BIOGRAPHY

フランク・ザッパ / Frank Zappa

Photo (C) HenryDiltz


<『The Mothers 1971』海外プレスリリース翻訳>

フランク・ザッパの1971年の伝説的なフィルモア・イースト公演 (ニューヨーク・シティ) と同年最後のステージを衝撃的に締めくくったレインボー・シアター公演 (ロンドン) が、ショーの開催から50周年を記念して、8枚組CDボックス・セット『The Mothers 1971』として登場。

- フィルモア・イーストの最後を飾ったマザーズの2夜連続公演 (全4ステージ) を、テープ倉庫から発掘された膨大な未発表ライヴ音源で完全再現。ジョン・レノン&オノ・ヨーコがゲスト参加した有名なアンコールもノーカットで収録。さらにレインボー・シアター (ロンドン) での最終公演をエディ・クレイマーが新たにミックス。ボーナス・トラックとしてペンシルベニア州ハリスバーグおよびスクラントンで録音された音源の「ハイブリッド・コンサート」なども収録。

- ボックス・セットに収録されている全トラックのデジタル配信もスタート (スタンダードなCD規格版、ハイレゾ・オーディオ版の2フォーマット) 。

- 『Fillmore East - June 1971』の50周年記念拡張版 (3枚組LPセット) には、オリジナル・アルバムの新規リマスターに加え、ボックス・セットには収録されていないザッパ自身による”ヴィンテージ・ミックス” (“Period-Perfect Mixes”) やその他ボーナス・トラックも収録。レインボー・シアター公演の模様をまとめた『Rainbow Theater』も、単独の3枚組LPセットで同時リリース。

(ロサンゼルス、2022年1月13日) ―― 1971年8月、録音が行われてから、わずか2ヶ月後にリリースされた『Fillmore East - June 197』は、フランク・ザッパ&ザ・マザーズの傑作ライヴ・アルバムだった。ここでは、あるバンドのツアー中の (そしてツアー以外での) 少々猥雑な生活ぶりが見事な演奏と見事な編集で描き出されていた。実質的に、これは1971年10月にリリースされた『200 Motels』の予告編のような位置づけにあった。『200 Motels』はシュールなドキュメンタリー映画であり、そのサウンドトラック盤は画期的な大作アルバムとなっていた。それでもなお、『Fillmore East - June 197』はライヴ・アルバムの金字塔であり (「鉛筆書き」のジャケット・アートは、当時のブートレグを模したものになっていた) 、あの時代の雰囲気をザッパならではの流儀で映し出すことに成功していた。

 絶え間なくコンサート・ツアーを行っていた1971年のマザーズは、この年をヨーロッパ・ツアーで締めくくろうとしていた。デンマーク、ドイツ、オランダ、オーストリアでのライヴを終えたあと、彼らはスイスに向かい、12月4日にモントルー・カジノでコンサートを行った。このライヴは、ある悪名高い事件によって伝説と化し、ディープ・パープルの「Smoke On The Water」でも歌われるところとなった。観客のひとりが信号弾を発射した結果、会場のカジノが火事になり、全焼してしまったのである。マザーズの楽器や機材もすべて消失し、無事だったのは小さなカウベルひとつだけだった。

