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2016/10/1にHMV&BOOKS TOKYOにて行われた、『Free Soul~2010s Urban-Jam』リリース記念座談会。2時間近くにおよんだ濃い対談を詳細レポート!
橋本徹(SUBURBIA)×柳樂光隆(Jazz The New Chapter)×山本勇樹(Quiet Corner)
構成・文/waltzanova
『Free Soul~2010s Urban』シリーズの成り立ち
山本 こんにちは。本日はHMV&BOOKS TOKYOにご来店いただき、誠にありがとうございます。先日リリースされました『Free Soul~2010s Urban-Jam』の発売記念トーク・イヴェントを開催させていただきます。後ろのカフェの方でコーヒーも売っておりますので、くつろぎながら1時間あまり、お聞きいただければと思います。コンピに関するトークと、本日出演の橋本徹さんと柳楽光隆さん、わたくし山本勇樹の方で選びましたセレクション曲もかけさせていただきますので、たっぷりお楽しみください。まずはCDの監修をされました橋本徹さんです。よろしくお願いします。
橋本 こんにちは。今日はよろしくお願いします。いろいろ喋っていきたいなと思っています。
山本 続いてのゲストは「Jazz The New Chapter」の柳樂光隆さんです。
柳樂 よろしくお願いします。
山本 ちなみにオーディオの方はクリプシュRX2を使っていまして、いい音響で流していきたいと思います。では、さっそく行かせていただきましょうか。今、流れているのは『Free Soul〜2010s Urban-Mellow』ですね。
橋本 そうですね、これは『2010s Urban』シリーズの第1作なんですけど、まず初めにこれまでの流れを簡単にお話したいなと思います。1994年にフリー・ソウル・シリーズのコンピレイションがスタートして、ちょうど20周年を迎えるタイミングが2014年だったんですが、そこに向けてコンピをいろいろ出しませんか、という話を2013年の後半にいただきまして、そのときにかつてのような70年代ソウル・ミュージック周辺のグルーヴィー&メロウな音楽を集めるというだけでなく、もっと90年代以降、あるいは現在進行形のもの、つまり時代とリンクする音楽を提案していけたらいいなと思って。だったら2010年代の音楽で、フリー・ソウル・ファンにお薦めできるものを集めたコンピも一緒に作りましょう、というところで選曲したのが、この『Free Soul〜2010s Urban-Mellow』です。まあ、それがそのままかつてのフリー・ソウル・ファンに受け入れられたかは神のみぞ知るなんですが、僕たち世代より若い人や今の新しい音楽を楽しんでいる人を中心にリスナーが広がり、それはここにいる柳樂くんの「Jazz The New Chapter」や山本くんの「Quiet Corner」の活動ともリンクするようなものだったと思うんですね。それ以降も『2010s Urban-Mellow Supreme』『2010s Urban-Groove』『2010s Urban-Sweet』『2010 Urban-Jazz』と続く5枚、あとは兄弟編的なところで21世紀以降の音源をまとめた『Free Soul 21st Century Standard』と『Free Soul Decade Standard』がリリースされて、最新作として先週『2010s Urban-Jam』が出ました。今日は3人で喋ったり音楽をかけたりする機会を持てて嬉しいですね。
山本 確か『2010s Urban-Mellow Supreme』のときに3人でカフェ・アプレミディで対談をして、それをHMVのホームページに掲載したんですよね。
橋本 そうそう。まだそのときは柳樂くんと面識はなかったんだけど、突然「対談やりませんか?」って連絡をくれたんですよ。
山本 3人ではそのときが初めてでしたね。
橋本 それからはものすごい頻度で対談することが増えて(笑)、つい半年くらい前にも『Ultimate Free Soul 90s』の対談をしたばかりなんですけど。
山本 今までのシリーズ、柳樂さんはどう捉えてらっしゃいますか? 今回で6作目になるんですが。
柳樂 橋本さんって新譜をけっこう聴いているんだけど、現状報告みたいなのは意外と知られてないじゃないですか、だからこのシリーズは、今、橋本徹が好きなものを定期的に出すっていう。
橋本 そうなんだよね。現在進行形でそのとき興味のあるものを形にできるのがこのシリーズで。それまでは古い音楽の中から知られざる音源を紹介する、というコンパイル・ワークが多かったんですが、自分のリスニング・ライフのスピード感でこういうのを作れるというのは、とても嬉しいですね。
柳樂 ピーター・バラカンさんならラジオでそれをやるんでしょうけど。橋本さんはUSENのチャンネルをやっているけど、それはBGMとして聴き流すというか、選曲リストを見ながら聴くタイプのプログラムではないじゃないですか。
橋本 うん、USENは空間BGMで不特定多数の人が聴くメディアだからね。
柳樂 だから、70年代だったら渋谷陽一さんとか中村とうようさんみたいに、年間ベスト的にこういうのを毎年1枚出してくれたらいいんじゃないですかね(一同笑)。
現代ジャズの充実を背景にしたアーバン・ミュージック
山本 確かに、柳樂さんが言ったことはすごくリスナー目線というか、こういうトレンドを反映したもので全体を俯瞰して聴けるようなのはありそうでないので、僕もいちリスナーとしてすごく楽しみにしています。
柳樂 フリー・ソウル的な昔の70年代ソウルや90年代のディアンジェロ、エリカ・バドゥ、トライブ・コールド・クエストとかが好きな人は、何も考えずにこのCDを聴けばいい、という基準みたいなものを提示していますよね。
山本 コンピの中にいろんなヒントがありますね。フリー・ソウルのパブリック・イメージとして、60〜70年代のソウル・ミュージック周辺っていうのは強いと思うんですけど、『2010s Urban』シリーズにもそういう意匠がたくさんちりばめられてますよね。
柳樂 わりと橋本さんの関心ってどんどん移行していくじゃないですか。音楽シーンを全体的に追ってて、似たようなシーンを見てるんだけど、ちょっと前はすごくジャズだったけど、今回はもう少しソウルっぽいし。ただ、テイストは一貫してますよね。
橋本 ちょうど1年半くらい前かな、前作が『2010s Urban-Jazz』で、そのときはまさに柳樂くんが「Jazz The New Chapter」で追っかけてる部分とかなりシンクロしていたよね。その頃いちばん魅力的だったジャズにフォーカスしたんだけど、そこから変化があって、去年のケンドリック・ラマーやカマシ・ワシントンがやはり大きかったと思うんだけど、今回の『2010s Urban-Jam』ではLAシーンの活況を伝えることが主眼のひとつになったので。1年半ぶりのリリースってこともあって、ここ2年くらいの好きな曲がひたすら入っているんだけど、ジャズだけじゃなくてヒップホップ~ソウル~ビート・ミュージックの接点が、総合的に集約されていますね。
山本 それにしても今回もすごいラインナップですよね。
柳樂 ジャズはほとんど入っていないけど、ちょっと前に橋本さんが入れてたジャズを土台に出てきた別のジャンルの音楽がたくさん入ってますよね。続けて聴くと、ここ何年かのトレンドが見えますね。
