【プレスリリース 全訳】『オーヴァーナイト・センセーション』50周年記念4CD+ブルーレイ・デラックス

2023.09.08 TOPICS

『オーヴァーナイト・センセーション』50周年記念4CD+ブルーレイ・デラックス

発売日:2023年11月3日

【プレスリリース 全訳】

ロサンゼルス発 ―― 1973年、フランク・ザッパ&ザ・マザーズは再び活動を開始した。その前の1年間に高水準のアルバム2枚 (1972年7月に発表したジャズ・フュージョン風の傑作ソロ・アルバム『Waka/Jawaka』と1972年11月にマザーズ名義で発表したビッグ・バンド・スタイルのアルバム『The Grand Wazoo』) で好評を博したあと、ザッパはまたもや新たな顔ぶれでマザーズを再編した。そして、それまで長いあいだ続けてきた作曲手法を見直し、従来とは一味違う曲作りの形式と作用を探求し始めた。加えてこれまで以上にリード・ヴォーカリストとしての自分の歌声を前面に出すとともに、自らのギターの腕に磨きをかけて演奏の幅を広げていった。

 こうして、1973年9月、『Over-Nite Sensation』が生まれた。紛れもない名盤となった『Over-Nite Sensation』は、広大なるザッパの音世界への入口として専門家からもそれ以外からも長らく評価されてきた。このアルバムは、翌1974年3月に出たソロ・アルバム『Apostrophe (‘) 』と共に、偉大なる入門盤としての役割を果たしてきた。また、これはザッパが4ch・サラウンド・サウンドで発表した最初の作品でもあった (ザッパはそのキャリアを通して、この常に進化し続ける音響システムを探求し続けることになる) 。
 『Over-Nite Sensation』は、マザーズの全体的な音楽的方向性の変化を告げる作品だった。さらにここでザッパはリード・ヴォーカルの大部分を担当し、唯一のギタリストとしてすべてのギター・パートを演奏していた。そうして生まれたのは多くの人の心に共鳴する新しいサウンドを持った新しいバンドであり、このアルバムはやがて1976年にゴールド・ディスクに認定された。その後『Over-Nite Sensation』の収録曲はほぼすべてがライヴの定番曲となり、ファンのあいだで息の長い人気を獲得した。たとえば「I’m The Slime」、「Fifty-Fifty」、「Zomby Woof」、そして「Camarillo Brillo」は、たちまちライヴのレパートリーに入っている。それから50年経過した今も、『Over-Nite Sensation』はザッパの膨大な作品カタログの中で特に優れた傑作のひとつとして讃えられており、昔も今も変わらないベストセラーのひとつとして人気を集めている。

 この『Over-Nite Sensation』の発売50周年を記念して、ザッパ・レコード/UMeは11月3日に新たな50周年記念拡張エディションを発売する。これはさまざまなフォーマットが用意されており、たとえば5枚組スーパー・デラックス・エディション (4CD/1ブルーレイ・オーディオ) には、多くの未発表音源/ミックスも併せて収録されている。アーメット・ザッパとザッパ家のテープ倉庫管理人ジョー・トラヴァースがプロデュースしたこの新たな拡張版『Over-Nite Sensation: 50th Anniversary Edition』は、ボブ・ラドウィックによるオリジナル・アルバムの2012年リマスターを採用。さらにボーナス・トラックとして、1973年のオリジナル・セッションで録音された未発表マスター、ハイライト音源、ミックス・アウトテイクをジョン・ポリートのマスタリングで収録している。また、この名盤の録音当時のマザーズが1973年に行ったコンサートの未発表音源2種類も発掘されている (ひとつはロサンゼルスのハリウッド・パラディアムで行われたコンサート、もうひとつはデトロイトのコボ・ホールで行われたコンサート) 。ブルーレイ・ディスクには、ドルビー・アトモスと5.1サラウンド・サウンドで新たにリミックスしたアルバム本体を収録。この新規リミックスを担当したカーマ・オーガー&エリック・ゴーベル (スタジオ1LA) は、2022年の『Waka/Jawaka』でもドルビー・アトモスおよびサラウンド・ミックスを手掛け、好評を博している。さらにこのブルーレイ・ディスクは、ザッパのオリジナル・4ch・サラウンド・ミックス (1973年に4チャンネルLPで発表されて以来、初の再発となる) に加えて、2012年のハイレゾ・ステレオ・リマスターも24-bit/192kHzと24-bit/96kHzの両フォーマットで収録している。この豪華なスーパー・デラックス・エディションに添付される全48ページのブックレットには、アルバム・ジャケット用のセッションでサム・エマーソンが撮影した未公開写真のほか、著名なオーディオ・ジャーナリストのマーク・スモトロフのエッセイとトラヴァースが執筆したライナーノートが掲載されている。

