音楽プロデューサー松尾潔さんからのコメント掲載!
音楽プロデューサーの松尾潔さんからコメントを頂きました!
グレゴリー・ポーターはいま同業者に最も嫉妬されているシンガーではないでしょうか。音楽性とメッセージの放ちかたのバランスがきわめて今日的です。
2010年のデビュー盤『Water』の冒頭に収められた“Illusion”は、水紋が静かに広がっていくような美しさ。火を噴くようなメッセージとそれに見合ったビートの“1960 What”との対比もおもしろく、双方をNHK-FMのプログラムでご紹介したところ反応も上々でした。
2012年の『Be Good』はR&Bに寄った趣で、より自分ごのみでした。とくに“Our Love”は高い詩作能力の証となる1曲で、ぼくは自らこしらえた対訳を番組で朗読したほど。ここでのGPの佇まいは70年代のビル・ウィザーズを思わせますし、カート・エリングに肉薄するような瞬間もありました。
翌年3月の初来日公演も期待を裏切らぬもので、一生つきあえるシンガーとめぐり逢えたよろこびをぼくは噛みしめました。終演後にグレゴリー・ポーターと会う機会を得ましたが、紳士的で温厚な雰囲気にも心惹かれましたね。
ブルーノートに移ってからの『リキッド・スピリット』も堅調ぶりが伝わる好盤でしたが、新作の『希望へのアレイ』からは、このまま手堅く収まらないぞという野心めいた気迫も感じます。ディスクロージャーとのコラボヒットをいったん解体して再構築、さらにKEMをフィーチャーした“Holding On”はグレゴリー・ポーター史上最高のメロウネス。ジャンルを越境するというより、自分の信じる道をただ歩むだけと言わんばかりの悠然たる態度にしびれます。
松尾 潔(音楽プロデューサー)