橋本 ジャズ・シーンの傾向は、フリー・ソウルだったり『2010s Urban』的には、ジャストだったのが2013~15年だったと思ってるのね。というのは、このシリーズに関しては歌ものというかソング・オリエンテッドなものが中心になってくるんだけど、ジャズ・ミュージシャンが『Black Radio』の影響とかもあってそういうものをやっていたところから、最近はソロが長くなったりとか、もう少しインストゥルメント寄りになってきていて、アーバン・ミュージックとしてのジャスト感のピークは2015年までという印象があって。だからそれを『Free Soul~2010s Urban-Jazz』にまとめられたのはいいタイミングだったなと。今回、そういう流れで入っているのはブルーノートのマーカス・ストリックランドなんですが、これはミシェル・ンデオゲオチェロをプロデューサーに立てることによって『Black Radio』への回答的なニュアンスがキープされているのでエントリーしました。ジャネイのジーン・ベイラーが歌っている「Talking Loud」という曲で、『2010s Urban』のストライク・ゾーンですね。だから全体的には今までの5作に比べると、ニューヨーク・ジャズの色が少しフェイドして、LAやシカゴのものへの関心が高まる現状を反映しているかなと思います。
山本 『2010s Urban-Jazz』のトーク・イヴェントのときもそういう話になったんですけど、『2010s Urban-Jazz』はリズムや音響といった現代ジャズの尖ったかっこよさの部分が出ていたと思うんですが、今回はメロディックというか、よりソウル・ミュージック的な部分にフォーカスしているなと感じました。
橋本 ジャズとソウル・ミュージックの化学反応という意味では、クリス・デイヴやマーク・コレンバーグに代表されるビートの部分による効果が大きかったと思うんですよね。僕は自分のセンスにいちばん近いものをジャンルにこだわらず常に聴いていきたいので、ここ何か月かはジャズとの距離がちょっとずつでき始めてるのかなと感じたりもしてます。
LAシーンの活況/90年代回帰とマイケル・ジャクソン&プリンスの影響
山本 ちょうどLAの話が今出ましたけど、ソウルやヒップホップ、そのあたりが盛り上がってますよね。
柳樂 トレンドはもろLAっぽい音と人脈って感じじゃないですか。
橋本 その辺は解説でも詳しく書いているので、ライナーノーツもぜひ読んでもらえたらと思いますね。今日はあらかじめ二人に話したいことを出してもらって、それが『2010s Urban-Jam』のいろいろな部分にフォーカスすることになるので、テーマ別に話を進めていきたいと思っているんですが、まずはマイケル・ジャクソンとプリンスの現代のアーバン・ミュージックへの影響が色濃く出ているんじゃないか、という話からやりましょうか。まずは象徴的だと思われる、ジャネット・ジャクソンの「Broken Hearts Heal」を聴いていただきたいと思います(曲がかかる)。
山本 『2010s Urban-Jam』の6曲目ですね。
橋本 兄弟なので当然かもしれませんが、マイケルへの思いを込めて歌ってることが歌唱法からもすぐ伝わりますよね。
山本 この曲の収録は超快挙ですよね。
橋本 そう、ジャネットはかつて『Free Soul 90s』を作った頃はジャム&ルイスとやった『Janet.』というアルバムが大好きで、それ以降もQ・ティップとジョニ・ミッチェルとの「Got ‘Til It’s Gone」とか入れたい曲がたくさんあって毎回申請していたんですけど、アプルーヴァルが下りなかったんですね。だから今回OKが来たのは嬉しい驚きでしたね。こういうヴェテランの90s回帰とか、クインシー・ジョーンズ期のマイケル・ジャクソンとか80年代のプリンスの影響とか、いろいろ語るべきところがあると思うんですけど、この辺のテーマを出してきてくれたのは柳樂くんだよね?
山本 今回、トーク・イヴェントのテーマをどういうのにしようかっていうのを、事前に柳樂さんと話していて、90年代回帰っていうキーワードが上がってきて、そこが一致したんですよ。
柳樂 今回は90年代っぽい選曲だなと。特に冒頭の2曲なんかは。
橋本 フリー・ソウル・ファンへのサーヴィスというのも大きいんだけどね(笑)。
柳樂 90年代の音そのものって感じで、ここにテリー・キャリアーが入っていても何も違和感がないなと。
橋本 1曲目がバリー・ホワイトのカヴァーで、2曲目がウィリアム・ディヴォーンのカヴァーなんですけど、もちろんコンピの主役として考えているのは今のLAに象徴されるような音なんですが、そこへの導入部として、フリー・ソウルのコンピレイションを長く好きでいてくれるファンもたくさんいるので、そういう方たちが親しみやすい感じにしたいなと思ったら、柳樂くんが言う通り、すごく90年代っぽくなったという感じです。
柳樂 なんか全体的に90年代回帰っていうか、90年代っぽい音がトレンドみたいのはありますしね。
山本 そうですね。
柳樂 後でかけますけど、僕が持ってきたバッドバッドノットグッドとかデ・ラ・ソウルとかは、もろに90年代的な音だし。日本だとSuchmosとか、ずばりジャミロクワイなわけじゃないですか。そういう空気がこのコンピレイションには反映されてて、それが90年代の新譜というより90年代に橋本徹が紹介していた昔の音っぽいのはちょっと面白いですね。
山本 地続きになってる部分が大きいですよね、ヒップホップしかりR&Bしかり。ここ最近のビルボードのチャート見てもその辺ががっつり上位を占めてて、一時期のロック、バンド・サウンドはどこに行ったんだというくらいの勢いなんですけど。ただ、日本のリスナーにはこの盛り上がりがあんまり伝わってないのかなぁとも思うんですよね。
橋本 なかなか紐づけて紹介される機会が少ないからじゃないかな。柳樂くんや山本くんがやろうとしてるみたいに、少しでもわかりやすく提示できたらいいよね。で、最近現在進行形のアーティストがバイブルとして挙げているのがマイケルの『Off The Wall』だと思わない?
柳樂 まあ(ロバート・)グラスパーもそうですね。
橋本 そうだね。『Off The Wall』感やロッド・テンパートンの功績っていうのが90sにつながってきて、今の音楽にそのまま輪廻転生している、そういうことをすごく感じることもあって、今回のコンピや『2010s Urban』シリーズでは、それを証明するようなことを延々やり続けているんだけど。「I Can’t Help It」っていうスティーヴィー・ワンダーが書いた曲が『Off The Wall』に入ってるんですが、この曲はいわゆるマイケルのメロウ・サイドを代表する名曲で、特にシングル・カットされた曲でもないんですが、90年代にデ・ラ・ソウルがサンプリングしたあたりからどんどん注目度、重要性が増していった曲で。それはR&Bやヒップホップの世界だけではなくて、ジャズの世界でもグレッチェン・パーラトやエスペランサ・スポルティングがカヴァーするようになって、僕はその辺もコンピに選んでいるんですけど。
山本 エスペランサのヴァージョンは『Free Soul 21st Century Standard』に入っていますね。
橋本 僕が最近好きになった2010年代のアーバン・メロウ・ミュージックという観点でも、この曲を下敷きにした素晴らしいものが多くて、さっきかかっていた『2010s Urban-Mellow』のクアドロン「Neverland」なんかはその最高峰だと思うんだけど、今回は今年デビューした話題のグループ、KINGの今流れてる「Red Eye」を収録しました。
KING~ムーンチャイルド~グレッチェン・パーラトと優しい女性ヴォーカル
柳樂 KINGはプリンスっぽさとマイケルっぽさ、両方あるって感じですよね。
橋本 プリンスとエリカ・バドゥが絶賛というお墨付きだったもんね。KINGはそれ以上に象徴的に語れるなと思ってるのは、ケンドリック・ラマーが初期のミックステープでサンプリングしたとか、アルバム・デビュー前にもかかわらずロバート・グラスパー・エクスペリメントの『Black Radio』にフィーチャーされたというようなトピックで、人脈的にも音楽性的にもキーとして語りやすい存在ですよね。
山本 ソウルとジャズの上手い中間のところを行ってますよね。ここ一年で一気に知名度が上がったアーティストの筆頭です。
