ボストン交響楽団とアンドリス・ネルソンスが、ドイツ・グラモフォンとの新たな契約を発表
ドイツ・グラモフォンはこのたび、ネルソンス指揮するボストン交響楽団と新たな契約を結び、ショスタコーヴィチ作品の録音がその初仕事となる。内容はショスタコーヴィチがスターリン政権下のソビエト体制のもとで、厳しい検閲を受けながら書いた作品を集めた、5回にわたるコンサートのライヴ録音である。交響曲5番から10番、《リア王》《ハムレット》《ムツェンスク郡のマクベス夫人》の付随音楽が収録される予定。 新たな協力関係のスタートを記念するアルバム第1弾――タイトルは「スターリンの影の下でのショスタコーヴィチ」――には、ショスタコーヴィチの《ムツェンスク郡のマクベス夫人》からのパッサカリアと、交響曲10番がカップリングされ、2015年夏に発売予定である。
ボストン交響曲とドイツ・グラモフォンは新たな契約を結び、アドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団の演奏で、ライヴ録音によるシリーズ・アルバムを制作すると発表した。この新シリーズは、「スターリンの影の下でのショスタコーヴィチ」と題するプロジェクトで、ショスタコーヴィチがソビエト体制のもと、スターリンとの関係が悪化した時期に書かれた作品を中心に構成される――1930年代なかばにスターリンの不興を買った時期の作品をはじめ、初演が高く評価された交響曲5番、そしてショスタコーヴィチの傑作の一つで、きわめて個性的な管弦楽曲である交響曲10番は、1953年のスターリンの死に触発されて書いたと言われている。交響曲5番から10番のほかに、予定では《リア王》や《ハムレット》からの付随音楽、さらには《ムツェンスク郡のマクベス夫人》からのパッサカリアの録音も予定されている。これらの作品は、音響の良さでは世界有数と定評があるシンフォニー・ホールで、2014~15年、2015~2016年、2016~2017年のシーズンに録音を予定しており、指揮はいずれも音楽監督のアンドリス・ネルソンスがおこなう。ボストン交響曲楽団とアンドリス・ネルソンス、そしてドイツ・グラモフォンの新しい関係および録音計画に関する今回の発表は、2015年から16年にかけてのボストン交響楽団のシーズン内容の発表と並行しておこなわれるものであり、詳細はつぎの通りである。
ボストン交響楽団による5枚のライヴ録音アルバムの第1弾――ドイツ・グラモフォンより、2015年夏から2017年夏にかけて3回に分けて発売予定――の曲目の中には、スターリンを激怒させ、ショスタコーヴィチが独裁者から疎まれる原因となったオペラ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》からのパッサカリア、および交響曲第10番が含まれる。アルバムはシンフォニー・ホールで4月2日、3日、4日にネルソンスが指揮する演奏会で、ライヴ録音の予定。
アンドリス・ネルソンス――
1978年に、当時まだソ連領だったラトヴィアのリガに生まれる――は、演奏とショスタコーヴィチの音楽に対して独自の視点をもっている。彼はソビエトの音楽的伝統のもとで教育された、最後の指揮者の一人である。そしてサンクトペテルブルクで長く学んだネルソンスは、ロシアの偉大な巨匠たちの伝統を受け継ぐと同時に、レパートリーの中核をなすドイツ作品では西欧の巨匠たちの伝統も受け継いでいるという、現在ではたぐいまれな指揮者の一人でもある。
「ボストン交響楽団、そしてドイツ・グラモフォンというすばらしい仲間と仕事ができるのは、私にとって本当に胸の躍る、名誉な体験です。ショスタコーヴィチの作品を中心に演奏できるのも、私にとっては誇らしいことです。彼は大いなる勇気と気高さをそなえた作曲家であり、彼の偉大な作品には多くの点で、書かれた時代状況を超えた永遠の価値があります。同時にショスタコーヴィチの音楽は、ソ連のラトヴィアですごした私の修行時代と重なるところがあり、私に特別に個人的な近親感をもって語りかけてきます。そうした特別な思いが、今回の録音にも反映されるにちがいありません」
