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ドイツ・グラモフォン120周年に寄せて、色々な方からご寄稿いただきます。 第1回を公開!

第1回 音楽評論家 諸石幸生

DGと私~創立120年に寄せて

DGが創立されたのは、今から実に120年前の1898年のことであった。当時、平円盤式のレコードを開発して、一世を風靡していたドイツ出身の発明家エミール・ベルリナーによって創設された、世界最古のレコード・レーベルである。まず、120年という歩みの壮大さに心驚かされてしまうが、これまでクラッシックのみを対象に録音リリースしてきた、という事実には本当に頭が下がる。SP盤時代にはカルーソーやシャリアピン、メルバといった、20世紀初頭の代表的な歌手を擁してレパートリーを広げた。 しかしその後、ニキシュ、フルトヴェングラー、ヨッフム、ベーム、そして、カラヤンといった名演奏家たちの録音を行なうようになり、クラッシック・ファン全体が注目するレーベルへと変わってきた。 私がDGを意識して聴き入るようになったのは、1960年代になって以降のことである。カラヤンのR・シュトラウス「英雄の生涯」や、モーツァルトの「レクイエム」、そして、ベートーヴェンの交響曲全集といったものを聴き漁ったものである。そして、クラッシックというものが秘め持つ魅力の虜になってしまった。また、ほぼ同時期にベルリンで活躍していたフェレンツ・フリッチャイやロリン・マゼールらの演奏にも、聴き入ったものである。 こうした経験を重ねる一方で、DGのレコードというものが、他のレーベルとは、何が異なるのか、ということにも気づいてきた。それは、まずサウンド面に確認されることであり、DGのレコードは、とにかく重低音の響きが大きく、それはオーケストラ音楽の魅力で聴き手を圧倒したものである。だが、当時私が使っていたような安価なレコード・プレイヤーでは再生できなかったものである。こうした欠点と思われていた特徴は、後に解決されることになるが、それは本当に長い時間と経費をつぎ込んだ結果のことであった。 また、DGのレコードには、プロデューサーや、エンジニアの名前がクレジットされており、言わば、レコードのサウンドも責任のある専門家によって、制作管理されていることが明記されていたのである。 結局、DGというレーベルは、音楽という人類の英知の結晶である創造物に対して最大限の敬意を払って、一枚のレコードを制作しているのである。だが、こうしたことは音楽の本質、もしくは、演奏というものの本質と深く関わっているものなのであり、音楽の本当の姿が熟知されていたからこその結果といえよう。しかも、こうしたやり方が最初期の段階から行われていたという事実に、改めて敬意を表したいと思うのである。 1960年代の後半、DGのプロデューサーにライナー・ブロックという人物が加わった。 アバドの友人で、ウィーン音楽アカデミーでは、ハンス・スワロフスキー教授の指揮法のクラスでは、机を並べていたという同窓生でもあった。だが、ブロックは音楽家とはならず、DGのプロデューサーとなっている。 最初ブロックは、ベルリン・フィル・オクテットなどの録音を担当していたが、1967年には、アルゲリッチのピアノ、アバド率いるベルリン・フィル、という期待のコンビによる、ラヴェルのピアノ協奏曲ほかの録音を担当した。その成功によりブロックは、DGのプロデューサーとして活躍していくことになる。 こうした中で、ブロックはアバドの録音を継続し、マーラーの交響曲、ブラームス、ベルリオーズ、そして、ヴェルディの作品などを録音していった。また、ゼルキンとのモーツァルトのピアノ協奏曲集や、フリードリヒ・グルダとの同じくモーツァルトなど、今日でも名盤とされる録音を数多く作り出している。 ところが、道半ばにしてブロックは1986年に突然他界してしまう。その最後の仕事は、アバドがウィーン・フィルと行っていたベートーヴェンの交響曲全集であった。この全集がリリースされる時、アバドは特別に言葉を寄せて、ブロックの献身的な姿勢に感謝する旨を述べており、その功績の大きさは、限りないものであると称えている。 音楽の素晴らしさは本当に奥が深いし、とても一回の鑑賞では掴み取ることが出来ないものである。すなわち、音楽というものが持っている、様々な美しさやドラマティックな展開の面白さといった側面は、一人名演奏家が作り出しているものではなく、モーツァルトや、ベートーヴェン、そして、R・シュトラウスなどが、創作の過程で感じ取り、最終的に楽譜に記したものなのである、といったことをDGのレコードは気づかせてくれるのである。 確かに、DGといえども一つのレコード会社である。だが、DGのレコードにはただ単に名演奏家の至芸が記録されているのではない。そこには、音楽を芸術として完結させるために、これまで述べてきたように、プロデューサーやエンジニアといったその道のプロフェッショナルたちの経験と見識が生かされて、一枚のCDとなっているのである。 このように、ドイツ・グラモフォンは特別であると、先に記した意味がわかっていただけるとしたら幸である。 2017年12月 諸石幸生

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