橋本 何回来日してるんだっけ? 年末にもまた来るんだよね(笑)。
柳樂 ビルボードとサマソニ、2回来てますね。
橋本 KINGの話からいくと、女性ヴォーカルのハーモニーを活かした曲を『2010s Urban-Jam』では肝にしていて、同じく素晴らしい来日公演を行ったムーンチャイルドも、とてもお薦めしたい存在で、入れられたのは良かったなと思っています。では、ムーンチャイルド聴いてみましょうか(「All The Joy」がかかる)。これはCDももちろんみんな聴いてたと思うんだけど、ライヴ行って「良かったね!」っていう電話がすごいかかってきたアーティストですね。普段、今の音楽をそんなに聴いてないようなカフェ方面の知り合い、ディモンシュの堀内隆志とか僕の友人のbba吉本宏も好きっていうのが象徴的ですね。
山本 メロウで親しみやすいですよね、等身大の感じやルックスも含めて受け入れやすいというか。僕も大好きですけど。
柳樂 リズムにフォーカスしすぎてないから聴きやすいんじゃないですか、カフェ的にはたぶん。
山本 女性ジャズ・ヴォーカルが好きな人にはすっと入り込めるアーバン・ミュージックだと思いますね。
橋本 エリカ・バドゥやシャーデーの影響がいい感じでね。『2010s Urban』シリーズを女性がよく聴いてくれてる理由のひとつっていうのは、今作だとコリーヌ・ベイリー・レイとかこのムーンチャイルドとか、そういう要素じゃないかと思うんだよね。
山本 ちょっと胸がキュンとなるような。
橋本 僕的には今回のコンピレイションではアンダーソン・パークとかが文句なしにホットなんだけど、そういう女性ヴォーカルで周りを包んでいるのが好かれる理由ってのはあるかもしれませんね。
山本 そのバランスがすごくいいんじゃないですかね。昔のフリー・ソウル・コンピで言ったらヴァレリー・カーターの「Ooh Child」とか。
橋本 黒すぎない優しい女性ヴォーカルね。で、ちょっとメロウネスとグルーヴ感があって。
山本 バックはソウル・ミュージックの人たちで固めてるような。
橋本 そうかもしれない。いい例だね、今気づいたけど(笑)。
柳樂 グレッチェン・パーラトの『Lost And Found』と同じって感じ。
橋本 まさに。ジャズとソウルとブラジル音楽とかの混ざり具合も含めて、グレッチェン・パーラトの『Lost And Found』はロバート・グラスパーとテイラー・アイグスティがプロデュースしてるんですけど、あれは本当にひとつのマイルストーンだったなと、2010年代を振り返ると思いますね。
マイケル・ジャクソン/プリンス/ジョニ・ミッチェルの再評価と2010年代性
柳樂 プリンスもマイケルも、もろソウル・ミュージックじゃない、どちらかというとウィスパーっぽい感じで歌うタイプですよね。
橋本 2014年にマイケルの「Love Never Felt So Good」が出たじゃない、コンテンポライズ版と一緒に。あれはもう30年前の曲の蔵出しだったんだけど、2010年代の新譜のようにジャスト・フィットだったっていうのが印象的だったな。
山本 今日はマイケルのCDも『2010s Urban』につながるものがあるかなと思って、売り場に一緒に置いているんですが。
橋本 同じ時期にプリンスが発表した曲も象徴的だと思って。「Breakfast Can Wait」って曲なんですけど、これはプリンスが亡くなる前に時代と彼のアーティスト性が再びリンクしていくきっかけになった曲だと思っていて、その頃やっぱり大好きだったジ・インターネットの「Dontcha」っていう『2010s Urban-Mellow Supreme』に入れた曲があるんですけど、それと兄弟のような感じで。プリンスのあの密室的な乾いたファンクみたいな感じと、2010年代のアンビエントR&B以降のファンク・センスっていうのがすごくフィットするな、と思いましたね。じゃあ、プリンスの話も行きましょうか。最近、ディアンジェロもマックスウェルもプリンス愛の表現の仕方が凄くて(笑)。
山本 マックスウェル、新譜良かったですよね。
柳樂 KINGにインタヴューしたとき、プリンスと共にミネアポリスのサウンドの影響が大きいって言ってましたね。
山本 いわゆるミネアポリス・サウンド、シンセいっぱい用意して。
橋本 だから、ジャム&ルイスが手がけた『Janet.』のあの感じにつながってくるアーバン感なんだろうね。
柳樂 プリンスとかジャム&ルイス、その土地から出たアーティストの名前をKINGはすごい出してましたね。
橋本 あとはプリンスの影響を2010年代に入ってまず最初に強く感じたのは、今回も最新アルバムからタイトル曲を入れたジェイムス・ブレイクだったんですよね。そしてジェイムス・ブレイクはプリンスもカヴァーしたジョニ・ミッチェル「A Case Of You」の名演も『2010s Urban-Mellow Supreme』に収録してるんですけど、僕は2010年代になって最も再評価されたアーティストはプリンスとジョニ・ミッチェルだと思っていて。プリンス自身も、ジョニを愛してやまないと公言していますよね。僕は80年代の『Parade』とか『Sign O’ The Times』とかの頃は、プリンスは現在進行形で世界一好きなアーティストだったんですけど、その後はあんまり熱心には追いかけなくなっていたんです。それがジェイムス・ブレイクのファースト・アルバムを聴いた後、プリンスって気分が出てきて、「The Ballad Of Dorothy Parker」なんかはディアンジェロの『Voodoo』みたいだな、とか意識がかなり強まったのが2011年だったのを覚えてますね。
山本 柳樂さんの「Jazz The New Chapter」ともつながる部分あるじゃないですか、プリンス、それこそジョニ・ミッチェルも。
柳樂 プリンスはいきなり再評価が来ましたよね。それまで中古盤屋で働いてると、正直ぜんぜん売れなかったんですけど(笑)、いきなり湧いて出たくらいに盛り上がりがあって。
橋本 イケてる存在にあの頃から再びなった感じだよね、2010年代に入って。
山本 確かにそういう感じしましたね。プリンスっていう言葉、妙に見かけるようになりましたもんね。
橋本 そういう意味で言えば、両方とも今年亡くなったんだけど、デヴィッド・ボウイもそうだよね。
山本 ちょうど僕とか柳樂さんの世代って、意外にもプリンスってそんなに気にしてないんですよね。
橋本 それは『Parade』とか『Sign O’ The Times』に間に合ってないからでしょ? わかる気がする。
柳樂 あれはリアルタイムで体験しないとわからないものって気がする。晩年のエレキ・ギター弾きまくりのジミヘンみたいなやつの方が好きでした(笑)。
2016年MVPアンダーソン・パーク~BJ・ザ・シカゴ・キッド
橋本 このままプリンスの話から綺麗に行けそうなんだけど、ジ・インターネットと並んでプリンスを強烈に感じたのが、今年初頭に出たアンダーソン・パークのセカンド・アルバム『Malibu』でした。この間の来日公演も、旬の勢いを感じましたね。今回のコンピのアイディアは2016年に入ったくらいからあったんですけど、今作のメイン・ディッシュは彼とLAシーンの音楽になってくるだろうと思っていました。あとは彼がノレッジとやってるNxWorriesっていう、まだ12インチしか出ていなくて、もうすぐストーンズ・スロウからアルバムが出るユニットの「Link Up」を入れることができたのも、2016年感を決定づけているなと。マッドリブのプロデュースで彼がBJ・ザ・シカゴ・キッドをフィーチャーした「The Waters」を最初聴いたときは、ディアンジェロの「Brown Sugar」を初めて聴いたときをすごく思い出しました。
柳樂 でもなんかアンダーソン・パークが象徴的だと思うんですけど、このシーンの盛り上がりに中心人物はいないというか、アンダーソン・パークはキーパーソンではあるけど、主役という感じではないというか。