 さいわいなことに、マザーズのメンバーも観客もさほど大きな怪我は負わなかった。とはいえフランスやベルギーで予定されていたコンサートは中止になり、マザーズは慣れない借り物の機材と格闘しながら、12月10日、11日の2日に亘ってイギリス・ロンドンのレインボー・シアターで開催が予定されていたライヴに臨むことになった。しかし初日のステージの直後、ザッパの人生を一変させる事件が起こり、その後のコンサートは中止になった。アンコールでザ・ビートルズの「I Want To Hold Your Hand (抱きしめたい) 」のカヴァー・ヴァージョンを演奏したあと、正気を失った観客にザッパが襲われ、深さ約3.6メートルのオーケストラ・ピットに突き落とされたのである。一時はザッパが生きているのかどうかさえ誰にもわからず、会場は中も外も完全な混乱状態となった。1989年に出版された自伝『ザ・リアル・フランク・ザッパ・ブック』の中で、ザッパ本人は次のように述べている。「俺の頭は片方の肩の上にあり、首はまるで折れたみたいに曲がっていた。顎には深い傷口が開き、後頭部には穴が開いていて、肋骨も折れ、足も骨折していた。片方の腕は麻痺していた」。病院からようやく退院し、アメリカに帰国してからの1年間、彼は足にギプスをはめて車椅子に乗った状態でほとんどの時期を過ごした。結局、低くなった声、片方だけ短くなった足、慢性的な痛みを抱えた腰は元に戻らなかった。ザッパの療養中も他のメンバーは仕事を続ける必要があり、フロ&エディ (ハワード・ケイラン&マーク・ヴォルマン) が在籍していた当時のマザーズは解散。レインボー・シアター公演は、この顔ぶれによる最後のライヴとなった。怪我が癒え、活動を再開させたザッパはまた別の方面の音楽を追求していった。

 紆余曲折のあったこうした興味深いツアーの記録が、今回8枚組CD/デジタル配信による記念すべき決定版コレクション『The Mothers 1971』としてまとめられることになった。この新たなスーパー・デラックス・エディション・ボックス・セットは、ザッパ・レコード/UMeから3月18日にリリースされる。ここにはあの個性豊かな1971年のマザーズの音源が多数収録されており、ザッパの活動の中でも伝説的なエピソードの多い時期の素晴らしい演奏を堪能できる。ザッパ・トラストが監修し、アーメット・ザッパとジョー・トラヴァース (ザッパ家のテープ倉庫管理人) がプロデュースしたこのボックス・セットは全100トラックを収録。約10時間に及ぶ収録音源の中には、休業を間近に控えたニューヨーク・シティのフィルモア・イーストで1971年6月5日、6日に行われた全4ステージ (ジョン・レノン&ヨーコ・オノがゲスト参加したアンコールもノーカットで収録) 、および1971年12月10日にイギリス・ロンドンのレインボー・シアターで行われたコンサートの完全版も含まれている。また、ペンシルベニア州のハリスバーグとスクラントンで行われた1971年6月1日、3日の未発表ライヴ音源をハイブリッド・コンサートとして収録。これは、当時ザッパが購入したばかりの1/2インチ・4トラック・レコーダー (以後1970年代を通して、費用の都合がつく限りライヴの録音で使われた主力機材) で録音した最初期の音源となっている。さらには、レアなオリジナル・シングル「Tears Began To Fall」とアルバム未収録のシングルB面曲「Junier Mintz Boogie」 (発売後50年にして、初めてのリイシュー/デジタル化となる) 、手作りの即席ラジオCMとそのアウトテイクもボーナス・トラックとして収録されている。

今回のボックス・セットは、フィルモア・イーストで行われた二夜連続の2部公演を初めて完全収録した記念すべき作品となる。これにより、ザッパが編集を施してアルバム『Fillmore East - June 197』で発表した曲を未編集の完全な状態で聴くことができるようになった。また、レインボー・シアター公演のまさしくショッキングな幕切れを初めて音で確認できることになった (これまでは、襲撃事件発生時の模様は録音されていなかったと考えられていた。しかし今回のボックス・セットの準備中に、その音源が残っていることが発覚した) 。
 『The Mothers 1971』は、デジタル配信およびダウンロード版でも入手可能。どちらのフォーマットも、スタンダードなCD規格またはハイレゾ・オーディオ (24ビット・96KHz) で提供される。予約は次のリンクから受付中。
http://frankzappa.lnk.to/themothers1971PR

 今回のボックスセックスに収録された未編集ライヴ音源の大部分は、ザッパ・トラストの作品を長年手掛けてきたクレイグ・パーカー・アダムス (ウィンズロー・コネチカット・スタジオ) が新たにミックスを行い、ジョン・ポリート (オーディオ・メカニクス) がマスタリングを施している。またレインボー・シアター公演の歴史的な音源は伝説的プロデューサー/エンジニアのエディ・クレイマーが新たにミックスし (彼がザッパ・トラストの作品を手がけるのは今回が初) 、バーニー・グランドマンがマスタリングを行っている。『The Mothers 1971』に収録された音源は、ザッパ家のテープ倉庫から発掘されたオリジナル・アナログ・マスターテープ (2インチ・16トラック、1インチ・8トラック、1/4インチ・2トラック・ステレオ) が素材となっている。これらはジョー・トラヴァースが2020年にデジタル・データ化の処理を行った。トラヴァースは2021年初頭に行われたミキシング作業も監修している。

