BIOGRAPHY

ダン・クロールダン・クロールとは、まるでバンドかの様な多面性を持った才能あふれる新人ソロ・アーティストである。このエレクトロ少年はフォーク・シーンとの繋がりもあり(ダンはCommunion Recordsによって発掘され、最近リリースされた「New Faces」コンピレーションに彼の作品が1曲収録されている)、そのマルチに楽器を操る作曲能力は元ザ・ビートルズのメンバーからファッション業界の大物にまで響き渡っている。2012年、デモ曲「Marion」は音楽雑誌Qのエッセンシャル・ダウンロードに選ばれ、もう一曲のデモ「Home」はDJスティーヴ・ラマックによる人気ラジオ番組6 Musicにてフィーチャーされ、デビュー・シングルの「From Nowhere」はBBC Radio 1で大プッシュされた。

一見バディー・ホリーにも見える黒縁メガネと繊細なアコースティック・サウンドに騙されてはいけない。彼はラグビーに熱狂した時期もあり、足に大きな怪我を負うまでは真剣にプロ選手の道も考えていた。現在23歳、ダンは過去にクラブでセキュリティーのバイトをした経験もあり、当時はリヴァープールにあるストリップ小屋の二階に住んでいた。

1990年、ダンはマーケティング・コンサルタントの父と看護士の母の間に生まれ、ロビー・ウィリアムスやスラッシュも幼少時代を過ごしたイギリス中部にあるストーク・オン・トレントで育った。高校ではラグビー部に所属し県内大会レベルにまで達したが、17歳で試合中に足を骨折した為、イングランド代表としてワールド・カップに進出する夢は儚く終わった。

同時期、音楽にも深い興味を抱き始めた彼だったが、それにはジャズ、ブルースやフォークをよく聴き、ブラス・バンドでも歌っていた母が密接に関係していた。最初はBlink 182やSum 41などのミクスチャーやオルタナを好み、そこから姉の影響でThe StrokesやThe Libertinesといったインディー・ロックを通過し、最終的にはThe Beach Boys、Beirut、Dirty ProjectorsやGrizzly Bearなど様々なバンドを聴くようになった。

高校生のダンはラグビー部の体育会系と洒落たスケーター系の集団を行き来しながらギター、ベース、ピアノ、ドラム、そしてトランペットにまで手を出していた。当時、家族内の事情でほぼ毎週末リヴァープールで過ごしていたダンは、やがてその街にある舞台芸術学校に進学した。そこで音楽を専攻した彼の講師には地元の英雄でもある80年代のシンセ・ポップ・ユニットChina Crisisのエディー・ランドンやバギー系の逸れものバンドThe Farmのキース・マリンなどがいた。

そんな学生時代に、音楽慈善資金が授与するソングライター最優秀賞を獲得したダンは、同じリヴァープールにある総合芸術大学LIPAの設立者でもあるポール・マッカートニーとの40分間対談のチャンスがあり、元ザ・ビートルズのメンバーにその作曲力を絶賛された。余談ではあるが、ポールはその最中に「グルーヴィー」という言葉を連発していたという。20世紀最高のポップ作曲家と言っても過言ではない大御所と時間を過ごせたのを大変光栄に思いながらも、ダンはポール・サイモンやバート・バカラックの方が好きだと後に告白した。

「リヴァープールに住んでしまうとザ・ビートルズの伝説に捕われそうになるから、他の所に行って他のミュージシャンの話をどうしてもしたくなるんだ。」と彼は話す。「Come Together」のような名曲のプロダクションを素晴らしいと認めつつ、ダン曰く「リヴァープールには未だザ・ビートルズにしがみついた少し閉鎖的な風潮がある。そろそろ誰か新しい人を持ち上げて欲しいと思う。」

最近どんどん機材を増やしているダンの最新作は、よりエレクトロな方向に向かっており、「Home」や「Marion」で感じる有機的なアコースティック・サウンドと、打ち込みによる電子音の絶妙なバランスを築き上げている。

それらは何といっても美しくシンプルでインテリジェンスに満ちたポップ・ソングだ。そしてその独特な曲調とスタイルを何よりも堂々と見せつけているのがシングル「From Nowhere」。Radio 1、XFMや6 MusicなどのUK人気ラジオ局ではヘビーロテーションを受け、SoundCloudではわずか2週間で10万再生回数以上、そして様々なブログやウェブマガジンに取り上げられた結果、Hype Machineチャートで1位に輝いた。プリンス張りにファンキーな「Wanna Know」という曲についてダンはこう説明する。「これはストーカーっぽい人の視点から書いた曲で、そいつは支配的になってるんだけど、必ずしも気持ち悪い感じではない、みたいな!不気味にも捉えられるけど、リスナーには自由に僕の曲を解釈してもらいたいんだ。」アフロ音楽の影響も伺える「Always Like This」はダンの元彼女との浮き沈みを描いた、捻りの効いたラヴ・ソングだ。

半分吟遊詩人、半分機材オタク、ダンは近代のBeckでもあり、Jake BuggとJoe Mountを繋げる欠けた環でもある。The CoralとThe Zutons以来、リヴァープールは音楽業界に新しい才能を送り出していないイメージを持たれがちだが、ダンはこの傾向を覆し、新たなリヴァープール発信のシーンの先駆けとなっている。そのシーンにはStealing Sheep、Outfit、Kankouran、Jethro Fox、The Staves、Eye Emma Jedi、Mikhael Paskalev、Vasco Da Gama、Ninetails、Neon Lightsなど、リヴァープールからイギリス全土に新しい風を吹かせている若手ミュージシャンが沢山いる。

