BIOGRAPHY
<ショート・ヴァージョン>
アイルランドのウィックロー州出身、1990年生まれ、25歳のシンガー・ソングライター、マルチ楽器奏者。
音楽一家に育ち、ダブリンのトリニティ・カレッジに短期間在学(曲を作るために中退)。少年~青年期はブルース、モータウン、ジャズなどの父のレコードを聴いて育ち、ピンク・フロイド、ニーナ・シモン、ビリー・ホリデイ、トム・ウェイツなど、強い存在感のあるヴォーカリストやアーティストに影響を受けてきた。
2013年デビューEP「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」リリース。2014年9月デビュー・アルバム『ホージア』リリース、12月グラミー賞ノミネート。
世界で大ヒットした「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」は、エド・シーラン、ワンリパブリック、エリー・ゴールディング、カイザがカヴァーしている。また、テイラー・スウィフト、サム・スミス、デヴィッド・ゲッタ、バスティルがSNSでホージアについてポストするなど、アーティストからの人気、評価も高い。
<ロング・ヴァージョン>
詩のようなリリックを歌うソングライターと出会うと、それまで知らずにいてどれだけ損をしてきたのか初めて知る。そのリリックを、燃えるような憤りと軽快な優しさをうまくバランスさせたサウンドに重ね、スピリチュアルな情熱とゴスペルとブルースへの切望が沁み込んだボーカルで歌われると、非常に素晴らしいものを偶然発見できたような気になる。そう思わせてくれるのは、アイルランドのウィックロー州出身、シンガーソングライターとマルチ楽器奏者としてHozierの名で活躍するAndrew Hozier-Byrneである。その言葉の扱い方とロマンスに対する彼の感受性は(我々にとって)神の恵みであり、ロマンチックな夢見は(彼にとって)呪いのよう。彼が描く鮮やかなイメージは、激しく、そして時に抑え切れない感情に捕らわれた魂を浮き彫りにする。それが23歳の彼に感情が露になった作品を作らせるのであれば、それはそれで素晴らしいこと。
音楽一家に育ち、ダブリンのトリニティ・カレッジに短期間在学(曲を作って世界に届けたいという衝動が勉強への意欲よりも強かった為)したHozierは、少年時代と青年期を父のレコードを聴いて育った。「特にシカゴやテキサスのブルース、Chess Records、Motown、それからジャズ、そして最も忘れてはならないのがデルタ・ブルース。あの異常なほどに記憶に留まるサウンドが特徴のSkip JamesやBlind Willie Johnsonなどを夢中になって聴いてた。Pink Floyd、Nina Simone、Billie Holiday、そしてTom Waitsにもものすごく影響を受けた。 忘れられない声をしたボーカリストがいつも好きだった。ジェイムズ・ジョイスやオスカー・ワイルドのような作家もそう。言葉ではうまく言えないけど、その存在は魂の奥深くに根付くんだ」と、彼は説明する。
当然のことながら、hozierにとってリリックは非常に大切である。「一番と言わないまでも、曲の中で最も大切な要素の一つだと思ってる。そこには物語があって、曲を書いた本人が存在する。曲作りの中で今でも僕はリリックに最も時間と努力を費やすし、最も大切だと思っている。それに最も意識している要素でもあるんだ。僕はちゃんと価値のあるものを伝えているのだろうか?って自分に訊く。」
去年リリースされたデビューEP『Take Me To Church』(アイルランドのiTunesチャートで1位、オフィシャル・シングルス・チャートで2位を獲得)に対する世間の反応を見れば、彼が価値のあるものを伝えていることが理解できる。苦しみに満ちたEPタイトルトラックは、しっかりとメッセージを伝えていると同時に、それがHozierにとって重要なことであることを主張している。Brendan Cantyが監督した感情を刺激するPVは、集団リンチを目的に2人のゲイの男性を追い詰めるグループ、そしてプーチン大統領が同性愛プロパガンダ禁止法を成立したことでロシアのデモ参加者たちが抗議する映像が織り交ざっている。「この曲は、人は産まれた瞬間から罪深い存在である、ということを歌っている。だから、女性になる前に、ゲイの男性になる前に、一人の人間としてカトリック教徒は人を罪深いものとして批判する。自分を恥じ、許しを請う存在であると教えられる。僕はセックスを人生を祝うものとして扱いたかった。セックスと同じような行為って他にあまりないと思うんだ。」
