ベートーヴェン・キャンペーン 2012 ベートーヴェン・キャンペーン 2012

■「ノイズがない」「持ち運びが楽」「劣化しない」"夢のディスク"と言われたCDも今年でその誕生から30周年です。
CDの誕生には実はベートーヴェンの名曲が大きくかかわっていることをご存じでしょうか。
CDの"約74分"という収録時間は、ベートーヴェンの《第九》が1枚に入るのが良い、と巨匠カラヤンが発言したことがきっかけになったと言われています。

■ベートーヴェンの名曲《第九》は"人類の宝"と称され、事実ユネスコの『世界記録遺産』リストにも登録されています。
《第九》の存在によって、規格が決められたCDの誕生とベートーヴェン作品の良さを再認識し、今年こそ、CDでベートーヴェンを聴きましょう!

■ユニバーサルミュージックが誇る世界超一流のアーティストの中から更に厳選したアイテムで、ベートーヴェン代表的名曲をラインナップいたしました。

※当キャンペーンは終了しました。

ベートーヴェン・キャンペーン 2012

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 振り返ってみると今年はCDが世に出て30年の記念の年である。それは30センチのブラック・ディスクから12センチのコンパクト・ディスクへの移行であると同時に、私たちが音楽をより身近に、しかも高音質で聴ける、新しい時代の始まりでもあった。アナログ時代の約束ごとであった、ゴミ対策、カートリッジや針圧への心配り、歪みへの飽くなき闘いと工夫といった面倒な作業から聴き手はようやく解放され、即、演奏そのものに集中できるようになったのである。音質の素晴らしさ、ノイズのない高忠実性、操作の容易さ、持ち運びの便利さ、さらには楽章であれ、その途中であれ、手軽に聴きたいところにアクセスできる利便性などが手伝い、急速に世はCD時代となった。収録時間が74分とされたのはカラヤンがベートーヴェンの「第九」をカットすることなく、全曲を容れたいとの希望を出したからなど、今では懐かしいエピソードである。

 

 CDという新しいメディアは、デジタル時代を象徴し、またリードする器となってたちまち浸透、それに応じて新しい録音も数多く制作されてきた。幸いにもカラヤン、バーンスタインが円熟期にあったし、その他、ショルティ、クーベリック、ジュリーニといった名指揮者たち、ホロヴィッツ、ゼルキン、ケンプ、ミケランジェリ、ブレンデル、グルダといった名ピアニストたちも健在で、いわば「名演奏家の時代」「名演の時代」が実りの時を迎えていたのも幸いした。そして、こうした名演奏家たちが、競うかのように録音してきたのが、クラシックの原点というべきか、名作の森として音楽史上に聳え立つベートーヴェンの作品であった。

 

 ベートーヴェンはほぼ200年前に亡くなった作曲家である。確かに遠い時代である。CDもなければ、パソコンもなく、旅行だって周辺地域に限られていた、そんな時代である。素朴にしてシンプル、しかしそれだけに人間が人間として生き得た時代であったし、自然の恵みも本来の輝きと美しさを誇り、しかも潤いにあふれていたのである。確かに戦争や政治的な混乱、さらには病や自然災害といったものも多かったが、すべてがデジタル的に処理されてしまう現代とは異なり、人間と自然とが調和と融和の中にあった。

 

 ベートーヴェンはそんな時代に生まれ、育ち、そして音楽で自身を語り、時代を見据え、人間を描き、理想と希望を歌った作曲家である。残された膨大なる作品の数々は永遠のスタンダードとでもいうべき感動を聴き手に与えるものとして親しまれ、聴き継がれている。

 

 9曲が残された交響曲は、一曲一曲が歴史的な名作であると同時に、全9曲が一つの尾根とでもいうべき威容をもってそびえたっており、それらはクラシックの中核的位置を占めるものとなっている。若き日の、といっても天才モーツァルトとは異なり、努力型のベートーヴェンが最初の交響曲を発表したのは30才の時であったが、処女作となった第1番から、第3番「英雄」を経て、第5番「運命」、第6番「田園」に至る歩みは、文字通り新しい交響曲の歴史の始まりであった。続く、第7番から第9番「合唱」に至る歩みは、一人の作曲家によるまさに信じ難い努力と不屈の精神力の賜物であり、後世に残された尊い遺産として輝き続けている。

 

 5曲が残されたピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲は、先立つハイドンやモーツァルトのそれとは明確に一線を画すロマンティックな美しさと夢、さらにドラマと幻想性を誇っている。さらに、32曲が残されたピアノ・ソナタもまたベートーヴェンが生涯をかけて書き続けた名作ぞろいである。それらは、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」が音楽版「旧約聖書」にたとえられるのに対し、「新約聖書」とされるが、いずれにしても、21世紀に生きる私たちに残された値千金の遺産であることは論を待たない。この他、ヴァイオリン・ソナタや歌劇「フイデリオ」などベートーヴェンが残した足跡は予想外の多彩さをもって拡がっているのである。

 

 しかもこれらの名作には、ベートーヴェン生涯のテーマであった不屈の精神力をもって人は困難に立ち向かい、ついには勝利に至るという思想が塗り込められている。即ち、ベートーヴェンを聴くことは、ただ単に美しい経験をするだけではなく、生きることの意味を問うといった思想的な刺激すらも感じ取ることが可能なのであり、まさに人生の教えにも似た感銘に浸らせるのである。ベートーヴェンが永遠不滅の価値を持ち、永遠のスタンダードとして愛され、聴き継がれてきた背景には、他の作曲家にはないこうした理由があるからなのである。

 

 フルトヴェングラー、トスカニーニといった20世紀前半を代表する巨匠以来、ベートーヴェンのこうした作品の数々は、あらゆる名演奏家たちの目標であり続けている。ベーム、カラヤン、クライバーといった名指揮者たちによる個性とカリスマ性を誇る演奏は、その一つ一つが座右宝としての価値をもつが、現代においてその実践者として広く知られるのがバレンボイムである。フルトヴェングラーの薫陶を受けた名指揮者であることはもとより、自身が傑出した名ピアニストでもあることから、完全なる音楽家としての存在感すら併せ持つが、そんな名匠の指揮で聴くベートーヴェンの交響曲全集は必ずや、21世紀に生きるベートーヴェンの姿に聴き手を立ち会わせ、鮮烈な感動体験に浸らせてくれるはずである。