今までの体験からして、ダンは音楽以外に色々なキャリアに進めたはずだ。リヴァープールのクラブ、ル・バトーでドア係として働き続け、その業界に残っても全然おかしくはなかった。そこでの業務の一つは不法の薬物をクラブに持ち込もうとする客からそのドラッグを押収する事だった。「結局、押収したところで、自分のデスク下にしまうだけだけどね。」と彼は話す。テレビや映画のエキストラとしても仕事し続けられただろう。一度UKの人気ドラマ、シェイムレスでストリップ小屋を舞台に主人公が婚約を祝うシーンに登場した(ダンはストリップ小屋の真上に住んでる経験があったから、彼にとっては休暇のような仕事だったかもしれないが)。また他のエキストラ仕事では、19世紀のロンドンを舞台にしたテレビドラマで売春のあっせん業者を演じたという。

しかしながら、ダンは音楽一本で勝負する事を決意した。リヴァープールには特に治安が悪いトックステスという地域があるが、そこにある廃校の体育館でダンは新しいアルバムのレコーディングを行った。この独特過ぎるスタジオには古いバドミントンコートとロープが飾られている:一日何十万円もかかるようなスタジオなど不要。今もダンは2014年の上旬に発売予定のデビュー・アルバムに向けて作業を続けている。デビュー・シングルのタイトル通り、彼は「From Nowhere」(直訳:「どことない所から」)からeverywhere、つまりあらゆる場所へと、わずか1年も経たない内に自分の名を広めたのだ。

それは数百万に及ぶダンのSoundCloud再生回数にも現れており、その数字も着々と昇っていくばかりだ。2013年の4月にはセカンド・シングル「Compliment Your Soul」をリリースした。この曲にはPaul SimonやVampire Weekendなどを彷彿とさせる、ワールド・ミュージックを取り込んだポップ感覚と異文化間的な要素がぎっしり詰まっていて、これもHype Machineチャートの上位を占めた。同年の9月には日本で活動するミュージシャンDustin Wongとの共作「In/Out」を発表し、これはフォークなメロディー、ポップなフックと機械的なリズムを巧みに混ぜ合わせ、インディーJポップとシンベの見本とも呼べる傑作に仕上がっている。

「In/Out」はダンが初めてDeram Recordsから発売したシングルであるが、近年復活したこのUKレーベルはかつてDavid BowieやCat Stevensといったレジェンドを扱っており、The Moody Bluesの「Nights In White Satin」やProcol Harumの「Whiter Shade Of Pale」などの名曲を世に出した事でも有名である。Deramの肖像的なロゴを使う新人はダンが初めてだが、このレーベルが誇る斬新で独創性を持った若い才能を大事に育む気質に、彼はまさしく最適なアーティストだ。2013年最後に発表したシングルは「Home」となり、ほれぼれする様なシンプルで柔らかい音色がだんだんと壮大なメロディーとハーモニーに展開していく、年末に相応しい曲である。

そして、その「Home」で少し味わえるのが2014年の春に発売が予定されているダンのデビュー・ソロ・アルバム『Sweet Disarray』だ。プロデュースは自身と親しい友人で手掛けた。Paul Simonの名作「Graceland」で名が知られたLadysmith Black Mambazo合唱団もアルバムに参加予定しており、ダンは彼らの母国である南アフリカへとレコーディングをしに行く。今まで発表した4枚のシングルに加え、素晴らしくキャッチーなタイトル曲「Sweet Disarray」と切なさが沁みる「Can You Hear Me?」などのアルバム収録曲を聴けば、彼がJオルタナに匹敵するオルタナ・ポップの新星だという事が明白に伝わるはずだ。新しくて幅広く、これからが最も楽しみな新人アーティスト、ダン・クロールの新譜は2014年の音楽を代表すべきデビュー作となるに違いない。

2013年の9月、彼がメディア会社CMJのイベントに出演した際に参加者全員を魅了したのも、NME誌に『今、最も観賞すべきライブ・アクトのトップ20』に取り上げられたのも、他多数の媒体に2014年は眼が離せない新人に選ばれたのも、道理だ。Haim、Bombay Bicycle ClubやChvrchesが彼を大規模ツアーのサポート・アクトに選ぶのも、2013年最もブレイクしたBastilleとImagine Dragonsの欧米ツアーに彼が招かれるのも、道理だ。

ダンはUniversal Musicとグローバル契約を結んだばかりで、米国ではCapitol Recordsから、英国ではDeram Recordsから発売が決定している。そしてダン・クロールの音楽は既にGrand Theft Auto 5やFIFA 2014の大人気ゲームのサントラに使用され、映画会社DreamworksのアニメーションCMで流され、ネット、ラジオ電波と世界中のライブハウスを乗っ取って浸透していく。2014年はダン・クロールの年;そんな予感が強まるばかりである。

「僕は生命と物語が存在する音楽を求めてる。そういう純粋なインスピレーションから生まれる曲をメインストリームに発信できればと、思う。」と彼は断固たる決意でいう。「レコード会社が適当に集めたバラバラの匿名作家の安易な作品じゃ物足りない。心からの訴えがあって、自分とリスナーにとってちゃんと意味のある音楽を僕は作り続けたい。」