 1973年4~5月にホイットニー・スタジオで録音された「Fifty-Fifty」の未発表テイク (ベーシック・トラック/テイク7) は、本日より公開開始。この非常にファンキーな音源はヴォーカルのないヴァージョンであり、参加したミュージシャンたちの優れた技巧を堪能できる。

 今回の50周年記念盤では、スーパー・デラックス・エディションに加えて、LPヴァージョンも2種類発売される。まず2枚組LP (180gブラック・オーディオファイルLP仕様) はオリジナル・アナログ・マスターテープを初の45回転カッティングで収録。カッティングは2023年にクリス・ベルマン (バーニー・グランドマン・マスタリング) が行っている。この2枚組LPには、アルバム・ジャケット・アートワークを完全に再現したボーナス・ポスター (24インチ×12インチ) が添付されている。さらに限定版3枚組LP (4色スプラッター入りクリア・ディスクにプレスされたデラックス・カラーLP仕様) は、45回転でカッティングされたLP1、LP2に加え、ボーナス・トラックを収録したLP3で構成されている。このLP3はボックス・セットから選ばれた音源を35分間に渡って収録しており、やはりベルマンが33・1/3回転でカッティングを行っている。このカラー・プレスの限定盤LP (やはりジャケット・アートの24インチ×12インチ・ボーナス・ポスターを収録) は、Zappa.com、uDiscover Music、Sound of Vinylで独占先行予約を受け付けている。

 さらにスーパー・デラックス・エディションはデジタル・フォーマットでも発表され、全トラックがハイレゾ (24bit/96kHz) とスタンダード (16bit/44.1kHz) の両方で提供される。また主要なハイレゾ・ストリーミング・サービスでは、アルバム本体7曲のドルビー・アトモス・ミックスも単体で配信される。

 『Over-Nite Sensation』の録音に参加した新たなラインナップのマザーズは、さまざまな技巧派ミュージシャンで構成されていた。その中にはキーボード奏者のジョージ・デューク、バイオリニストのジャン・リュック・ポンティ、ドラマーのラルフ・ハンフリー、トランペット奏者のサル・マーケーズのようなジャズ出身の者もいれば、木管奏者のイアン・アンダーウッドやパーカッション奏者のルース・アンダーウッドのようなクラシック出身の者もいた。さらにそこには、2人のファウラー兄弟 (トロンボーンのブルース・ファウラーとベースのトム・ファウラー) も名を連ねていた。その結果、この特徴的な音色を持つマザーズの楽器編成は、ロック・フォーマットによるミニ・オーケストラのような風情になった。ザッパはこうした面々を見事に使いこなし、「コズミック・デブリス」や「モンタナ」といった既存の曲の新たなアレンジを編み出しただけでなく、メンバーの長所を最大限に生かす新曲を数多く書き下ろしている。

 ボリック・サウンドとホイットニー・スタジオで行われたこのアルバムのレコーディング・セッションには今や伝説となったさまざまなゲスト・ヴォーカリストが参加し、さらなる色付けを加えることになった。たとえばリッキー・ランスロッティのまさに熱狂的な過剰なヴォーカル・スタイルは、「Fifty-Fifty」や「Zomby Woof」といった曲でとてつもない迫力を醸し出している。またキン・ヴァッシー (ケニー・ロジャースやザ・ファースト・エディションの録音にも参加) は、アルバムのあちこちで面白おかしいバック・ヴォーカルを披露している。とはいえこうしたゲストの中でとりわけ語り草となったのは、ティナ・ターナー&ジ・アイケッツだろう。当時ザッパが録音で使っていたボリック・サウンド (カリフォルニア州イングルウッド) は、アイク・ターナー所有のスタジオだった。それゆえ、ティナとフランクがここで出会ったのは当然の成り行きだったように思える。よく知られているように、ティナとアイケッツの名前はクレジットされずに終わった。それでも彼女たちのバック・ヴォーカルはアルバムの至るところに散りばめられており、それは紛れもなく個性的で、しかも完璧だった。1973年に『Over-Nite Sensation』の盤面に初めてレコード針を降ろした人は、たちどころに気づいたに違いない。常に広がり続けるザッパの音世界に、それまでとは異なる何か新しい刺激的なことが起こりつつあったのである。ここに収録された楽曲はファンキーで面白く、挑戦的で力強かった。そして、過去数年間の彼の作品よりもずっと親しみやすい内容だった。

