来日公演ライヴ・レポート。セットリストがプレイリストに
2022年11月5日(土)、6日(日) さいたまスーパーアリーナでの来日公演、大盛況のうちに終了!
▽初日公演のライヴ・レポート&セットリストのプレイリストを公開!
【プレイリスト】初日セットリスト >>
<オフィシャル・ライヴ・レポート>
2017年1月以来、約5年10ヵ月ぶりに日本上陸を果たしているガンズ・アンド・ローゼズ。9月から10月にかけては中南米各国をツアーしてきた彼らだが、今回の日本公演はそれに続くアジア・パシフィック・ツアーの幕開けにあたるもの。さいたまスーパーアリーナでの二夜公演のみという非常にコンパクトなツアーではあるが、新型コロナ蔓延以降なかなか実現していなかった海外ロック・バンドの大規模な単独来日公演ということもあり、ファンの期待感は極限ギリギリのところまで膨張していたに違いない。公演初日となった11月5日のライヴ空間に渦巻いていた熱気がそれを裏付けていた。
この日の場内は限りなく満員に近い状態。空席がひとつも見当たらないわけではないが、スタンド席の上部まで人、人、人で埋め尽くされていた。かつてこのバンドのライヴといえば開場や開演の時刻がずるずると遅れがちなことでも知られていたものだが、彼らに“お騒がせバンド”という言葉が付いて回っていたのは過去の話だ。この日の開演予定時刻は18時。そして実際に場内が暗転し、彼らがステージに登場したのはそれから約20分後のことだった。「それでも定刻開演じゃないじゃないか!」という突っ込みも聞こえてきそうだが、彼らの歴史を知る人たちからすればこれは「わずか20分」であるはずだ。
仰々しい勿体を付けることなく冒頭で炸裂したのは、「It’s So Easy」。長らく続いていたアクセル・ローズ以外のオリジナル・メンバー不在時代を経て、2016年の春に彼とスラッシュ、ダフ・マッケイガンの再集結が実現してからは、完全にこの曲がオープニングの定番になっている。以降の具体的な演奏プログラムや、どの曲でどんなことが起きたかについては、事前情報に触れることなく第二夜のステージに臨みたい方々のためにも極力控えておきたいと思うが、それ以前に、その詳細をこの場に書き連ねていくことには無理がある。なにしろ彼らのショウはそれから約3時間、演奏曲数はスラッシュのギター・ソロやアンコールもカウントすれば全24曲にも及んだのだから。
長い歴史と数多くの鉄板曲を持つバンドの場合、セットリストは固定的なものになりがちだ。このバンドの場合、かつては「アクセルの喉のコンディションと気分により臨機応変に曲目や曲順を変えていく」という傾向もあったが、近年ではそれも変わりつつあり「その日の基本的な演奏メニューと、代替曲候補リスト」が用意されるにとどまっている。この夜のセットリストについても、原則的には先頃の中南米ツアーの際の演奏内容に準ずるものとなっていたが、日本のファンにとって重要なのは、彼らがこれまでこの国で演奏したことのなかった楽曲が数多く含まれていた事実だろう。
その中には、最近になって“新曲”として公開された「ABSUЯD」と「Hard Skool」、ごく初期からの楽曲であり1988年の初来日当時にはすでにほぼ演奏されなくなっていた「Reckless Life」や「Shadows Of Your Love」のみならず、スラッシュとダフがかつてこのバンドを離脱後に始動させたヴェルヴェット・リヴォルヴァーの代表曲である「Slither」も含まれていた。同バンドのフロントマンだったスコット・ウェイランドは2015年12月、つまりガンズが現在の形へとリユニオンを遂げる以前に他界している。こうした楽曲を聴くことができるのは、今やガンズのライヴだけなのだ。それはアクセルがひとりでこのバンドの看板を掲げていた時代の唯一のアルバム『CHINESE DEMOCRACY』からの楽曲を現在のガンズが受け継いでいるのと同じことを意味しているのかもしれない。