 今回のボックス・セット『The Mothers 1971』はCDサイズのスリムケース仕様。8枚のCDはそれぞれ独自のミニ・ジャケットに収められ、インナー・スリップケースの中にまとめられている。また全68ページの付属ブックレットは、1971年のマザーズの主要メンバーだったイアン・アンダーウッドへの詳細なインタビュー (聞き手はアーメット・ザッパ) を収録。さらに、エディ・クレイマーや、やはり当時のマザーズでベースを担当していたジム・ポンズの回想記、ジョー・トラヴァースによる詳しい音源解説、著名なカメラマンのヘンリー・ディルツが撮影した当時の貴重な写真を掲載している。

 1971年6月5日、6日の両日にニューヨーク・シティのフィルモア・イーストで全4回のステージに立ったときのマザーズは、イアン・アンダーウッド (木管楽器/キーボード) 、エインズリー・ダンバー (ドラムズ) 、ジム・ポンズ (ベース/ヴォーカル/語り) 、ボブ・ハリス (キーボード/ヴォーカル) 、そしてタートルズのフロ&エディことハワード・ケイラン (リード・ヴォーカル/語り) &マーク・ヴォルマン (リード・ヴォーカル/語り) で構成されていた。さらにこのときのステージには、スペシャル・ゲストとしてドン・プレストンが参加している。彼らは、有名なフィルモア・イーストの最後を飾るのにふさわしい顔ぶれだった。ここでのマザーズは、「The Mud Shark」、「Bwana Dik」、そして「Do You Like My New Car?」 (グルーピーとのやり取りを描いたミニ・コント) といった伝説的な曲を披露している。 (このフィルモア・イーストでミニ・モーグを演奏していたドン・プレストンはやがてボブ・ハリスの代わりにマザーズに正式メンバーとして再加入し、その後の夏のツアーから12月までキーボードとヴォーカルを担当している。)

 1971年6月のフィルモア・イーストのフィナーレは、ザッパ&ザ・マザーズのライヴにジョン・レノン&オノ・ヨーコがゲスト参加したことでさらに特別なものになった。最終ステージのアンコールに登場したふたりは、そんなことが起こるとは夢にも思っていなかった観客を前にパフォーマンスを繰り広げた。ジョンがリード・ヴォーカルを歌うウォルター・ワードの「Well」のカヴァー・ヴァージョン (ザ・ビートルズがリバプールのキャヴァーン・クラブに出演していたころの古い定番曲) では、ザッパが2度のギター・ソロを演奏。続く「King Kong」は長尺のジャム・セッションに変化していき、この部分にはのちに「Scumbag」というタイトルがつけられた。さらにジョンのギター・フィードバックとマザーズの伴奏に乗せて、ヨーコが即興スクリーミングを披露している。

 ザッパはこの歴史的共演を1971年にミックスし、アンコール全体を発表する計画を立てていた。しかしジョン&ヨーコが同じ音源を独自のミックスで1972年の『Sometime in New York City』に収録したあと、自らのミックスの発表を一旦見送っている。のちにザッパは、1992年のアルバム『Playground Psychotics』でこのアンコールの音源を発表している。

 1980年代初期に自らのバック・カタログの所有権を取り戻したザッパは、このアンコール部分についてリミックスも検討していた。しかし返却されたフィルモア・イースト公演のマスターテープを調べた結果、レノンが参加したアンコールのテープが箱の中から紛失していることがわかった。2021年、ユニバーサルの仲介によりレノン・エステートに問い合わせをした結果、この部分のマルチトラック・バックアップ・リール (1971年にザッパがレノンのために用意した音源) がザッパ・トラストとUMeに提供されることになった。こうして関係者各位のご厚意により、50年ぶりにアンコール全体のリミックスが実現した。