橋本 いろんな人にフィーチャーされて2016年の顔になってる感じだよね。
柳樂 そうそう、このコンピだと「Turnin’ Me Up」が入ってるBJ・ザ・シカゴ・キッドもそういう感じなんだけど。
橋本 ジル・スコットと共演した「Beautiful Love」も入れてるしね。アンダーソン・パークの「The Waters」にフィーチャーされているBJは、6月くらいにビルボードに来たとき、この曲も演ってくれたのが嬉しかったですね。
柳樂 だからひとりで時代を切り開く人がどーんといるって感じじゃなくて、いろんなところに散らばっている。
橋本 インターネットの時代って感じだね、コラボレイションで活性化するという。BJ・ザ・シカゴ・キッドも関連3曲を収録したことからもわかるように、アンダーソン・パークに次ぐ2016年の顔だと思っています。彼はマーヴィン・ゲイやディアンジェロを敬愛する、モータウンからメジャー・デビューしたソウル・シンガーなんですけど、LAのケンドリック・ラマーだったり、シカゴのチャンス・ザ・ラッパーは同郷だったりっていうような、ジャズ~ヒップホップ~ソウルをめぐる豊かなシーンの文脈の中で、イケてるアーティストの作品にどんどんフィーチャリングされてるという。アンダーソン・パークもまさにそうで、ノレッジ、ケイトラナダ、ドモ・ジェネシス……という感じで。
山本 そういう意味でも、二人とも時代の声だなという印象があります。いろんなアーティストとつながって相関図を描いて、『2010s Urban』の主役を張っている感じしますね。
マック・ミラーとケンドリック・ラマーと豊潤なメジャー・シーン
橋本 アンダーソン・パークの客演で極めつけは、来週フィジカルが出るんですけど、マック・ミラーの新しいアルバムに入る「Dang!」って曲なんですよ。時代をすごい象徴する話題としては、マック・ミラーは今アリアナ・グランデと付き合ってるんですよね。そのアリアナ・グランデとの曲もすごくいいし、最後にケンドリック・ラマーとの曲も入っていてそれも良くて。今からかけるアンダーソン・パークとの「Dang!」は、僕がこの夏いちばんよくかけた曲なんですよ。
山本 来週くらいに出ますよね。
橋本 10月7日かな? で、思い返すと『2010s Urban-Mellow』を2013年末に作るときに、タワーレコードの購入特典で「Suburbia Suite presents Free Soul Perspective 2013」っていうディスクガイドをwaltzanovaくんや国分純平くんと作ったんですけど、そこに掲載された僕のインタヴューで、『2010s Urban-Mellow』にはヒップホップを入れなかったんだけど、その理由を語っているところで、でもケンドリック・ラマーとマック・ミラーはよく聴いてるっていう話をしていて。去年ケンドリック・ラマーはああいう風に一大センセイションを起こしたから、マック・ミラーも今後さらに期待してもらって大丈夫じゃないかな、と思ってるんですけどね(笑)。聴いてもらえたら勢いもわかると思います(「Dang!」がかかる)。
山本 ちなみにマック・ミラーは白人のラッパーですね。
橋本 なんかでも、ある世代のイケてる感じっていうのは、LAシーンのジ・インターネットしかり、マック・ミラーしかり、アンダーソン・パークしかり、ケンドリック・ラマーしかり、カマシ・ワシントンしかり、すごく感じます。
山本 みんなインテリジェンスがありますよね。才気あふれるヒップホップというか。
橋本 それでいてスポーティーなところがいいと思わない? フィジカルな快感に対して忠実なところが僕は好きですね。
柳樂 あとはファレルとかがいるでしょ。
橋本 ああ、大きいよね。ファレルとロビン・シックのブレイクが、この状況を準備したという気がしますね。メインストリームのヒットチャートに僕らの好きな曲が入ってくるのは嬉しいよね。
山本 マック・ミラーとアリアナ・グランデもそうですけど、最近はそういう大メジャーなところとフリー・ソウルや『2010s Urban』とのつながりがありますよね。
橋本 90年代にジャミロクワイやジャネットや、レニー・クラヴィッツの「It Ain’t Over ‘Til It’s Over」とかを70年代のマニアックな曲に混ぜてかけてたりした感覚にすごく近いっていうかね。(スピナーズの)「It’s A Shame」をサンプリングしたR.ケリーの「Summer Bunnies」とかが一緒にかかる感じ。
柳樂 昔で言うとクインシー・ジョーンズっぽいな、って思うんですよ。
橋本 すごいわかる。70年代後半くらいからのクインシー・ジョーンズね。
柳樂 白人をターゲットにしたブラック・ミュージックっぽい感じ。
橋本 精神的にはロバート・グラスパーが『Black Radio』でやろうとしたこともそういうことでしょ。ラジオでかかる音楽って、結局白人にも聴かれるってことだからさ。あ、ちょうど今流れてきましたが、これも西海岸で、ストーンズ・スロウから夏の終わりに出たマイルド・ハイ・クラブっていうアーティストなんですけど、これもヨレヨレのAORって感じがすごくいいですね。
山本 最近だとマック・デマルコのようなインディー・ロックにも通じるヴィンテージ感と今っぽさが同居してますよね。
ストーンズ・スロウ傑作ラッシュとナイーヴな黒人音楽フランク・オーシャン~ブラッド・オレンジ
橋本 LAシーンの活況っていうのが、今日のいちばん大きな話題のひとつだと思うんですけど、ストーンズ・スロウっていうレーベルが、ここんとこすごく充実していて、マイルド・ハイ・クラブが夏の終わりに出て、10月にはアンダーソン・パークとノレッジのNxWorriesのアルバムが出るんですけど、9月に出たのがまたものすごく良くて、Mndsgnっていうアーティストなんですけども、「Cosmic Perspective」っていう曲が完璧なアーバン・メロウ・ブギーで、アンダーソン・パークとマック・ミラーの「Dang!」と一緒に今回のコンピに入れられたら良かったんですが、フィジカル・リリース前っていうことで入れられませんでした。とにかく今のLAを象徴する曲なんで聴いてみてもらいたいと思います。いわゆるデイム・ファンク以降のブギーの隆盛みたいな流れがあるんですけど、その決定打だな、っていう感じで。この曲でもわかるのは、80年代っぽさが90年代のR&Bと接近していく感じ、それが2016年の音になっていく感じっていうのがすごく鮮やかに出ている曲だと思うので、聴いてみてください(曲がかかる)。ルックスとかはけっこう情けない感じの確信犯的なヴィジュアルなんですけど、やってる音楽がめちゃイケてるっていう。でも、ナヨッとした感じがイケてるっていうのは、90年代のベックとかを思い出すよね。
柳樂 今、ブラック・ミュージックがすごいナードなんですよね。
橋本 そう、まさに。今、すごい名言が出たんだけど、そういうところに反応してるところはあるよね。ジェンダーだったり。
柳樂 橋本さんが紹介するブラック・ミュージックのアーティストは黒人の音楽だけ聴いているわけではないでしょう。
橋本 たぶん感覚的に、本当にジャンルには捉われてない。フランク・オーシャンの最高だった2枚の新譜『Blonde』と『Endless』を聴けばわかるように。家ではエリオット・スミス聴いてる、みたいなね。
柳樂 “胸を痛めて「いとしのエリー」聴いてる”感じですね(一同笑)。
橋本 だから、最近のブラック・アーティストってフィジカル・パフォーマンスはすごいんだけど、精神的にはすごく繊細でナイーヴなところがあって、それが音楽に翳りを生んでると思うんだ。
山本 ブラッド・オレンジもまさにそうですね。どこかインドアなイメージというか、宅録感というか。
