna:音源やMVからの印象なんですが、すごい光があって(笑)。でも声に特徴があって、少しハスキーで、倍音が豊かな声質なので、光の中に若干の影が差すような曲が映えるだろうなって思いました。
――お二人が実際に会ったときの印象もお聞きしていいですか?
n-buna:自分は完全にネクラな人間なので、それに反してすごい光属性だなって(笑)。
井上:あははは(笑)。実際も光属性でした? “光属性”ってプロフィールに入れようかな。
n-buna:僕は闇属性なので(笑)。でもそのとき、光属性に負けて明るい話をしてしまった記憶があって。
井上:(笑)。私はn-bunaさんが作られる曲がすごく緻密なので、自分より(年齢が)もっと上の方なのかな?って思っていたら、意外にも近い世代だったので親近感が湧きました。
n-buna:僕の曲が老衰しているから、年をもっと取っていると……(笑)。
井上:違いますよ! 私より経験値が高い気がしていたんです。だからお若いって知って、よりすごいなって。n-bunaさんは普段、どんな風に作詞作曲をしているんですか?
■実は私、こう見えて超ネガティブなんです(井上)
n-buna:基本的には最初に世界観を設定して、そこから情景を思い浮かべながら曲と歌詞を書くっていう方法ですね。今回の「ファンタジック」で言うと、まずは井上さんを主人公としてどこかで歌っている姿を想像したんです。それで、その情景はどんなんだろう?って考えたときに、青空の下が思い浮かんで。しかもそれは都会ではなくて、それこそ今回のMVに出てくるような、草原のようなところ。時刻は朝か、真昼で、透明感のある澄んだ青空の下に立って歌ってる。そこから曲ができていきました。
――今回の歌詞は苑子さんからn-bunaさんにいくつか言葉を伝えて、そこから完成させていったそうですね。
n-buna:今の井上さんの心境とか、世界観を取り入れたくて、いろいろお聞きしました。曲からイメージした情景とか、言葉とか。そこで1番のAメロに反映されている、冬の暗い部屋に一人でいて、そこに少しだけ光が差してるみたいなことも聞いて。そのときに、光属性に見えていたけど(笑)、意外と光の中だけで生きているんじゃないんだなって。その辺りが段々見えてきて、これはいいエモーショナルが曲に追加できるなって思いました。
井上:実は私、こう見えて超ネガティブなんです(苦笑)。だからポジティブな人に憧れるんですけど、近くにいると自分が悲しくなったり。
n-buna:あ~、わかる(苦笑)。
井上:でも性格的に人に合わせちゃうタイプなので、ポジティブな人がいると合わせちゃうんです。もしかしたら周りの人にはその部分が前面に見えていて、光属性って思われてるのかもって(苦笑)。
n-buna:そうなんですね。僕は逆に、会ってみたら思ったよりはっちゃけてるって言われたことがあって。僕が冗談を言ったりすると、イメージと違うって言われたり。僕=作品と思われているからだとは思っていて、それは僕としてはいいことではあるんですけど、そんなにネクラなことばっかり書いてたかな?って、ちょっとショックを受けました(苦笑)。
■最初に作った曲からCDのような音源にすることしか考えてなかった(n-buna)
――n-bunaさんが初めて曲を作ったのはいつですか?
n-buna:中3です。アコギで作ったんですけど、CDのような音源にすることしか考えてなかったので、そのためにはドラムの音とかはどうすればいいんだ?ってなって。それで母から譲り受けた、スペックのかなり低いPCを使って、インターネットで調べてフリーの作曲ソフトを入手して。次に音を出力するソフトを探してって、一つずつパーツを埋めていくように作っていきました。井上さんは小学生の頃からストリートでやっていて、そこから曲も作っていたんですよね?
井上:そうなんですけど、私は弾き語りです。
n-buna:オリジナル曲を初めて作ったのはいつですか?
井上:小6です。
n-buna:早い! その頃作った曲ってCDになっていたりしますか?
井上:音源化はされていないんですけど、絶対にイヤです(笑)。でも最近テレビで流されて、すごい恥ずかしかった。
n-buna:あははは(笑)。でもその頃がなかったら今の井上さんがないので、自分を肯定して行って欲しいですね。
■僕が入っても共鳴できるんじゃないかって思えたからやらせていただいた(n-buna)
――n-bunaさんは楽曲提供をするときに心がけていることはありますか?