 さらに今回は、アナログ盤愛好者に向けた3枚組LPセット2種類も同時に発売される。まず、『Fillmore East - June 197』の拡張版50周年記念エディションが3枚組LPで発売される。これは、1971年に出たオリジナル・ライヴ・アルバムのリマスター盤LPに加えてボーナス・トラックを収録した2枚のボーナスLPで構成されている。ボーナス・トラックの中にはジョン・レノン&オノ・ヨーコが参加したアンコール、および傑作「Billy The Mountain」の完全版が含まれており、ジョー・トラヴァースがライナーノーツを執筆している。注目すべきことに、この『フィルモア・イースト』の拡張版LPには、オリジナル盤が制作された当時にザッパ自身が作り上げたビンテージ・ミックスも収録されており、その一部は今回のCDボックスなどの他のフォーマットには全く収録されていない。今回のセットではLPのA・B面がオリジナル・アルバム、C・D・E・F面が「ビリー・ザ・マウンテン」のオリジナル完全版やジョン&ヨーコが参加したアンコールのザッパによるオリジナル・ミックス、アルバム『フィルモア・イースト』のオリジナル・ミキシング・セッションで制作されたその他のミックスという構成になっている。この『フィルモア・イースト』50周年記念エディション (3枚組LPセット) は、クリス・ベルマン (バーニー・グランドマン・マスタリング) がカッティングを担当している。

 もう1種の3枚組LPセット『Rainbow Theater』には、レインボー・シアター公演の全編を収録。6枚組CDボックス・セットと同じくエディ・クレイマーの2021年ニュー・ミックスを採用すると共に、クレイマーが執筆したライナーノーツが掲載されている。この3枚組LPセットは、バーニー・グランドマン (バーニー・グランドマン・マスタリング) がカッティングを担当。またこの2種類の3枚組LPセットは、どちらもドイツのオプティマル:メディア社の180gハイグレードLPでプレスされている。

 トラヴァースがライナーノーツで述べているように、1971年のフィルモア・イースト公演は「マザーズが16トラック・アナログ・レコーダーでステージの模様をレコーディングした初めての例」だった。「それまでは、最も良い条件に恵まれた場合でも1インチ・テープに8トラック録音するのが精一杯」だったという。このときのライヴでレコーディング・エンジニアを務めたバリー・キーンは、16トラック・レコーダーだけでなく1/4インチ・2トラック・レコーダーでもPAライン・ミックスを記録した。フィルモア・イースト公演の16トラック・マスターテープは一部が欠落していたが、トラヴァースらはこの2トラック・テープを使ってそうした空白部分をすべて補っている。

 『The Mothers 1971』のブックレットでは、イアン・アンダーウッドがアーメット・ザッパによるインタビューに答え、さまざまな興味深いエピソードを語っている。その中でアンダーウッドは、オリジナル曲の譜面を完璧に書き上げるフランクの才能に触れ、音符ひとつひとつを的確に書いていく様子はさながらモーツァルトのようだったと述べている。アンダーウッドにとっては、そうして出来上がった譜面を作曲者本人のために弾くのが何よりの幸せだった。「フランクは自分がどういう音符を求めてるのかわかってた。間違いを心配する必要なんてなかった」とアンダーウッドは驚嘆する。「フランクの場合、はっきりとしたアイデアがあって、それをただ書けば良かった。そういうことができるのは実に素晴らしい」。

 一方ベーシストのジム・ポンズは、ライナーノーツの中でザッパの創作姿勢について次のように語っている。「フランク本人は、人との接し方がいつも用心深く慎重なように感じられた。一方で、人間の状況を目ざとく観察する人で、そういうところは本当にすごいと思っていた」。

 1971年のマザーズは、不幸な事件によって早すぎる終わりを迎えた。とはいえ彼らの見事な音楽的技量は、この1971年後半に録音された音源にありありと記録されている。今回リリースされるボックス・セット『The Mothers 1971』はそれらの音源を初めてまとめた集大成である。