エルトン・ジョン&ブランディ・カーライル、コラボ・アルバム『天使はどこに』を祝福するイベントで新曲をライヴ初披露。ロンドン現地レポートが到着。
2025年4月4日に発売されるエルトン・ジョン&ブランディ・カーライルのコラボレーション・アルバム『天使はどこに』を祝福するイベントが、3月26日ロンドンのパラディアム劇場で開催された。
ライヴ&トークの構成で、『天使はどこに』収録曲のライヴ初披露や二人の代表曲の演奏で会場は沸いたという。
ロンドン現地レポートと写真が到着した。
<レポートここから>
コラボレーション・アルバム『天使はどこに』を完成させたエルトン・ジョンとブランディ・カーライル。4月にアメリカのCBS、イギリスのITVでテレビ・スペシャルとして放送されるイベント“An Evening With Elton John and Brandi Carlile”が、ロンドンのパラディアム劇場で催された。ライブ前に、エルトンとブランディとの対談を加えた2本立てメニューで、アルバム購入予約をしたファンの一部が観客として会場を埋めた。
対談の司会を務めたのは、エルトンの友人でカナダ人俳優、多才タレントのダニエル・レヴィ。短いクリップ映像を数分間モニターで鑑賞した後、対談が始まった。「何もないゼロの状態でスタジオに入り3週間後にはアルバムが完成していた。夢中だったからカメラの事は忘れてしまったよ。アルバムの1曲目“ローラ・ニーロの薔薇”はローラ・ニーロについての曲だ。彼女は僕の尊敬するアーティスト、あの曲が完成すると調子が出て、一気に2曲目の“リトル・リチャードのバイブル”、“スウィング・フォー・ザ・フェンシズ”が出来上がったんだ」とエルトン。
ロサンゼルスでの制作中、ブランディも家族と共にエルトン家の隣の家に住んだ。「お隣りなので、朝のコーヒーを一緒に飲んだりする生活だった。ある朝エルトンの家に行くと、彼は気を滅入らせ落ち込んでいた。新聞で世界情勢の記事を読み、こんな悲惨な世界なのに、アルバムを作る気にならないと言い出した。なんと答えていいのかわからなくて、言葉でなく曲でエルトンに自分なりの気持ちを伝えたいと思った。家に帰り、“リトル・ライト~世界に光を”という曲を書いたの」とブランディが、この曲の誕生のいきさつを語った。
そもそもブランディが尊敬するエルトンに一通の手紙を書いたことから二人の友情が生まれたという。手紙を受け取るやいなや、彼女を当時公演中だったラスベガスに招待し、二人は出会った。最初から意気投合、家族ぐるみの付き合いが始まった。本作制作の動機について、「素晴らしい芸術的ミュージシャンである彼女と一緒にアルバムを作りたかった。世界の人々に彼女がどれだけ素晴らしいか知ってもらいたかった」とエルトン。
それに対しブランディは「そう言ってもらえると胸が張り裂けそう。エルトンがそんなふうに自分のことを話すのを聞くと、少女に戻ったような気持ちになる。エルトン・ジョンがいなかったら、私は決して曲を書いたり楽器に触れたりしなかった。私は11歳のときにエルトン・ジョンに恋をした。それが音楽をやっている理由の根底にあるから」
また10代の時のエピソードも明かす。「エルトン・ファンとして最も歴史的な瞬間は、白いスーツを着て、実は今日着ているスーツと似ているのだけれど、金色の靴を履き黄色のフェザーを巻いてサングラスをかけて歌ったとき。10代対象のタレント・ショーの時のことで、可愛い女性スターの真似をする女の子たちに交じり、一人だけ目立っていた。両親は自分の娘がフリークであるという現実を受け入れなければならなかったの(笑)」とブランディ。
二人はゲイであるという絆で深く結ばれており、結婚しそれぞれが幸せな家庭を築いたという共通点もある。「エルトンがアップテンポの前向きでポジティブな曲を作りたいと言った。そこで私は、今こうやって自分が子供の頃のヒーローと共にアルバムを作っているという事、自分の人生の美しい体験をLGBTQの人々に知ってほしいと感じ書いたのが“スウィング・フォー・ザ・フェンシズ”。LGBTQのキャンペーンという点でこれほど効果的な方法はないと思うわ」とブランディ。会場から同意の拍手が湧き起こった。