ドイツ・グラモフォン・アーティスツ&レパートリー担当ウテ・フェスケ副社長は語る
「私はアンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団による今回の新録音が、21世紀におけるショスタコーヴィチ・ツィクルスの決定盤になることを、確信しています。そして、ショスタコーヴィチの音楽は、コンサート・ホールに集まった満員の聴衆を遥かに超える人びとに語りかけるにちがいありません。情熱的な表現力と深い音楽性で知られるアンドリス・ネルソンスは、自分の中にあるロシアとソ連の音楽的伝統のルーツを、今回の企画で活かすことができました。それはまた、ショスタコーヴィチの音楽言語を作り上げたルーツでもあります。そうしたすべての要素が揃ったネルソンスは、今回の企画ではまさに完璧な指揮者です。アメリカおよび西欧のクラシック音楽界で、ロシア/ソビエト作品の演奏で主導的役割をはたしてきた、比類ないボストン交響楽団の演奏は、今回の重要な録音を文化的な発言にまで変える力になるでしょう。私たちはボストン交響楽団とアンドリス・ネルソンスの演奏が、ドイツ・グラモフォンのカタログに、新たな1ページを開くにちがいないと、期待しています」
録音に関する今後の予定
交響曲第5番、第8番、第9番、および《ハムレット》の付随音楽を、2枚組アルバムとして、2016年5月に発売予定。収録は、2015年から16年にかけてのシーズン中におこなわれる。詳細は:www.bso.org を参照。2017年夏には、交響曲第6番、第7番、《リア王》の付随音楽を、2枚組アルバムとして発売予定。2016年5月および2017年夏に発売されるアルバムの詳細は、今後順次発表の予定。
ショスタコーヴィチ作品の演奏および録音に関連して、ボストン交響楽団は同楽団とショスタコーヴィチとの関わりについて、オンラインで詳細を紹介する予定である。セルゲイ・クーセヴィツキーが、1925年から49年まで音楽監督を務めるあいだ、ショスタコーヴィチの音楽を擁護し、彼の作品を積極的に採り上げたという話題。アンドリス・ネルソンスが学生時代のショスタコーヴィチ体験と、この作曲家に対する強い親近感を語るインタビュー。そしてショスタコーヴィチの交響曲第7番が、タングルウッド音楽センター・オーケストラによって、1942年8月14日に初演されたときの、魅力的な詳細などである。
ボストン交響楽団とドイツ・グラモフォンについて
ドイツ・グラモフォンとボストン交響楽団の録音には、記念すべき長い歴史があり、40年以上の間に100枚を超えるレコードが制作されている。ボストン交響楽団とドイツ・グラモフォン・レーベルとの関係が始まったのは1970年代で、マイケル・ティルソン・トーマス指揮で録音したアイヴズの〈ニューイングランドの三つの場所〉が、最初だった。これはボストン交響楽団が録音した、初めてのチャールズ・アイヴズ作品でもあった。ボストン交響楽団とドイツ・グラモフォンが組んだ最新の録音は、2007年のアンドレ・プレヴィンのヴァイオリンとコントラバスのための協奏曲で、ソリストはアンネ=ゾフィー・ムターとロマン・パトコロ、指揮はプレヴィンである。
ボストン交響楽団と、ショスタコーヴィチとその音楽にまつわる歴史
