2022年4月30日についにプロ棋士同士の対決も実現した「軍儀 上級編」。
「軍儀 上級編」は、初期配置が自由・特殊駒の使用など、「入門編」と比べると理解に時間がかかるところも多い。今回は、日本でただ一人の「ボードゲームジャーナリスト」にして世界のボードゲーム情報サイト 「Table Games in the World」の管理者、小野卓也氏に事前に「軍儀」に触れて頂き、「軍儀 上級編」のポイントを解説していただきました。
「あの」軍儀が2022年9月に発売される。
2022年2月に、3ヶ月間にわたる予約受付が始まったかと思いきや、申込が殺到して通常版・ハイエンド版ともに1日足らずで完売。
Twitterでは予約できなかったことを残念がる声が相次ぎ、追加生産が決定された。
注目度の高さを物語る。
ここでは、事前にルールを拝見した私の視点から「軍儀」、特に「上級編」ルールに対してポイントと思う点を何点か公開したい。
初期配置の重要性
1次受注開始の際に公開されていたルールでは、初期配置で先手が「帥」だけを配置して「済み」を宣言すると、後手も「帥」しか配置できず、先手必勝になるのでは?といううわさが流れていた。
しかしこの問題はその後、先手が「済み」を宣言しても、後手は初期配置を続けられるというルールが「ニコニコ超会議」で棋士同士が対決する際に追加で発表されたことで解決された。
先手が「帥」だけ配置して「済み」を宣言してしまうと、後手がわんさか配置して多勢に無勢となってしまう。「新(あらた)」も、盤面上の自駒より手前にしか打てず、また配置しただけで手番終了となるため、増援が追いつかず、一人きりの「帥」が生き延びるのは難しいだろう。初期配置では、配置例にあるように「帥」の守りを固め、攻撃の起点をいくつか作っておくことになるだろう。
奇しくもこのルールの追加発表によって、初期配置で配置する駒と、「あらた」で後から配置する駒のバランスが重要であることが明らかになった。将棋のように取った駒を再利用することはできないため、初期配置に投入しすぎると自由度がなくなるが、「あらた」用を多く残すと盤上がガラ空きになって攻め込まれてしまう。
このようなことを考えていくと初期配置はかなり時間がかるため、最初のうちは初期配置例でプレイしておくとよいだろう。また駒の動きに慣れてからも、ミスを恐れずだいたいの感じで配置したほうが良さそうだ。
「ツケ」を制するものは軍儀を制する
このように自由な初期配置が軍儀の特徴であるが、それ以上に特徴的なのが「ツケ」(他の駒の上に重ねて移動力と防御力を上げる)である。自分の駒の上に重ねるだけでなく、相手の駒を取らずにその上に重ねることもできる。重なると一気に遠くまで移動できるようになり、しかも同じ高さ以上の駒でしか取られなくなるのでかなり強い。特殊駒には、相手の駒を飛び越えて移動できるものもあるので、うまくすれば一気に「帥」を取れるか、そこまでいかなくても戦況を大きく変えられるかもしれない。
しかし重なった駒を移動させる時は、一番上の駒だけが移動するので、重ねられた相手の駒が再び動けるようになる。そうなると逆襲されかねないので、取ってしまうほうがよいこともある。取るか、重ねるかの選択は悩ましいが、基本的に序盤は重ねないで取っておき、中盤以降、相手の駒を踏み台にして一気に攻め入るときに重ねるのがよいだろう。自分の駒が相手に重ねられたらその先どうなるかを想定しておくことも大切だ。
「新」で奇襲の一手を
初期配置で使わなかった駒を、後から盤面に配置することを「新(あらた)」という。
サッカーのオフサイドのように、自駒のラインより前には打てないため、敵陣を切り込み、相手がすぐに取れないマスを作ってから打ったほうが効果的である。
強力なのが「新」×「ツケ」で、弱い駒の上に強い駒を置けば、前線で暴れまわることができるだろう。そのため、守備側としては「新」×「ツケ」には最大限の警戒をして、特に「帥」が射程範囲に入らないように守りを固めておくべきである。
時間を短縮するには
軍儀の駒は14種類25個(将棋は8種類20個)あり、基本の動き方、重なった時の動き方が全部違うので覚えるのが大変。いちいちマニュアルを開くのも手間なので、駒の動き方の早見表を使うことをオススメする。また、駒の多さはプレイ時間の長さにもつながる。将棋は普通に指すならば1時間前後で決着がつくものだが、軍儀は初期配置から時間がかかる上に、さらにゲームが始まってからも、どこから飛んでくるかわからない全ての駒の動きを見て最善手を探そうものなら、数時間かかってもおかしくない(実際、テストプレイではそれくらいかかることが報告されている)。同じ日に先手と後手を交替して続けてもう一局……などという体力も時間ももう残っていないはずだ。
何かと忙しい現代における2人用アブストラクトゲームの多くは、20~30分ぐらいで終わるようにデザインされている。それらと比べると軍儀は重さにおいて他に類を見ない。手軽に遊びたい方のために入門編ルールや初級ルールが用意されているので、初めて遊ぶときはそちらがよいだろう。通常ルールでも、うっかりミスはある程度あきらめて早指しを心がけるか、あるいは持ち時間制にしてもよいかもしれない。チェスクロックは、スマホの無料アプリにある。
『HUNTER×HUNTER』キメラアント編で、東ゴルトー共和国の国民的ゲームといわれる軍儀。王をも負かした盲目の少女コムギをはじめ、かの国にはどれほどの腕前の達人がいたのか、民衆は日頃どのようにして楽しんでいたのか、自分がもし王と一戦交えるなら勝つ見込みはあるのか。あれこれ想像をめぐらしながらこのゲームに臨んでみると、時間も忘れるほど没頭できるだろう。
文責 ボードゲームジャーナリスト:小野卓也