新人アーティストの発掘と援助に献身的なエルトン、モニターを通してデュア・リパやエド・シーラン、サム・スミスからの声援クリップも届いた。「彼らと話すと元気をもらえる。彼らのために何かしてあげたいというモチベーションが湧く。若い人達が作る音楽は、信じられないほど感動的に思える。古い音楽も大好きだが、僕が大切にしているのは新しい音楽。僕にエネルギーをくれ支えてくれるのは、若いアーティストたちだから」と現役で走り続ける秘密をエルトンは明かした。
好きな人たちには惜しまずプレゼントを贈ることで有名なエルトン、ブランディが受け取った最高のプレゼントとは?「レスポールのギター。最高のギターであることは勿論なのだけれど、同時にエレクトリック・ギターに私が挑戦してよりロックの方向に向かっていってほしいという彼の願いが込められていた。あのギターで書いた“Right on Time”、“Broken Horses”などの曲は、私の人生を変えたの」
40分ほどの対談が終わるとライブへ。対談で触れたアルバム最初の3曲で幕が開く。バックを務めるバンドは、アルバムのプロデュースを務めたアンドリュー・ワット(ギター)、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(ドラムス)、ジョシュ・クリングホッファー(キーボード)、ハンセロス・ツインズ(ギターとべース)、ここにサックスとトランペットを加えた7人。
続いてブランディが彼女の曲である「ザ・ジョーク」と「ユー・ウィズアウト・ミー」をソロで披露。母親であることの偉大さ、いつしか旅立つ娘たちへの熱い思いをコメントした。そのあとエルトンが70年代のアルバムに収められた曲「君は護りの天使」と「可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)」を披露した後、「僕の瞳に小さな太陽」、「ブルースはお好き?」を二人でデュエットした。そしてエルトンが是非ブランディに歌ってほしかったというパッツィー・クラインのカバー「クレイジー」と思い出街道をたどる選曲が続いた。
「僕が15歳の時、地元のホテルのラウンジで週末に弾き語りのアルバイトをしていた。あの頃に演奏した曲」と紹介したのはジム・リーヴスのカバー「浮気はやめなよ/He’ll Have To Go」。
再度バンドが加わり、エルトンのヒット曲「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」で盛り上がる。ブランディが「The Story」を披露すると、エルトンはピアノの椅子に座りリズムをとりながら聴き入った。締めくくりはエルトンの大ヒット・ナンバーで「アイム・スティル・スタンディング」。テレビの収録ライブではあったが、会場の反応は熱く、会話を聞いたところ外国からやってきたファンも多かった。ツアー引退を宣言したエルトンだが、声もパワフルで情熱的な演奏には体力の衰えは感じさせなかった。響きわたるブランディの美しいヴォーカルとエルトンのヴォーカルとの融合も絶妙で、この晩のファン総立ちのフィナーレを迎えた。
会場のパラディアム劇場は、伝統的なインテリアがほどこされた小ぶりの会場で、毎年恒例のロイヤル・バラエティ・ショーを行うところ。エルトンにとっては、幼少の頃に愛したテレビ番組の収録会場として思い入れが深い。「幼かったころ、毎週日曜日はテレビで“Saturday Night at London Palladium”を見たものさ。アメリカからやってきた驚くべきスターが満載の伝説的番組だよ。実のところ、僕自身はここでライブはやったことがない。だから今回が初めてなんだ」
セットリスト(*『天使はどこに』収録曲)
Who Believes In Angels? *
Swing For The Fences *
Little Richard’s Bible *
The Joke
You Without Me *
I Need You to Turn To
Tiny Dancer
Don’t Let the Sun Go Down on Me
I Guess That’s Why They Call It the Blues
Crazy (Patsy Cline cover)
He’ll Have to Go (Jim Reeves cover)
Your Song
The Story
Bennie and the Jets
I’m Still Standing
文:高野裕子Yuko Takano
PHOTO: BEN GIBSON