ボストン交響楽団は、1935年11月にショスタコーヴィチの交響曲第1番を初めて演奏して以来、ショスタコーヴィチの交響曲をかなり頻繁に採り上げている。1940年代には、ボストン交響楽団の伝説的な指揮者、セルゲイ・クーセヴィツキーが交響曲の1、5、6、7、8、9番を採り上げ、ボストン、タングルウッド、ニューヨーク郊外、ブルックリン、ニューヘヴン、ハートフォード、ワシントン、フィラデルフィア、ピッツバーグ、クリーヴランド、シカゴ、アナーバー、ロチェスター、トレドでたびたび演奏した。同じく重要なのが、ショスタコーヴィチの交響曲7番《レニングラード》を、コンサートでアメリカ初演したのがクーセヴィツキーだったことである。1942年8月14日、タングルウッドのロシア慈善演奏会で、タングルウッド音楽センター・オーケストラ(当時はバークシャー音楽センター・オーケストラと呼ばれていた)を指揮しての演奏だった(その前の月にトスカニーニがNBC交響楽団を指揮して、この作品の放送初演をおこなっている)。クーセヴィツキーとボストン交響楽団は、RCAビクターで1925年4月に交響曲第8番のアダージョを録音(その後1989年に、ボストン交響楽団の募金用アルバムの中に挿入された)、そして交響曲第9番を1946年11月/1947年4月に録音している。ボストン交響楽団がドイツ・グラモフォンで録音したその他のショスタコーヴィチの作品には、指揮者に小澤征爾、ソリストにムスティスラフ・ロストロポーヴィチという顔ぶれで1975年8月に録音されたチェロ協奏曲第2番、指揮者に小澤征爾、ソリストにギドン・クレーメルを迎え1992年4月に録音されたヴァイオリン協奏曲第2番がある。そのほかに、1964年9月には、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮でボストン交響楽団が演奏したショスタコーヴィチの交響曲第1番がテレビ放映され、のちにIMGアーティスツよりDVDとして発売された。
ボストン交響楽団を率いてショスタコーヴィチの交響曲を演奏した指揮者には、ボストン交響楽団の音楽監督を務めたエーリッヒ・ラインスドルフおよび小澤征爾、ボストン交響楽団の名誉指揮者ベルナルト・ハイティンク、そしてパーヴォ・ベルグルンド、レナード・バーンスタイン、ジェームズ・コンロン、アンドリュー・デイヴィス、ワレリー・ゲルギエフ、マリス・ヤンソンス、ヴラディーミル・ユロフスキ、チャールズ・マッケラス、クルト・マズア、アンドレ・プレヴィン、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、クルト・ザンデルリンク、作曲家の息子であるマキシム・ショスタコーヴィチ、レナード・スラトキン、レオポルト・ストコフスキ、ユーリ・テミルカーノフなど、錚々たる客演指揮者がいる。1956年に、ボストン交響楽団はソ連で演奏をおこなった最初のアメリカのオーケストラとなり、シャルル・ミュンシュ、ピエール・モントゥーの指揮でレニングラードおよびモスクワで5回のコンサートをおこなった。1959年11月に、米ソ教育文化交流の一環として、ドミトリ・ショスタコーヴィチみずからが団長となってソ連の作曲家たちがボストンを訪れ、シンフォニー・ホールで、ボストン交響楽団の演奏する、ロシアおよびアメリカの音楽を聞いた。1975年8月9日、予定されていたショスタコーヴィチの交響曲第5番の演奏に先立ち、指揮台に立ったムスティスラフ・ロストロポーヴィチは聴衆に向かい、その日の朝ショスタコーヴィチが亡くなったことを告げた――それはロストロポーヴィチに、コンサートの休憩時間に伝えられたばかりの知らせであり、アメリカではそれが最も早く作曲家の死が公表された瞬間になった。
ドイツ・グラモフォン/ボストン交響楽団によるショスタコーヴィチ作品の録音予定
2015年夏
《ムツェンスク郡のマクベス夫人》から パッサカリア
交響曲10番
2016年5月(2枚組)
交響曲5番、9番
交響曲8番
《ハムレット》の付随音楽
2017年(2枚組)
交響曲7番
交響曲6番
《リア王》の付随音楽による組曲