 『Over-Nite Sensation』の選曲については、6月上旬の段階ではさまざまな案があった。ある時点では、「Inca Roads」や「RDNZL」のようなインストゥルメンタルも収録される可能性があった。 (「Inca Roads」は最終的にヴォーカル入りの新アレンジ・ヴァージョンが完成し、1975年6月の『One Size Fits All』に収められた。一方「RDNZL」は、のちに1978年9月の『Studio Tan』で発表されている。) また、23年後の1996年にCD『The Lost Episodes』でようやく発表された「Wonderful Wino」も候補曲のひとつだった。やがて『Over-Nite Sensation』はハリウッドのパラマウント・スタジオでザッパとエンジニアのケリー・マクナブの手によって完成し、マザーズはハワイとオーストラリアを回るツアーに出発。アルバムのマスター・テープは、7月にレコード会社に納品された。今回のボックス・セットのディスク1には、上に挙げた3曲が”Bonus Session Masters”として収められている。このうち「Wonderful Wino」については、ザッパとマクナブがミキシングした1973年のヴィンテージ・ミックスを”コンプリート・エディット”・ヴァージョンとして収録。また「RDNZL」の1973年の未発表ヴィンテージ・ミックスには、『The Lost Episodes』収録のヴァージョンで削除されていたザッパのギター・ソロが含まれている。さらに「Inca Roads」については、サル・マーケーズのヴォーカルとトランペットのトラックが16トラック・マスターから発見されたため、2023年に新たなミックスが制作されることになった。

 1973年、ザッパとマザーズは精力的にツアーをこなしていた。このバンドは公会堂、劇場、大学といったライヴ会場を回り、熱烈なマニアの要望に応じるだけでなく、新たなファン層を開拓することも目指していた。そうしたコンサートは主として新曲で構成されており、そこに新たなアレンジを施した旧曲が織り込まれていた。このようなアプローチは、常に新しいものを優先させていたザッパならではのものだった。今回のスーパー・デラックス・エディションでは、前述したハリウッドとデトロイトのコンサートで収録された未発表ライヴ音源27曲を通してそうしたツアーの成果の一部を聞くことができる。3月23日にハリウッド・パラディアムで行われたコンサートでは、新興宗教の導師を描いた一種のブルース「Cosmik Debris」や、スローなファンキー調の「Curse Of The Zomboids (I’m The Slime) 」といった曲が早くも披露されていた。それから2カ月も経っていない5月12日にデトロイトのコボ・ホールで行われたコンサートでは、ホーン・セクションが主導する猛烈なインストゥルメンタル「Fifty Fifty」が演奏されたほか、「Don’t Eat The Yellow Snow」、「Nanook Rubs It」、「St. Alphonzo’s Pancake Breakfast」のメドレーがザッパらしい語り口で披露されている。
 『Over-Nite Sensation』は、フランク・ザッパに新たな商業的なチャンスをもたらすことになった。とはいえこの巨匠本人は企業社会の画一的なヘドロの中に飲み込まれることをよしとせず、1970年代もそれ以降も自らの霊感の命ずるままに活動を続けた。今回の『Over-Nite Sensation』の50周年記念スーパー・デラックス・エディションでは、デンタルフロスの栽培、何の良心もないテレビの無駄口、ポンチョを着た放蕩者について細々と物語る直感的で誇らしげなストーリーをさらに楽しむことができる。こうしたストーリーはどれも、その後の活動の真意を隠す言い訳として機能した。そして言うまでもなく、ザッパがまだ何か言いたいことをたくさん抱えているのだと世間の人に確信させたのである。