新作を120%堪能するための解説文

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2008年。CHILDREN OF BODOM(以下COB)の6thアルバムで前作の「BLOODDRUNK」が世に解き放たれた。 多くのメタル・ファンが熱狂し、アメリカのビルボードのチャートでは22位まで上昇した。COBにとっては過去最高成績である。 それに伴うツアーは約1年半に及び、日本でも2回プレイしている。1回目は2008年7月のヘッドライン・ツアーで、 当初はALL THAT REMAINSがサポートを務めることになっていたが、直前になってキャンセルしたため急遽日本が誇るOUTRAGEが東京2公演と名古屋公演で代役を務めた。 2回目は2009年10月で、『LOUD PARK 09』の2目目に登場してヘッドライナーのSLAYER、セカンド・ビルのロブ・ゾンビの前にプレイした。また2009年には、 過去にリリースしたカヴァー・ソングと新たにレコーディングしたカヴァー・ソングをひとまとめにしたアルバム「SKELTONS IN THE CLOSET」をリリースした。 アレキシ・ライホ<vo,g>、ローペ・ラトヴァラ<g>、ヘンカ・ブラックスミス<b>、ヤスカ・ラーチカイネン<ds>、ヤンネ・ウォーマン<key> の5人から成るフィンランドのエスポーという街から出てきたこのバンドは、 今や全世界のメタル・ファンが注目する人気バンドの1つになった。

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今作はアメリカ人であるマット・ハイドをプロデューサーとして迎え入れた。彼はSLAYERやMONSTER MAGNETを手掛けたことで知られる、”売れる音”を作る人物だ。新しいプロデューサーと一緒にレコーディングすることを提案したのはマネージメントだった。 マネージメントがニュー・アルバムに「BLOODDRUNK」以上の商業的成功を望むのは当然であり、 そのためには世界的に有名なプロデューサーと組んで新しい何かを生み出すべきだと考えたのだろう。ただ、当初バンド側はこのアイディアに懐疑的だった。 アレキシは「アルバムの作り方は判っているんだから、俺達だけでやれると思った」と語っていた。 「俺はただ、いい音楽、いいアルバムを作りたいだけだ。曲を作っている時は、チャート等の数字なんてのは二の次さ。 そりゃ数字だって大切ではあるけど、曲を作っている時は大切じゃない」とも…。もっとも、マネージメントの提案を頭ごなしに否定するつもりはなく、 「BLOODDRUNK」のリリースに伴う北米ツアーの合間を縫って推薦された8人のプロデューサーに会っている。 ローペによると、TOOL、KING CRIMSON、MUSE、GODSMACK等を手掛けたテイヴィッド・ボットリルともミーティングしたという。 ただ、その中で彼らが一番気に入ったのがマットだった。メンバーが異口同音に言うには、「マットはとても熱心だった」ということだ。 彼は、メンバーと共にこれまでで最高のCOBのアルバムを作ってやろうという気概に満ち溢れていたという。未だ仕事を依頼するかどうか判らない段階で、 わざわざアメリカからフィンランドまでリハーサルを観に来たこともメンバーの心を打った。

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今回もまた、音楽的には4th「HATE CREW DEATHROLL」(2003年)の延長線上にある。1st「SOMETHING WILD」(1997年)や2nd「HATEBREEDER」(1999年)で聴かれたネオ・クラシカル調のメロディをフィーチュアしたメロディック・デ ス・メタルとはひと味違う、 よりヘヴィでアグレッシヴでブルータルなメタルだ。ただ、メンバーが口々に言っているようにメロディアスな要素がかなり戻ってきている。具体的に言うなら ば、3rd「FOLLOW THE REAPER」(2000年)を思い出させるような部分が多いのだ。ヤンネは”ニュー・アルバムはあって「BLOODDRUNK」には欠けていたもの”と して”オールド・スクールのCOBのメロディ” を挙げているが、個人的には”欠けていた”とまでは思わない。ただ、やはり本作の方がメロディアスであることは確かだし、COB史上最も凶々しいアルバム である5th「ARE YOU DEAD YET?」(2005年)と比べるのであれば「こちらの方が遥かにメロディアスだ」と言える。近頃のCOBのサウンドにはメロディが少ない…と嘆いていた 初期のファンは、 本作を聴いて溜飲を下げることだろう。

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アルバム1曲目の “Not My Funeral”はSLAYERを彷彿とさせるスラッシーなイントロから始まるが、 アレキシのシャウトと同時に美しいキーボードが入ってくると一瞬にしてCOBの音世界へと連れて行かれる。 “Shovel Knockout”はゴリゴリのベースから始まるスーパー・ファストな曲だが、これまたCOBが長年に亘って培ってきた煽情的なメロディがたっぷりと盛り込まれている。 “Roundtrip To Hell And Back”は”Everytime I Die””Angel’s Don’t Kill” “Banned From Heaven”の系譜を引くミドル・テンポのムーディでアトモスフェリックな曲で、叙情性も高い。 ラストの余りにもエモーショナル過ぎるキーボード・ソロには魂を奪われる。オールド・スクールなメタルのドラマティシズムを演出するエンディングもいい。

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ハイ・テクニックを活かしてはいるが、それによる構築美よりもノリやグルーヴが前面に出ている曲もある。 COBの曲というのは非常にテクニカルであるにも拘らず、聴き手をそこに集中させるのではなく “ロックさせる”という特徴を持っているが、それがこれまでになく顕著なのがタイトル・トラックの “Relentless Reckless Forever”だ。この曲は、COBらしいフレーズが随所で聴かれると同時にデス&ロール的なヴァイヴとグルーヴがある。 1stシングル&ビデオになった “Was It Worth It?”は非常にシンプル、ストレートでキャッチーな曲だ。アレキシは「今回のアルバムの中で一番COBらしくない曲だ」と語っていたが、確かにそうかもしれない。 “Northpole Throwdown”はファストだが、デス、ブラック・メタルのそれとはテイストが異なり、 どちらかと言うとスラッシュ・メタルあるいはパンク/ハードコアのノリに近い。

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アレキシのギター・ソロは相変わらず溜息が出るほど華麗だが、いつにも増してメロディを重視しているように思える。 時にそれはいい意味で古典的であり、彼が影響を受けたギタリストの1人である故ランディ・ローズを思い出すこともある。 ヤンネもバッキングとソロの両方で大活躍しており、彼のキーボードなしではCOBサウンドは成り立たないということを改めて実感させられる。 やはり天才的なキーボーディストだ、勿論、アレキシとヤンネ2人あるいはそこにローペも加わってのスリリングなインタープレイも随所で聴かれる。