橋本 本当に、そう。今日は、柳樂くんと山本くんが自分流の『2010s Urban』って感じで、皆さんに聴かせたい曲を選んでくれてるんですけど、山本くんはブラッド・オレンジを選んでるんで聴きましょうか。この曲は僕もDJプレイでかけてるんですけど、この文脈で聴くといいかなってのと、ナイーヴなブラック・ミュージックでありつつ、だからこそプリンスの影響をすごく感じる曲ということで(「But You」がかかる)。
白人/日本人アーティストにも見られる同時代性
柳樂 なんか90年代っぽさみたいな話だと、僕も後でかけますけど、バッドバッドノットグッド(BBNG)もそんな感じですよね。
橋本 あれもまさにそうだよね。
柳樂 オッド・フューチャー周りのヒップホップ・アーティストのバック・バンドみたいなテイストで演奏する白人のインスト・バンドです。
橋本 ジャズを中心にやってるんだけど、レパートリーがもう90年代以降のヒップホップ世代ならではで、それがすごくいい感じなんだよね。
柳樂 BBNGなんてビースティー・ボーイズっぽくて、インタヴューして4人に会うと「Hello Nasty」って感じですもん。
橋本 今日、名言出るねえ(笑)。
柳樂 いやだから、その感じが上手くまとまってる。さっき、ムーンチャイルドの話が出ましたけど、全員白人ですよね。ルックスは地味な大学生みたいじゃないですか。
山本 それはさっきの黒人アーティストの話にも通じますね。
柳樂 ジェイムス・ブレイクもそうですよね。
橋本 そうだね、よく歌詞がオタクっぽいって言われてるもんね(笑)。
柳樂 まあ、メイヤー・ホーソーンとかもそうですよね。
橋本 彼もストーンズ・スロウから羽ばたいた人ですけど、今回のコンピにもフリー・ソウル・ファン必聴の「Cosmic Love」という曲が入ってます。ブラッド・オレンジもね、初期のマックスウェルとかプリンスのナイーヴな感じがあるよね。
山本 前回のアルバムも良かったんですけど、より今回はマイケルっぽい感じもありましたね。いい意味でみんなが聴けるアルバムだと思います。
橋本 ヴィジュアルも含めてスタイリッシュだしね。アナログ買うとすっごく大きなポスターが入ってる(笑)。
山本 でもかっこいいですよね、キャップ被って。
橋本 逆に僕から言うと、山本勇樹もこういう曲を選ぶ時代になったんだって感じですね。山本くんの選ぶブラック・ミュージック観がいい具合に出てるなあと思って。
山本 意外に見られがちなんですけど、実は好きでよく聴いてるんですよ。
橋本 仕事だとどうしても「Quiet Corner」的なものが求められることが多いと思うんだけど、いろいろ聴いているよね。
山本 今、話出ましたけど、柳樂さんの選曲に行ってみますか?
柳樂 はい、じゃあTAMTAM行きますか。日本の若いバンドなんですけど、さっき話したような内容そのままなんですよ。ドラマーの高橋アフィくんっていうのがいるんだけど、オタクなんですよ。慶応卒のオシャレなオタク(笑)。
橋本 リズムのセンスが現代的で、僕たちと同じような音楽を聴いてるのがすぐわかるよね。ビート感とサウンドの空間性みたいなものがね、2010年代だなって気がします(「newpoesy」がかかる)。ここだけ聴いたら普通に今の洋楽だよね。
柳樂 これはたぶんKINGと、LAっぽさだと思うんですよ、彼らが取り入れたのは。
山本 ああ、KINGですね。
柳樂 この前、LAからKnowerというユニットが日本に来てましたけど、そのときに前座で高橋くんがDJやってるんですよ。
橋本 ルイス・コールとドラム共演すれば良かったのに。
柳樂 それはYasei Collectiveの松下マサナオくんってのがやってたんですけど。そういう人たちが作ると、日本人でもこんな感じになるんだと。
山本 ほんとに今の20代の人たちって、こんなサウンドやってるんだと身にしみて感じますね。
柳樂 最近、海外の音楽をぱっと聴いて取り入れたら、わりとそのままできちゃうってセンスが増えましたよね。劣化版みたいにならない。
橋本 これでBBNGかけるとめちゃ美しい流れだね。
柳樂 そうですね。BBNGは「Structure No.3」という曲なんですけど、この曲のイントロがもろマッドリブなんですよ。
再び注目すべきマッドリブ/サーラー周辺の冴えとJ・ディラの遺産
山本 マッドリブの話もしなくちゃいけませんね。
橋本 そう、LAシーンの活況という意味で、マッドリブが冴えてるというのはとても重要な要素だと思うな。アンダーソン・パーク「The Waters」、あとフィジカルはブートしか出てないんだけど、カニエ・ウェストの「No More Parties In LA」という曲がマッドリブ制作で。ここんとこ冴えまくってるなって感じですよね。
柳樂 実は最近、原稿でマッドリブって言葉を使うことが多くて。しばらく地味だったじゃないですか。まあ低迷してたとまでは言わないけど、面白いビートを作ることに走りすぎてた気がするんですけど、本来は音色と音響が面白い人ですよね、たぶんさっき話したオタクっぽい気持ちよさというか……。
橋本 うん、変な気持ちよさみたいなものをいちばん感じるトラック・メイカーかもしれないですね。
柳樂 アンダーソン・パークが参照したのは、もちろんJ・ディラはあるんだろうけど、マッドリブとかサーラー・クリエイティヴ・パートナーズとかは大きいんじゃないか、って気がします。
橋本 まさにそうだね。アンダーソン・パークで重要なところは、ドラマーでもあるってことなんですよ。ライヴでもドラムを叩いてましたけど、サーラーのシャフィーク・フセインっていう人のバンドのドラマーでもあったんですね。イレギュラーなビートの気持ちよさに対する直感的な解釈が冴えてるのは、すごく重要かなと思っていて。シャフィーク・フセインは最近フローティング・ポインツのEgloから出してて、サーラーのオンマス・キースの方はフランク・オーシャンの新作でも大活躍してましたけど。あとは、さっきかかっていたSiRは、ノレッジ制作の「Love You」を『2010s Urban-Jam』に入れてるんですけど、これなんかはJ・ディラのビートを現代流に解釈してるアーティストですよね。だから、全部つながってるんですよ。シャフィーク・フセインがいて、アンダーソン・パークがいて、ノレッジがいて、SiRがいて、みたいな。その前史にはディラやマッドリブが大活躍した2000年代前半があって。それを若い頃に聴いていた世代ですよね。
柳樂 例えばグラスパーとかクリス・デイヴはディラのトラックを生演奏で再現することを狙ってたわけですが、BBNGはマッドリブのやってたことや使ってたネタを今っぽく再現しようというのが面白いと思います。
橋本 トロントというちょっと離れたところにいたのも大きいよね、きっと。イギリスのレア・グルーヴ感覚に通じるというか。そのあたりのことは、最新作の4枚目が出たときに柳樂くんと話したよね? 彼らはカヴァー曲のセンス含め、イギリス人とか日本人っぽい。
柳樂 全体的にマッドリブ再評価の機運はすごいある気がしますね。
スコット・へレン再生とエレクトロニカ/ヒップホップの接近~加工ヴォーカルの隆盛
橋本 こういう話の流れからすると、山本くんが持ってきてくれたファッジに行くのがいいんじゃない? ファッジは先月出たばかりのスコット・ヘレン、プレフューズ73として知られてる人ですが。この人がマイケル・クリスマスっていう(笑)すごい名前のラッパーと組んだユニットなんですけど、これも山本くんがかけるとすごく味が出る感じだと思います。
山本 こういうヒップホップ〜ソウルが盛り上がってる中で、そろそろスコット・ヘレンもやってくれるんじゃないかと思ったんですよね。
橋本 マッドリブが再び冴えてるっていうところとスコット・ヘレンの復活が、僕の中ではすごく被るなあ。
山本 スコット・ヘレン、再評価されないかと思ってたらこれがいいタイミングで出て、内容もヤバかったですね。
橋本 いろいろな名義で活動している人なんですよね。プレフューズ73がいちばん有名かと思いますが、サヴァス&サヴァラスとか僕も大好きで、他にもピアノ・オーヴァーロードとかもね。「Quiet Corner」的にはピアノ・オーヴァーロードかな?