カトリックの両親を持つHozierだが、教会で育った訳ではない。「母は教会に育てられたんだけど、ものすごくそれに反対していた。その教理に関して僕ははっきりした意見を持っている。アイルランドでは、権力が乱用され、女性や子供たちはひどい虐待を受けてきた。あれは有害な組織なんだ。僕は子供の頃に影響は受けなかったけど、成長するにつれて、その偽善、女性の扱い方、そして同性愛嫌悪に気付いてしまった。」
「Take Me to Church」を通じてHozierは答えを出している。セクシュアリティ、自由、そして人類について書かれた曲のそのリリックは、信念と悪事を一つにした魅惑的なコンビネーションが含まれており、それは彼の曲作りに対するアプローチを特徴付けるものでもある。その他にEPに収録されているトラックは、初恋をテーマとして取り上げており、ノスタルジックな記録として書いていたり、まるでまだその関係が続いているかのように書いている部分もある。それは破壊的な手段であり、リスナーとして彼のその痛み、過去の嫉妬、そして現在も続く歓喜をすべて1曲の中で目の当たりにすることになる。のどかなフィンガーピッキングで演奏された「Like Real People Do」で彼はこう歌う:“どうして穴を掘ってたの?なにを埋めていたの?その手で僕を地球から引っ張りだす前に?”恋人の過去について推測することによって生まれる苦悩について思い出させられる。日の出と共に、Hozierの自宅近くの廃墟となったホテルの屋上でレコーディングされた「Cherry Wine」も同じく葛藤が存在する。“罪悪感の呼ぶ声が僕に投げつけられ、その間彼女は他の奴のためにシーツに染みをつける”は、苦悩から真っ直ぐ発せられるリリックであるが、音楽的にこのトラックはデリケートで夏に吹くそよ風のように穏やかで、偶然の参加となったバックボーカリストの鳥たちの夜明けのさえずりに乗ってそよ風が吹いている。
Hozierの作品に含まれるこの一定なる言葉と音の感情の対比が、彼の存在を他のアーティストたちから区別している。可愛いことに、どうやら彼は自分が作る作品のその力をあまり把握していないようだ。それどころか、彼は疑念とジレンマと常に闘っている。曲を書き上げた瞬間だけがつかの間の休息だと彼は言う。「愛と失恋についてはまだ理解しようと努力している。それが自分のアイデンティティにどのような影響を与え、それが終わった時にはどういう意味を持つのか。終わった時には、きみは一体だれなんだ?という疑問を投げかける。本当の自分はあの頃の自分なのか、それとも出会う前の自分だったのか?でも少なくとも、それが起こった時には自分で整理することが可能な立場にいる。それに、曲を書いていると、次の曲を書くほうがよっぽど簡単なんだ。だって、次へ進むには、まずそれを他の誰かに押し付けないといけない。僕の言っている意味、わかるかな?そうすると突然視界が明るくなる。」
Hozierの最新EP(UKではファーストとなるEP作品)のタイトル・トラック「Eden」は、そういった瞬間に書かかれた曲。“きみの扉の外で座って待っていられるように、僕はこのエデンから滑り降りて行く”、そして後に愛する相手を想像しながら歌う。“手には縄を握っている、もう一人の男が木からぶら下がるために”と歌詞は続く。危険だと分かっているのに決めることができない人がいて、どうすることもできずにただ岩の方へと引き寄せられる。そして再び、サウンドが歌詞と対比している。そこに苦しみはなく、スタッカート・ギター、堂々と鳴り響くピアノ、そして低く鳴るベースと、遠くに聞こえるゴスペル・ボーカルが重なり合い、それはまるで祝うようにリリックの一部分だけに注目しており、残りの部分を完全に無視している。この二重性の効果は爽快だ。
両方のEPのレコーディングは、Hozierいわく、「暮らしている家の上にある灰色でつまらない屋根裏部屋で行った。それは、プロデューサーのRob Kirwan(U2、Depeche Mode、Glasvegas、Ray Lamontagne)を迎えて、ダブリンでオーバーダブやミキシングを手掛ける前のこと。」現在、Hozierのデビュー・アルバム用のセッションが進行されている。せっせと曲作りをしていると彼は言う。屋根裏部屋で感情を掘り出し、自分の中の悪魔と闘い、危険なことをして、人生の矛盾に苦しむ。頭の中の声を止めて、慎重になったかと思ったら次の瞬間に勢い良く放棄できたら、もしかしたらHozierも心の平安をみつけられるのかも知れない。でもそうしたら彼は曲作りをやめてしまい、我々はそれを聴けなくなってしまう。非常に残酷な意見になってしまうが、もし彼の為ではないのなら、せめて我々のために彼の中の炎が怒りで熱く燃え続けることを願う。