そうした日本初お披露目となる楽曲が随所にちりばめられているばかりではなく、もちろん観客の誰もが求めているはずの「Welcome To The Jungle」、「You Could Be Mine」、「Sweet Child O’ Mine」、11月に似つかわしい「November Rain」、「Paradise City」といったキラー・チューンの数々は、しっかりと網羅されている。これまたネタバレ防止のために具体的には明記せずにおくが、そうした楽曲の導入部分などにロック・ミュージックの歴史的名曲たちのフレーズが用いられていたりする点も見逃すわけにいかない。そうした趣向からはロック・ミュージックの伝承者、伝道者たるガンズの姿も見えてくる。
実際、約3時間に及んだそのショウは、まさしく歴史と現在とが同居する、これまでのいかなる時代のガンズとも異なるものだったといえる。そして今が2022年であることを痛切に感じさせたことのひとつに、ステージの両サイドに青と黄色のコントラストが象徴的なウクライナの国旗が掲げられていた事実がある。しかも「Civil War」が披露された際には背景のスクリーンにもその旗が大きく映し出され、この曲の持つ意味とメッセージ性が改めて浮き彫りになっていた。どれほど時代が変わろうと、常に世界のどこかで諍いが繰り返されてきた現実に対する複雑な思いと深い悲しみ。それを想起させずにおかないこの曲に、筆者はこの夜最大の感動をおぼえた。
長いショウの中で目まぐるしく衣装を変え続けるアクセルには、この日は日本を意識してか大友克洋の『AKIRA』のTシャツ着用で歌う場面もあった。彼の口から「コンバンワ」という日本語を聞いたのも初めてだったように思う。しかも彼は曲を終えるたびに丁寧にお辞儀をし、「ドウモアリガトウ」を繰り返す。かつては良くも悪くも彼の一挙手一投足にハラハラとさせられていたものだが、前回の来日時と同様に今回も彼は上機嫌な様子だった。もちろんここで言いたいのは、彼がすっかりマルくなったということではない。ステージ上の誰もが上機嫌になるのが当然といえるほど、オーディエンスも素晴らしかったということだ。
今回の公演は、いわゆるフル・キャパシティでの開催となっているが、アリーナ前方がスタンディング形式だった前回の来日時とは異なり、全席指定という形式になっている。入場時の検温や手指消毒、場内での常時マスク着用といったコロナ禍でのルールは相変わらず徹底されているし、当然ながら声を出すことも控えるよう求められている。しかし拍手や手拍子は制限されていないし、マスク越しに思わず声が漏れてしまうことは誰にも止めることができないし、会場全体でそれが起きればそれなりの音量にもなってしまう。ただ、そこで筆者が感じたのは危険性ではなく、ロック・エンターテインメント本来の姿が日常に戻ってきつつあるという歓びだった。
素晴らしいライヴについて文字にする際に「あっという間の3時間だった」といった言い方をすることがあるが、この夜のショウはそう形容するにはあまりにも特筆すべきこと、考えさせられることが多いものだった。また、順序が逆になったが、スペシャル・ゲストとして登場した日本が誇るべきヘヴィ・メタルの先駆者、ラウドネスによる30分間の完璧なステージが場内を充分過ぎるほどに温めていたことも付け加えておきたい。彼らのパフォーマンスがガンズに火を付けた部分も少なからずあったことだろう。
そしてこの日本公演は11月6日、第二夜を迎える。スペシャル・ゲストとして名を連ねているのはBAND-MAIDとGRANRODEOの2組で、ガンズ・アンド・ローゼズの演奏開始は17時に予定されている。幸いなことに当日券も用意されているとのことなので、第一夜を見逃した方々はもちろん、昨夜の余韻の中にいる人たちにも、是非会場に足を運んで欲しいところである。しつこいようだが、現在のガンズのライヴにおいて「どうせ開演が遅れるんだろう?」というかつての常識に基づいた油断は禁物だ。ただし「予定は未定」という言葉は今も当て嵌まるかもしれない。もちろんそれは、彼らが同じショウを繰り返すだけのバンドではない、という意味においてである。
文:増田勇一
Photo : W. Axl Rose Archive Robert John