山本 まあそうですね。あと、サヴァス&サヴァラスとかやっぱり、ホセ・ゴンザレスつながり的な。
橋本 この「In My Shoes」にも片鱗あるけど、ヴォーカル・チョップが彼の名刺代わりなんですよね。その気持ちよさがありますね。ディラとは違った意味での、グルーヴを分断することで逆に気持ちよさを生み出すという。それを2000年代頭からやってる人だよね。
柳樂 エレクトロニカがヒップホップになり始めたのも彼の影響がすごく大きいですよね。
橋本 そう、エレクトロニカがヒップホップに寄っていったし、ヒップホップもエレクトロニカに寄っていってるじゃない、最近。音響とかテクスチャーへの意識が高まりましたよね。どうですか、スコット・ヘレンとマッドリブに再び光が当たるのは時代の流れじゃないかという。
柳樂 まあ、でもそうなるんじゃないですか? アンダーグラウンドなヒップホップがちょっと弱かったじゃないですか、一時期。僕らにとってはピンと来るものが少なかった時期があって、その頃は彼らも辛い時期だったんじゃないかと思うけど、彼ららしくやっても普通に評価されるタイミングが再び来たなと。
橋本 そういう風に僕も思います。
山本 スコット・ヘレンはケンドリック・ラマーとか相当意識してると思いますよ、「俺も負けない!」みたいな(笑)。
橋本 素晴らしい、山本勇樹の仮説が(笑)。でも、ケンドリック・ラマーがSonnymoonとかエレクトロニカ〜アンビエントR&B寄りの音をサンプリングして、そういった意匠を借りることが多いじゃない。自然と時代とこの人たちの感覚が合ってきたのかもしれないよね。
山本 確かに。ちょっと気持ち悪いようなビートの気持ちよさもあるし。
柳楽 ヴォーカルとかラップをいじるってことに関しては、この人が本当に上手いわけだから。
橋本 カニエ・ウェスト以降、ジェイムス・ブレイク〜ボン・イヴェールの流れというか、ヴォコーダーということではロバート・グラスパー・エクスペリメントもそうだけど、声を変形させることによって魅力的にするっていうのは、ひとつの流れになってますよね。
柳樂 だったらヴォーカル・チョップもまた面白い、って感じじゃないですか。
ネイティヴ・タンを彷彿させるシカゴのSoXクルーの大活躍
橋本 それではそろそろ、マイケル〜プリンスの影響、LAシーンの活況と来て、次にもうひとつ大きなテーマであるシカゴのシーンの充実について話したいんですが。BJ・ザ・シカゴ・キッドが絡んだ3曲は『2010s Urban-Jam』に入れることができたんですけど、フリー・ダウンロードで素晴らしい音楽を発表しているアーティストたちがいるんですね。いちばん有名な名前を挙げるとチャンス・ザ・ラッパーなんですが、彼を取り巻くソーシャル・エクスペリメント(SoX)というユニットというかクルーがいまして。去年、ドニー・トランペットというトランペッターの名前を冠したドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント名義で『Surf』というアルバムが出まして、その中でも特に名曲の「Sunday Candy」をまず聴いていただくのがいいかなと思います。
山本 本当に素晴らしい曲ですよね。
橋本 今回、僕がコンピレイションを作るにあたっても、SoXクルーのこの曲を収録したいっていう候補曲リストを提出したんですけど、そのリストに入っていた曲をここで続けざまにかけながら話ができればと思います。まずは『Surf』から「Sunday Candy」を聴いてください(曲がかかる)。これが僕が去年いちばん好きなアルバムのいちばん好きな曲だったりします。彼らの活躍は本当にめざましくて、今年になってもいい作品が次々に発表されてるんですね。
柳樂 デ・ラ・ソウルっぽいですね。
橋本 そう、このクルーを見てると1990年前後のネイティヴ・タンを思い出すのね。ネイティヴ・タンっていうのは、デ・ラ・ソウルとかトライブ・コールド・クエストとかジャングル・ブラザーズとかモニー・ラヴとかの、『Free Soul 90s』にも入ってるような面々なんですが、当初はラップ・ミュージックはわりとこわもてというかマッチョというかギャングスター的というか、そういうものがヒットすることが多かったんだけど、80年代後半に彼らが出てきたとき、自由でカラフルなアイディアに富んでいて、カジュアルでざっくばらんな感じに惹かれたんですね。正直ヒップホップを熱心に聴くようになったのはそれがきっかけなんですけど、彼らの持つ自由な空気みたいなものに通じるフィーリングをすごく感じます。
柳樂 『ヘッド博士』感というか『ファンタズマ』感がしないですか(笑)。僕、そういう印象。
橋本 なるほどね(笑)。彼らは今年もいちばん好きなんじゃないかっていう曲を3つくらい出してて、アンダーソン・パーク入れたら4つになっちゃうんですけど(笑)、これもそのひとつです。ジャミラ・ウッズという、「Sunday Candy」でコーラスを付けてる女性のソロ・アルバムが出まして。その中から「LSD」という曲を聴いてみましょう(曲がかかる)。
山本 すごい橋本さんが好きそうな感じですね。
橋本 やっぱりグッと来るメロウな曲が好きなんで(笑)。このアルバムはこの曲以外にも素晴らしい曲が収録されてます。でもCDやレコードがないんですよね。クルーで最も売れてるチャンス・ザ・ラッパー、今後ろでラップしてますけど、彼のアルバムが確か初登場で全米8位かなんかに入って、ダウンロードだけでは初めてらしいんですよね。で、この辺の人たちはフィジカルに興味がないのかと思ったら、さっきHMVに来たら新作のアナログがついにリリースされたということで、今日買って帰ろうと思ってるんですけど、そういうダウンロード・オンリーの名作をね、日本だとまだCDで音楽を聴くリスナーも多いんでパッケージで残すってことをやっていけたらいいと思ってるんですね。
エリカ・バドゥの世界初CD化に続きデジタル・オンリーの名作をフィジカルに
山本 今回はこれまでダウンロードだけだったエリカ・バドゥが入ってるのも超快挙ですね。
橋本 そう、今回の『2010s Urban-Jam』にはエリカ・バドゥのデジタル・オンリーだった最高の曲が入ってます。「Mr. Telephone Man」という、レイ・パーカー・ジュニアが書いた曲なんですけど、80年代に当時のスーパー・グループ、ニュー・エディションがヒットさせて、フリー・ソウル・ファンにも人気のある曲なんですが、その素晴らしいカヴァーを収めました。なぜエリカ・バドゥのような有名なアーティストがCDやレコードを出していないのかと思うんですけど、これは電話をモティーフにしたアルバムなんですね。ドレイクの「Hotline Bling」やアイズレー・ブラザーズの「Hello It’s Me」のリワークも収められています。その中でもとびきりの曲が「Mr. Telephone Man」で、エリカ・バドゥだったら何かの間違いでユニバーサルから話をすればOK来るかなと思って連絡したら、収録OKになって狂喜しましたね。
山本 本当にすごいことですよ。
橋本 今でも何かの間違いじゃないかって思ってるくらいで、本人が見たらびっくりして回収騒ぎとかにならないようにしたいな、と思ってるんですけどね(笑)。担当者がOKくれたメールとかはユニバーサルに残ってるんで大丈夫だとは思いますが。
山本 今、CDではこれでしか聴けないですもんね。