n-buna:自分自身の作品を作るときは、ホントに好き勝手に自分の作たいように作るんですけど、今回のように他の方に提供をするときは、自分のやりたいことだけやって提供するってことはしたくなくて。それこそ井上さんであれば、小学生の頃からストリートで始めて、そこからCDを出すようになって。その中でファンの方と培ってきたものがあるじゃないですか。だからファンの方が望んでいるものという部分もあって。そういった大前提を踏まえた上で、僕がそこにエッセンスのようなものを加えて、いい化学反応が起こればなっていう考え方なんです。だから今回の曲で言ったら、絶対にアコギの音は入れたいとか。シンガーソングライターとして、アコギを弾きながら歌っている井上さんの姿がカッコいいって思ったので。
――もし、自分と合わない人からオファーが来たらどうするんですか? その場合も相手に合わせるんでしょか?
n-buna:オファーを受けないです。僕は自分がやりたいと思えるものしか作らないので。
井上:良かった~、受けてもらえて。ホッとしました(笑)。
n-buna:(笑)。僕が介在する余地のない光属性!みたいな方だったら、僕が入らない方がいいものができるって思うんです。リスナーとして聴く分には、そういうワイワイ楽しくっていう曲も好きなんですけど、僕がやるのはそこじゃないなって。光のバリアに跳ね返されて、その先にいる聴いてくれる人っていうラスボスまで届かないと思うので(笑)。井上さんは光属性とは思っていましたけど、作品を通して闇が似合う要素があるとは感じていて。エモが見い出せたというか。これは僕が入っても共鳴できるんじゃないかって思えたからやらせていただいたんですけど、結果的に上がってきた音源やMVもすごいいいものになっているなって思うので、やれて良かったなって思ってます。
■ファンの人の生活の一部に自分がなっているって思うと、それを私が崩しちゃいけないって思う(井上)
――アーティストとして壁にぶつかったとき、お二人はどんな風に解消しているのですか?
井上:私はネガティブなので、壁というとそこですね。何かがあって落ちスイッチが入ってしまうと、私じゃなくてもいいんじゃないかとか、そんな風に思ってしまったりして。けど、そういうときに持ち直せるのは、やっぱりライブだったりでファンの方と会うことなんです。私のことをすべて知っているわけじゃないのに、歌を通してこんなにも私のことを好きでいてくれるなんてもうすごくいい人ですよね。しかもライブなんてお金まで払って来てくれて。そんな人たちの生活の一部に自分がなっているって思うと、それを私が崩しちゃいけないって思うんです。それで落ちてちゃダメだったって思えて、持ち直します。
n-buna:いいですね。一番美しい創作のあり方だなって思います。でも僕は全く逆なんですよ(苦笑)。僕はもう自分のためにしか作品を作っていなくって。もちろん僕も人間なので、作品を好きって言ってもらえたら、それは嬉しくて、ありがたいことなんですけど、それが創作へのエネルギーになることはないんですね。なのでそれこそスランプとかになったら、曲ができなくても曲を作り続けるしかなくて。ただできなくても作りたいっていう意識はあるから、作っていたらいつの間にかスランプを抜け出してるっていう感じなんです。
――おなじアーティストなのに、その辺りは全然違うんですね。
n-buna:僕は誰も僕の曲を聴かなくなったとしても、一人で作り続けるタイプなんです。自分のために曲を作っているので。ただ不思議なことと言うか、そういう僕の極めてパーソナルで内省的な楽曲を、聴いてくださった方が「このときの気持ちは自分も一緒だ」とかって共感して、元気をもらったりしてくれているんです。そのことは、そんな風に役立つなら、作った甲斐があったなって思って嬉しくなります。でもアーティストとして、歌い手としていいのは井上さんの形なんですよ。作品と自分の感情が直結してるってことですよね。歌ってそれこそ感情表現じゃないですか。いかに自分を作品に流れ込めさせられるかってことなので、それは羨ましくもあります。
■演奏と演奏の合間の空間に井上さんの声が流れ込んで行くようなもの(n-buna)
――次にコラボするとしたら、どんなものをやってみたいですか?
n-buna:個人的にやりたい方向が2つあって。まず1つは純粋にロック調のバンドサウンドの曲ですね。そういう曲は絶対に映えると思います。もう1つは井上さんの声質をそのまま活かすような、落ち着いたタイプの曲。それこそ楽器はちょっと後ろに引いて、演奏と演奏の合間の空間に井上さんの声が流れ込んで行くようなもの。これも絶対に合うと思います。
井上:私もそういうのやりたいです。空間があるような曲はずっとやりたいって思っていて。
n-buna:じゃあ、やりましょう!
井上:ライブでそういう曲を表現するのがホントに楽しいんです。空間を自分のものにできるというか、無音も意味のある音にできるじゃないですか。そんなときはときどき自分が自分じゃないような感覚になることがあって。そういうことがあった日のライブは、最高だったなって思えるので、ぜひやりたいです!
(取材・文/瀧本幸恵)