橋本 もちろん、世界初CD化です。エリカ・バドゥの「Mr. Telephone Man」、聴いてもらえれば。続いて流れてきたNonameっていうアーティストも、シカゴのソーシャル・エクスペリメント周辺の女性ラッパーで、この人のアルバムもすごく良かったんですけど、これもまたダウンロード・オンリーで、せめて日本だけでもCD化できたらいいなと。レコード会社の担当にはまたかと思われつつ、この辺りのアーティストは毎回候補曲リストに入れてるって感じですね。
柳楽 Nonameとかその辺の人たちはSNSで発信するってことに快感を覚えてるってのがあるのかもしれない。
橋本 そう、きっと20代前半くらいでしょ? ジ・インターネットも最初そんな感じだったじゃない。僕らの感覚からすると、レコードとかCDでいまだに音楽を聴いてるのでわからないんですけど、あんまりフィジカルでリリースすることに興味がないんでしょうね。むしろYouTubeでミュージック・ヴィデオを作って流したりする方が楽しいって感じなのかな。でも、ここは遠い日本なんでCDにできたらいいなって思ってますが(笑)。今、アプルーヴァル申請もチャンス・ザ・ラッパーのマネージメントまではたどり着いてるらしいので、可能性はあるかもしれないので楽しみにしていただければと思います。では、チャンス・ザ・ラッパーの曲をかけますね。これは「Sunday Candy」にも通じるような曲なんですけど、なんて言えばいいんだろう、ミュージカル調のラップというか多幸感に溢れた曲で。このシカゴの人たちの楽しそうな感じっていうのは、デ・ラ・ソウルなんかのネイティヴ・タンのあの感じ、日本だとスチャダラパーとかLBネイション的なね(「Finish Line」がかかる)。
山本 ああ、わかります(笑)。
橋本 ああいうユーモアに富んだ軽やかなノリを思い出させるというかね。
柳楽 僕、昔ティンバランドが苦手だったんですけど、彼には音響的な面白さってあるじゃないですか。最近のヒップホップってそういう要素も入りつつ、全体的にはネイティヴ・タンっぽいなと。
橋本 ビート感や音響設計は進化してるんだけど、醸し出す雰囲気がネイティヴ・タンっぽいよね。
柳楽 だけどデジタルな尖ってる部分が入ってるっていうね。そういう意味での新しさというか、ヒップホップの中でのクロスオーヴァーだと思います。
ジェイムス・ティルマンCD化の願いと『2010s Urban』な男性ヴォーカリストたち
橋本 続いては、シカゴの人たちとは全く違う人脈、文脈なんだけど、ダウンロード・オンリーでとても気に入ってるアーティストがいるので、ジェイムス・ティルマンという人を紹介したいと思います。彼はニューヨークの黒人シンガー・ソングライターで、つい最近、ダウンロードとカセットだけというフォーマットでファースト・アルバムがリリースされまして、『2010s Urban』的には大プッシュしたいアーティストですので、今日はぜひ聴いていただきたいと思います。今までデジタルのみで出てたEPから、テリー・キャリアーを思わせるこみあげ系の「Shangri La」を『2010s Urban-Sweet』に、それからちょっとフォーキーで沁みる「And Then」を『Folky-Mellow FM 76.4』に収録していて、アルバム発表前なのにコンピに2回入れさせてもらったくらい大好きなアーティストです(「Shangri La」がかかる)。さっきのハッピーなシカゴの人たちに比べると、NYらしい内省感もあるアコースティック・ジャジー・ソウルなんですけど。
柳樂 ビル・ウィザースというか、ベースのループ感が「Lovely Day」みたいですね(笑)。
山本 確かに。
橋本 ヴォーカルはテリー・キャリアー〜ビル・ウィザース〜ダニー・ハサウェイの系列だよね。フリー・ソウル・ファンにはぜひ聴いていただきたいなと。ファースト・アルバム『Silk Noise Reflex』が本当に素晴らしかったので、これはアプレミディ・レコーズでCDにできないかと思って、担当者の方に動いてもらってるんですけどね。2年前のEPの曲とか、そういうのもボーナス・トラックで入れたりして。インターネットとかでまめに音楽をチェックする時間はないけど、こういう音楽が好きだという人にCDという形で届けていく、という活動をやっていきたいなと勝手に思ってるんですけど(笑)。
山本 でも、リスナーにとってはすごい助かりますよね。
橋本 やっぱり僕、レコードやCDで持ってないと忘れちゃうんだよね(笑)。
山本 なかなかデジタル音源だと探せないってのがありますよね。『2010s Urban-Sweet』にもクリス・ターナーとかドゥウェレとかビラルとかジェシ・ボイキンスとか、美声の男性ヴォーカリストがフィーチャーされていますね。
橋本 そういえばこれ、グレゴア・マレ入れてるよね? (確認して)ああ、入ってる。ちょっと話が逸れますが、『2010s Urban-Sweet』にグレゴア・マレがカサンドラ・ウィルソンをフィーチャリングした「The Man In Love」が入ってるんですけど、今日山本くんがかけたい曲の3曲目がこの人なんだよね。
山本 グレゴア・マレどうかな? と思ってたんですけど、すでにコンピに入っていましたね。
橋本 持ってきてくれたのは新作だよね。
山本 そうですね、サニーサイドから出ている『Wanted』というアルバムです。
橋本 グレゴア・マレもラッパーをフィーチャリングする時代になったんだなっていうのが感慨深かったですね。
山本 これ、かっこいいんですよ。
橋本 ニュー・アルバムの1曲目ですね(「2Beats」がかかる)。ぜんぜんコンピに入れられるじゃん。
山本 これを聴いてもう、『Free Soul〜2010s Urban』シリーズだなと(笑)。
橋本 このアルバムはイヴァン・リンスとかジミー・スコットとか、ヴォーカリストもフィーチャーしているんだよね。
柳樂 まあでも、BIGYUKIとかグラスパーとも仲良しらしいですよ。
橋本 BIGYUKIはライヴでシンセ・ベースやってたよね。
柳樂 ハーレムとかでよくライヴやってるらしいですよ、グレゴアは。
橋本 ちなみに、このハーモニカの人がグレゴア・マレです(笑)。この人はこの前亡くなったトゥーツ・シールマンズの後継者と言われてるすごいプレイヤーなんですが、ニューヨークのジャズ・シーンとのつながりも深い人で。
山本 もともとは パット・メセニーとか……。
橋本 ジミー・スコットとかカサンドラ・ウィルソンとかね。僕が入れたのもカサンドラとの曲ですけど。
山本 もともとアーバン色のある人なんですけど、ダサいフュージョンにならずにわりと上手いところへ行ってる音作りですね。
橋本 そう思います。うまく『2010s Urban』とつながったね。
山本 偶然にも(笑)。
デ・ラ・ソウル復活と東西問わずの90年代への憧憬
橋本 柳樂くんも最後の曲行きますか。3曲目に選んでくれたのは、さっきからさんざん話題に出てる、デ・ラ・ソウルの新作からですね。
柳樂 なんかまあ、いちばん復活したらいいタイミングで復活して、実際に売れて素晴らしいなっていう。
橋本 僕たちがシカゴのSoXクルーに求めてるような感じがあるタイミングで、デ・ラ・ソウルが彼ららしいジャケットで戻ってきたっていうのが、最近のちょっといい話なんですけど。しかも基本的には全部バンドなんでしょ? デ・ラ・ソウルはやっぱりカラフルなサンプリングのセンスっていうのがすごく魅力的だったんだけど、ずっとサンプリング・クリアランスの裁判とかで悩まされてきたっていう経緯もあって、今回12年ぶりにアルバムを作るにあたって、クラウド・ファウンディングで制作費を集めたんですよね。で、実際にミュージシャンを集めてそのお金でバンド演奏してもらって、それをサンプリングして使ったんですよね?
柳樂 そうじゃないですか、たぶん。
橋本 わざわざサンプリングするために演奏してもらったっていうのが、本末転倒なのかよくわからないですけど、彼らなりのサヴァイヴというか、らしさなのかもしれませんよね。
柳楽 音を聴くと90年代っていうか、あの頃の感じがあって。
橋本 この「Pain」って曲はあとでスヌープ(・ドッグ)が出てきますけど、デ・ラ・ソウル、やっぱりファンが多いってことだろうけど、クラウド・ファウンディングでお金が集まったのか、すごい豪華ゲストなんですよ。ジル・スコットに始まりピート・ロックも2チェインズもいればデイモン・アルバーン、デヴィッド・バーン、リトル・ドラゴンもいる、みたいな。
柳樂 で、LAっぽいサウンド、みたいな話がずっと出てたけど、なんだかんだ言ってテラス・マーティンとかもそうだけど、みんなデ・ラ・ソウルやトライブ・コールド・クエストが好きで、彼らなりに彼らのようなことをやったりで、デ・ラ・ソウルの新しいやつは彼らのやつとも遠くなくて、スヌープも入っててみたいな。
橋本 お、スヌープ出てきましたよ。僕はストーンズ・スロウから出たデイム・ファンクとのセヴン・デイズ・オブ・ファンクあたりから、また彼を聴くようになりましたね。
柳樂 西も東もあんまりなくなってきた感じもありますよね。
橋本 そうね、2パックとビギーから20年だもんね。
山本 (笑)。
柳樂 このアルバムでベース弾いてるカーヴェー・ラステガーってやつがいて、ニーボディーっていうLAのジャズ・バンドのメンバーなんですけど、西と東とか国とか関係なくデ・ラ・ソウルの音になっているなと。
橋本 最後に入ってる「Exodus」って曲があるんですけど、ここまでたどり着いたときに 涙が出てきちゃって、僕はこの曲をかけたくてアナログ買いましたね。
山本 本当にカラフルでヴァラエティーに富んでいて、いい形での復活って感じでしたよね。
90年代感とネオ・ソウル~アンビエントR&Bの流れを汲む女性シンガー
橋本 上手い具合に、最初から話をしてた2010年代と90年代を結ぶ何か、みたいなものがこんなところにも表れてますが、あとは、時間もないんであれなんですけど、90年代感とネオ・ソウル〜アンビエントR&Bの流れを汲んだ女性シンガーたちについても語りたいという話がありましたが、これはかなり山本くんっぽいテーマ設定だなと。
山本 今回のコンピはコリーヌ(・ベイリー・レイ)入ってるし、あとルーマーも。すごいフリー・ソウルっぽい。
橋本 LAということで象徴的なのは、コリーヌ・ベイリー・レイがいろいろプライヴェイトでも辛いことがあったりして沈んでいたんだけど、LAに行った瞬間にクリエイティヴの面が進んだという話がありますよね。
山本 人脈の面でもつながって。
橋本 今日、たくさん名前が出てきたKINGとのコラボレイションによって最新アルバムができて。
山本 そうですね。
橋本 そういう意味でも、今のLAシーンの豊かさの恩恵をコリーヌ・ベイリー・レイのようなアーティストでさえ受けているっていうのは重要ですね。
山本 あと、ピノ・パラディーノとか。
橋本 ジェイムス・ギャドソンも。
山本 ああ、名前ありましたね。一聴すると地味かもしれないですけど、このコンピに入っているカーティス・メイフィールドへの敬愛あふれる名曲「Do You Ever Think Of Me?」はじめ、すごい深みのある彼女らしいアルバムだったと思います。
橋本 あと、山本くんと言えばルーマーだよね。彼女の「Be Thankful For What You Got」という、古くはマッシヴ・アタックとか、クリーヴランド・ワトキスがカヴァーしたようなウィリアム・ディヴォーンの名曲ですけど、これを白人の女性シンガーのルーマーがカヴァーするっていうのが90年代的であり2016年的だよね。
山本 ルーマーはもともとカヴァーの達人ですからね。バート・バカラックはじめトッド・ラングレンとかも演ってます。
橋本 バカラックやトッド・ラングレンは白人のソングライターなんだけど、ソウルフルな部分を踏まえてるじゃないですか。だからルーマーもそういう人なんだろうね。で、ウィリアム・ディヴォーンっていうのはソウル・ミュージックの中では最も白人寄りというかキリスト教寄りの存在で、音楽もそういう感じだから、数あるソウル・ミュージックの中でルーマーがウィリアム・ディヴィーンを歌うってのは、白と黒の接点の感じがフリー・ソウルっぽいよなというのが僕のイメージ。
山本 それにしてもナイス・カヴァーですよね。
橋本 ヴァレリー・カーター「Ooh Child」的存在感(笑)。
山本 そうですね、あとコールド・ブラッドの「You Are The Sunshine Of My Life」とか、白と黒のブレンド具合が通じてますね。
橋本 リア・カンケルの「Step Out」とかね。あの曲を『Free Soul Lovers』に入れたのは1994年だから、山本くんが18歳の頃だったんですけども、ルーマーのウィリアム・ディヴォーン・カヴァーを聴いて、今18歳の人がこのコンピレイションに興味を持ってくれたらいいなと思ってるんですけど。
山本 とても入りやすいですよね、ソウル・ミュージックの入り口として。
橋本 たぶん普通の、健全なと言ってはあれですけど、健やかに育ってる18歳の女性とかだと、いきなりアンダーソン・パークって言われても「?」って感じかもしれないんで(笑)。
山本 あとは、メイヤー・ホーソーンとかも入りやすいですよね。そういうホワイト・ソウルの魅力ってあるのかなと思います。
橋本 そうですね、今回オープニングに置いたPapikのバリー・ホワイト・カヴァーもそうですが、そういう親しみやすい曲がいい入り口になったらと思って選んでいます。柳樂くんは何か付け加えることがあれば。
柳楽 いや、すっげえしゃべったから大丈夫ですよ(笑)。
終わりに――トークショウからアイディアが生まれる
山本 では、予定より時間オーヴァーしてしまいましたが、まとめ的なところを。
橋本 他にもいろいろと好きな曲はあるので、これからもコンピレイションを作ったりDJでかけたり、こういう風に話す機会があれば紹介したりしていきますので、今後もよろしくお願いします、というところですかね。
柳樂 配信とか、いろいろあって面倒くさいから、こういうコンピがあると重宝するよ、と素朴に思います(笑)。
山本 僕も同感ですね。
橋本 そういえばサブスクリプションですが、話題のSpotifyでもフリー・ソウルとカフェ・アプレミディのプレイリストが始まりますので、そちらもお楽しみに。
山本 個人的にはコンピの『2010s Urban』と『Good Mellows』のシリーズは、ずっと出していってほしいなと思いますね。本日は橋本さん、柳樂さん、長い間ありがとうございました。お二人に拍手を。
橋本 今日はかなりアットホームな雰囲気で、だらだらとしまりのない話が多くなってしまい恐縮でした。家飲みみたいな感じの延長で楽しんでもらえたなら嬉しいです。
山本 内容的には密度が濃くて、とても良かったと思いますよ。
橋本 3人で話したことから、また新しいアイディアが生まれたりもするんで。前回の『2010s Urban-Jazz』リリースのときにエソラ池袋(HMV)でトークショウをやって、柳樂くんが昔の『Free Soul 90s』をまとめて持ってきてくれたことがきっかけで、今年の頭に『Ultimate Free Soul 90s』を作ったりしたんで、今日の話からもアイディアが広がったらいいなと思っています。
山本 では、今日お越しいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
橋本・柳樂 ありがとうございました。